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第七節 動き出す物語 セイル編
第133幕 限界を超えていけ
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俺はヘルガと戦ってるということも忘れてくずはのところに駆け寄る。
苦しそうにうめいているくずはは、なんとか生きているようだけど、脇腹を撃ち抜かれたようで血が漏れ出るように少しずつにじみ出ている。
わずかに攻撃が逸れていたおかげか、すぐに死に至るような深い傷じゃない。
だけど……このままだと……。
「……弱い男はいるだけで害悪ね」
「なんだと!?」
あまりの言い方に怒りを向けながらヘルガに噛みつこうとするが、その後すぐに俺は絶句してしまった。
……エセルカは無残にも身体中から血を流しながら、倒れていたんだから。
「エセ……ルカ……?」
「哀れね。私に一人で戦いを挑むから」
エセルカの方も命に別状はないみたいだけど、既に兵士たちが彼女を捕まえて、引きずるように連れて行こうとしていた。
「ま、待て……!」
小さく乾いた声が出たけど、それを遮るようにヘルガは俺の前に立ちふさがる。
その目はどこまでも冷酷さを宿していて……そして今、はっきりと悟った。
こいつはわざと俺だけを残して二人を嬲っていたんだってことを。
俺に無力さを味合わせるために……こんな事を……。
「お前は……」
「二人はあなたのせいでこうなったのよ。
見てみなさい、無様なあの姿を。
お人形さんのままでいれば、何も知らずに使い潰されて……さぞかし幸せだったでしょうに」
哀れみを宿したその視線に、俺の心はぐつぐつと煮えたぎるような思いを感じていた。
――人形のままでいれば、幸せだと?
そんなものが……使い潰されることが幸せだって?
「ふ、ふざけるなぁっ!」
煽られた俺は、痛む傷を我慢して、無闇やたらに拳を振り回して……無様に空振った挙げ句、左足もヘルガの攻撃で射抜かれてしまう。
両肩と左足……動けないわけではないが、さっきのようにスピードの乗った戦い方は出来ない。
どこか冷静に状況を見つめている俺を、心の中で思いっきりぶん殴る。
――それがどうした。
肩が痛い? 足が痛い? 今そんなこと言ってたら全てを失う。
エセルカも、くずはも、みんな……大切に守ろうとしていたものが手のひらからなくなってしまう。
それが本当に許せるのか? ここで何もかも諦めて……俺は、兄貴と呼んだグレリアに、胸を張って会えるのか?
視線を落とした先に見えるのは、兄貴から譲り受けた『グラムレーヴァ』という名の剣。
結局使うこともなかったそれは、俺に何かを訴えかけているような……そんな気がした。
――ここで終わることが、本当にお前の望む最期か?
そう、訴えかけているようにも、見えた。
「……哀れな男。死になさい」
「……まるか」
「……なに?」
「死んで……たまるかぁっ!」
思い出せ、カーターの時のことを。
全身の魔力を絞るように漲らせろ。
身体の強化に命を惜しむな。
今だけ。今だけでいい。
例えこれでまたベッドに伏せることになったって……例え死ぬことになったって構いはしない。
エセルカが無事なら……くずはが無事なら、それでいい。
魔方陣をいくつも構築していく。
一つ、二つ……いいや、足りない。
まだだ、もっと……もっと力を……!
五……十と魔方陣を重ねた俺の身体は、悲鳴を上げる。
関節が軋んで、射抜かれた傷からは血が吹き出てくる。
ヘルガは興味深げに俺の事を観察しているようだけど、すぐにそんな余裕、なくしてやる。
足に力を入れて、力強く大地を蹴る。
たったそれだけで軽く地面が抉れ、尋常じゃない速度でヘルガに迫っていく。
たったそれだけ。
だけど、今の俺にはギリギリ扱えない速度。
そのまま拳を強く握りしめて、振り抜く。
魔方陣を纏わせたわけでもないのに、俺の知覚出来ないほどの速度と音と共に、ヘルガに向かって解き放たれた。
「くっ……!」
流石のヘルガも俺の攻撃を防ぐので精一杯らしく、両腕を交差させて足に力を入れているようだった。
渾身の一撃。
それがヘルガの身体に突き刺さり、彼女を吹き飛ばす。
その間にも次々と様々な角度から魔方陣で銃を召喚し、一斉に俺に向かって撃ってくる。
――流石ヘルガだ。
自分がふっ飛ばされてる間も攻撃してくるなんてな!
