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第三節 英雄の道 セイル編
第62幕 もう一度あの日の再現を
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エセルカを庇う形で司と相対しているグレリアは、以前よりも少したくましくなっているように感じた。
ちょっと髪の毛は伸びていて、精悍な体つきになっていた。
「ぐ、ぐれりあくぅん……」
「エセルカ、お前も相変わらずだな。
そう言えば前にも同じようにこうしてお前を助けたな」
思い出したかのように呟くグレリアが言うのは、確かエセルカが吉田に攫われた時の話だったはずだ。
あの時は確か二人が一緒に朝帰りしたとやたら話題になったっけか……。
外套で半裸の身体を隠してもらったエセルカは、妙に熱に浮かされた表情でまっすぐグレリアに視線を送っているように見えた。
「……随分余裕じゃないか」
「当たり前だ。お前と俺とじゃ、何もかも違いすぎる」
にらみ合う二人だったが、司が一旦距離を取って俺達から離れたかと思うと……いきなりグレリアの前に投げられているナイフが飛んできて、右斜めから体勢を低くした司が右手にナイフを持って攻撃態勢を取っていた。
「グレリア!」
「セイル、慌てるな。もっと冷静に状況を見るんだ」
まるで俺に諭すかのような口調と視線を俺に向けながら、グレリアは飛んできたナイフを叩き落とし、司のナイフを避けた状態のまま腕の関節を極めていた。
驚いた表情で痛みに表情を歪める司の事をグレリアは冷ややかに見下ろしている。
「こ、この……」
「姑息な真似をするな。
その程度の動きで俺を捉えられると思うなよ?」
「くっ……このっ……」
さっきから「この、この」としか言っていない司だったが、そのままナイフを持っていない左手をグレリアの顔にかざして魔法を唱えてきた。
「燃え盛れ我が魔力。球となりて――っ、痛っ、た、ぁぁぁぁぁ!」
「魔法を唱えさせるわけがないだろう?」
ギリギリと関節を極めたまま、痛みを与えられた司は魔法の詠唱を中断してしまう。
……この場で魔法を唱えるのを待つほど、グレリアが油断するような性格じゃないことくらい、あいつは理解しているだろうに……。
「く、くそっ……お前、おれにこんなことして……」
「関係ないな。
勇者だろうが英雄だろうが、女を侍らせていい気になってるようなクズのことなんぞ、知ったことか」
汚いものを見るような視線を向けているグレリアは、司を自身の正面に立たせ、そのまま思いっきり頬をぶん殴った。
殴打の音が聞こえて、そのままよろよろと壁により掛かる司は、手加減されていたのか頬が多少腫れるだけで済んだようだった。
「がっ、ぐぅ……グレリアァァァ……」
「失せろ、三下が。これ以上なにかしようというのなら、それ相応の覚悟をするんだな」
心底恨めしいといった憎悪を宿した視線をグレリアに向けていた司だったが、冷ややかな対応を取られたことで一瞬我に返って、そのまま壁を思いっきり蹴り上げたかと思うとさっさと逃げていってしまった。
辺りに残されたのはなんとかこっちに入ってきたくずはと、身体を隠してもらったエセルカ。
そして微妙にずたぼろな俺と、悠然と佇むグレリアの姿だけだった。
「大丈夫か? 三人共」
「……随分いいタイミングで来るじゃない」
「グレリアくん! 会いたかった!」
感動のあまりエセルカはグレリアの方に抱きついていた。
呆れるような顔で二人を見ているが、気持ちはわかる。
「くずは、腹は大丈夫か?」
「ちょっと痛いけど……それだけね。
全く……あの馬鹿、女の子のお腹に蹴りを入れるなんて……」
痛そうに少し顔を歪めているけど、悪態をつけている分には大丈夫だろう。
ひとしきり再会を喜びあったのか、エセルカはようやく落ち着いて自分の現状に気づいたようで、頬を赤らめて外套をぎゅっと握りしめていた。
「グレリア、本当に久しぶりだな」
「ああ、セイルも元気そうでなによりだ」
相変わらず冷静というか……こういう時は笑顔くらい浮かべるもんだと思うけどな。
けどほっとしたような顔をしているところからも、少なからず俺達を心配してくれていた事が伝わってくる。
「グレリア、お前今まで一体何してたんだよ」
「……そうだな。積もる話も色々あるだろう。
ここで話すのもなんだ、俺の部屋まで来てもらってもいいか?」
グレリアが俺達の顔を一人ずつ見ているが、当たり前だ。
知りたいこと、話したいことはいっぱいある。
「わかった」
「ちゃんと話してよ?」
「わかってる。こっちも準備がある。
三階の一番奥の部屋に来てくれ」
そう言うとグレリアは司の部屋から出ていってしまった。
一度エセルカには着替えをしてもらい、そのまま俺達はグレリアの部屋に行く。
訪れたその部屋にはそれなりには広さがあって、司の部屋にはやや劣るものの、結構いい部屋のように思えた。
そこにはグレリアと……白銀の髪を持つ少女がいて、エセルカが不安そうな目でその子の事を見ていた。
「ねえ、あなた正気? わざわざ自分から……」
「当たり前だろ。それに……こいつらならわかってくれるさ。
俺の事も、お前らの事も」
「どうだか……知らないわよ。
敵になったら遠慮なく殺すからね?」
「わかったわかった」
えらく物騒な話を軽く受け流しているけど、この少女とグレリアは知り合いなのか?
