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04.
しおりを挟む「……成程な」
ドルトアは博基を気遣い、ドアの前で立ったままダナとソアラの説明を最後まで静かに聞いた。
聞いてその上で博基を見る。
「どう考えている?」
「え?」
短い問いに博基はまた間抜けな声を漏らして少し離れた位置にいるとても大柄で精悍な顔立ちの男を見た。
そしてドルトアは視線が合ったことを確認してから続ける。
「定着の為に俺と関係を持っても、恐らくこの状況は変わらない。誰かと番わない限りお前の後を付け回す輩は途絶えないだろう。……その位異世界人はこの世界で価値がある」
「あ……」
「おいドルトア!」
「真実だ。それを明かさないのはフェアじゃない」
思わず抗議の声を上げたダナをドルトアの冷静な声が遮った。
彼は一瞬ダナを見たがまた視線を博基に戻して告げる。
「異世界には『オンナ』? だったか、そんな生き物がいてソレを愛している人間が多数派だと聞いたことがある。それにまだ会ったばかりだがお前は相手を取っ替え引っ替えして享楽的に生きる強かさを持っているようにも見えない。……本当に、この世界に定着する事をお前は望むのか?」
「……――俺、は」
「「……」」
真摯なドルトアの言葉を聞いた博基は自分にもう一度問い掛ける。
ダナにもソアラにも伝えてはいないがふと気を抜くと博基の脳内には一秒ずつ減っていくカウントダウンタイマーが見える。
そしてそれはもう残り四十八時間を切っていた。
――ドルトアの言っている事は正しいと思う。
女神から説明を受けた通りまだ博基の魂はこちらに定着していない。
そして男と一度セックスする=この世界で安心して生きていく準備が整う、と言う訳でもない。
定着はするけれど存在するだけで他人の性癖の地雷原を踏み荒らす博基の存在は今後も混乱を生むだろう。
いつまでもダナとソアラに迷惑を掛けるわけにもいかないので早く出て行かなければならない事は分かっているが、こんな状態で仕事と住む場所を確保し心身共に健康に生きていくことは想像するだけでかなり高難易度であることは想像に難くない。
ふと脳裏に減っていくタイマーがまた過る。
――女神は……消滅する時の事をなんて言ってたっけ?
確か、せめてもの情けで苦痛を感じることは無いって言ってたよな?
それなら自分にもまだ選択肢が残されているんじゃないか?
その選択肢は二つ。
『男に抱かれて悦んで生きる人生』と『これまでの価値観を守り抜いて潔く散る人生』だ。
勝手に流されるままこちらに結果として降り立ち、よく分からないまま何も出来ない自分をダナやソアラと言った番持ちの獣人達が協力して保護してくれて今ここに居る。
混乱し追い詰められていた博基が気付けなかった視点をドルトアは隠すことなく教えてくれた。
そして何よりこちらの世界で言う所のシングルである獣人で博基に、博基自身の意志を尋ねてくれたのはドルトアがはじめてだったのだ。
「……」
言葉が出て来ないままただドルトアを見詰めるしか出来ない博基を彼は静かな瞳で眺めて、低い声で言う。
「定着したいなら力を貸す。仕事と家を必要とするならそれも俺が提供しよう。……お前はどうしたい?」
顔と雰囲気は確かにダナの言った通り整っているからこその迫力を併せ持つ仏頂面で、ぱっと見は岩のように大きな身体も伴って怖いと感じなくもない。
ただ彼の雰囲気や振る舞い、言動には強い理性と盤石とも言える冷静さがある。
ドルトアをじっくりと見詰めて、博基は自分でも驚くほどあっさりと決断した。
――お願いします。力を貸してください、ドルトアさん。
と。
博基の答えに最初に反応しとても喜んだのはダナとソアラだった。
「「よしっ!!」」と同時に叫んでがしっと腕を組む仲良し番は博基が失意のまま消えて行くことはどうしても耐え難かったのだ。
しかし当のドルトアは静かに「そうか」と言っただけで、ダナから古くなったマントを譲り受け博基をそれで包んであっさりと縦抱っこで軽々持ち上げる。
そして混乱し一瞬慌てた博基の背中をあやすように大きな手で優しく撫でて、ダナとソアラに何か言った後ドルトアはダナの家をさっくりと出た。
「この異世界人(ヒロキ)は俺が貰い受けた。……闘いは好まないが、必要があれば応じよう」
ダナの家から出て来た博基を待ち構えていた獣人達が一斉に取り囲んだが、ドルトアの静かなその一言に異を唱える者はただの一人もいなかった。
***
「さて、では始めるか」
「……え?!」
安定感しかない逞しい腕に抱き上げられて街はずれの森のドルトアの家兼工房に無事到着した瞬間あっさりと告げられた言葉に博基は思わず驚きの声を上げる。
だって、だってまだ日が高い!
「どうした?」
純粋に疑問しかないトーンの声に博基の方が焦る。
――え? この世界の人にとってセックスってそんな普通なの? あ、あの女神の作った世界だからまさかセックスって普通に朝でも昼でも夜でも、それこそ外でも普通にするの? え? まさかそんな事……――いや、あの女神ならやりかねない。
上手く言葉が出て来ない博基をドルトアは静かな瞳で見ている。
近くで見るその瞳は深い藍色をしていて、思わず見惚れてしまうほどに美しいが博基は今ドルトアの瞳に見入っている場合では無いので取り敢えず質問に答えた。
「いや、あの、この世界での……セックスって、ど、どんな感じなんですか?」
「どんな感じ、とは?」
至極真っ当な確認にそりゃそうなるよな、と思いつつ博基はきちんと言葉にする。
なんだかそれが目の前にいる彼への誠意だと思ったからだ。
「こ、恋人同士しかしない特別な行為なのか、とか……割と誰とでも軽くするスキンシップとかスポーツに近い処理の延長の行為なのかとか、そんな感じで言うとどれに近いですか?」
何故か家に入ったのに玄関でストップして抱き上げられたままの状態でこの会話は続いている。
博基は今それどころではないので全く気付かないのだか、そんな博基の顔を静かに見据えてドルトアは少し考えた後にまた実に簡素に言った。
「……人によるな」
――ざ、ざ、ざっくりー!!!!
目を見開いて固まる博基をドルトアは静かに見て、静かに返事を待っている。それが分かった博基は「分かりました」としか言えなかった。
そんな様子を静かに見て、もう一度確認されたが博基は同じように「分かりました」と頷いてドルトアの寝室のベッドの上まで直通で運ばれたのだ。
大きなベッドの上で初めて同性とキスをしたが、それはとんでもなく気持ち良かった。
長くて厚い舌に上顎をなぞられるだけで博基は身体を震わせて喜んでしまう。
そんな博基の様子をドルトアは冷静に受け止めて大丈夫だと判断したのだろう、服を脱がせ始めた。
――残り時間はあとどれ位ある?
きちんと解さなければこの小さな身体に俺を受け入れるのは辛いだろう。
低い声で囁かれキスの一つですっかりぽーっとした博基は脳裏に浮かんだ残り時間をただそのまま伝えた。
しかし上だけだが自らの服も男らしく脱いだドルトアのあまりにも整った上半身を見て博基は一瞬で我に返る。
――ちょっと待って!
この肉体美を誇る人に俺のすっかり緩んだ腹やその他諸々を見せるのは居た堪れない!!!
思わず身体を隠そうともがいたが、時すでに遅し。
ダナと比べると小柄なソアラから借りた服はそれでも博基には大きかったのでぶかぶかだけど取り敢えず裸よりはマシだろうと着ていたシャツも、無理矢理紐で縛ってかろうじて履いていたレベルのズボンも……シンプルな下着も全て剝ぎ取られた後だった。
「どうした?」
「いえ……あの、すみません。だ、だらしない身体で。あの、出来ればあまり見ないでいただきたく……」
そんな当たり前のことを言ったのにドルトアは不思議そうに視線を少し動かしただけだ。
「異世界人とはこういうモノなのだろう?『筋肉が少なく小柄で儚い』と聞いている」
※驚愕※
異世界には『中年太り(ぽっちゃりん)』の概念が無い?!
ルビのミスを心配してくれる優しい方の為に感謝を込めて敢えてもう一度言おう。
『中年太り(ぽっちゃりん)』の、概念が無いようだ!!!
……しかしいくらなんでも良く言い過ぎである。だが一般的な日本人の男性がどれだけ頑張っても獣人に比べればそうなのか? だって自分は明らかにだらしない身体なのだ。
それはとても大事な事なので誤解のない様に、と博基は続ける。
「これは贅肉と言います。脂肪の層です。俺がいた国ではあなたのように筋肉質かもしくはこの贅肉を持たない体形が一般的に好まれていました」
博基はそう真面目に告げたのに、ドルトアはやはり不思議そうにするだけだ。
「抱き上げていた時から思ったのだが、柔らかい何かを抱き締めるのは良いものだな。……少なくとも俺は好ましい」
――……何この男前、もしやデブ専なの?
そう一瞬考えて博基は思考を止めた。
確かに加齢に伴う腹部のお肉はちょっぴりと言うか普通に気になる。
それでも身長と体重を元に判断されるBMIではまだ普通体重の域に留まっているから、きっとデブ専までは行かないだろう。そう、信じているし、信じたい。
うんうんと自分の中で折り合いをつけた博基にドルトアが「良いだろうか?」と低い声でまた短く言った。
――あ、そうか。
俺が頼んで抱いてもらうんだからちゃんとしないと。
ふと冷静になった博基は深い藍色の瞳を見つめ返して「お願いします」と返した。
不思議と不安は無かった。
そから始まったドルトアの愛撫はとても優しく丁寧で、博基は女神の言っていた言葉を身をもって実感した。
そう。
気持ち良いのだ。
何をされても、どう触れられても気持ちが良い。
それは割と早い段階から博基の事をとても驚かせたのだが、女神が三大特徴として挙げた『進化型モロ感乳首』とか言う実にふざけた機能。
コレが実にまあ……すごかった。
ドルトアの太く長い節が目立つ男らしい指が繊細な動きで乳輪をなぞった時点で「やばい」とは思ったが、優しく指の腹でくにっと押されただけでも人生で初の女性のようでいても声はやっぱり自分の男の声で情けない喘ぎ声を披露してしまい博基は消え去りたくなってしまった。
しかしドルトアはとても静かに博基の反応を見ながら事を進めてくれる。
最初は純然たる早く解放されたいと言う願いから「さっさと入れてくれ!」と思っていた心が、純粋に未知の快楽を求めて雄を強請る「さっさと入れてくれ!」に変わるまで、それほど長い時間は掛からなかった。
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