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第六節 リアラルト訓練学校編
第119幕 ぶつかり合う力
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俺は一度解除した身体強化の魔方陣を何十にも重ね、極限まで自身の能力を高める。
ソフィアさんはその間にも獰猛な動きで俺に喰らいつかんとハンマーを何度も振り回し、その寒気がするほどの風切り音が幾度となく俺の近くで鳴り響いてくる。
「ふふっ、すごいのね。わたしの動きよりもずっと洗練されてる……勇者会合での時は本気でやってなかったのね」
「遊びに本気を出す奴がいるか?」
「いないわ……ねぇ!」
――ゴォゥン!
隙を作らないように最小限の動きで攻めるというのは、その分威力を殺すことにも繋がる。
しかし、ソフィアさんに限って言えばそれは何のデメリットにもなっていないと言えるだろう。
小さな嵐、暴風と言うのに相応しい。
惜しむらくは俺自身が最も信頼している剣を手放してしまったことか。
力だけで語るならば、ソフィアさんは俺に近い次元にいる。
そんな相手が巨大なハンマーを軽々と扱い、自身の手足としているのだ。
剣のない今の俺の防御では、下手をすると自身を傷つけることにもなる。
「ソフィアさん、貴女は随分変わった」
「そう? わたしは変わらないわ。今も昔も……戦うことが好きなのよ」
地面に叩きつけられたハンマーが周囲の地面に衝撃を走らせ、沈下させる。
俺は一度彼女と距離を取り、魔方陣を展開する。
起動式は『雷』『矢』『複数』『麻痺』の四つ。
相手の行動力を奪う事に特化させた魔方陣だ。
それをソフィアさんが追撃を仕掛けてくるのを見越して発動させる。
魔方陣からいくつもの雷を纏った黄色い矢がせり出てくるように出現して、それを確認したと同時に彼女に向かって全て撃ち込む。
「なっ……危ないわねぇっ!」
目の前でまるで棒を回転させるかのようにハンマーをくるくると振り回して防いでいるが、常人にはまず不可能な動きだろう。
だが、なまじそういう風に自在に動かせるのが仇となったな。
ソフィアさんが視界を遮る防御を選択した瞬間、足の下に爆発系の魔方陣を展開し、それを加速に利用する。
左斜め、右斜めと順に鋭く曲がることにより、ソフィアさんの左横に一気に迫る。
そのまま地面を砕かんばかりに踏みしめ、身体を引き締めながら懐から刀を鋭く抜き放つように拳を繰り出す。
「なっ……こ、これは……」
避けきれないと判断したソフィアさんは俺の拳が当たるであろう右横腹と胸部の中間に防御の魔方陣を展開してきた。
……それを読みきれない程、俺は未熟ではない。
瞬間的な攻撃力を高める為、拳に更に強化の魔方陣を纏わせ、何の躊躇もなく振り抜いた。
――ガガゴゴゴガゴッッ!
俺の拳とソフィアさんの防御の魔方陣がぶつかる音が周囲に響き、一瞬だけそれが拮抗する。
すぐさまパキィィィン……という小綺麗な何かが砕ける音共にソフィアさんの防御の魔方陣は消え去り、それ以上なにも遮るもののない俺の一撃は、彼女の胴体の左横を確かに捉えた。
「が、は、ぁ……!」
嫌な音と何かが軋むような感触が拳に伝わってくるが、構わず振り抜く。
ソフィアさんは弾け飛んでいき、地面を滑るように足で踏ん張り……それなりに距離が開いた時になんとか止まることが出来たようだ。
今の攻撃……本当なら骨を砕いて、そのまま絶命しても不思議じゃない。
それだけの本気を込めてぶつけたつもりだ。
だが、俺の一撃が当った瞬間、ソフィアさんは足に強化の魔方陣を使い、そのまま俺の拳と同じ方向――左に思いっきり飛びながら宙に身を投げ、威力を殺していた。
あの一瞬でそこまでの判断が出来るなんてな。
最初から防御の魔方陣が壊れることを想定して行動してなければ、あれだけの滑らかな動きをすることは不可能だ。
ソフィアさんもやっぱり勇者会合の時は実力の全てを出していなかったというわけか。
「が、ふっ……ごほ、がほっ……や、やるわね」
咳き込みながらも俺のことを睨みつけ、次の動きに注意を向けてきていた……かと思うと、ソフィアさんは今度は何を思ったのか笑顔を浮かべてハンマーを背負って……戦闘状態を解いてしまう。
「……どういうことだ?」
「今のわたしじゃ、グレリアくんに勝てないことがわかった。それだけでも収穫だよ。
無理をせずに帰ることもわたしの勇者としての役目のうちだし、ここは退かせてもらうわ」
推し量るように彼女の睨んで見るが、そこには嘘偽りない感情が見える……ような気がする。
だが、ここで俺がそれを許すと思っているのだろうか?
