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第十四節 奸計の時・セイル編
第251幕 前戦の代償
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兵士に知らせを受け、駐留場にやってきた俺たちは、出来る限り迅速に行動して、現在は前に戦った時と同じように陣を張って、濃霧を生み出している。
まだ敵が遠いということで待機している状態だが、もういつ戦いになってもおかしくない。……だというのに、兵士の中にはどこか浮ついた空気が立ち込めていた。
それもそうだろう。懲りずにゴーレムを編成して侵攻してきたのだから。
自分たちはまた同じように霧を出して、沼に沈めるだけ。そんな風に考えていたら多少気が緩んだままなのは仕方ない。
「嫌な空気ですね」
誰に、というわけでもなく空を見上げて呟いたのはヘンリーだった。
「……そうですね」
「人も魔人もそうですが、一度楽なやり方を知ると、また同じ場面に遭遇した時、その通りにやってしまうんですよね。
敵がロクに知恵の回らない相手であれば、それでも良いでしょう。しかし……」
しかし、相手は一つの大きな国。そしてその上にいるのはシアロルのロンギルス皇帝。同じ策に嵌るような相手だとは思えない。
それはヘンリーの言葉に頷いていたアルディも思っているのだろう。だけど、相手が魔力を吸収するゴーレムである以上、正面切って戦うのは完全に愚策。こちらが受けるであろう被害を考えたら……自ずと同じか、近い作戦を取らざるを得ない。
「……こうやって考えても仕方ありません。今は向こうの動きを見ながらこちらの最善を導き出すしかないでしょう」
「その方が良いでしょう。兵士たちにも厳命しておいたほうが良いかと思いますよ」
アルディの呟きにヘンリーが頷くと、すぐさまアルディは兵士たちにくれぐれも早まった行動をしないよう指示をだして……いよいよ迫ってきたと報告が飛んできた。
少し緊張してきたが、心を落ち着けて……アルディの指示通り、数人に分かれてゴーレムを再び沼に沈めるべく行動を開始した――
――
ヘンリーは今回、陣地に残しておいて、俺たちは三人であのときのように『索敵』『地図』の魔方陣を展開しながらしばらく歩いていると、確かにゴーレムのように大きな魔力を出しているのが何個かはっきりと見える。だけど……小さな(恐らくヒュルマの)魔力がやけに密着してるのが気になる。それと――
「……ねぇ、なんだか変な音がしない?」
不思議そうに声を上げたのはスパルナだった。やっぱりこの子も同じことを思っていたようだ。
なんか変わった鳴き声? 音? みたいなのがどこからか聞こえてきて、妙に耳障りだ。
「……一体なんの音なんだろう?」
「わかりませんが……妙に不安にさせる音です」
アルディの方も同じことを考えてるようだ。なんだろう? この音は?
なんて考えたとき――
――ドゴォォォォッッンンッ!!
「な、なんだ!?」
急に地面が揺れる程に響いた爆音と突風に驚いた俺たちは、周囲の状況を確認しようとするんだけど、濃霧のせいでよくわからない。
「ちっ……これじゃ何が起きてるのか全然……」
「セイルさん! 魔方陣の方を……!」
アルディの声に自分が慌てていたことに気付いた。何のために『索敵』『地図』の魔方陣を展開しているのか……我ながら恥ずかしいことをしていた。
その間にも凄まじい音と風が周囲に響くように吹き荒れて、今何が起きているのかさっぱりわからない。
アルディが『拡声』の魔方陣を使って霧を消すように指示を出している間にこっちも周囲の確認をしてみると……爆音が響き渡る度に命を表しているとも言える魔力の表示が次々と消えていっている。
「なんだ……? なんだこれ……!?」
「お兄ちゃん!」
いつの間にか近寄ってきたスパルナの顔を見ると、妙に安堵した。魔方陣で生きてることは知っていたけど、実際確認するのとではやはり安心感が違う。
スパルナも同じことを思っていたのか、同じように一息ついていた。
「良かったぁ……」
「スパルナ。今すぐ鳥になってくれ」
「え? でも……」
「今は緊急事態だ。アルディにも後で俺が説明する。頼む!」
指示が出てるとはいえ、霧がいつ止むかもわからないし、それまでこの状況を黙ってみているのは危険な気がする。だからこそスパルナに頼み込んだというわけだ。
彼は少し微妙そうな顔をしていたけど、納得してすぐに人から巨大な鳥の姿へと変わってくれた。
服が二度と着れないほど駄目になってしまったけど、この際仕方ない。どうせこの国で買ったものだし、また買える。
「お兄ちゃん、準備いいよ!」
「おう!」
巨大な赤い鳥の姿になってくれたスパルナの背に迷うことなく乗り込み、彼はその大きな翼を広げて空へと躍り出る。
アルディは兵士たちへの指示で手一杯で、こっちにまで手が回ってない。
勢いよく霧の海を泳いでいくように進んでいく俺とスパルナは、その轟音の発信源みたいなところへとまっすぐ進んでいく。そして見つけたのは……なんて言ったらいいんだろう?
