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第二章 リータ魔王国復興編

第53話 「魔界に上下水道開通!」

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 私とレイアは食事をませ、上下水道について話し合いを始めている。

「タクトの作ろうとしておるものはどうしても必要なのか?」

「そうだなあ……結論から言えば必要なんだが、レイアがそう言う気持ちもわかるんだ」

 私の答えにレイアはきょとんとしている。

「おそらくこの世界にはない考えなんだよ。この世界に来てから人間界を見ていてそう思った」

「どういう事じゃ?」

 レイアが身を乗り出して私にたずねる。私は魔法で水の玉を作ってレイアに答える。

「レイア、この水飲みたいと思うか?」

「思わぬ。紅茶やワインがあるからの」

「そうだよな。地上にいる人間達に聞いても答えは同じだ。水はと思われてるからな」

「うむ。その通りじゃ」

「だけど人間も魔族も水を身体に取り込むことは必要だ。体の多くが水分でできているからな」

「そうじゃな。わらわ達はそれを紅茶や食べ物から取っておる」

「うん、そうだな。だから不要と思うのはわかるんだ」

 私は水の玉を一瞥いちべつしてからレイアにたずねる。

「けど、この水がもし飲めるとしたらどうする?」

「そうじゃなあ……飲むのもありじゃな」

「今は飲めない水を飲めるようにする仕組みをこれから作ろうとしているんだよ」

「なんと!! まことか?」

「人間達すら持っていないシステムをこの国でできるようにするんだ。面白いと思わないか?」

 私は水の玉を浮かせながらうっすら笑いレイアに問う。レイアの眼がキラキラかがやきだす。

「うむ! それは面白いのう!」

「だろ? 最初はみんな飲まないかもしれないけれど、飲めるとわかれば飲む魔物も出てくるかもしれない。やってみる価値はあるだろ?」

「そうじゃな! わらわも飲んでみたいぞ」

 レイアの答えに私は水の玉で説明する。

「飲むだけならこの水でもできるんだよ。例えばこう」

 私は聖魔法ピュアで水を浄化して飲んで見せる。

「魔法で浄化すれば飲めるようになる。簡単だろ?」

「ああ、確かにそうじゃな。じゃが、魔族に聖魔法をあつかえるものはおらぬゆえ現実的ではないな」

 さすがレイア。魔王だけの事はある回答だ。

「レイアの言う通りだ。じゃあほかの方法はないかというと、あるんだよ」

 私は不純物をどう処理するかをレイアに話した。レイアはうなずきながら私の話を理解してくれる。

「なるほどのう。それなら魔界でも可能じゃな」

「それにレイアに調査してもらっていた汚物を好む魔族と魔物達の件、この方法なら解決できるんだよ」

「そうなのか?」

「ああ。実際に完成したらまた教えるよ」

「それは楽しみじゃのう。タクト、存分にやってよいぞ」

「ありがとうレイア。終わったら報告するよ」

 私はレイアからこの国の詳細しょうさいな地図データをもらい、外で出かける準備をする。

「そうだレイア、ドッペルゲンガーを三人呼べるかな?」

「そうじゃな、しばし待ってくれぬか」

 レイアがテレパシーで彼らに呼びかけてくれる。返事が来たようだ。

「タクト、二人しかれぬようじゃが、よいか?」

「二人か。うん、いいよ。この国の中心座標の上空に集まるよう伝えてもらえるかな?」

「あいわかった」

 レイアは私の伝言を彼らに伝えてくれる。

「じゃあ行ってくる。終わったら呼ぶよ」

「うむ。気をつけてな」

 私はテレポートで中心座標の上空へと転移する。レイアの姿が消え、何もない空へと移動する。



「よし着いた」

 魔界は地底世界であるが、ちゃんと空が高く存在している。この上に人間界が広がっているというのはある意味不思議な事だ。もちろん人間界に行く手段は存在している。

 少し待っていると二人のドッペルゲンガーが現れる。私は挨拶あいさつして彼らを迎え、これから始める作業の主旨しゅしを説明した。

「今回の作業はあと一人必要なんだ。少しだけ待っててくれるか」

 私は水、木、土の魔法を駆使くしし、分身を作り出す魔法を唱える。

「我が望みに応え、自らの姿を現せ! 『分身オルター・エゴ』!」

 魔法が発動し私の身体の構造を再現した存在が作り出されていく。ドッペルゲンガー達が驚いている。

「よし、成功した」

 完成した分進体は自分の身体を見回して確認している。その間に私はドッペルゲンガー達に私に変身するよう依頼する。彼らは承諾しょうだくし私の身体に変化していく。

「これで四人だ。じゃあこれからの手順を説明するね」

 私は彼らにレイアからもらった地図データと魔法の術式をテレパシーで伝える。彼らはすぐさま理解し、テレポートでそれぞれの配置に転移する。私も残り一つの場所へと転移する。

「よし、まずは結界を張ってと」

 起点の場所に結界の柱を作る。その後術式を発動し魔法陣が現れる。

「よし、次はコピーだ。これが大変だな」

 私はほかの三人にテレパシーで術式をつなぐように伝える。彼らと同時に魔法を発動すると地上に光がリータ魔王国全体をおおっていく。

国土複写テリトリー・コピー!」

 術は発動するが変化はない。私は彼らにテレパシーで指示し、次の魔法を唱える。

「次元魔法、『再現ペースト』!」

 結界が光り術は発動する。しかし周りに変化はない。私は確認のためテレポートで移動する。地下の奥深くにリータ国の街がすべて再現されている。

「ちょっとやりすぎてしまったかなあ」

 今の魔法で魔力が結構持っていかれた。気を取り直し先ほどの結界の場所へ転移する。私は施設のための術式を慎重しんちょうに発動させる。魔法陣が浮かびあがり、光が上に昇る。

「よし、完成した」

 私は術式をつなぐよう再度彼らに伝える。先ほどと同様、光が国土全体をおおっていく。

「よし、水と汚物だけを吸収するシステムを発現するんだ」

 光は消え去り、先ほどまでただよっていた悪臭と汚物は土地から無くなる。私は彼らと合流し、地上の様子を確認する。

「水魔法を出してと……」

 私は水の玉を出して地面に落としてみる。水は地面に落ちると地面が発光し、吸収されていく。

「おお、いい感じだ。汚物も見事に無くなってるな」

 施設の設置が成功したようだ。魔力はごっそり無くなったがホッと胸をなでおろす。

「みんなありがとう。うまくいったようだ。もう少しだけ作業があるから手伝ってほしい」

 私の言葉に三人はうなずき成功を分かち合う。これで上下水道システムの下地はととのった。そして飲料水の確保は決定的となる。

 その施設と下水処理施設を午後から作る予定だ。私はひとまずレイアを呼び、仕組みの説明をするのだった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【まめちしき】

【上下水システム】……現実世界の上下水道システムとは少し異なる。魔法で国土全体に水と汚物だけを吸収・沈澱ちんでんさせる層をもうけ、水以外の成分を分離し沈澱ちんでんさせて地下に流し込む。残った水は各所に設置予定の処理場へ送られる。そこでさらに浄化した後、各魔物達に届けられる。

【下水システム】……地下に沈澱ちんでんし流し込まれた汚物や汚水は、それらを主食とする魔族及び魔物達が処理する。その後処理施設で浄化された水が川や海へ流される。


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