上 下
293 / 415
第十五節・再び相見える二人

第276幕 帰路についた男

しおりを挟む
 ひとしきり飲み明かした夜から数日の時間が過ぎて……シグゼスは上手く女王に話を付けたようで、そこから順調に事は進んでいった。

 大体数十人を一つのグループにして、騎士を一人つけて魔人たちを護送する事が決まった。その中で俺は――

「アッテルヒアへ行けば良いのか?」
「ああ。他の者たちは何度か分かれて別の場所へと護送するが、お前は難民たちと一緒にアッテルヒアへと戻り、女王へと指示を仰いで欲しい」
「それはいいんだが……なんで俺なんだ?」

 まさか、シグゼスは今回の一件で俺は手に余ると考えたから? なんて事を思ったのだけど、その顔はなぜか『わからないのか?』という表情をしていた。

「騎士の剣の予備がこちらにないからに決まっているだろう。どうせアッテルヒアに連れて行くのだ。ついでに装備を整えてこい」
「あ、ああ……」
「ふふっ、大方、私ではお前を制御できないからこうしたとでも思っているのだろう」

 図星を突かれたせいで思わず驚いた表情を彼に見せてしまった。それが面白かったのか、更に楽しそうに笑みを浮かべていた。

「な、なんだ?」
「いや、お前でもそんな顔をするのだなと思ってな。なに、高々それくらいで諦める私ではない。我らが女王陛下がこちらに戻れと言わられた時は……遠慮なく戻ってこい」

 シグゼスはどこか清々しい笑顔を浮かべていて……なぜだろう、その様子がどこか心に暖かった。


 ――


 それからカッシェたちと一度別れの挨拶をして、俺は魔人たちを引き連れてアッテルヒアへと向かった。
 俺一人だったら身体強化の魔方陣を使ってさっさと向かう事ができる。だけど今はこれだけの大人数だ。そんなやり方が出来るわけもなく、数日の時間をかけながらゆっくりと先へと進むことになった。

 その間の食事は干し肉だったり、近くの村から購入したりでなんとか凌いで、明らかに疲労の色が強くなってきたところで首都のアッテルヒアにたどり着く事が出来た。

 首都の方ではこちらが来ることが事前にわかっていたからから、着いたと同時に避難民を他の騎士に引き渡し、そこから彼らは用意された場所に移住する事になった。

 任務を達成した俺は、そのままミルティナ女王に謁見することになり、城へと向かった。
 謁見の間には大臣と……なぜかエセルカとシエラがミルティナ女王と一緒に待っていた。

 俺はある程度前に進んで、跪いて頭を下げる。最低限の礼儀というやつだ。

「おお、よく戻ったな。此度の戦い、苦労をかけたようだな」
「いいえ。むしろ私が足を引っ張ったようなものです」
「いや、勇者を倒さなければ、あの町は完膚なきまでに破壊されていただろう。戦車を落とさなければ、もっと酷い被害が発生しただろう。そなたには協調性がない事以外、責める理由がない」

 それは暗に協調性が全くないと言ってるようなものだ。……否定はできないところがまた痛い。
 それにしても不思議なのは俺を見ても飛びついてこないエセルカだ。公私混同はしない、という姿勢を身につけられたみたいだが、少し不気味に感じる。

「それで、何故この二人がここに?」
「ふむ、それなのだが……今この場にいる三人の騎士にはヒュルマの国へ行ってもらおうと思ってな」
「……ヒュルマの?」

 そうだ、とミルティナ女王は頷いていたが、わざわざなんで俺たちなんだろうか?

「理由をお聞きしても?」
「うむ。ここにおった二人には話したが、グレファは戦車や攻撃機については知っておるな?」
「ええ。実際戦いましたので」
「ならば話は早い。あのような兵器を相手にこちらはいつまでも持ち堪える事は出来ないだろう。ならば……やるべき方法は一つ」

 そこまで聞いて、俺はミルティナ女王がなにを考えているのか大体の検討を付けた。それはつまり、こちらが先手を打つ、ということ。

「私とこの二人で五つの国のいずれかにある製造所を叩け……と?」
「そういうことだ。それは恐らく地下に存在する。そなたたちは以前、何度かヒュルマの国に潜入した実績もある。今回選んだのはそういう訳だ」

 なるほど、確かに一理はある。だけどそれ以上に疑問に思うこともある。

「私たちの素性は既に向こうに割れてます。それこそ他の者に任せた方が……」
「ただの潜入ならばそれでも良いだろう。だが、これの真の目的はヒュルマの戦力を落とす事にある。少数精鋭となれば、自然とこうもなるだろう。最悪、片方が騒ぎを起こし、時間を稼いでいる間に……という事も楽であろう?」

 元々俺たちは仲間同士だし、下手に知らない連中と組ませるより、こうした方がいい……という訳か。元々人の国には行こうと考えていたし、俺にとっては好機に違いない。

「わかりました。今すぐ出発すればよろしいですか?」
「そう急くでない。連れやそなたの準備もあるだろう。五日後に城を発ち、アリッカルへと向かえ」
「かしこまりました」

 深々と頭を下げ、俺は謁見の間を後にした。図らずも再びアリッカルとは……どうやらつくづくあの国に縁があるようだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...