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第三節 英雄の道 セイル編
第57幕 争いの種をまく者・中編
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今はただ先制攻撃だ……!
そう意気込んで、俺は超至近距離まで一気に詰め寄り、右拳に力を込めて、コンパクトにボディブローを繰り出す。
「甘いっ!」
俺のこの行動を冷静に読んでいたのか、左肘を脇腹付近にまで落として防いでくる。
鈍い音が辺りに響くが、そのまま男の方は持っていた斧を振り上げていた。
とっさに距離を取り、攻撃範囲から離脱した俺は、再び攻め込む時を伺う。
「……なるほど、攻める時は勇敢に、守る時は臆病に、というやつか。
ならば……!」
男の斧になにかがまとわりつく。あれは……あれが魔方陣か?
「喰らえ……!」
振り上げた状態にあった斧を、そのまま俺に向けて投擲してきた。
一度受け流しつつ防御。そこから一気に攻勢に出る――!
そんな風に結論を出したのだけど、じんわりと嫌な汗が噴き出るのを感じ、俺はとっさに転がるように大きく回避した。
斧はそのまま弧を描いて地面に突き刺さ……った瞬間、大地に亀裂が走り、轟音が響き渡る。
「なっ……!?」
「この程度で驚くなよ」
一瞬目を離した。その一瞬のはずだ。
それなのに……なんでこの男は俺の近くにいるんだ……!?
迫りくる拳。それにも魔方陣がまとわりついて、嫌な予感がひしひしと伝わってくる。
とっさに防御の姿勢を取ろうとしたのだけれど、左腕がなんとか間に合ったくらいだ。
――ドゴォンッッ!!
「ぐっ、がふぅっ……!」
なんて重い一撃だ。
俺の手甲で防いだとはいえ、殺せなかった分の衝撃がモロに腹に伝わった。
まるで無防備な腹に勢いづいた大きな木槌を打ち立てられたかと思うほどだ。
ギリギリと歯を食い縛りながら痛みを堪え、吐き気を怒りに変えて鋭い目を男の方に向ける。
「ほう、ヒュルマにも芯の強いやつがいるものだな。なら……」
まただ。今度は俺の目の前から消えて、いつの間にか背後に男は移動している。
いや、消えてるんじゃない。
俺じゃついていけない速度で走っているんだ。
次は何が来る……? ……いいや、何が来ても関係ない!
「大地を揺るがせ我が魔力! 他者の行動を阻害せよ……【ランドシェイク】!」
一分一秒が惜しい。
なんとか男が攻撃に転ずる前に【ランドシェイク】の魔法を解き放ち、男と俺の周囲の地面を思いっきり揺らしてやる。
「くっ……ヒュルマの魔術か……!」
「魔法っていうんだよ!」
止んだ瞬間、男の正面を向くように体を捻りながら回し蹴りを繰り出す。
それは確かに男の脇腹を捉え、苦悶の表情を浮かばせることに成功した。
そのまま一歩、二歩後ずさった俺は、徐々に後退しながら男の一挙手一投足に注視する。
「く、はっ……中々、やるな!」
それは捕食者の威嚇のような強者の笑み。
見るだけで震えが走りそうになる体に活を入れて、相手に気取られないように神経を張り巡らせる。
――なんの為に俺は今まで研鑽を積んできた。
友を仲間も守るため。あの日の惨めさを超えるためだろう……!
「……良い目だ。そんな目をした男を見るのは、いつぶりだろうな」
感心するように笑う男の方からはまだ少し余裕が見られる。
……当然か。たった数度の攻防。だけどこれだけで十分わかるものもある。
俺とあいつでは、埋めようのない差がある。
あの魔方陣を纏わせているのは、多分身体強化の役割を果たしているのだろう。
俺達の魔法では使えないもの……それがあいつらには使える。
それ以外にも経験の差も……。
なら、俺が出来ることは……。
「吹き荒べ我が魔力! 狂う暴風となって敵を薙ぎ払え【クレイジーストーム】!」
魔法の発現。
周囲の風を全て巻き込み、無規則なまでに様々に荒れ狂う斬れる風。
だが、これでは終わらせない。
男が動けない隙に更に魔法を畳み掛ける!
