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04.

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——どうやら自分はキスが好きだったらしい。譲は軽い酸欠でぼんやりする思考でそう思った。
でも今はそんな自己分析より自分から離れて行った唇が寂しくて堪らない。

「そんな可愛い顔をして……キスが途切れるのは嫌ですか?」
「い……ヤ、です」
「はい、分かりました。何度でもしましょうね」
「はぃ♡」

最初の重ね合わせるだけの唇を受け入れてからどれだけの時間が経っただろうか。
二人の間を隔てていたテーブルは部屋の隅に寄せられて譲は秋吉の腕の中に閉じ込められたままキスだけを繰り返している。
男性らしい薄い唇はもっと硬いと思っていたのに触れるととても柔らかくて心地よいし、彼の長い舌に口の中を優しくなぞられると譲はもうそれだけで堪らない。

ふと彼の唾液が口の中に溜まったのでそれを当たり前に飲み込んだだけなのに笑顔で褒められた。
ぽーっとしつつもキスを続けていると、今度は秋吉が自分の唾液を同じ様にして飲み込んでくれて、心の中がすごくぽかぽかする。——なんか嬉しい。そうか、だからさっき秋吉は褒めてくれたのか。
それが理解出来たのでにこにこ微笑んでいると秋吉はまた嬉しそうに微笑んで抱き締めてくれる。

「譲……可愛い、先に進んでも良いですか?」

優しい声で問われ譲は笑顔で頷いた。
祥とするセックスは正直言ってしんどいだけだったけど、秋吉とするならしんどくたって別にいい。
もしかしたらこんなにキスが上手な秋吉ならセックスも上手だろうから、少し位は気持ちいいと思えるかもしれない。
そう素直に思えたので譲は準備に取り掛かる事にした。

「はい。ちょっと、待っててくださいね……準備、してきます」
「準備?」

立ち上がろうとした譲を簡単に腕の中で包み直した秋吉の言葉に譲はまだふわふわした心地のまま答えた。

「あらって、ほぐして、直ぐに『使って』貰える様にローションもいれてきます」
「……」

譲の言葉に秋吉の表情が鬼のように変化したのだが幸いな事に譲からは見えなかった。
秋吉は譲を怯えさせない様に表面上穏やかな表情を保ちつつも譲が今までしてきたであろうセックスを時折キスを与え彼の理性を奪いつつ聞き出した。——聞き出して、殺意すら覚えた。

跡部祥はなんと風呂場で譲一人で洗浄、解す、中にローションを仕込ませるという作業全てを行わせ彼が戻ると自分はシャワーすら浴びる事無く譲の口を使って自分を勃たせ、時には彼の髪を鷲掴みにして喉の奥まで無理矢理突っ込むイラマチオを強要した挙句譲がえずくと気遣うどころか叱責した。
その上ゴムの装着までさせて(時にはそれすら無い時もあった)からベッドに上半身だけ預けさせクッションに顔を埋め絶対に声を出すなと厳命した上で自分は女性が喘ぐ動画を高らかに再生しつつバックから突くだけ……当然後始末に手を貸すわけもなく、譲側の満足度を考慮する事も無く自分だけさっさとシャワーを使ってベッドを占領して眠るか、とっとと帰るかと言うまさにゲスの極みと呼ぶにふさわしいクズだった。

「譲」
「はい?」

秋吉は譲をきちんと見詰めて、とろんとした顔の譲の頭を撫でながら続けた。

「それはセックスとは呼べないので、これから私とやり直しましょう」
「……やり直す?」
「はい。では、ゆっくりはじめましょうね」


そこから始まった秋吉との行為は正に祥しか知らない譲にとっては未知の物だった。
コレが本当のセックスと言うのなら、譲が今までして来た行為は単なる『肛門を使用した相手の男性器の出し入れ作業』に過ぎない……本気でそう思わせる天と地ほどの差が確かに存在した。


「あーッ、あ、あ、ああ、あ」
「ふふふ。こら、唇を噛まない。声を我慢しない」
「は、はいッ」

互いに服を脱いで抱き合って始まった秋吉との行為は優しく、そしてとんでもなく気持ちよかった。
たくさんのキスをして、今までは完全に存在を忘れていた乳首も指先と舌で愛撫された。
首や背中、腰や太ももの内側など至る所を秋吉は優しく撫でて未開発な譲の身体の性感帯候補を的確に探していく。

「無理! あ、秋吉さん、秋吉さん、口、もう、僕駄目です、ほんとにも、むぅッ」

フェラを強要される事があってもされた経験が無い譲は秋吉のいつもきりっと結ばれている口元に自分のペニスが収まっている様を見るだけでも視覚刺激がヤバい。
それに細身で背も高いとは言えない譲の体格に見合ったペニスは大柄な秋吉の口内に簡単に収まってしまって童貞の譲にとってはそれだけで自分が誰かに挿入している感覚すら抱かせる。
同性だからこそ知りえる男の弱い部分を余す所なく刺激されるとアッサリ射精しそうになるが口内で射精された時の不快感を知っている譲としては断固として辞退したい。だから必死にもう無理だと先ほどから言っているのに秋吉は笑ったまま刺激を強めた。

