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Episode8 聖遺物を求めて
第30話 過去との決別
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バルデワの領事ランデスが、ザパート連合公国内でクーデターを成すために幽閉している、盟主で都市ターパの領事アンティムが将来のセレスタ王妃であると聞いた俺たちは、困惑の色を隠せずにいた。
「陛下…話が突拍子過ぎて、私にはどうにも理解できかねます」
「…まぁ、無理もなかろう………アンティムとは、私がまだ王太子であった頃、北方にある町付近で出会い、命を救われたのだ…」
セレスタ国王は、王太子時代に北方の国境を視察中に公国軍に捕えられた折、アンティムの手引きで牢から逃がされ、難を逃れたのだという。
「それから私は、視察と称して先王の目を盗み、アンティムとの時を過ごした。父である先王から学んだこの世の常識が、実はセレスタ国内でしか通用せず、先王が大きな過ちを犯していることにも気づくことができた。そしていつの頃からか、余とアンティムは互いを愛するようになったのだ」
「そして、陛下が即位され、アンティムさんが公国の盟主となり、大陸の統一が目前となった」
「うむ。だがしかし、ランデスがクーデターを起こし、アンティムを幽閉。そんな折、教団から一人の将軍が我が国に遣わされ、月明りの鎧を差し出すよう言ってきたのだ。恐らく、ランデスのクーデターも、裏で糸を引いているのは教団であろう」
「でも、王様は鎧を差し出さなかった…」
「ランデスのクーデターと、教団からの聖遺物(アーティファクト)の引き渡し要求の時期が、あまりにも重なりすぎていた。そして、新生セレスタ王国に教団の力は必要ないと判断したのだ」
「ザパート連合公国は、三日月同盟の支援を受けている国々の一つであるから、余計に教団とは距離を置きたくなった、という訳でございますね?」
「その通りだ。我が軍に、その将軍が率いる教軍も混ざっておるが、事を成した暁には、奇襲を仕掛けて一網打尽にしようと思うておる」
「そこまで考えた上での、陛下の策という訳ですね」
「うむ。そこで、だ。余は君たちに頼みたい。アンティムを救うため、ひいては、呪われたこの大陸の運命に抗うため、余に協力してはもらえないだろうか?交換条件という訳ではないが、アルモ殿が英雄クレスの子孫であれば、余が封印した月明りの鎧が必要なのではないか?」
「世界をあるべき姿に戻すのが、私たちの旅の目的です。その目的に一役買えるのなら、例え月明りの鎧がなかろうと、私たち三日月同盟は陛下に協力したでしょう」
「微力ではございますが、私たちの力、存分にお使い下さい」
俺たち3人が頷くと、国王は力強く頷き返した。
「そう言ってもらえるならありがたい!!では早速、近衛兵たちに伝えてくるとしよう。目的地は、封印の洞窟である、とな」
国王はすぐさま立ち上がると、マントを靡かせながら幕舎を出て行った。
「怪我の功名、って奴だな」
「車が燃料切れを起こしていなければ、この出会いもなかったはずだ」
「きっと、クレスとワイギヤの加護が、私たちを導いているんだわ!」
”皆の者!次の目的地は…”
外から、国王が近衛兵に号令を発する声が聞こえる。
「よし、俺たちも出発の準備をしよう」
セレスタ国王が秘密裏に月明りの鎧を安置した封印の洞窟は、幕舎から馬で約1日のところにあった。
洞窟の中はレンガで補強され、人とすれ違うのがやっとの広さだった。そして、補強されたレンガを見る限り、長い年月が経過していないように思えた。
「陛下、この洞窟は…」
「ここは、敵から襲撃された際、王族が身を隠すために、臆病な先王が作ったものだ」
「その洞窟に、今隠されているのが、クレスの鎧…」
「ああ。もし先王が存命で、今の情勢を見たとしたら、どのような思いになるのであろうな…」
国王は立ち止まると、明後日の方向を向き、その場に立ち止まる。
「後悔………しているのですか?」
「まさか!その逆だよ。真実を知るものからすれば、先王の遺志を受け継がない余を『この親不孝者め!!』と罵るのだろうが、余は自分の選択に後悔などしておらぬ。それに、我が最愛の女(ひと)一人助けられずに、どうして国王などを務めることができようか」