「えーっと……」
「ん? ああ、彼女についても話すことになるが……ちょっと長くなるから適当に楽にしておいてくれ」
「あ、ああ……」
俺達はそのままグレリアの話を聞くことになった。
彼が過ごした――俺達とはまた違った一年の話を。
ちょっと髪の毛は伸びていて、精悍な体つきになっていた。
「ぐ、ぐれりあくぅん……」
「エセルカ、お前も相変わらずだな。
そう言えば前にも同じようにこうしてお前を助けたな」
思い出したかのように呟くグレリアが言うのは、確かエセルカが吉田に攫われた時の話だったはずだ。
あの時は確か二人が一緒に朝帰りしたとやたら話題になったっけか……。
外套で半裸の身体を隠してもらったエセルカは、妙に熱に浮かされた表情でまっすぐグレリアに視線を送っているように見えた。
「……随分余裕じゃないか」
「当たり前だ。お前と俺とじゃ、何もかも違いすぎる」
にらみ合う二人だったが、司が一旦距離を取って俺達から離れたかと思うと……いきなりグレリアの前に投げられているナイフが飛んできて、右斜めから体勢を低くした司が右手にナイフを持って攻撃態勢を取っていた。
「グレリア!」
「セイル、慌てるな。もっと冷静に状況を見るんだ」
まるで俺に諭すかのような口調と視線を俺に向けながら、グレリアは飛んできたナイフを叩き落とし、司のナイフを避けた状態のまま腕の関節を極めていた。
驚いた表情で痛みに表情を歪める司の事をグレリアは冷ややかに見下ろしている。
「こ、この……」
「姑息な真似をするな。
その程度の動きで俺を捉えられると思うなよ?」
「くっ……このっ……」
さっきから「この、この」としか言っていない司だったが、そのままナイフを持っていない左手をグレリアの顔にかざして魔法を唱えてきた。
「燃え盛れ我が魔力。球となりて――っ、痛っ、た、ぁぁぁぁぁ!」
「魔法を唱えさせるわけがないだろう?」
ギリギリと関節を極めたまま、痛みを与えられた司は魔法の詠唱を中断してしまう。
……この場で魔法を唱えるのを待つほど、グレリアが油断するような性格じゃないことくらい、あいつは理解しているだろうに……。
「く、くそっ……お前、おれにこんなことして……」
「関係ないな。
勇者だろうが英雄だろうが、女を侍らせていい気になってるようなクズのことなんぞ、知ったことか」
汚いものを見るような視線を向けているグレリアは、司を自身の正面に立たせ、そのまま思いっきり頬をぶん殴った。
殴打の音が聞こえて、そのままよろよろと壁により掛かる司は、手加減されていたのか頬が多少腫れるだけで済んだようだった。
「がっ、ぐぅ……グレリアァァァ……」
「失せろ、三下が。これ以上なにかしようというのなら、それ相応の覚悟をするんだな」
心底恨めしいといった憎悪を宿した視線をグレリアに向けていた司だったが、冷ややかな対応を取られたことで一瞬我に返って、そのまま壁を思いっきり蹴り上げたかと思うとさっさと逃げていってしまった。
辺りに残されたのはなんとかこっちに入ってきたくずはと、身体を隠してもらったエセルカ。
そして微妙にずたぼろな俺と、悠然と佇むグレリアの姿だけだった。
「大丈夫か? 三人共」
「……随分いいタイミングで来るじゃない」
「グレリアくん! 会いたかった!」
感動のあまりエセルカはグレリアの方に抱きついていた。
呆れるような顔で二人を見ているが、気持ちはわかる。
「くずは、腹は大丈夫か?」
「ちょっと痛いけど……それだけね。
全く……あの馬鹿、女の子のお腹に蹴りを入れるなんて……」
痛そうに少し顔を歪めているけど、悪態をつけている分には大丈夫だろう。
ひとしきり再会を喜びあったのか、エセルカはようやく落ち着いて自分の現状に気づいたようで、頬を赤らめて外套をぎゅっと握りしめていた。
「グレリア、本当に久しぶりだな」
「ああ、セイルも元気そうでなによりだ」
相変わらず冷静というか……こういう時は笑顔くらい浮かべるもんだと思うけどな。
けどほっとしたような顔をしているところからも、少なからず俺達を心配してくれていた事が伝わってくる。
「グレリア、お前今まで一体何してたんだよ」
「……そうだな。積もる話も色々あるだろう。
ここで話すのもなんだ、俺の部屋まで来てもらってもいいか?」
グレリアが俺達の顔を一人ずつ見ているが、当たり前だ。
知りたいこと、話したいことはいっぱいある。
「わかった」
「ちゃんと話してよ?」
「わかってる。こっちも準備がある。
三階の一番奥の部屋に来てくれ」
そう言うとグレリアは司の部屋から出ていってしまった。
一度エセルカには着替えをしてもらい、そのまま俺達はグレリアの部屋に行く。
訪れたその部屋にはそれなりには広さがあって、司の部屋にはやや劣るものの、結構いい部屋のように思えた。
そこにはグレリアと……白銀の髪を持つ少女がいて、エセルカが不安そうな目でその子の事を見ていた。
「ねえ、あなた正気? わざわざ自分から……」
「当たり前だろ。それに……こいつらならわかってくれるさ。
俺の事も、お前らの事も」
「どうだか……知らないわよ。
敵になったら遠慮なく殺すからね?」
「わかったわかった」
えらく物騒な話を軽く受け流しているけど、この少女とグレリアは知り合いなのか?
「えーっと……」
「ん? ああ、彼女についても話すことになるが……ちょっと長くなるから適当に楽にしておいてくれ」
「あ、ああ……」
俺達はそのままグレリアの話を聞くことになった。
彼が過ごした――俺達とはまた違った一年の話を。
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