「ごめんなさい、ごめっああああっ!!!!」

びくびくと身体を震わせてベッドに倒れ込んだ譲の頭を優しく撫でて秋吉はごくりと当たり前の様に飲み下したものだから譲が感じた衝撃はとても強かった。そりゃもう、とんでもなく。

「飲んだんですか?!」

あんな不味い物を?! あ、あなたみたいな人が!?
驚いてはくはくと口を動かす譲を見て秋吉はまた笑って、譲にキスをしようとしたが一瞬考えて傍に持って来ておいた水を口に含み軽く口の中をゆすいでからキスをした。……優しい。

「飲みますよ? あなたの精液ならいくらでも」
「じゃじゃじゃ、ぼ、ぼ、僕もしします! さ、させてください!」

譲は全裸だが秋吉はまだイメージ通りの黒いボクサーパンツだけはまだ身に着けていた。
でもパンツの上からでも秋吉のが反応している事が分かったのでベッドの上に居た譲が手を上げて立候補するも笑顔で「また今度お願いしますね」とアッサリ言われ、またころりと細いシングルのパイプベッドの上に転がされてしまう。
ちなみに普段譲がシングルのパイプベッドに寝て、秋吉はその隣に布団を敷いて寝ているのだが、セックスを始める前にも秋吉は普段と同じ様に涼しい顔で布団を敷いた。
そして不思議そうにする譲に向かって「このベッドでは確実に壊れますから」と涼しい顔で言ったのだ。


それからどれ位の時間が経っただろう。
秋吉はベッドの上に座り足を広げた体勢の譲の腰をベッドの下で胡坐をかいたままその逞しい腕でガッチリホールドして、事もあろうに舌で直接譲の後ろを解し続けている。
羞恥と、感じた事の無い感覚。後ろで快感を感じた事はほぼ無いと言えるのに、何故か奥が恋しい。

「あきッ、あきよひひゃ……も、むり、むりです」

じゅぼっと信じられない様な音を立てて肛門から舌を抜いた秋吉に譲はほっと息を吐いたが、彼はとろんとした目を向ける譲の頭を満足そうに撫でて涼しい顔で言った。

「そうですか? じゃあそろそろ本格的に解しますね」

え?と思う間もなく侵入して来た長く太い骨張った指が的確に動いて譲を翻弄する。

「あー、あ、あッ?! し、しぬ……あきよしさ、しんじゃッ」
「可愛いですね、私の指がそんなに気に入ったんですか?」

じゅぼじゅぼと聞くに堪えない音を立てて指は動く。

「私、人よりかなり舌が長いんですけどそれもあってもう譲のナカもかなり分かりましたよ。今日はこの可愛いメスしこりでイけるように頑張りましょうね」

——その言い方だとまだ自分が一度も達していないようじゃないか。

譲はもう訳が分からなくなっている頭でもぼんやりそう思った。
でもそうじゃない。
秋吉は口で一度譲の精子を受け止め、指でアナルを解しながら覚えているだけで二回は射精させている。
若い割に淡白な譲としてはもう無理、と言うのが本音だし実際譲のペニスは弱々しくもう出す物は残っていませんと白旗を上げているのに、秋吉はやめようとしない。
だから譲はこの快楽責めから逃げるのと、何度も達している筈なのに何故か満たされない気持ちが残る身体の奥を鎮めて貰う為に……強請った。

「秋吉さん、秋吉さん!」
「……なんですか?」

太い指はとっくに三本も根本まで入っている。
その指はそのままに、自分を必死に呼ぶ譲に秋吉は視線を合わせた。

「秋吉さん、お願いします。も、入れて下さい。僕、ほんとに、無理です」
「んー……」

何かを考え込む様子の秋吉に譲はちょっと驚いた。
だって祥は別に頼んでも無いのに入れれば自分が気持ちいいからと言うだけで譲の事情も考慮せず時には強引にねじ込む事すらあったのに。
そんな譲と視線を合わせたまま秋吉はゆっくりと下着を脱いだ。

——でかっ!
——黒っ!?
——太い上に、反りがすごっ??!!!

視線はどうやったって現れた物に奪われてしまう。
こんな立派なペニスを持つ人に僕は今まで何をさせていたのだろう?
素直にそう感じて呆然とする譲の目の前で既にガン勃ちの自分のペニスを見せ付ける様に二回扱いた秋吉はぐっと身体を動かして譲のすっかり蕩け切った慎ましい穴に先端だけをまるでキスする様に触れさせた。——すごく、熱い。

「私ね、こんな仕事をしているくせに……好きな相手としか寝たくないんですよ」
「へ?」

早く貫いて欲しい。それしか考えられない譲のアナルと自らのペニスの先端をちょん、ちょん、とつけたり離したりしながら秋吉は続ける。
その最中物欲しげに押し付けられてくるアナルを直視して、愛しそうに笑いながら。

「そりゃ若い頃はそれなりに欲もありましたし、セックスも仕事みたいなものですから色々経験しましたけどある程度の歳になってからはまったくご無沙汰なんです」
「なに?なんのはなし?……はやく、はやく」
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