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けやき商編 番外編 真琴の恋
第2話 私は消極派!?
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「パソコンの入力大会で連続優勝のけやき商パソコン部で~す!!」
「昨年テレビで放映された、個人入賞した部員も居ま~す!!」
「仮入部期間に、ぜひ一度パソコン室へ来てくださ~い!!」
文化祭から半年余りが経過し、美琴の学年の入学式当日を迎えた。
私は無事に2年に進級。煉先輩を補佐する役割を担う副部長に就任し、鳳城先輩らマネージャー陣と共に、新入生の勧誘に当たっていた。
「…大分チラシがはけたわね。これなら、私の代と同じ位の部員は確保できそうね…」
そんなことを思っていると、私と煉先輩の姿を見つけた美琴が、チラシを配布しているマネージャー陣を素通りしやってきた。
「お姉!それに煉先輩!じゃなかった…。今は部長さんなんだっけ。」
「だ・か・ら!お姉じゃないでしょっ。お姉じゃ!!」
「美琴ちゃん!真琴から入学が決まったとは聞いていたけど…。元気そうで何より!!」
「はいっ!文化祭の時に約束した通り、受験勉強頑張りましたから!!」
「そんなこと言って!自己採点じゃ、合格ぎりぎりだったくせに…」
「合格したんだからいいの!そりゃ、すこし冷や冷やはしたけどさ」
「ははは。で、受験勉強を終わってからは、まさか…」
「そうです!お姉に負けないように、しっかり練習してました!」
「まったくズルいわよね。私はテストや検定で大忙しの時、美琴ったら、下手すると一日パソコンに向かって練習していたんだから…」
「ほほう、それはすごいな。俺もうかうかしてたら、真琴より先に美琴ちゃんに抜かれる日が来そうだ」
「部長!私は美琴にはぜーーーーったい負けませんから。部長を最初に負かすのは、私なんですよっ!」
「(そう、煉先輩を最初に負かすのは、他でもない私じゃなきゃいけないの。絶対に…そして、煉先輩に勝てたその時に、私は…)」
「そうだな。俺も2人に負けないように頑張るよ!」
ビラ配りも忘れて3人で話をしていると、校内放送が入った。
「新入生とその保護者の方にご連絡致します。間もなく、体育館にて入学式を挙行致します。体育館にいらっしゃらない方は、会場までお急ぎ頂きますよう、お願い致します。繰り返します…」
「美琴!そろそろ入学式が始まるわよ。早く行きなさい!」
「は~い!!部長さんっ!また後でお話しましょう!」
「ああ。気をつけてな!それと、新入生代表の言葉、期待してるからな!」
「ふぇ~。そのことは言わないで下さいよ~。お話して緊張がほぐれたと思ったのに…」
「美琴。ヘマしないようにね」
「は~い!」
私と煉先輩に見送られ、近くで他の保護者と話していた母と一緒に、美琴は体育館へと消えていった。
校内放送が入り、体育館への道から新入生の姿が無くなると、部活への勧誘のために集まった在校生達は、そそくさと片付けを始めた。
勧誘のために集まった在校生は、入学式への参列が義務付けられているからだ。
また、入学式後に行われる昨年度活躍した部活のパフォーマンスタイムに出場する部員も、大急ぎで体育館へと向かい始めていた。
「真琴。体育館へ行って、パソコンのセッティングを急いでくれ」
「はい!分かりました」
私たちパソコン部も、パフォーマンスタイムに出場することとなっていた。
煉先輩の指示を受けた私は、予定していたパソコン部員達に声を掛けた。
「それじゃあみんな、後片付けはマネージャーさんにお任せして、パソコン室に向かうわよ!」
「分かりました!!」
声を掛けた部員数名と一緒に、私はパフォーマンスタイムの準備の為、体育館の第2ステージへと向かった…
入学式は滞りなく終了。美琴も見事な口上を披露し、会場を沸かした。
その後行われたパフォーマンスタイムも予定通り終了。音楽に併せたミュージック入力とニュースアナウンサーのアナウンスを聞きながら行ったリアルタイム入力を大成功させた私たちパソコン部は、パフォーマンス終了後に参列者から絶大な拍手が送られたのだった。
そして、入学式翌日から始まった仮入部期間の放課後、パソコン部の部室にトップバッターで現れた新入生は、入部届けを持った美琴だった。
「煉先輩。はいっ、入部届け!」
「美琴ちゃん!まだ「仮入部期間」だよ?他の部活は見なくてもいいのかい?」
「部長。それは愚問ですよ。この日この瞬間のために、美琴はけやき商に入ったようなもんなんですから…」
「お姉!そんなんじゃないってば…。私はお姉を越えたくて入部するんですっ」
「(そんな事言って…だったら、部屋の写真たてに飾ってある文化祭の時の煉先輩との2ショットは何なのよ…)」
