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第八節 ヒュルマの国・動乱編
第170幕 彼が知るヒュルマの国
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「それじゃあ、質問を変えよう。
今、人の国はどうなっている?
俺はまじ――アンヒュルの地にいたからあまり知らないからな」
「それは、今後国を攻めるための下準備か?
だとしたら……」
武龍は身構えて俺のことを睨んできたが、そんな事するわけないだろう。
「グレリアくんがそんな事、するわけないじゃない!
そんな頭が足りない事考えてるなら、最初から君を生かしておくわけないでしょ!」
反論してくれてるエセルカの言葉はありがたいが、言い方に些かトゲがあるようにも感じる。
だが、彼女の言うことも一理はある。
国を攻める為の下準備をするなら、もっと他にやりようがあるし、少なくとも裏事情をほとんど知らないであろう武龍はむしろどちらに転ぶかわからない。
不確定要素を徹底的に排除することを考えるなら、彼は始末してしまうことを優先するかもしれないだろう。
が、そんな事をする必要もないし……ナッチャイスの勇者の命を奪った事実がどんな風に悪影響を及ぼすかわからない。
ならば、色々と知っている敵対者からは聞けない、国の動きを教えてもらう方がいい。
しばらく互いに睨み合っていたが、ため息と共に武龍は顔を伏せてしまう。
「俺も詳しくは知らない。
だが、ジパーニグの王はアリッカルの王と最近になってかなり交流を深めているそうだ。
イギランス王は自国に侵入してくる魔人の討伐で民から信頼を得ている。
ナッチャイスの女王は俺に色々と支援をしてくれているが……シアロルについては一切情報がない」
「……イギランスが魔人の討伐をしているということは、ヘンリーが戦っているということか?」
「そうなるな。あそこではクールな様子が女性に受けているらしい。
また、ヘンリーは出現した魔人の情報を各国に伝達する役割を担っている……らしいな」
顎に指を当て、考えるように思い出しながら武龍は言っているが、それはおかしな話だ。
いくらヘルガであっても、人二人をジパーニグから一気にイギランスまで空間を移動出来るとは思えない。
いや、例え出来たとしても彼女の性格からすると、自分よりも実力の劣る者の運び屋になることは考えにくい。
あの時はある意味仕方なくヘンリーを連れて空間移動を行った……と解釈した方が正しいだろう。
それなら、ヘルガと共に行動していない時の彼は、一体どうやって様々な場所を移動しているのだろうか?
そこまで考えがいって――まず思い浮かんだのはアリッカルの城の地下。
ソフィアに邪魔された形になったが、あのまま奥に進んだら……一体あそこにはなにがあったのだろう?
恐らく、今戻ったところで警備の兵士は増えているだろうし、前よりも侵入が困難になっているのは間違いない。
「どうした?」
何も知らされていない武龍は、俺の考えている事が理解できない様子で不思議なものを見るような目でこちらを見ていた。
あまりここで色々と悩んでいても、武龍に変に疑われてしまうだけだろう。
「いや、ありがとう」
「……なに、別に大した情報じゃない。
それで、他になにか知りたいことはあるのか?」
「……今はこれ以上ないな」
彼がどれだけの事を知っているかはわからないが、ヘンリーたちと連携を密にしているわけではない以上、他に何を聞けばいいのかわからない。
俺の言葉を聞いた武龍は、頷いた後、ゆっくりと俺たちから後退していく。
逃げようとしている素振りを見せていた彼にエセルカがナイフを持って歩み寄ろうとしていたけど、それを手で制した。
「いいの? このまま逃しても、またグレリアくんを追いかけてくるかもしれないよ?」
「構わない。聞きたいことは聞いたからな。
要が済んだら始末する……そんなのは外道にでもやらせておけばいい」
俺が見逃す事をはっきりと宣言したからか、エセルカはそれ以上武龍には近寄らなかった。
彼の方も警戒するように後ろに下がっていたが、訝しむように立ち止まり、俺の方を見ているようだ。
「どうした? 行きたいなら行けばいい」
「……変わった奴だな。
ヘンリーからはカーターを殺した男だと聞いていたが――」
「俺は生きたい。だからお前も生きたい……だろう?」
カーターの奴は外道だったからな。
明らかに悪意のある殺気を向けられて、それを野放しに出来るほどの甘さはない。
だが、武龍は殺気よりも純粋に強い敵と戦いたい――そういうのが伝わってきたからな。
そういう気持ちの良いやつは何度向かってきてもいい。
しかしそれも、一歩違えれば危ない道に行ってしまうだろう。
もし、強さや力に溺れるようになったら……その時はこの男の最後だろう。
「本当に変わった男だ。
なら、ありがたく借りておこう。
いずれ返す。必ずな」
そのまま武龍は走り去っていってしまった。
彼が見えなくなるまで見送ると、腰の辺りに何か暖かいものが抱きついてきた。
「必ず返すって」
「そうだな」
「グレリアくん、格好いいからね」
その暖かいもの――エセルカを見下ろすと、彼女も俺の顔を眺めるように見上げていて……楽しそうに笑っていた。
やれやれ、なんだかんだでヒュルマの状況を少しは知ることが出来ただろう。
グランセストまで後もう少し……さっさと切り抜け、学園に戻るとしよう。
今、人の国はどうなっている?
