9 / 103
Episode2 旅立ち
第4話 アコードの想い。そして旅立ち
しおりを挟む
二人が村の広場に戻ると、俺たちの前には再び村人によって人垣ができた。
俺たちが人垣を体よくあしらい、何とか自分の席に座ったのもつかの間、村人によって再度人垣ができあがってしまった。
その人垣の中に、アコードの親友シューの姿があった。
「アルモと一緒だったようだが、うまいこといったのか?」
「シュー!そんなんじゃないって…」
勘違いしている…俺はそう思ったが、うまい弁解が思いつかず、シューの質問に対して返答ができずにいた。
「また振られたのか?」
「またって、俺はまだ一度も振られていないぞ!」
シューの言葉に、思わず声を荒げる。
「そうか…ていうことは、アコード、お前アルモに気があるってことだよな」
「シュー!」
悪戯な質問を投げかけ、不器用にウィンクをしながら、シューは人垣の中へ消えていった。
そんなシューを横目に、俺はふとアルモを見た。
月明かりに輝く金色の髪、俺好みの、いや、男性であれば「美しい」と感じるにはいられないであろう整った顔立ち、そして、コボルトとの戦闘でアコードが垣間見た、慈悲深く、それでいて何者にも負けまいとする気迫…アルモの全てが、俺にはまるでフォーレスタの森に君臨した戦女神(ヴァルキリー)であるかのように感じられた。
豊穣と戦勝を祝う祭事も酣を迎え、村人たちの盛り上がりが最高潮になった夜半過ぎ。俺がアルモの席の方を見ると、先ほどと同様、まるで神隠しにでも遭ったかのように、アルモは姿を消していた。
再びアルモを探しに行こうと立ち上がろうとしたその時、母である村長が俺の前に腰を降ろした。手の平についた土を両手で軽く叩き、正面にいる母に向かい直す。
「アコード。アルモが旅に戻っていった。私はせめて明日の朝にと引き止めたのだが、聞き入れてくれなかったよ。どうしても、行かなきゃならないそうだ」
俺は、狼狽せずにはいられなかった。先ほどまで、良い雰囲気で話せていたのに、なぜこんな重要なことを直接伝えてくれなかったのだろうか。そんなことを思う前に、俺の体は動いていた。アルモが向かったであろう方向へ全力疾走する。
いつも陽気で何でも話してくれる母が、なにも言わなかったことも気になった。シューの言うように、俺は本当にアルモのことを好いているのだろうか。その気持ちに気づいていないのは、他でもない自分だけなのか…さまざまな疑問が浮いては消え、浮いては消えを繰り返す。
回想世界では堂々巡りを繰り返し、現実世界ではアルモの後ろ姿を見つけることができず、どうしようもない無力感が俺を襲ってきた。だが、同時にアルモと初めて出会った時のことを思い出していた。
「(最初に出会ったのは村の倉庫が置かれた南の森の外れだった。村に立ち寄ったような話もしていなかったし、北の街道を進んだのだろうか)」
ふと気づくと、俺は分かれ道に差し掛かっていた。片方は南の森へと抜ける道。もう片方は、北の街道への近道だった。
「(だが、もし俺との出会いを少しでも良く思ってくれているなら…)」
俺は、どちらの道へ進むか迷い、その場に立ち止まった。こうしている間にも、アルモとの距離が少しずつ、だが確実に離れているというのに…。
そう思っていた矢先、今一番聞きたい人物の声が耳に入ってきた。
「アコード!どうしてここが…」
驚いて振り向いた先には、月明りに照らされたアルモが驚愕した面持ちで佇んでいた。
アルモの姿が目に入った俺は、考えるよりも先に言葉が口から出ていた。
「まだ、伝えてないことが、たくさんあったんだ!」
「そ…それは、私もよ…」
「まだ、きちんとお礼できてないし…とにかく、ありがとう。そのさ…」
「…なに?」
「いや…俺たちを、フォーレスタを救ってくれたこと、そして、俺の気持ちを変えさせてくれたことをさ…」
「…君の気持ち?」
「俺は将来、母さんの跡を受け継いで村長になる。父さんが死んでから、ずっとそう思って生きてきた。村長になることが、俺の運命なんだ、って」
「…」
「でも、君と出会い、初めての実戦を君と戦って、気づいたんだ。このまま、俺は村長になっていいのか、と。今の俺じゃ、村長になるには役不足なんじゃないか、って」
「…」
「それに、俺の力が君の旅の役に立つなら、力になりたいんだ。君の旅の目的はまだ聞いてないけど、君の持つ剣が尋常でないものくらい、一緒に戦った俺には分かるよ。君にとって迷惑じゃないなら、俺を旅の仲間に加えてくれないか…」
俺の言葉に、アルモの緊張した顔がふっと抜けた。
「本当に?私と?」
「ああ、君さえ良ければ…」
「だけど、村はどうするの!?あなたがいなくなったら…」
「大丈夫さ。母さんだって、まだ若い。俺が数年いなくなったって、全然平気だよ。それに、君がこの村に来て見せてくれた姿に、俺は憧れたんだ。外の広い世界を、この目で見てみたい」
「そう…なら…私は断る理由なんてないわ!」
手を差しのばすアルモ。俺は差し出された手を無言で握り締め、それに返した。
すると、アルモは光の剣を鞘から抜き、頭上へ掲げた。剣が月明りに照らされ、神秘的な光を放つ。
「行こう!月光の導きのままに!」
そう言い放ったアルモの顔はとても眩しく、空に浮かぶ月より綺麗だった。
数日後、フォーレスタを南北に突き抜ける街道の北側を歩く、二つの影があった。
一方の影が携えた剣の鞘からは微かな光が放たれ、旅行く二人を守るかのように、淡く包み込んでいるのだった。