「陛下は、アンティムさんのことを、本当に愛していらっしゃるのですね」
「うむ」
一般庶民なら恥ずかしくて正直に言えないことを、王室育ちからなのか、国王はアンティムを愛していることを正直に認めた。
「おっと…こんなところで立ち止まっている訳にはいかなかったな。先に進むぞ」
“コツコツコツコツコツコツ…”
それから約10分後。視界が突然広がったかと思うと、その中央にはほのかな光に包まれた銅像が佇んでいた。
「アルモ!!」
「ええ!」
俺はアルモの手を取ると、銅像の元へと急いだ。
その銅像は、他の支部にあったクレスの銅像そのもので、それには月明りの鎧と思しきものが鎧われていた。
「………間違いない。聖遺物アーティファクトの一つ、月明りの鎧だわ!」
“コツコツコツコツコツコツ…”
「!!余がここに運び込んだ際には、この銅像と鎧はただの置物でしかなかったのだが………」
後から追い付いたセレスタ国王が、驚いた様子で銅像を眺めている。
「陛下、恐らくはクレスの子孫であるアルモに反応をして、あのようなほのかな光を放っているものと思われます。これまで、聖遺物アーティファクトを手に入れた際も、このような現象が起こっておりました故…」
「そうであったか………ではやはり、先王が禍根を残してまで我が物としようとしていたものは、正真正銘の聖遺物(アーティファクト)であったということなのだな………」
国王の顔に、陰りが差す。
「…陛下?」
「すまぬ………私はこの鎧のせいで、先王以外の家族を失っているのだ………故に………」
国王の瞳から、大粒の涙が流れ落ちる。
それに気づいたアルモが、懐から白いハンカチを国王に差し出す。
「………ありがとう………今………この場にいるのが………君たちで良かった………国王とは………とても孤独なものでな………」
嗚咽を漏らしながら、セレスタ国王は俺たちに心情を話す。
一頻り涙を流した国王は、俺たちに気持ちを話したことも相まって落ち着きを取り戻した。
「情けないところを見せてしまったな…」
「いえ………陛下の心中、お察しいたします」
「なんの。さぁ、私は過去と決別するため、そなたたちはこの世界の未来のため、その鎧を手に入れるのだ!」
「はい!」
セレスタ王に促され、アルモは両手を鎧へと伸ばしたのだった。
「陛下…話が突拍子過ぎて、私にはどうにも理解できかねます」
「…まぁ、無理もなかろう………アンティムとは、私がまだ王太子であった頃、北方にある町付近で出会い、命を救われたのだ…」
セレスタ国王は、王太子時代に北方の国境を視察中に公国軍に捕えられた折、アンティムの手引きで牢から逃がされ、難を逃れたのだという。
「それから私は、視察と称して先王の目を盗み、アンティムとの時を過ごした。父である先王から学んだこの世の常識が、実はセレスタ国内でしか通用せず、先王が大きな過ちを犯していることにも気づくことができた。そしていつの頃からか、余とアンティムは互いを愛するようになったのだ」
「そして、陛下が即位され、アンティムさんが公国の盟主となり、大陸の統一が目前となった」
「うむ。だがしかし、ランデスがクーデターを起こし、アンティムを幽閉。そんな折、教団から一人の将軍が我が国に遣わされ、月明りの鎧を差し出すよう言ってきたのだ。恐らく、ランデスのクーデターも、裏で糸を引いているのは教団であろう」
「でも、王様は鎧を差し出さなかった…」
「ランデスのクーデターと、教団からの聖遺物(アーティファクト)の引き渡し要求の時期が、あまりにも重なりすぎていた。そして、新生セレスタ王国に教団の力は必要ないと判断したのだ」
「ザパート連合公国は、三日月同盟の支援を受けている国々の一つであるから、余計に教団とは距離を置きたくなった、という訳でございますね?」
「その通りだ。我が軍に、その将軍が率いる教軍も混ざっておるが、事を成した暁には、奇襲を仕掛けて一網打尽にしようと思うておる」
「そこまで考えた上での、陛下の策という訳ですね」
「うむ。そこで、だ。余は君たちに頼みたい。アンティムを救うため、ひいては、呪われたこの大陸の運命に抗うため、余に協力してはもらえないだろうか?交換条件という訳ではないが、アルモ殿が英雄クレスの子孫であれば、余が封印した月明りの鎧が必要なのではないか?」
