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第一節 アストリカ学園編

第8幕 魔法訓練

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 アストリカ学園に入学してからしばらくが経ったが、その間、俺達は外に出て戦闘訓練などするわけもなく、ただひたすら座学を積んでいた。
 歴史の授業から始まり、読み書きに計算と知っている者にとってはこれほど眠たい物はなかった。

 しかも寝ていることがバレたら呪いをかけられたかのように小指をぶつけたり、階段で足を踏み外したり……クルスィ先生に睨まれただけでこれなのだ。
 その日だけなのが唯一の救いなのだが、あまりにも酷い為、ついたあだ名が呪王じゅおう

 あんまりにも多い座学に対し、不満を言う生徒も結構いたんだが……なにしろ相手は死をイメージしたかのような恐ろしい姿をしている呪王だ。
 とてもではないが意見をしようという気にはならない。

 誰だって命が惜しいのだ。
 セイルも俺に対して色々文句を言っていたが、呪王に言えと言った瞬間沈黙してしまう始末。
 結局、俺たちが屋外で授業を受けることが出来たのはそれから二ヶ月以上後のことだった。


 ――


「はい、ではこれから魔法の授業を行いたいと思います」

 初めて授業で外に出た日。呪王クルスィから放たれた言葉に一同は諸手を挙げて歓迎していた。

「はい、皆さん、魔法というのがどういうのか知っていますか?」

 その質問に対し、俺以外ではシュリカとエセルカは知っているようだったが、生徒は大半がきょとんとした顔で知らないと首を横に振っていた。

 ――魔法というのは神の能力ちからの一端を借り受けたものだ。
 起動式マジックコードと呼ばれる文字式によって魔方陣を構築し、その大きさと構築時間で威力が変わる。
 より大きく、より綿密に構築した魔方陣ほど神の能力ちからをより多く引き出せるってわけだ。

 そして魔方陣を構築するには、体内に宿る神の力の残滓――魔力を使う必要があるのだ。
 これは大小の違いがあっても、神に造られたこの世界の物は必ず持っている。それこそそこらへんの小石にさえ。
 だから魔方陣を構築することが出来れば、誰でも魔法を使うことが出来る。

 しかしこれについては前世の俺の時代では当たり前の常識の一つだったんだが……ここではそうではないってことか?
 そんな疑問が頭の中から湧いて出ていたが、クルスィがぱんぱん、と手を叩いてきたのから、一度考えるのをやめてそっちの方を見る。

「はい、わからない人のほうが多いみたいなので、解説しますね。
 魔法というのは私達に宿る魔力と、世界に満ちる魔素と呼ばれるものを使って使用する神秘の力です。
 力ある呪文の詠唱により紡がれる言葉が魔法となって解き放たれるのです。
 あまりにも間違えた詠唱では魔法は不発に終わりますが、主要なキーワードを抑えておけば、多少呪文が違っても正常に発動します」
「……は?」

 なんだそれ? 神が決めた魔法の在り方と全然違う。
 魔素? 呪文? どれもこれも知らない言葉ばかりだ。

「ど、どうしたの? そんなに険しい顔して……」
「え? あ、いや……なんでもない。なんでもないんだ……」

 俺の顔にはっきりと出ていたんだろう。不安そうな顔をするエセルカになんでもないと平静を装って答えた。
 だけど、とてもじゃないが胸中は穏やかじゃいられない。
 最近の英雄と呼ばれる猛者達が意味のわからない名前なのは仕方のないことだろう。
 彼らはあまり良いとは言えない所業ではあるが、【英雄召喚】と呼ばれる魔法で喚ばれた者たちだからだ。

 だけど……この魔法の仕組みが全く違うのはどういうことだろう?

「はい、それでは実演してみせますよ」
「「「はーい」」」

 そういうとクルスィは事前に用意していた的に向かってその呪文とやらを唱え始めた。

「我が内なる魔力よ。炎をかたどり、理となせ――【ファイアボール】」

 クルスィの詠唱と同時に突き出した手のひらから炎を球体が具現化して、そのまま的に向かって飛んでいった。
 命中したと同時に爆発音が鳴り響き、的は燃えてなくなってしまう。

「お、おおぉー……」

 キラキラとした目を向けるセイルを含めた生徒たちなのだが、俺の方は余計にどうしていいのかわからなくなってしまった。
 こんな詠唱、したこともなかったし、この程度の魔法で騒ぎ立てることもなかったからだ。

「はい、それではみなさんも私の詠唱を参考にしつつ、実践してみてください。キーワードは『炎』ですよ」

 そこから先、魔法の練習をし続けることになったのだが、俺の方はどうにも身が入らなかったというか……自身が詠唱した魔法から放たれるファイアボールに違和感しかなかった。

「どうした? 調子悪そうだな」
「ん? ああ……。ちょっと、な」
「あんまり悪かったら言ったほうが良いぞ?」
「大丈夫だ。そこまで悪いってわけじゃないからな」

 珍しく俺を気遣ってきたセイルが心配そうにこっちを見ているがなんでもない、というように適当に手を振って返しておく。

 しかし――


 ――神様よ、ここは本当にあんたが造った……俺があんたの声を聞いて戦い抜いた世界なのか……?
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