Episode3 に続く
俺たちが人垣を体よくあしらい、何とか自分の席に座ったのもつかの間、村人によって再度人垣ができあがってしまった。
その人垣の中に、アコードの親友シューの姿があった。
「アルモと一緒だったようだが、うまいこといったのか?」
「シュー!そんなんじゃないって…」
勘違いしている…俺はそう思ったが、うまい弁解が思いつかず、シューの質問に対して返答ができずにいた。
「また振られたのか?」
「またって、俺はまだ一度も振られていないぞ!」
シューの言葉に、思わず声を荒げる。
「そうか…ていうことは、アコード、お前アルモに気があるってことだよな」
「シュー!」
悪戯な質問を投げかけ、不器用にウィンクをしながら、シューは人垣の中へ消えていった。
そんなシューを横目に、俺はふとアルモを見た。
月明かりに輝く金色の髪、俺好みの、いや、男性であれば「美しい」と感じるにはいられないであろう整った顔立ち、そして、コボルトとの戦闘でアコードが垣間見た、慈悲深く、それでいて何者にも負けまいとする気迫…アルモの全てが、俺にはまるでフォーレスタの森に君臨した戦女神(ヴァルキリー)であるかのように感じられた。
豊穣と戦勝を祝う祭事も酣を迎え、村人たちの盛り上がりが最高潮になった夜半過ぎ。俺がアルモの席の方を見ると、先ほどと同様、まるで神隠しにでも遭ったかのように、アルモは姿を消していた。
再びアルモを探しに行こうと立ち上がろうとしたその時、母である村長が俺の前に腰を降ろした。手の平についた土を両手で軽く叩き、正面にいる母に向かい直す。
「アコード。アルモが旅に戻っていった。私はせめて明日の朝にと引き止めたのだが、聞き入れてくれなかったよ。どうしても、行かなきゃならないそうだ」
俺は、狼狽せずにはいられなかった。先ほどまで、良い雰囲気で話せていたのに、なぜこんな重要なことを直接伝えてくれなかったのだろうか。そんなことを思う前に、俺の体は動いていた。アルモが向かったであろう方向へ全力疾走する。
いつも陽気で何でも話してくれる母が、なにも言わなかったことも気になった。シューの言うように、俺は本当にアルモのことを好いているのだろうか。その気持ちに気づいていないのは、他でもない自分だけなのか…さまざまな疑問が浮いては消え、浮いては消えを繰り返す。
回想世界では堂々巡りを繰り返し、現実世界ではアルモの後ろ姿を見つけることができず、どうしようもない無力感が俺を襲ってきた。だが、同時にアルモと初めて出会った時のことを思い出していた。
「(最初に出会ったのは村の倉庫が置かれた南の森の外れだった。村に立ち寄ったような話もしていなかったし、北の街道を進んだのだろうか)」
ふと気づくと、俺は分かれ道に差し掛かっていた。片方は南の森へと抜ける道。もう片方は、北の街道への近道だった。
「(だが、もし俺との出会いを少しでも良く思ってくれているなら…)」
俺は、どちらの道へ進むか迷い、その場に立ち止まった。こうしている間にも、アルモとの距離が少しずつ、だが確実に離れているというのに…。
そう思っていた矢先、今一番聞きたい人物の声が耳に入ってきた。
「アコード!どうしてここが…」
驚いて振り向いた先には、月明りに照らされたアルモが驚愕した面持ちで佇んでいた。
アルモの姿が目に入った俺は、考えるよりも先に言葉が口から出ていた。
「まだ、伝えてないことが、たくさんあったんだ!」
「そ…それは、私もよ…」
「まだ、きちんとお礼できてないし…とにかく、ありがとう。そのさ…」
「…なに?」
「いや…俺たちを、フォーレスタを救ってくれたこと、そして、俺の気持ちを変えさせてくれたことをさ…」
「…君の気持ち?」
「俺は将来、母さんの跡を受け継いで村長になる。父さんが死んでから、ずっとそう思って生きてきた。村長になることが、俺の運命なんだ、って」
「…」
「でも、君と出会い、初めての実戦を君と戦って、気づいたんだ。このまま、俺は村長になっていいのか、と。今の俺じゃ、村長になるには役不足なんじゃないか、って」
「…」
「それに、俺の力が君の旅の役に立つなら、力になりたいんだ。君の旅の目的はまだ聞いてないけど、君の持つ剣が尋常でないものくらい、一緒に戦った俺には分かるよ。君にとって迷惑じゃないなら、俺を旅の仲間に加えてくれないか…」
俺の言葉に、アルモの緊張した顔がふっと抜けた。
「本当に?私と?」
「ああ、君さえ良ければ…」
「だけど、村はどうするの!?あなたがいなくなったら…」
「大丈夫さ。母さんだって、まだ若い。俺が数年いなくなったって、全然平気だよ。それに、君がこの村に来て見せてくれた姿に、俺は憧れたんだ。外の広い世界を、この目で見てみたい」
「そう…なら…私は断る理由なんてないわ!」
手を差しのばすアルモ。俺は差し出された手を無言で握り締め、それに返した。
すると、アルモは光の剣を鞘から抜き、頭上へ掲げた。剣が月明りに照らされ、神秘的な光を放つ。
「行こう!月光の導きのままに!」
そう言い放ったアルモの顔はとても眩しく、空に浮かぶ月より綺麗だった。
数日後、フォーレスタを南北に突き抜ける街道の北側を歩く、二つの影があった。
一方の影が携えた剣の鞘からは微かな光が放たれ、旅行く二人を守るかのように、淡く包み込んでいるのだった。
Episode3 に続く
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる