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Episode8 聖遺物を求めて

第36話 気高き領事

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“ガシャンガシャンガシャン…”

 一人の女性が両手で鉄格子の扉を揺らし、辺りに金属音が木霊している。

「クッ………早くここから出せ!!私を、ザパート連合公国の盟主、アンティムと知っての狼藉か!?」

 鉄格子の扉の先には、赤髪のロングヘアをなびかせた、ターパの領事で公国の盟主アンティムが囚われていた。

“カツカツカツカツ………”

「おい!あの女はランデス様の大事な捕虜だ。丁重に扱えよ」

「そんなこと、お前に言われなくてもわかっている。ちょっと、顔を拝みに行くだけだ」

 アンティムの言葉に呼応した見張り兵の一人が、鉄格子の扉の前に向かう。

「………やっぱり、こいつは上物だなぁ!奴隷商人に引き渡せば、金貨どれ位になるだろうなぁ…ヘッヘッヘッ!」

 アンティムの顔を見た見張り兵が、侮蔑の言葉を吐きかける。

「私を奴隷商人に引き渡すつもりか!?上等だ!やってみるがいい。私は舌を噛み切り、お前たちの思う通りにはならないだろう!」

 そう言い放ったアンティムの細い顎に、見張り兵の右手が伸びていく。

 そして、見張り兵は彼女の顔を鉄格子ぎりぎりまで引き寄せた。

「元領事様!貴女が今置かれた状況を、どうやらお分かりになっていないようですな!!あなたを生かすも殺すも、この牢獄の中では、我ら次第であるということを!!」

 見張り兵の手が、アンティムの顎からその下に少しずつずれていく。

“ペッ!”

“ペチャッ”

 次の瞬間、アンティムはその口から見張り兵の顔に唾を吐きかけた。

「ぎゃぁぁぁ……目が………」

「私の体に触れていいのは、あの人だけだ!!お前のような下賤の輩が、気安く触れることのできるものではない!!」

「この尼ぁぁぁ!!」

“ブゥン”

“バシッ”

“ドォン…”

“タッタッタッタッ…”

「おい!!何やってるんだ!?」

 顔に唾を吐きかけられた見張り兵は、右腕の肘を曲げ、下から突き上げるようにパンチを放ち、それをもろに食らった線の細いアンティムの身体は、牢獄の壁の奥へと飛ばされ、壁へと激突した。

「顔を拭くものをくれ!こいつが俺に唾を吐きかけて来たんだ!!」

「捕虜は大切に扱えとランデス様に言われたと、さっき言ったじゃないか!!」

「仮にこの中で死んだとしても、捕虜なんか問題ないだろう!?」

「お前はいつもそうだ………この間捕まえてきた隣の国の女兵にも、そうだったよな…」

「あれはお前………あいつが俺の言うことを聞かないから……」

「…で、ランデス様の捕虜は大丈夫なんだろうな!?」

 二人の見張り兵が牢獄の中を見ると、壁に寄りかかり、兵の一撃で飛ばされた際に背中を打ち付けたせいか、意識が朦朧とし、ぼーっと遠くを見るアンティムの姿があった。

「………陛下………私のことは………もうお忘れになって……………危険な真似だけは………どうか………」

“ガクッ”

「お前!!どうしてくれる!?この捕虜は、いつもと違ってランデス様の特別なんだぞ!!??」

「医者だ!!医者を呼んでくるぞ!!」

“タッタッタッタッ………”

 二人の見張り兵が立ち去った独房の中で、顎の周辺が赤く腫れあがったアンティムは、意識を失ったのだった。



***



 都市バルデワの外れにあるリーサの隠れ家に戻ってきた4人は、留守番をしていた俺たちにランデスの館での出来事と、アンティムが囚われているという砦の情報について報告をしていた。

「…つまり、アンティムさんは、ターパ近くの今は使われなくなった廃砦に囚われているというのね…」

「ええ、私が解除した隠し扉の先にあった、ランデスとその部下の間で取り交わされた報告書によれば、そういうことになるわ」

「俺は館の内部に侵入はしなかったが、3人を待っている間の周囲の偵察で、以前よりも兵の数が少なくっていることが分かったぜ」

「館の内部も、配置された兵は以前よりも少なかったですわね」

「スレスタ王の陽動作戦が成功している証だ。陛下の策が無駄にならないよう、俺たちも早くアンティムさんを救出しなければ!」

「私たち3人が館に潜入し、捕えたターパの領事の居所が外部に漏れたことが、公国軍内に間もなく知れ渡ることだろう。そうなる前に、その廃砦に向かい、アンティムさんを救出しなければ!」

「レイスの言う通りね。私のテレポーテーションが使えないのが残念だけど、車を使って、その廃砦へと急ぎましょう!」

「公国軍に捕虜とされた人に人権はないと聞いておりますわ。命が無事でも、兵にどんなことをされているか………容易に想像ができますわね…」

「この作戦を成功させなければ、セレスタ軍に合流できない。公国軍との戦力差とセレスタ軍内にいるワイギヤ教軍のことを考えれば、早く合流しなければセレスタ軍は全滅だ!」

「アンティムさんが無事であることを祈りつつ、急いでターパに向かいましょう」

 こうして俺たち6人は充電が完了し燃料が満タン状態の車に乗り込むと、全速力でターパ近くにあるというアンティムが囚われている廃砦へと歩を進めたのだった。
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