キュラキュラと音を立ててゆっくりと進む二つ重なった箱というか、銃の筒状のアレを大型にしたものを上に積んでいる。
黒塗りのそれは、いやに冷たい……まるで今から俺たちをぶちこむ棺桶のような気がするほどの寒気さを感じた。
まだ敵が遠いということで待機している状態だが、もういつ戦いになってもおかしくない。……だというのに、兵士の中にはどこか浮ついた空気が立ち込めていた。
それもそうだろう。懲りずにゴーレムを編成して侵攻してきたのだから。
自分たちはまた同じように霧を出して、沼に沈めるだけ。そんな風に考えていたら多少気が緩んだままなのは仕方ない。
「嫌な空気ですね」
誰に、というわけでもなく空を見上げて呟いたのはヘンリーだった。
「……そうですね」
「人も魔人もそうですが、一度楽なやり方を知ると、また同じ場面に遭遇した時、その通りにやってしまうんですよね。
敵がロクに知恵の回らない相手であれば、それでも良いでしょう。しかし……」
しかし、相手は一つの大きな国。そしてその上にいるのはシアロルのロンギルス皇帝。同じ策に嵌るような相手だとは思えない。
それはヘンリーの言葉に頷いていたアルディも思っているのだろう。だけど、相手が魔力を吸収するゴーレムである以上、正面切って戦うのは完全に愚策。こちらが受けるであろう被害を考えたら……自ずと同じか、近い作戦を取らざるを得ない。
「……こうやって考えても仕方ありません。今は向こうの動きを見ながらこちらの最善を導き出すしかないでしょう」
「その方が良いでしょう。兵士たちにも厳命しておいたほうが良いかと思いますよ」
アルディの呟きにヘンリーが頷くと、すぐさまアルディは兵士たちにくれぐれも早まった行動をしないよう指示をだして……いよいよ迫ってきたと報告が飛んできた。
少し緊張してきたが、心を落ち着けて……アルディの指示通り、数人に分かれてゴーレムを再び沼に沈めるべく行動を開始した――
――
ヘンリーは今回、陣地に残しておいて、俺たちは三人であのときのように『索敵』『地図』の魔方陣を展開しながらしばらく歩いていると、確かにゴーレムのように大きな魔力を出しているのが何個かはっきりと見える。だけど……小さな(恐らくヒュルマの)魔力がやけに密着してるのが気になる。それと――
「……ねぇ、なんだか変な音がしない?」
不思議そうに声を上げたのはスパルナだった。やっぱりこの子も同じことを思っていたようだ。
なんか変わった鳴き声? 音? みたいなのがどこからか聞こえてきて、妙に耳障りだ。
「……一体なんの音なんだろう?」
「わかりませんが……妙に不安にさせる音です」
アルディの方も同じことを考えてるようだ。なんだろう? この音は?
なんて考えたとき――
――ドゴォォォォッッンンッ!!
「な、なんだ!?」
急に地面が揺れる程に響いた爆音と突風に驚いた俺たちは、周囲の状況を確認しようとするんだけど、濃霧のせいでよくわからない。
「ちっ……これじゃ何が起きてるのか全然……」
「セイルさん! 魔方陣の方を……!」
アルディの声に自分が慌てていたことに気付いた。何のために『索敵』『地図』の魔方陣を展開しているのか……我ながら恥ずかしいことをしていた。
その間にも凄まじい音と風が周囲に響くように吹き荒れて、今何が起きているのかさっぱりわからない。
アルディが『拡声』の魔方陣を使って霧を消すように指示を出している間にこっちも周囲の確認をしてみると……爆音が響き渡る度に命を表しているとも言える魔力の表示が次々と消えていっている。
「なんだ……? なんだこれ……!?」
「お兄ちゃん!」
いつの間にか近寄ってきたスパルナの顔を見ると、妙に安堵した。魔方陣で生きてることは知っていたけど、実際確認するのとではやはり安心感が違う。
スパルナも同じことを思っていたのか、同じように一息ついていた。
「良かったぁ……」
「スパルナ。今すぐ鳥になってくれ」
「え? でも……」
「今は緊急事態だ。アルディにも後で俺が説明する。頼む!」
指示が出てるとはいえ、霧がいつ止むかもわからないし、それまでこの状況を黙ってみているのは危険な気がする。だからこそスパルナに頼み込んだというわけだ。
彼は少し微妙そうな顔をしていたけど、納得してすぐに人から巨大な鳥の姿へと変わってくれた。
服が二度と着れないほど駄目になってしまったけど、この際仕方ない。どうせこの国で買ったものだし、また買える。
「お兄ちゃん、準備いいよ!」
「おう!」
巨大な赤い鳥の姿になってくれたスパルナの背に迷うことなく乗り込み、彼はその大きな翼を広げて空へと躍り出る。
アルディは兵士たちへの指示で手一杯で、こっちにまで手が回ってない。
勢いよく霧の海を泳いでいくように進んでいく俺とスパルナは、その轟音の発信源みたいなところへとまっすぐ進んでいく。そして見つけたのは……なんて言ったらいいんだろう?
キュラキュラと音を立ててゆっくりと進む二つ重なった箱というか、銃の筒状のアレを大型にしたものを上に積んでいる。
黒塗りのそれは、いやに冷たい……まるで今から俺たちをぶちこむ棺桶のような気がするほどの寒気さを感じた。
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