美琴は、文化祭から帰るといつの間にかスマホで撮影した自分と煉先輩との写真を自宅のプリンターで現像し、写真たてに飾っていた。
美琴は文化祭の時には『違う』と言い張ってはいたが、煉先輩に好意を寄せているのは明白だった。
そんな美琴の状況を知りながら、私は今日の今日まで煉先輩に対して何かアクションを起こすことができずにいた。
それは、煉先輩が『鳳城先輩に好意を寄せている状況』が続いているからというのもさることながら、自分自身に意気地がないこと、そして、それを自分自身で覆い隠すかのような自分ルール『煉先輩にパソコンの記録で勝利できたら思いを告げる』を勝手に作り、それを達成できていないからに他ならなかった。
今まで家族として美琴と生活していて分かっていることは、私よりも美琴が『行動派』であることだ。
もたもたしていると、私よりも先に煉先輩に思いを告げてしまうかも知れない。
美琴がパソコン部に入部した今、行動を急がねばならないと、私は痛感していた。
そんなことを思いながら横に居た煉先輩の顔をふと見ると、美琴とのやり取りを見て、まるで妹たちの喧嘩を微笑ましげに見つめる兄のような顔で笑いかけていた。
「(煉先輩…やっぱり素敵です!)」
「あーっ。煉先輩、今笑った!」
「いやいや、笑ってないよ、美琴ちゃん…」
「美琴、でいいですよ。お姉は『真琴』って言われているみたいですし、不公平です!」
「(…やっぱり、美琴は先輩のことを…姉の私にまで嫉妬するなんて…それとも、私の気持ちを美琴も気づいている!?そんな筈は…)」
「…何で不公平なの?」
「!!いえ、別に。とにかく、私のことも呼び捨てでいいですから。」
「分かったよ」
「(いずれにしても、美琴に負けてられない!鳳城先輩とのことも気になるけど、私は私のできることを早く見つけないと!)」
その後、入学式でのパフォーマンス効果か、パソコン部への新入生の入部希望者は50名を越えた。
ただ、パソコン部の部室には端末が50台しかなく、部員は既に30名いる。
顧問の若林先生と部長である煉先輩の判断で、昨年の文化祭の大会で入賞を果たした美琴を除く希望者全員を、顧問の若林先生、煉先輩、私の3人で面接し、新入生の入部希望者は25名までに絞られた。
面接と仮入部期間が終わり、本格的な部活動が始まると、部室の端末は全台部員で埋まった。
そして私は副部長として、先輩・後輩と一緒に練習する日々が始まったのだった。
第3話 に続く
「昨年テレビで放映された、個人入賞した部員も居ま~す!!」
「仮入部期間に、ぜひ一度パソコン室へ来てくださ~い!!」
文化祭から半年余りが経過し、美琴の学年の入学式当日を迎えた。
私は無事に2年に進級。煉先輩を補佐する役割を担う副部長に就任し、鳳城先輩らマネージャー陣と共に、新入生の勧誘に当たっていた。
「…大分チラシがはけたわね。これなら、私の代と同じ位の部員は確保できそうね…」
そんなことを思っていると、私と煉先輩の姿を見つけた美琴が、チラシを配布しているマネージャー陣を素通りしやってきた。
「お姉!それに煉先輩!じゃなかった…。今は部長さんなんだっけ。」
「だ・か・ら!お姉じゃないでしょっ。お姉じゃ!!」
「美琴ちゃん!真琴から入学が決まったとは聞いていたけど…。元気そうで何より!!」
「はいっ!文化祭の時に約束した通り、受験勉強頑張りましたから!!」
「そんなこと言って!自己採点じゃ、合格ぎりぎりだったくせに…」
「合格したんだからいいの!そりゃ、すこし冷や冷やはしたけどさ」
「ははは。で、受験勉強を終わってからは、まさか…」
「そうです!お姉に負けないように、しっかり練習してました!」
「まったくズルいわよね。私はテストや検定で大忙しの時、美琴ったら、下手すると一日パソコンに向かって練習していたんだから…」
「ほほう、それはすごいな。俺もうかうかしてたら、真琴より先に美琴ちゃんに抜かれる日が来そうだ」
「部長!私は美琴にはぜーーーーったい負けませんから。部長を最初に負かすのは、私なんですよっ!」
「(そう、煉先輩を最初に負かすのは、他でもない私じゃなきゃいけないの。絶対に…そして、煉先輩に勝てたその時に、私は…)」
「そうだな。俺も2人に負けないように頑張るよ!」
ビラ配りも忘れて3人で話をしていると、校内放送が入った。
「新入生とその保護者の方にご連絡致します。間もなく、体育館にて入学式を挙行致します。体育館にいらっしゃらない方は、会場までお急ぎ頂きますよう、お願い致します。繰り返します…」
「美琴!そろそろ入学式が始まるわよ。早く行きなさい!」
「は~い!!部長さんっ!また後でお話しましょう!」
「ああ。気をつけてな!それと、新入生代表の言葉、期待してるからな!」
