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第七節 動き出す物語 セイル編
第131幕 無慈悲な女神
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くずははヘルガと何度か刃を交え、その度に隙を突くように俺とエセルカが魔方陣で支援攻撃を行っているのだけれど、その尽くを躱されてしまう。
身のこなしが異常な程軽やかで、あれが素の状態なのだと考えると……魔方陣を使用した状態の彼女のことなど、考えたくもない。
正直、グレリアの兄貴と同等に近いくらいの強さを秘めている。
あの人はなんだかんだで手心を加えてくれるというか……俺たちに合わせてくれているようなところがあったけど、目の前で敵対している彼女にはそれがない。
全力……なのかは表情も何も一切変化がないから判断もつかないんだが、俺たちが三人同時に相手をしてもまだ余裕な様子を見せている。
くずははどんどん身体に雷を溜め込んで、今ではバチバチと周囲に火花が鳴っている程だ。
蓄えた雷の力で自分の身体能力を高めるくずはだけに使える能力。
そこに更に強化の魔方陣を発動させて、自分の能力を極限なまでに高めていく。
「はぁっ!」
くずはの身体はまるで雷撃にでもなったかのように鋭く自身を疾走らせ、一気にヘルガの懐に飛び込んでいった。
「……なるほど」
「余裕……かましてんじゃないわよ!」
体勢を低くし、刀を左下に切っ先を下げるように構え、そこから斜めに刃を振り抜いていく。
身体強化の魔方陣を発動させている俺と……多分エセルカなら見えていただろう。
ぎりぎり見えるせいで、反応は出来ないほどの鋭い剣撃。
だけどそれを予期してたかのようにヘルガは自身に身体強化の魔方陣を二重に展開して対応してきた。
「なっ……!?」
バックステップで避けられたくずはは立て続けに振り抜いた刀をくるりと手の中で回すように反転させ、更に一歩踏んで加速を行い、振り切った……のだけれど、それはヘルガのナイフに受け止められる。
「こ……っのおおおおお!」
体内に溜めた雷を流し込むくずはの攻撃を涼しげに受け止めるヘルガの様子を見て、俺たちは一瞬――動きを止めてしまった。
あれだけの攻めを受けてそこまで防げるなんて……。
「……この程度ね」
「な……なんですって……?」
「……! くずは、離れろ!」
落胆したような声音のヘルガに憤ったくずはが更に果敢に攻めようとした瞬間、我に返った俺は大声で彼女に呼びかける。
俺の言葉を聞いたくずははすぐにヘルガから離れた……ら、なにか光の線のようなものが通り抜けていた。
空から降り注ぐように出現した三つの細い光線が地面を焼き焦がしていた。
「な、なにあれ……?」
何が起こったのかわからないという様子のエセルカを横目に見ながら、俺は光線が出現した上空を見上げる。
そこから見えるのは展開されている魔方陣。
それと――
「銃……?」
魔方陣の中心に銃身のようなものが見えて、くずはは信じられない物を見るかのように呟いていた。
その銃口の大きさから、多分これを撃ったら同じような大きさのものが出てくるんじゃないだろうか……。
まさか……あれが攻撃してきたのか?
確か銃ってのは攻撃するのに引き金を引く必要がある……と、くずはに聞いた事があった。
とてもじゃないが、あんなに離れてる状態で引き金を引くなんてこと、出来ないはずだ。
「ちっ……! くずは! 次が来るぞ!」
「……くっ!」
若干くずはたちから距離があるおかげで、別の場所から魔方陣が出現して、その中央から銃が飛び出してくるのが見える。
くずはに攻撃が来ることを教えつつ、俺はその中に向けて魔方陣を展開させる。
速度を重視した起動式を構築して、即座にあれを撃ち落とすべく、氷の弾丸のようなものを射出した。
銃の方には直撃したのだけれど……銃身が凍りつく以上の事は起こらず、むしろなにも効いてないかのように普通に魔方陣が俺の側を向いて、それを発射した。
俺は咄嗟に後ろに下がって攻撃を避けたのだけれど、次の瞬間……左肩に鋭く焼けるような痛みが走った。
「があぁっ……!?」
一体何が起こった? とあまりの痛みに、思考が真っ赤に染まりつつ、俺は周囲を探してみると……いつの間にかこっち側に向いている魔方陣が出現していた。
俺とヘルガの間くらいの距離から展開されていたから全く気付かなかった。
痛みを堪えながらくずはの方を見てみると、彼女の方はより酷いことになっていた。
「な、なんなのよ、こ、れは!」
見える位置から繰り出される、様々な方向から次々に撃たれる光線。
しかもどれもが急所を避けるように攻撃していってる上、気を張らせていればある程度避けることができるような感じの位置にばかり魔方陣が展開されていっているからか、逆に妙にやりづらさを感じているようだ。
掠め、躱し……それはまるでダンスを踊らされてるかのような印象を与えるほどの光線の舞い。
「く、くずはぁっ!」
俺が慌てて助けに行こうとすると、それを遮るように光線が飛んできて妨害してくる。
こっちが厳しいなら……とエセルカに頼もうとしていたら彼女の方はくずはと逆で、防御関連の魔方陣で防がなければあっという間に殺されそうなほどの苛烈な攻撃を浴びせられていた。
それもある意味彼女の攻撃が舞うように押し寄せていって……それら全てが魔方陣で喚び出された銃身から繰り出されている。
「これが……これがシアロルの勇者の――ヘルガの力かよ」
明らかに楽しんでいるように冷酷な笑みを浮かべたヘルガは、その容姿の神秘さも相まって残酷な女神がここに顕現したかのようにも感じてしまう程だった――
身のこなしが異常な程軽やかで、あれが素の状態なのだと考えると……魔方陣を使用した状態の彼女のことなど、考えたくもない。
正直、グレリアの兄貴と同等に近いくらいの強さを秘めている。
あの人はなんだかんだで手心を加えてくれるというか……俺たちに合わせてくれているようなところがあったけど、目の前で敵対している彼女にはそれがない。
全力……なのかは表情も何も一切変化がないから判断もつかないんだが、俺たちが三人同時に相手をしてもまだ余裕な様子を見せている。
くずははどんどん身体に雷を溜め込んで、今ではバチバチと周囲に火花が鳴っている程だ。
蓄えた雷の力で自分の身体能力を高めるくずはだけに使える能力。
そこに更に強化の魔方陣を発動させて、自分の能力を極限なまでに高めていく。
「はぁっ!」
くずはの身体はまるで雷撃にでもなったかのように鋭く自身を疾走らせ、一気にヘルガの懐に飛び込んでいった。
「……なるほど」
「余裕……かましてんじゃないわよ!」
体勢を低くし、刀を左下に切っ先を下げるように構え、そこから斜めに刃を振り抜いていく。
身体強化の魔方陣を発動させている俺と……多分エセルカなら見えていただろう。
ぎりぎり見えるせいで、反応は出来ないほどの鋭い剣撃。
だけどそれを予期してたかのようにヘルガは自身に身体強化の魔方陣を二重に展開して対応してきた。
「なっ……!?」
バックステップで避けられたくずはは立て続けに振り抜いた刀をくるりと手の中で回すように反転させ、更に一歩踏んで加速を行い、振り切った……のだけれど、それはヘルガのナイフに受け止められる。
「こ……っのおおおおお!」
体内に溜めた雷を流し込むくずはの攻撃を涼しげに受け止めるヘルガの様子を見て、俺たちは一瞬――動きを止めてしまった。
あれだけの攻めを受けてそこまで防げるなんて……。
「……この程度ね」
「な……なんですって……?」
「……! くずは、離れろ!」
落胆したような声音のヘルガに憤ったくずはが更に果敢に攻めようとした瞬間、我に返った俺は大声で彼女に呼びかける。
俺の言葉を聞いたくずははすぐにヘルガから離れた……ら、なにか光の線のようなものが通り抜けていた。
空から降り注ぐように出現した三つの細い光線が地面を焼き焦がしていた。
「な、なにあれ……?」
何が起こったのかわからないという様子のエセルカを横目に見ながら、俺は光線が出現した上空を見上げる。
そこから見えるのは展開されている魔方陣。
それと――
「銃……?」
魔方陣の中心に銃身のようなものが見えて、くずはは信じられない物を見るかのように呟いていた。
その銃口の大きさから、多分これを撃ったら同じような大きさのものが出てくるんじゃないだろうか……。
まさか……あれが攻撃してきたのか?
確か銃ってのは攻撃するのに引き金を引く必要がある……と、くずはに聞いた事があった。
とてもじゃないが、あんなに離れてる状態で引き金を引くなんてこと、出来ないはずだ。
「ちっ……! くずは! 次が来るぞ!」
「……くっ!」
若干くずはたちから距離があるおかげで、別の場所から魔方陣が出現して、その中央から銃が飛び出してくるのが見える。
くずはに攻撃が来ることを教えつつ、俺はその中に向けて魔方陣を展開させる。
速度を重視した起動式を構築して、即座にあれを撃ち落とすべく、氷の弾丸のようなものを射出した。
銃の方には直撃したのだけれど……銃身が凍りつく以上の事は起こらず、むしろなにも効いてないかのように普通に魔方陣が俺の側を向いて、それを発射した。
俺は咄嗟に後ろに下がって攻撃を避けたのだけれど、次の瞬間……左肩に鋭く焼けるような痛みが走った。
「があぁっ……!?」
一体何が起こった? とあまりの痛みに、思考が真っ赤に染まりつつ、俺は周囲を探してみると……いつの間にかこっち側に向いている魔方陣が出現していた。
俺とヘルガの間くらいの距離から展開されていたから全く気付かなかった。
痛みを堪えながらくずはの方を見てみると、彼女の方はより酷いことになっていた。
「な、なんなのよ、こ、れは!」
見える位置から繰り出される、様々な方向から次々に撃たれる光線。
しかもどれもが急所を避けるように攻撃していってる上、気を張らせていればある程度避けることができるような感じの位置にばかり魔方陣が展開されていっているからか、逆に妙にやりづらさを感じているようだ。
掠め、躱し……それはまるでダンスを踊らされてるかのような印象を与えるほどの光線の舞い。
「く、くずはぁっ!」
俺が慌てて助けに行こうとすると、それを遮るように光線が飛んできて妨害してくる。
こっちが厳しいなら……とエセルカに頼もうとしていたら彼女の方はくずはと逆で、防御関連の魔方陣で防がなければあっという間に殺されそうなほどの苛烈な攻撃を浴びせられていた。
それもある意味彼女の攻撃が舞うように押し寄せていって……それら全てが魔方陣で喚び出された銃身から繰り出されている。
「これが……これがシアロルの勇者の――ヘルガの力かよ」
明らかに楽しんでいるように冷酷な笑みを浮かべたヘルガは、その容姿の神秘さも相まって残酷な女神がここに顕現したかのようにも感じてしまう程だった――
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