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第十三節 銀狼騎士団・始動編

第228幕 接触する者

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 それから俺は何日か時間をかけて町や村に聞き込みをしながら首都へと向かった。
 途中勇者以外にも今の情勢や兵士たちの動きなんかも……出来るだけ聞くようにして先に進んでいる。

 こういう場合、見つからないようにするのがいいのだろうが、俺はむしろバレて監視されるのが役目のようなものだからな。
 俺がやれるような聞き込みではわからないことを探るのがジェズとガルディンの役目ってことだ。

 ……まあ、正直大した情報は得られていないんだけどな。
 兵士というかイギランスの軍はいつもどおり。なにも変わった様子はない。
 むしろ結構精力的に魔人たちから町を守ろうとしているようだった。

 それとは逆に勇者たちの話題はちらほらとあるだけで、今現在どこにいるかなどの情報はほとんどなかった。
 助けてもらったことなんかは結構あったけどな。ただ、随分前の話のようだったし……もしかしたら今はここにはいないのかもしれない。

 そう考えると今のイギランスには勇者がいないということになる。
 それはそれで都合がいいのだけれど、人々を魔人から守るために召喚したという体裁はいいのだろうか?
 まあ、その分武龍ウーロンがなんとか頑張っているということだろう。

 つまり武龍ウーロンはナッチャイス・イギランスの三つの国を守っているということになるのだろう。
 ソフィアはアリッカル。ヘルガはシアロル。そして司はジパーニグにいるだろうからな。

 そうこうしている内に、俺はイギランスの首都ドンウェルに辿り着いた。
 何年か前に訪れたここは、そんなに変わっていないように見える。
 ……いや、俺もそんなに滞在していたわけじゃないから確かなことは言えないけどな。

 少なくとも、司が得意げに言っていた食文化の低さは多少改善されているようだった。
 俺は相変わらず一人で周囲を観察するように人々を眺める。
 今はちょうど暖かい季節だからか、結構活発に動いている人も多いが……シアロルに近いこの地域は寒い季節になると、結構堪える寒さになるんじゃないかと思う。

 俺が所属している魔人側は『暖』の起動式マジックコードを構築した魔方陣を服に縫い付け、魔力で身体を暖かくして快適に過ごせるようになっている。
 それ以外にも『浄化』の起動式マジックコードの魔方陣を桶に刻んで、魔力によって汲んだ水を清めたり……どこか降って湧いたようにそれが広がり、浸透していった。

 ……とはいえ、攻撃に組み込むには実用的ではない範囲でだけどな。
 自身で直接構築した魔方陣じゃない分、威力が大幅に下るからだ。
 炎の玉を放とうと思って使っても、小さなものにしかならない。だからこそ使うのはあくまで日常の一部を助ける程度というわけだ。

 人の側は魔方陣を邪法だと扱っているから、そういうときはさぞかし辛いだろう。

 適当に歩きながらそんな風にぼーっと見ながら考えていると……誰かの視線を感じた。
 それとなく周囲に視線を向けると、そこには見知った顔が俺に注目していた。

「……ヘンリー」

 あくまで口の中だけでつぶやくだけで留めていたけれど、彼は俺が視線を向けたことを気付いたのだろう。
 笑みを濃くして、ゆっくりと俺の方へと歩み寄ってきた。

「久しぶりですね。グレファ――グレリアさん」
「お前とはそういう風に気軽に話し合える仲じゃないと思うけどな」

 あくまで軽やかに笑うヘンリーは、旧知の友とでも出会ったかのように笑顔を浮かべていた。
 ……彼は裏で色々と考え、策を巡らせるタイプの男だ。正直、こういう風に喋りかけてきた事自体になにか裏があるようにしか思えない。

 ヘンリーは変わらず笑いながら方をすくませていた。

「手厳しいですね。確かに、私は貴方とは並々ならぬ間柄だとは思いますが……私はこれでも貴方のことを強く買っているのですよ? ヘルガさんをも退けたその武勲、称賛に値します」
「あいにく、罠や策を巡らす者にそう言われても怪しさしか湧いてこないな。
 俺は、それほど誰かを信じきれるたちじゃない」

 というか、信じる相手を選んでいるというわけだけどな。
 今はっきりと信頼出来ると言ったら仲間たちとミルティナ女王陛下ぐらいだろう。
 この男は……エセルカで俺を釣ろうとした件や逃走する時に言った事といい、どうにも信用ならない。

「なるほど。警戒されているようですね。
 では、ここは互いをより知る為に少しお話でもどうですか? 近場のカフェでしたら屋外でも楽しめます。
 都合がいいでしょう? お互いに」

 更に笑みを深めるヘンリーは、俺がこれを断るわけがないでも言うかのような態度だ。
 だけれど、それは事実でもある。なにはともあれ、知りたいのはイギランスを含めた人の国の情勢。
 信用出来ないのはこの男であって、持っている情報は確かだ。

 だったら、乗らない手はない。
 対する向こうは何を知りたがっているのかは知らないが、痛みもなしに得られるものではなさそうだ。

「……わかった。妙な真似だけはするなよ?」
「ふふっ、そんなことが出来るほど、私と貴方の実力は近くありませんよ。
 戦いにもならないのであれば、わざわざ挑む必要はありません。無謀と勇気は違いますから」

 こちらへどうぞと言いたげな仕草で俺に先に進むように促すヘンリーに乗せられるように近くにあるカフェへと足を進める。
 何が出るかはわからないが、俺でしか知り得ない事を得られるチャンスだろう。
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