「ふぇ~。そのことは言わないで下さいよ~。お話して緊張がほぐれたと思ったのに…」
「美琴。ヘマしないようにね」
「は~い!」
私と煉先輩に見送られ、近くで他の保護者と話していた母と一緒に、美琴は体育館へと消えていった。
校内放送が入り、体育館への道から新入生の姿が無くなると、部活への勧誘のために集まった在校生達は、そそくさと片付けを始めた。
勧誘のために集まった在校生は、入学式への参列が義務付けられているからだ。
また、入学式後に行われる昨年度活躍した部活のパフォーマンスタイムに出場する部員も、大急ぎで体育館へと向かい始めていた。
「真琴。体育館へ行って、パソコンのセッティングを急いでくれ」
「はい!分かりました」
私たちパソコン部も、パフォーマンスタイムに出場することとなっていた。
煉先輩の指示を受けた私は、予定していたパソコン部員達に声を掛けた。
「それじゃあみんな、後片付けはマネージャーさんにお任せして、パソコン室に向かうわよ!」
「分かりました!!」
声を掛けた部員数名と一緒に、私はパフォーマンスタイムの準備の為、体育館の第2ステージへと向かった…
入学式は滞りなく終了。美琴も見事な口上を披露し、会場を沸かした。
その後行われたパフォーマンスタイムも予定通り終了。音楽に併せたミュージック入力とニュースアナウンサーのアナウンスを聞きながら行ったリアルタイム入力を大成功させた私たちパソコン部は、パフォーマンス終了後に参列者から絶大な拍手が送られたのだった。
そして、入学式翌日から始まった仮入部期間の放課後、パソコン部の部室にトップバッターで現れた新入生は、入部届けを持った美琴だった。
「煉先輩。はいっ、入部届け!」
「美琴ちゃん!まだ「仮入部期間」だよ?他の部活は見なくてもいいのかい?」
「部長。それは愚問ですよ。この日この瞬間のために、美琴はけやき商に入ったようなもんなんですから…」
「お姉!そんなんじゃないってば…。私はお姉を越えたくて入部するんですっ」
「(そんな事言って…だったら、部屋の写真たてに飾ってある文化祭の時の煉先輩との2ショットは何なのよ…)」
美琴は、文化祭から帰るといつの間にかスマホで撮影した自分と煉先輩との写真を自宅のプリンターで現像し、写真たてに飾っていた。
美琴は文化祭の時には『違う』と言い張ってはいたが、煉先輩に好意を寄せているのは明白だった。
そんな美琴の状況を知りながら、私は今日の今日まで煉先輩に対して何かアクションを起こすことができずにいた。
それは、煉先輩が『鳳城先輩に好意を寄せている状況』が続いているからというのもさることながら、自分自身に意気地がないこと、そして、それを自分自身で覆い隠すかのような自分ルール『煉先輩にパソコンの記録で勝利できたら思いを告げる』を勝手に作り、それを達成できていないからに他ならなかった。
今まで家族として美琴と生活していて分かっていることは、私よりも美琴が『行動派』であることだ。
もたもたしていると、私よりも先に煉先輩に思いを告げてしまうかも知れない。
美琴がパソコン部に入部した今、行動を急がねばならないと、私は痛感していた。
そんなことを思いながら横に居た煉先輩の顔をふと見ると、美琴とのやり取りを見て、まるで妹たちの喧嘩を微笑ましげに見つめる兄のような顔で笑いかけていた。
「(煉先輩…やっぱり素敵です!)」
「あーっ。煉先輩、今笑った!」
「いやいや、笑ってないよ、美琴ちゃん…」
「美琴、でいいですよ。お姉は『真琴』って言われているみたいですし、不公平です!」
「(…やっぱり、美琴は先輩のことを…姉の私にまで嫉妬するなんて…それとも、私の気持ちを美琴も気づいている!?そんな筈は…)」
「…何で不公平なの?」
「!!いえ、別に。とにかく、私のことも呼び捨てでいいですから。」
「分かったよ」
「(いずれにしても、美琴に負けてられない!鳳城先輩とのことも気になるけど、私は私のできることを早く見つけないと!)」
その後、入学式でのパフォーマンス効果か、パソコン部への新入生の入部希望者は50名を越えた。
ただ、パソコン部の部室には端末が50台しかなく、部員は既に30名いる。
顧問の若林先生と部長である煉先輩の判断で、昨年の文化祭の大会で入賞を果たした美琴を除く希望者全員を、顧問の若林先生、煉先輩、私の3人で面接し、新入生の入部希望者は25名までに絞られた。
面接と仮入部期間が終わり、本格的な部活動が始まると、部室の端末は全台部員で埋まった。
そして私は副部長として、先輩・後輩と一緒に練習する日々が始まったのだった。
第3話 に続く
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