正直、ここまで上り詰めてもヘルガの凄さがよく分かる。
今の俺はいわば燃え尽きる寸前のロウソク。
いつ消えるかわからない灯火を激しく燃やしながら進んでいるだけだ。
燃え尽きたら……ここで終わってしまうだろう。
だが、今なら……!
「ヘルガァァッ!」
あらゆる角度から放たれる銃撃を回避しつつ、徐々に肉薄していく。
それでも躱しきれないものは全て無視して、自分の体が削れていくのも構わずにヘルガに迫り、拳を振り下ろす。
激しい攻防で次々と地面は抉れ、以前の景色はもはや跡形もない。
それでも俺は止まらず、力のままに拳を振るい、ヘルガにその嵐のような暴力の波に晒していく。
「……頃合いね。撤収」
「はっ!」
どれくらい長い間戦い続けただろう?
ヘルガも結構傷ついているはずなのに、彼女はそれを物ともせずに余裕の表情を見せて『撤収』を指示していく。
そこからの動きは迅速で、兵士がエセルカを無造作につかみ、引き上げようとしていた。
だけど、それを逃がすつもりはない!
ヘルガが立ちはだかるのも構わず、エセルカを助けようと動いたのだけれど……俺は自分の身体が急激に重くなっていくのを感じた。
そう、身体強化の魔方陣を無理に使った俺は、今度こそ本当に壊れかけていたのだ。
これ以上の戦いは無理だと、全身が悲鳴どころか、固まったかのように動けなくなっていくのを感じる。
「……しょう、畜生……!」
涙で視界がぼやけてくる。
既にエセルカを連れた兵士とヘルガは遠くまで撤退してしまって……今の俺ではとてもじゃないが追いつけないだろう。
せめてくずはだけでも……。
そう考えた俺は、くずはを背に担いで、この道から逸れるように離脱する。
涙を流しながら、意識を失うその直前まで……エセルカを失ってしまった、弱い自分を悔やみながら、俺は走り去ることしか出来なかった……。
苦しそうにうめいているくずはは、なんとか生きているようだけど、脇腹を撃ち抜かれたようで血が漏れ出るように少しずつにじみ出ている。
わずかに攻撃が逸れていたおかげか、すぐに死に至るような深い傷じゃない。
だけど……このままだと……。
「……弱い男はいるだけで害悪ね」
「なんだと!?」
あまりの言い方に怒りを向けながらヘルガに噛みつこうとするが、その後すぐに俺は絶句してしまった。
……エセルカは無残にも身体中から血を流しながら、倒れていたんだから。
「エセ……ルカ……?」
「哀れね。私に一人で戦いを挑むから」
エセルカの方も命に別状はないみたいだけど、既に兵士たちが彼女を捕まえて、引きずるように連れて行こうとしていた。
「ま、待て……!」
小さく乾いた声が出たけど、それを遮るようにヘルガは俺の前に立ちふさがる。
その目はどこまでも冷酷さを宿していて……そして今、はっきりと悟った。
こいつはわざと俺だけを残して二人を嬲っていたんだってことを。
俺に無力さを味合わせるために……こんな事を……。
「お前は……」
「二人はあなたのせいでこうなったのよ。
見てみなさい、無様なあの姿を。
お人形さんのままでいれば、何も知らずに使い潰されて……さぞかし幸せだったでしょうに」
哀れみを宿したその視線に、俺の心はぐつぐつと煮えたぎるような思いを感じていた。
――人形のままでいれば、幸せだと?
そんなものが……使い潰されることが幸せだって?
「ふ、ふざけるなぁっ!」
煽られた俺は、痛む傷を我慢して、無闇やたらに拳を振り回して……無様に空振った挙げ句、左足もヘルガの攻撃で射抜かれてしまう。
両肩と左足……動けないわけではないが、さっきのようにスピードの乗った戦い方は出来ない。
どこか冷静に状況を見つめている俺を、心の中で思いっきりぶん殴る。
――それがどうした。
肩が痛い? 足が痛い? 今そんなこと言ってたら全てを失う。
エセルカも、くずはも、みんな……大切に守ろうとしていたものが手のひらからなくなってしまう。
それが本当に許せるのか? ここで何もかも諦めて……俺は、兄貴と呼んだグレリアに、胸を張って会えるのか?
