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第二節 勇者たちとの旅路編
第47幕 傷心少女
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くずはとヘルガの戦いが終わった後、次の勝負に移ったのだが……。
「僕の負けだよ」
開始して三~四回適当に打ち合った司が持っていた剣をぽーんと放り投げて敗北宣言してしまったため、呆気なく戦いは終わってしまった。
これに激怒したのがナッチャイスの英雄の……周武龍。
律儀に自分の名前の字と読みを教えてくれていた後ろに長く細い一本の三つ編み結わえている黒髪に黒く鋭い、細い目をした彼は、司のあまりの不誠実さに相当怒っているようだった。
「逃げるのか! 卑怯者め!」
「卑怯でいいよ。おれはこんな見世物になるつもり、ないから」
なんて言って取り付く島もない。結局、やる気を起こさない彼に対して諦めたのが王様達だった。
「構わん。やる気がない者に何を言っても無駄だ」
クリムホルン王のその言葉を聞いたからか、小馬鹿にしたような笑いを浮かべてさっさと引き上げた司。
それに対して武龍は更に怒りをつのらせているようだったが、ミンメア女王に宥められ、なんとか自分の怒りを飲み込むのに必死だったようだ。
結局そこで勝負は終わり。
後は少々王様達からの言葉があり、自分たちが宿泊している部屋の方へと帰り、一泊。
次の日にはクリムホルン王の礼の言葉を聞くことになったのだが――
「この度は本当にご苦労だった。後は国に帰り、ゆっくりと休んで欲しい」
と当たり障りのないことを言われただけで終わってしまった。
帰りは『他国を見て回りながら休息を取りつつ帰るといい』と言われ、いくらかの金銭をミシェリさんが受け取っていた。
お金を受け取った後はそのまま鎧馬の馬車に乗り込んでドンウェルを後にすることになった。
――のだけれど、正直馬車の中はかなり空気が悪かった。
それもそうだろう。
くずははボロ負けしたあの時よりは大分マシになってはいたが、それでもかなり傷ついていた。
司の方は自分からさっさと勝負を切り上げたのだから全く我関せずでエセルカの方にたまに話しかけては窓の外を見ているだけで、くずはに関しては言葉すらかけない。
……だがその方がありがたいと言えるだろう。
正直、あんな適当で勝負を終わらせた彼がかける言葉が例えくずはに優しいものだったとしても、彼女の心にはなんら響くものはないと思ったからだ。
「ミシェリさん、クリムホルン王からもらったお金はどうするんです?」
「そうですね……まさか王様からこんなにもらうとは思わなかったですから……療養も兼ねて出来るだけ町の宿に泊まって行こうと思います」
セイルの疑問にミシェリさんがくずはを気遣うような視線を見せて答えていた。
それに対して上機嫌になる司を見咎めるように、セイルは不機嫌そうな視線を向ける。
相変わらず空気の読めない男だ。自分が良ければそれでいいのだろうか?
「お二人ともそれでよろしいですか?」
「おれは構わないよ。そんなに急いで帰りたいわけでもないし、ね」
「……」
おどけて疲れたというようなポーズを取る司に対し、少しずつ怒りを募らせているようなセイルだったが、俺が視線を向けてやると『わかってる』と言わんばかりに苦々しく頷いていた。
くずはは言葉を口にするのも億劫なのだろう。
ミシェリさんの問にただ黙って軽く頷くだけだった。
が、それがまずかった。
「くずはもさ、あんまりに気にするなよ。
ヘルガ、だっけ? あんなの誰が相手でも勝てなかったさ。
運がなかったと諦めて元気出せよ。どうせ見世物にされただけなんだしさ」
「なんだと!? それが――」
「セイル!!」
呆れたように笑顔を向けてくる司に対し、耐えかねたと言うかのように立ち上がりながら声を荒げるセイルの言葉を紡がせないために、俺は大声で遮ってやった。
「グレリア! なんで……!」
「今言い争っても仕方ないだろうが。
司の言う通り、あれは勇者の能力を見比べる為の戦いだったし、ヘルガは恐らくあそこにいた英雄の中でも屈指の実力者だった。それはお前もわかってるだろう?」
「それは……」
結局それ以上セイルは何も言うことはなく、再び椅子に腰掛けて言葉を引っ込めてくれた。
帰りはじめたばかりなのに、今ここで更に空気を悪くするのは得策じゃない。
エセルカやくずはにも飛び火する可能性があるし、今のくずはに対してこれ以上心に傷を負わせかねない状況は避けたほうが良いだろう。
「全く、いきなり食らいつかないでくれよ」
「司もだ。
お前がどう思うのも自由だし、全てが間違ってるとは思わない。
だけど、傷ついている女の子に向ける言葉くらい、選んでくれ」
「……わかった。もうなにも言わないよ」
ここで一方的にセイルが悪い、というような空気も避けるなければならない。
だから俺は出来るだけ言葉を選んで司を諭すように説教をした。
司の言うことが真実であれ、傷心の少女に向けて言葉にするにはあまりにも軽すぎる。
女にばかり気にかけている司にだからこそ、俺の言葉も効いたようで……彼も渋々頷いてそのまま黙ってしまった。