「世界をあるべき姿に戻すのが、私たちの旅の目的です。その目的に一役買えるのなら、例え月明りの鎧がなかろうと、私たち三日月同盟は陛下に協力したでしょう」
「微力ではございますが、私たちの力、存分にお使い下さい」
俺たち3人が頷くと、国王は力強く頷き返した。
「そう言ってもらえるならありがたい!!では早速、近衛兵たちに伝えてくるとしよう。目的地は、封印の洞窟である、とな」
国王はすぐさま立ち上がると、マントを靡かせながら幕舎を出て行った。
「怪我の功名、って奴だな」
「車が燃料切れを起こしていなければ、この出会いもなかったはずだ」
「きっと、クレスとワイギヤの加護が、私たちを導いているんだわ!」
”皆の者!次の目的地は…”
外から、国王が近衛兵に号令を発する声が聞こえる。
「よし、俺たちも出発の準備をしよう」
セレスタ国王が秘密裏に月明りの鎧を安置した封印の洞窟は、幕舎から馬で約1日のところにあった。
洞窟の中はレンガで補強され、人とすれ違うのがやっとの広さだった。そして、補強されたレンガを見る限り、長い年月が経過していないように思えた。
「陛下、この洞窟は…」
「ここは、敵から襲撃された際、王族が身を隠すために、臆病な先王が作ったものだ」
「その洞窟に、今隠されているのが、クレスの鎧…」
「ああ。もし先王が存命で、今の情勢を見たとしたら、どのような思いになるのであろうな…」
国王は立ち止まると、明後日の方向を向き、その場に立ち止まる。
「後悔………しているのですか?」
「まさか!その逆だよ。真実を知るものからすれば、先王の遺志を受け継がない余を『この親不孝者め!!』と罵るのだろうが、余は自分の選択に後悔などしておらぬ。それに、我が最愛の女(ひと)一人助けられずに、どうして国王などを務めることができようか」
「陛下は、アンティムさんのことを、本当に愛していらっしゃるのですね」
「うむ」
一般庶民なら恥ずかしくて正直に言えないことを、王室育ちからなのか、国王はアンティムを愛していることを正直に認めた。
「おっと…こんなところで立ち止まっている訳にはいかなかったな。先に進むぞ」
“コツコツコツコツコツコツ…”
それから約10分後。視界が突然広がったかと思うと、その中央にはほのかな光に包まれた銅像が佇んでいた。
「アルモ!!」
「ええ!」
俺はアルモの手を取ると、銅像の元へと急いだ。
その銅像は、他の支部にあったクレスの銅像そのもので、それには月明りの鎧と思しきものが鎧われていた。
「………間違いない。聖遺物アーティファクトの一つ、月明りの鎧だわ!」
“コツコツコツコツコツコツ…”
「!!余がここに運び込んだ際には、この銅像と鎧はただの置物でしかなかったのだが………」
後から追い付いたセレスタ国王が、驚いた様子で銅像を眺めている。
「陛下、恐らくはクレスの子孫であるアルモに反応をして、あのようなほのかな光を放っているものと思われます。これまで、聖遺物アーティファクトを手に入れた際も、このような現象が起こっておりました故…」
「そうであったか………ではやはり、先王が禍根を残してまで我が物としようとしていたものは、正真正銘の聖遺物(アーティファクト)であったということなのだな………」
国王の顔に、陰りが差す。
「…陛下?」
「すまぬ………私はこの鎧のせいで、先王以外の家族を失っているのだ………故に………」
国王の瞳から、大粒の涙が流れ落ちる。
それに気づいたアルモが、懐から白いハンカチを国王に差し出す。
「………ありがとう………今………この場にいるのが………君たちで良かった………国王とは………とても孤独なものでな………」
嗚咽を漏らしながら、セレスタ国王は俺たちに心情を話す。
一頻り涙を流した国王は、俺たちに気持ちを話したことも相まって落ち着きを取り戻した。
「情けないところを見せてしまったな…」
「いえ………陛下の心中、お察しいたします」
「なんの。さぁ、私は過去と決別するため、そなたたちはこの世界の未来のため、その鎧を手に入れるのだ!」
「はい!」
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