「石に宿れ我が魔力! 無数の岩となりて敵を圧潰させろ【ロックブラスト】!」
それなりに大きい岩が複数、男に向かって降り注ぐ。
それは【クレイジーストーム】で斬り刻まれ、礫となって襲いかかる。
「……なるほど、ヒュルマの魔術といえど、かけ合わせればここまでの力を出すか」
対応するように魔方陣を展開する男は俺の魔法に集中しているようだ。
こっちはその隙に――。
極力気配を消して自分の魔法をかわしながらゆっくりと接近していると、魔方陣からそれぞれ逆回転となりうる風を生み出して【クレイジーストーム】を相殺するようだけど、遅い!
俺は男の左脇に付き、連打を繰り出す。
幾度も小さく鋭い拳の嵐を浴びせ、男が振り上げた拳を振り下ろすと同時に体勢を低くし、それをかわす。
そのまま踏みしめている左足に力を入れ、自身を一回転させながら鋭い蹴りを腹部に突き刺してやる。
「ぐっ……く、ふっ……」
流石に効いた様子の男が一歩後ろに下がり、俺をしっかりと視界に入れるように立ち回り始める。
これはやばいな……。
死力を尽くせば勝てない相手ではない。
差がある相手とは言え、向こうも少しずつ本気になってきている。
だがかの英雄の言葉、『肉を斬らせて骨を断つ』を実行することになるだろう。
――いや、ならそうするしかないだろ。
死ななきゃ安い。過去の英雄もそう言っていた。
俺はより一層近距離での攻防をするべく、なるべく体勢を低く保ち、速攻をかける姿勢を取る。
その時大きな爆発音と共に、俺達の間に降ってきたのは――邪悪そうに笑っていた軽い男の方だった。
そう意気込んで、俺は超至近距離まで一気に詰め寄り、右拳に力を込めて、コンパクトにボディブローを繰り出す。
「甘いっ!」
俺のこの行動を冷静に読んでいたのか、左肘を脇腹付近にまで落として防いでくる。
鈍い音が辺りに響くが、そのまま男の方は持っていた斧を振り上げていた。
とっさに距離を取り、攻撃範囲から離脱した俺は、再び攻め込む時を伺う。
「……なるほど、攻める時は勇敢に、守る時は臆病に、というやつか。
ならば……!」
男の斧になにかがまとわりつく。あれは……あれが魔方陣か?
「喰らえ……!」
振り上げた状態にあった斧を、そのまま俺に向けて投擲してきた。
一度受け流しつつ防御。そこから一気に攻勢に出る――!
そんな風に結論を出したのだけど、じんわりと嫌な汗が噴き出るのを感じ、俺はとっさに転がるように大きく回避した。
斧はそのまま弧を描いて地面に突き刺さ……った瞬間、大地に亀裂が走り、轟音が響き渡る。
「なっ……!?」
「この程度で驚くなよ」
一瞬目を離した。その一瞬のはずだ。
それなのに……なんでこの男は俺の近くにいるんだ……!?
迫りくる拳。それにも魔方陣がまとわりついて、嫌な予感がひしひしと伝わってくる。
とっさに防御の姿勢を取ろうとしたのだけれど、左腕がなんとか間に合ったくらいだ。
――ドゴォンッッ!!
「ぐっ、がふぅっ……!」
なんて重い一撃だ。
俺の手甲で防いだとはいえ、殺せなかった分の衝撃がモロに腹に伝わった。
まるで無防備な腹に勢いづいた大きな木槌を打ち立てられたかと思うほどだ。
ギリギリと歯を食い縛りながら痛みを堪え、吐き気を怒りに変えて鋭い目を男の方に向ける。
「ほう、ヒュルマにも芯の強いやつがいるものだな。なら……」
まただ。今度は俺の目の前から消えて、いつの間にか背後に男は移動している。
いや、消えてるんじゃない。
俺じゃついていけない速度で走っているんだ。
次は何が来る……? ……いいや、何が来ても関係ない!