視線を落とした先に見えるのは、兄貴から譲り受けた『グラムレーヴァ』という名の剣。
結局使うこともなかったそれは、俺に何かを訴えかけているような……そんな気がした。
――ここで終わることが、本当にお前の望む最期か?
そう、訴えかけているようにも、見えた。
「……哀れな男。死になさい」
「……まるか」
「……なに?」
「死んで……たまるかぁっ!」
思い出せ、カーターの時のことを。
全身の魔力を絞るように漲らせろ。
身体の強化に命を惜しむな。
今だけ。今だけでいい。
例えこれでまたベッドに伏せることになったって……例え死ぬことになったって構いはしない。
エセルカが無事なら……くずはが無事なら、それでいい。
魔方陣をいくつも構築していく。
一つ、二つ……いいや、足りない。
まだだ、もっと……もっと力を……!
五……十と魔方陣を重ねた俺の身体は、悲鳴を上げる。
関節が軋んで、射抜かれた傷からは血が吹き出てくる。
ヘルガは興味深げに俺の事を観察しているようだけど、すぐにそんな余裕、なくしてやる。
足に力を入れて、力強く大地を蹴る。
たったそれだけで軽く地面が抉れ、尋常じゃない速度でヘルガに迫っていく。
たったそれだけ。
だけど、今の俺にはギリギリ扱えない速度。
そのまま拳を強く握りしめて、振り抜く。
魔方陣を纏わせたわけでもないのに、俺の知覚出来ないほどの速度と音と共に、ヘルガに向かって解き放たれた。
「くっ……!」
流石のヘルガも俺の攻撃を防ぐので精一杯らしく、両腕を交差させて足に力を入れているようだった。
渾身の一撃。
それがヘルガの身体に突き刺さり、彼女を吹き飛ばす。
その間にも次々と様々な角度から魔方陣で銃を召喚し、一斉に俺に向かって撃ってくる。
――流石ヘルガだ。
自分がふっ飛ばされてる間も攻撃してくるなんてな!
正直、ここまで上り詰めてもヘルガの凄さがよく分かる。
今の俺はいわば燃え尽きる寸前のロウソク。
いつ消えるかわからない灯火を激しく燃やしながら進んでいるだけだ。
燃え尽きたら……ここで終わってしまうだろう。
だが、今なら……!
「ヘルガァァッ!」
あらゆる角度から放たれる銃撃を回避しつつ、徐々に肉薄していく。
それでも躱しきれないものは全て無視して、自分の体が削れていくのも構わずにヘルガに迫り、拳を振り下ろす。
激しい攻防で次々と地面は抉れ、以前の景色はもはや跡形もない。
それでも俺は止まらず、力のままに拳を振るい、ヘルガにその嵐のような暴力の波に晒していく。
「……頃合いね。撤収」
「はっ!」
どれくらい長い間戦い続けただろう?
ヘルガも結構傷ついているはずなのに、彼女はそれを物ともせずに余裕の表情を見せて『撤収』を指示していく。
そこからの動きは迅速で、兵士がエセルカを無造作につかみ、引き上げようとしていた。
だけど、それを逃がすつもりはない!
ヘルガが立ちはだかるのも構わず、エセルカを助けようと動いたのだけれど……俺は自分の身体が急激に重くなっていくのを感じた。
そう、身体強化の魔方陣を無理に使った俺は、今度こそ本当に壊れかけていたのだ。
これ以上の戦いは無理だと、全身が悲鳴どころか、固まったかのように動けなくなっていくのを感じる。
「……しょう、畜生……!」
涙で視界がぼやけてくる。
既にエセルカを連れた兵士とヘルガは遠くまで撤退してしまって……今の俺ではとてもじゃないが追いつけないだろう。
せめてくずはだけでも……。
そう考えた俺は、くずはを背に担いで、この道から逸れるように離脱する。
涙を流しながら、意識を失うその直前まで……エセルカを失ってしまった、弱い自分を悔やみながら、俺は走り去ることしか出来なかった……。
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