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第一章 クラヴェール王国編
第2話 「疑惑」
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「実は…… 私は国王陛下の事を信用できていないんだ」
「どういう事だ、タクト」
バルドスが私に尋ねる。
「魔王討伐は俺達の使命だ。殺さなければ意味がない!! お前のやっている事は人間として許せない」
イグノールが私を断じる。至極真っ当だ。その為の討伐だ。
「魔王は私達人間に仇なす邪悪なる存在。生かしておくことは危険だ」
クロ―ディアもイグノールに同調する。
「何か企みがあるのですか。私も納得できかねます」
メリエラも皆と同意見である。
私は少し間をおいて、皆が落ち着くのを待ってから、ゆっくり話し始めることにした。
「私はエレノーラ様に召喚され、この世界にやってきた。それからこの世界の事、なぜ私が召喚されたのか、エレノーラ様から話を聞いた。どういった社会構造とか、この世界の人々がどのような生活をしているのかなどから、私がこの世界でなすべきことまで、エレノーラ様から教えて頂いた」
「ふむ」
イグノールが頷く。
「私はその後、国王陛下に謁見した。陛下は温厚な方で、時折笑みを見せながら私に話してくださった。王国と他国との関係、魔界とこの国との関係など、陛下は私に説明してくださった」
私は一旦話を止め、一人一人とアイコンタクトした。
「だけど、どうしても納得できないことがあった。なぜ魔界へ侵攻し、魔王を討伐する必要があるのか。王国と魔界の関係はさほど悪い状態ではなかった。魔界から人間を襲い、激しく交戦しているならともかく、なぜ陛下はそれほど魔王討伐にこだわるのか、そこがどうしてもひっかかっていた」
「言われてみればそうだな」
クロ―ディアが拳を顎に当てて同意してくれた。
「もちろん、イグノールは勇者として生を受けたのだから、魔王討伐は使命とも言える。けど、陛下が魔王に固執されるのかがどうしても気になったんだ」
「何か裏があると?」
メリエラが珍しく発言してくる。
「その通りだ。ただ、それが何なのかは当時ここに来たばかりの私はわからなかった。そこで、その時は陛下の勅命を受け入れながら、エレノーラ様に陛下の意図を調査して頂いた」
「それで何かわかったのか」
イグノールが尋ねる。
「ああ。どうやら国王は度重なる課税のせいで民衆から人気が悪く、また、反国王派の勢力からも行政の内容で不満を募らせていたようだ。そこで…」
「実績を作るために魔王討伐を考え付いたと…」
バルドスが私の目を見て言った。
「ああ。自分で考えたのか、側近の入れ知恵かどうかはわからないが、その線で間違いないと思う」
「なるほどな」
「で、ここからは予想だが、おそらく私達は国から隔離、もしくは追放される」
「何!?」
皆が一様に驚く。まあ、無理もない反応だ。
「まあ、聞いてほしい。討伐に成功した私達はもう用済みのはず。そして、強大な力を持つ私達を恐れているだろう。私達が国を去ったという事で、国王は手柄を自分のものにし、民衆や反対派を抑える事と思う」
「ただの小心者という事か!!ふざけるな!!」
クロ―ディアが激高する。クロ―ディアらしい反応に安心する。
「その保険として、私は魔王を殺さず封じたんだ」
「確かに国王が悪いのはわかった。だがそれが魔王を殺さない理由にはならないぞ。魔族は人間に害をなす存在。国王から勅命を受けなくても、いずれ誰かがやらねばならない事だからな」
イグノールが反論する。真っ当な意見だ。
「確かにその通りだと思う。魔族が危害を加えてきた時は立ち向かわないといけない。それでも、人間のちっぽけなプライドの為に、私は魔王を殺すのはどうしてもできなかった。それに…」
「それに?何?」
「最初に魔王の間に入って見た魔王の目、私にはとても美しく見えた。私はもう一度、あの方と話がしてみたい」
「まさかお前、魔王に魅入られたのか?」
バルドスが好奇心ありげに言い寄ってくる。
「それは…そうかもしれない」
私は少し俯き加減で、皆に申し訳なさげに返す。
「難しい問題だな…」
「確かに。でも、重要なのは本当に国王がそのような事をしてくるでしょうか」
メリエラが擁護するように言ってくれた。
「もし、本当にしてきたらどうしたらいいんだ」
イグノールが尋《たず》ねる。
「まず、国王の前で事を荒立てるような行為をしないことだな。それこそ向こうの思うつぼだから」
「それはそうだな」
バルドスが頷いて言った。
「とりあえずはその場での国王の言葉をそのまま聞いて、あとはみんなで考えるということでどうだろうか」
イグノールが皆に尋ねる。
「私はそれでいいよ」
私はイグノールに賛同した。
「ちょっとむかつくが、仕方ないな」
クロ―ディアが少し顔をしかめて言った。
「俺もそれでいい」
「私も賛同します」
バルドスとメリエラも同調する。
「魔王を生かしたことは保留にしよう。まずは帰還して国のみんなに報告しよう」
イグノールがその場をまとめてくれた。
「ありがとう、みんな」
私はパーティーの皆に感謝した。このメンバーで一緒に戦えた事を、心から幸せに思えた。