「大地を揺るがせ我が魔力! 他者の行動を阻害せよ……【ランドシェイク】!」
一分一秒が惜しい。
なんとか男が攻撃に転ずる前に【ランドシェイク】の魔法を解き放ち、男と俺の周囲の地面を思いっきり揺らしてやる。
「くっ……ヒュルマの魔術か……!」
「魔法っていうんだよ!」
止んだ瞬間、男の正面を向くように体を捻りながら回し蹴りを繰り出す。
それは確かに男の脇腹を捉え、苦悶の表情を浮かばせることに成功した。
そのまま一歩、二歩後ずさった俺は、徐々に後退しながら男の一挙手一投足に注視する。
「く、はっ……中々、やるな!」
それは捕食者の威嚇のような強者の笑み。
見るだけで震えが走りそうになる体に活を入れて、相手に気取られないように神経を張り巡らせる。
――なんの為に俺は今まで研鑽を積んできた。
友を仲間も守るため。あの日の惨めさを超えるためだろう……!
「……良い目だ。そんな目をした男を見るのは、いつぶりだろうな」
感心するように笑う男の方からはまだ少し余裕が見られる。
……当然か。たった数度の攻防。だけどこれだけで十分わかるものもある。
俺とあいつでは、埋めようのない差がある。
あの魔方陣を纏わせているのは、多分身体強化の役割を果たしているのだろう。
俺達の魔法では使えないもの……それがあいつらには使える。
それ以外にも経験の差も……。
なら、俺が出来ることは……。
「吹き荒べ我が魔力! 狂う暴風となって敵を薙ぎ払え【クレイジーストーム】!」
魔法の発現。
周囲の風を全て巻き込み、無規則なまでに様々に荒れ狂う斬れる風。
だが、これでは終わらせない。
男が動けない隙に更に魔法を畳み掛ける!
「石に宿れ我が魔力! 無数の岩となりて敵を圧潰させろ【ロックブラスト】!」
それなりに大きい岩が複数、男に向かって降り注ぐ。
それは【クレイジーストーム】で斬り刻まれ、礫となって襲いかかる。
「……なるほど、ヒュルマの魔術といえど、かけ合わせればここまでの力を出すか」
対応するように魔方陣を展開する男は俺の魔法に集中しているようだ。
こっちはその隙に――。
極力気配を消して自分の魔法をかわしながらゆっくりと接近していると、魔方陣からそれぞれ逆回転となりうる風を生み出して【クレイジーストーム】を相殺するようだけど、遅い!
俺は男の左脇に付き、連打を繰り出す。
幾度も小さく鋭い拳の嵐を浴びせ、男が振り上げた拳を振り下ろすと同時に体勢を低くし、それをかわす。
そのまま踏みしめている左足に力を入れ、自身を一回転させながら鋭い蹴りを腹部に突き刺してやる。
「ぐっ……く、ふっ……」
流石に効いた様子の男が一歩後ろに下がり、俺をしっかりと視界に入れるように立ち回り始める。
これはやばいな……。
死力を尽くせば勝てない相手ではない。
差がある相手とは言え、向こうも少しずつ本気になってきている。
だがかの英雄の言葉、『肉を斬らせて骨を断つ』を実行することになるだろう。
――いや、ならそうするしかないだろ。
死ななきゃ安い。過去の英雄もそう言っていた。
俺はより一層近距離での攻防をするべく、なるべく体勢を低く保ち、速攻をかける姿勢を取る。
その時大きな爆発音と共に、俺達の間に降ってきたのは――邪悪そうに笑っていた軽い男の方だった。
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