上半身を前のめりに倒し、追撃の姿勢を取ると、ソフィアさんはそれを制止するように片手を上げてきた。
「悪いけど、まだ貴方がやるって言うなら、彼らを遠慮なく道連れにするけど……どうする?」
ちらっとソフィアさんが見たその方向は……レグルたちがいるところだ。
……俺がこのまま戦うなら、彼女はレグルたちを攻撃する……そういうわけか。
苦々しいものがあるが、こうなってしまってはソフィアさんを見逃すしかないだろう。
もちろん、誰も傷つけずに戦うことだって出来る。
しかし、なりふり構わず他者を道連れにしようとする者はなにをしでかすかわかったものではない。
俺は……誰かを犠牲にしながら戦うような事は……極力したくはなかった。
「……わかった。退け」
「ふふっ、そういう判断の早いところ、好きよ」
おどけるようにソフィアさんは俺にウインクを飛ばし、そのまま身体強化の魔方陣を解除せずに一気にこの戦線を離脱していった。
――後に残されたのは、俺と……呆然と事態を見守っていたシエラたちだけだった。
ソフィアさんはその間にも獰猛な動きで俺に喰らいつかんとハンマーを何度も振り回し、その寒気がするほどの風切り音が幾度となく俺の近くで鳴り響いてくる。
「ふふっ、すごいのね。わたしの動きよりもずっと洗練されてる……勇者会合での時は本気でやってなかったのね」
「遊びに本気を出す奴がいるか?」
「いないわ……ねぇ!」
――ゴォゥン!
隙を作らないように最小限の動きで攻めるというのは、その分威力を殺すことにも繋がる。
しかし、ソフィアさんに限って言えばそれは何のデメリットにもなっていないと言えるだろう。
小さな嵐、暴風と言うのに相応しい。
惜しむらくは俺自身が最も信頼している剣を手放してしまったことか。
力だけで語るならば、ソフィアさんは俺に近い次元にいる。
そんな相手が巨大なハンマーを軽々と扱い、自身の手足としているのだ。
剣のない今の俺の防御では、下手をすると自身を傷つけることにもなる。
「ソフィアさん、貴女は随分変わった」
「そう? わたしは変わらないわ。今も昔も……戦うことが好きなのよ」
地面に叩きつけられたハンマーが周囲の地面に衝撃を走らせ、沈下させる。
俺は一度彼女と距離を取り、魔方陣を展開する。
起動式は『雷』『矢』『複数』『麻痺』の四つ。
相手の行動力を奪う事に特化させた魔方陣だ。
それをソフィアさんが追撃を仕掛けてくるのを見越して発動させる。
魔方陣からいくつもの雷を纏った黄色い矢がせり出てくるように出現して、それを確認したと同時に彼女に向かって全て撃ち込む。
「なっ……危ないわねぇっ!」
目の前でまるで棒を回転させるかのようにハンマーをくるくると振り回して防いでいるが、常人にはまず不可能な動きだろう。
だが、なまじそういう風に自在に動かせるのが仇となったな。
ソフィアさんが視界を遮る防御を選択した瞬間、足の下に爆発系の魔方陣を展開し、それを加速に利用する。
左斜め、右斜めと順に鋭く曲がることにより、ソフィアさんの左横に一気に迫る。
そのまま地面を砕かんばかりに踏みしめ、身体を引き締めながら懐から刀を鋭く抜き放つように拳を繰り出す。
「なっ……こ、これは……」
避けきれないと判断したソフィアさんは俺の拳が当たるであろう右横腹と胸部の中間に防御の魔方陣を展開してきた。
……それを読みきれない程、俺は未熟ではない。
瞬間的な攻撃力を高める為、拳に更に強化の魔方陣を纏わせ、何の躊躇もなく振り抜いた。
――ガガゴゴゴガゴッッ!