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読んでいただきありがとうございます。
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「どういう事だ、タクト」
バルドスが私に尋ねる。
「魔王討伐は俺達の使命だ。殺さなければ意味がない!! お前のやっている事は人間として許せない」
イグノールが私を断じる。至極真っ当だ。その為の討伐だ。
「魔王は私達人間に仇なす邪悪なる存在。生かしておくことは危険だ」
クロ―ディアもイグノールに同調する。
「何か企みがあるのですか。私も納得できかねます」
メリエラも皆と同意見である。
私は少し間をおいて、皆が落ち着くのを待ってから、ゆっくり話し始めることにした。
「私はエレノーラ様に召喚され、この世界にやってきた。それからこの世界の事、なぜ私が召喚されたのか、エレノーラ様から話を聞いた。どういった社会構造とか、この世界の人々がどのような生活をしているのかなどから、私がこの世界でなすべきことまで、エレノーラ様から教えて頂いた」
「ふむ」
イグノールが頷く。
「私はその後、国王陛下に謁見した。陛下は温厚な方で、時折笑みを見せながら私に話してくださった。王国と他国との関係、魔界とこの国との関係など、陛下は私に説明してくださった」
私は一旦話を止め、一人一人とアイコンタクトした。
「だけど、どうしても納得できないことがあった。なぜ魔界へ侵攻し、魔王を討伐する必要があるのか。王国と魔界の関係はさほど悪い状態ではなかった。魔界から人間を襲い、激しく交戦しているならともかく、なぜ陛下はそれほど魔王討伐にこだわるのか、そこがどうしてもひっかかっていた」
「言われてみればそうだな」
クロ―ディアが拳を顎に当てて同意してくれた。
「もちろん、イグノールは勇者として生を受けたのだから、魔王討伐は使命とも言える。けど、陛下が魔王に固執されるのかがどうしても気になったんだ」
「何か裏があると?」
メリエラが珍しく発言してくる。
「その通りだ。ただ、それが何なのかは当時ここに来たばかりの私はわからなかった。そこで、その時は陛下の勅命を受け入れながら、エレノーラ様に陛下の意図を調査して頂いた」
「それで何かわかったのか」
イグノールが尋ねる。
「ああ。どうやら国王は度重なる課税のせいで民衆から人気が悪く、また、反国王派の勢力からも行政の内容で不満を募らせていたようだ。そこで…」
「実績を作るために魔王討伐を考え付いたと…」
バルドスが私の目を見て言った。
「ああ。自分で考えたのか、側近の入れ知恵かどうかはわからないが、その線で間違いないと思う」
「なるほどな」
「で、ここからは予想だが、おそらく私達は国から隔離、もしくは追放される」
「何!?」
皆が一様に驚く。まあ、無理もない反応だ。
「まあ、聞いてほしい。討伐に成功した私達はもう用済みのはず。そして、強大な力を持つ私達を恐れているだろう。私達が国を去ったという事で、国王は手柄を自分のものにし、民衆や反対派を抑える事と思う」
「ただの小心者という事か!!ふざけるな!!」
クロ―ディアが激高する。クロ―ディアらしい反応に安心する。
「その保険として、私は魔王を殺さず封じたんだ」
「確かに国王が悪いのはわかった。だがそれが魔王を殺さない理由にはならないぞ。魔族は人間に害をなす存在。国王から勅命を受けなくても、いずれ誰かがやらねばならない事だからな」
イグノールが反論する。真っ当な意見だ。
「確かにその通りだと思う。魔族が危害を加えてきた時は立ち向かわないといけない。それでも、人間のちっぽけなプライドの為に、私は魔王を殺すのはどうしてもできなかった。それに…」
「それに?何?」
「最初に魔王の間に入って見た魔王の目、私にはとても美しく見えた。私はもう一度、あの方と話がしてみたい」
「まさかお前、魔王に魅入られたのか?」
バルドスが好奇心ありげに言い寄ってくる。
「それは…そうかもしれない」
私は少し俯き加減で、皆に申し訳なさげに返す。
「難しい問題だな…」
「確かに。でも、重要なのは本当に国王がそのような事をしてくるでしょうか」
メリエラが擁護するように言ってくれた。
「もし、本当にしてきたらどうしたらいいんだ」
イグノールが尋《たず》ねる。
「まず、国王の前で事を荒立てるような行為をしないことだな。それこそ向こうの思うつぼだから」
「それはそうだな」
バルドスが頷いて言った。
「とりあえずはその場での国王の言葉をそのまま聞いて、あとはみんなで考えるということでどうだろうか」
イグノールが皆に尋ねる。
「私はそれでいいよ」
私はイグノールに賛同した。
「ちょっとむかつくが、仕方ないな」
クロ―ディアが少し顔をしかめて言った。
「俺もそれでいい」
「私も賛同します」
バルドスとメリエラも同調する。
「魔王を生かしたことは保留にしよう。まずは帰還して国のみんなに報告しよう」
イグノールがその場をまとめてくれた。
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