なんとか現状維持という状況のまま馬車に揺られ、今日の夕方中に町にたどり着いた。
ミシェリさんの言う通り、今回進むのはここまでということになり、俺達は町で宿に泊まり英気を癒やすことにした……。
「僕の負けだよ」
開始して三~四回適当に打ち合った司が持っていた剣をぽーんと放り投げて敗北宣言してしまったため、呆気なく戦いは終わってしまった。
これに激怒したのがナッチャイスの英雄の……周武龍。
律儀に自分の名前の字と読みを教えてくれていた後ろに長く細い一本の三つ編み結わえている黒髪に黒く鋭い、細い目をした彼は、司のあまりの不誠実さに相当怒っているようだった。
「逃げるのか! 卑怯者め!」
「卑怯でいいよ。おれはこんな見世物になるつもり、ないから」
なんて言って取り付く島もない。結局、やる気を起こさない彼に対して諦めたのが王様達だった。
「構わん。やる気がない者に何を言っても無駄だ」
クリムホルン王のその言葉を聞いたからか、小馬鹿にしたような笑いを浮かべてさっさと引き上げた司。
それに対して武龍は更に怒りをつのらせているようだったが、ミンメア女王に宥められ、なんとか自分の怒りを飲み込むのに必死だったようだ。
結局そこで勝負は終わり。
後は少々王様達からの言葉があり、自分たちが宿泊している部屋の方へと帰り、一泊。
次の日にはクリムホルン王の礼の言葉を聞くことになったのだが――
「この度は本当にご苦労だった。後は国に帰り、ゆっくりと休んで欲しい」
と当たり障りのないことを言われただけで終わってしまった。
帰りは『他国を見て回りながら休息を取りつつ帰るといい』と言われ、いくらかの金銭をミシェリさんが受け取っていた。
お金を受け取った後はそのまま鎧馬の馬車に乗り込んでドンウェルを後にすることになった。
――のだけれど、正直馬車の中はかなり空気が悪かった。
それもそうだろう。
くずははボロ負けしたあの時よりは大分マシになってはいたが、それでもかなり傷ついていた。
司の方は自分からさっさと勝負を切り上げたのだから全く我関せずでエセルカの方にたまに話しかけては窓の外を見ているだけで、くずはに関しては言葉すらかけない。
……だがその方がありがたいと言えるだろう。
正直、あんな適当で勝負を終わらせた彼がかける言葉が例えくずはに優しいものだったとしても、彼女の心にはなんら響くものはないと思ったからだ。
「ミシェリさん、クリムホルン王からもらったお金はどうするんです?」
「そうですね……まさか王様からこんなにもらうとは思わなかったですから……療養も兼ねて出来るだけ町の宿に泊まって行こうと思います」
セイルの疑問にミシェリさんがくずはを気遣うような視線を見せて答えていた。
それに対して上機嫌になる司を見咎めるように、セイルは不機嫌そうな視線を向ける。
相変わらず空気の読めない男だ。自分が良ければそれでいいのだろうか?
「お二人ともそれでよろしいですか?」
「おれは構わないよ。そんなに急いで帰りたいわけでもないし、ね」
「……」
おどけて疲れたというようなポーズを取る司に対し、少しずつ怒りを募らせているようなセイルだったが、俺が視線を向けてやると『わかってる』と言わんばかりに苦々しく頷いていた。
くずはは言葉を口にするのも億劫なのだろう。
ミシェリさんの問にただ黙って軽く頷くだけだった。
が、それがまずかった。
「くずはもさ、あんまりに気にするなよ。
ヘルガ、だっけ? あんなの誰が相手でも勝てなかったさ。
運がなかったと諦めて元気出せよ。どうせ見世物にされただけなんだしさ」
「なんだと!? それが――」
「セイル!!」
呆れたように笑顔を向けてくる司に対し、耐えかねたと言うかのように立ち上がりながら声を荒げるセイルの言葉を紡がせないために、俺は大声で遮ってやった。
「グレリア! なんで……!」
「今言い争っても仕方ないだろうが。
司の言う通り、あれは勇者の能力を見比べる為の戦いだったし、ヘルガは恐らくあそこにいた英雄の中でも屈指の実力者だった。それはお前もわかってるだろう?」
「それは……」
結局それ以上セイルは何も言うことはなく、再び椅子に腰掛けて言葉を引っ込めてくれた。
帰りはじめたばかりなのに、今ここで更に空気を悪くするのは得策じゃない。
エセルカやくずはにも飛び火する可能性があるし、今のくずはに対してこれ以上心に傷を負わせかねない状況は避けたほうが良いだろう。
「全く、いきなり食らいつかないでくれよ」
「司もだ。
お前がどう思うのも自由だし、全てが間違ってるとは思わない。
だけど、傷ついている女の子に向ける言葉くらい、選んでくれ」
「……わかった。もうなにも言わないよ」
ここで一方的にセイルが悪い、というような空気も避けるなければならない。
だから俺は出来るだけ言葉を選んで司を諭すように説教をした。
司の言うことが真実であれ、傷心の少女に向けて言葉にするにはあまりにも軽すぎる。
女にばかり気にかけている司にだからこそ、俺の言葉も効いたようで……彼も渋々頷いてそのまま黙ってしまった。
なんとか現状維持という状況のまま馬車に揺られ、今日の夕方中に町にたどり着いた。
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