俺の拳とソフィアさんの防御の魔方陣がぶつかる音が周囲に響き、一瞬だけそれが拮抗する。
すぐさまパキィィィン……という小綺麗な何かが砕ける音共にソフィアさんの防御の魔方陣は消え去り、それ以上なにも遮るもののない俺の一撃は、彼女の胴体の左横を確かに捉えた。
「が、は、ぁ……!」
嫌な音と何かが軋むような感触が拳に伝わってくるが、構わず振り抜く。
ソフィアさんは弾け飛んでいき、地面を滑るように足で踏ん張り……それなりに距離が開いた時になんとか止まることが出来たようだ。
今の攻撃……本当なら骨を砕いて、そのまま絶命しても不思議じゃない。
それだけの本気を込めてぶつけたつもりだ。
だが、俺の一撃が当った瞬間、ソフィアさんは足に強化の魔方陣を使い、そのまま俺の拳と同じ方向――左に思いっきり飛びながら宙に身を投げ、威力を殺していた。
あの一瞬でそこまでの判断が出来るなんてな。
最初から防御の魔方陣が壊れることを想定して行動してなければ、あれだけの滑らかな動きをすることは不可能だ。
ソフィアさんもやっぱり勇者会合の時は実力の全てを出していなかったというわけか。
「が、ふっ……ごほ、がほっ……や、やるわね」
咳き込みながらも俺のことを睨みつけ、次の動きに注意を向けてきていた……かと思うと、ソフィアさんは今度は何を思ったのか笑顔を浮かべてハンマーを背負って……戦闘状態を解いてしまう。
「……どういうことだ?」
「今のわたしじゃ、グレリアくんに勝てないことがわかった。それだけでも収穫だよ。
無理をせずに帰ることもわたしの勇者としての役目のうちだし、ここは退かせてもらうわ」
推し量るように彼女の睨んで見るが、そこには嘘偽りない感情が見える……ような気がする。
だが、ここで俺がそれを許すと思っているのだろうか?
上半身を前のめりに倒し、追撃の姿勢を取ると、ソフィアさんはそれを制止するように片手を上げてきた。
「悪いけど、まだ貴方がやるって言うなら、彼らを遠慮なく道連れにするけど……どうする?」
ちらっとソフィアさんが見たその方向は……レグルたちがいるところだ。
……俺がこのまま戦うなら、彼女はレグルたちを攻撃する……そういうわけか。
苦々しいものがあるが、こうなってしまってはソフィアさんを見逃すしかないだろう。
もちろん、誰も傷つけずに戦うことだって出来る。
しかし、なりふり構わず他者を道連れにしようとする者はなにをしでかすかわかったものではない。
俺は……誰かを犠牲にしながら戦うような事は……極力したくはなかった。
「……わかった。退け」
「ふふっ、そういう判断の早いところ、好きよ」
おどけるようにソフィアさんは俺にウインクを飛ばし、そのまま身体強化の魔方陣を解除せずに一気にこの戦線を離脱していった。
――後に残されたのは、俺と……呆然と事態を見守っていたシエラたちだけだった。
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