俺はまじ――アンヒュルの地にいたからあまり知らないからな」
「それは、今後国を攻めるための下準備か?
だとしたら……」
武龍は身構えて俺のことを睨んできたが、そんな事するわけないだろう。
「グレリアくんがそんな事、するわけないじゃない!
そんな頭が足りない事考えてるなら、最初から君を生かしておくわけないでしょ!」
反論してくれてるエセルカの言葉はありがたいが、言い方に些かトゲがあるようにも感じる。
だが、彼女の言うことも一理はある。
国を攻める為の下準備をするなら、もっと他にやりようがあるし、少なくとも裏事情をほとんど知らないであろう武龍はむしろどちらに転ぶかわからない。
不確定要素を徹底的に排除することを考えるなら、彼は始末してしまうことを優先するかもしれないだろう。
が、そんな事をする必要もないし……ナッチャイスの勇者の命を奪った事実がどんな風に悪影響を及ぼすかわからない。
ならば、色々と知っている敵対者からは聞けない、国の動きを教えてもらう方がいい。
しばらく互いに睨み合っていたが、ため息と共に武龍は顔を伏せてしまう。
「俺も詳しくは知らない。
だが、ジパーニグの王はアリッカルの王と最近になってかなり交流を深めているそうだ。
イギランス王は自国に侵入してくる魔人の討伐で民から信頼を得ている。
ナッチャイスの女王は俺に色々と支援をしてくれているが……シアロルについては一切情報がない」
「……イギランスが魔人の討伐をしているということは、ヘンリーが戦っているということか?」
「そうなるな。あそこではクールな様子が女性に受けているらしい。
また、ヘンリーは出現した魔人の情報を各国に伝達する役割を担っている……らしいな」
顎に指を当て、考えるように思い出しながら武龍は言っているが、それはおかしな話だ。
いくらヘルガであっても、人二人をジパーニグから一気にイギランスまで空間を移動出来るとは思えない。
いや、例え出来たとしても彼女の性格からすると、自分よりも実力の劣る者の運び屋になることは考えにくい。
あの時はある意味仕方なくヘンリーを連れて空間移動を行った……と解釈した方が正しいだろう。
それなら、ヘルガと共に行動していない時の彼は、一体どうやって様々な場所を移動しているのだろうか?
そこまで考えがいって――まず思い浮かんだのはアリッカルの城の地下。
ソフィアに邪魔された形になったが、あのまま奥に進んだら……一体あそこにはなにがあったのだろう?
恐らく、今戻ったところで警備の兵士は増えているだろうし、前よりも侵入が困難になっているのは間違いない。
「どうした?」
何も知らされていない武龍は、俺の考えている事が理解できない様子で不思議なものを見るような目でこちらを見ていた。
あまりここで色々と悩んでいても、武龍に変に疑われてしまうだけだろう。
「いや、ありがとう」
「……なに、別に大した情報じゃない。
それで、他になにか知りたいことはあるのか?」
「……今はこれ以上ないな」
彼がどれだけの事を知っているかはわからないが、ヘンリーたちと連携を密にしているわけではない以上、他に何を聞けばいいのかわからない。
俺の言葉を聞いた武龍は、頷いた後、ゆっくりと俺たちから後退していく。
逃げようとしている素振りを見せていた彼にエセルカがナイフを持って歩み寄ろうとしていたけど、それを手で制した。
「いいの? このまま逃しても、またグレリアくんを追いかけてくるかもしれないよ?」
「構わない。聞きたいことは聞いたからな。
要が済んだら始末する……そんなのは外道にでもやらせておけばいい」
俺が見逃す事をはっきりと宣言したからか、エセルカはそれ以上武龍には近寄らなかった。
彼の方も警戒するように後ろに下がっていたが、訝しむように立ち止まり、俺の方を見ているようだ。
「どうした? 行きたいなら行けばいい」
「……変わった奴だな。
ヘンリーからはカーターを殺した男だと聞いていたが――」
「俺は生きたい。だからお前も生きたい……だろう?」
カーターの奴は外道だったからな。
明らかに悪意のある殺気を向けられて、それを野放しに出来るほどの甘さはない。
だが、武龍は殺気よりも純粋に強い敵と戦いたい――そういうのが伝わってきたからな。
そういう気持ちの良いやつは何度向かってきてもいい。
しかしそれも、一歩違えれば危ない道に行ってしまうだろう。
もし、強さや力に溺れるようになったら……その時はこの男の最後だろう。
「本当に変わった男だ。
なら、ありがたく借りておこう。
いずれ返す。必ずな」
そのまま武龍は走り去っていってしまった。
彼が見えなくなるまで見送ると、腰の辺りに何か暖かいものが抱きついてきた。
「必ず返すって」
「そうだな」
「グレリアくん、格好いいからね」
その暖かいもの――エセルカを見下ろすと、彼女も俺の顔を眺めるように見上げていて……楽しそうに笑っていた。
やれやれ、なんだかんだでヒュルマの状況を少しは知ることが出来ただろう。
グランセストまで後もう少し……さっさと切り抜け、学園に戻るとしよう。
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