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Episode8 聖遺物を求めて

第28話 ガス欠

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 アコード達と別れ、バルデワにあるリーサの隠れ家を出発した数日後、私たちはエプールマウンテンの麓に到着していた。

「………まだ麓だっていうのに、汗が噴き出して来やがる…」

「冗談じゃなく、暑いわね…」

 私とシューが額に汗しているのをよそに、リーサは涼しい顔をしている。

「リーサ………君は、なぜ汗をかいていないんだ!?」

「それは、私がうら若き乙女だからですわ………って、お二人以外の方にはお答えするのですけど………私が汗をかいていないのは、周囲の『気』をコントロールしているからですわ」

「『気』!?」

「エネルギーの流れ、と考えれば一番分かりやすいと思いますわ」

「…つまり、リーサは火山から放出されている熱のエネルギーをコントロールしている、ということかしら?」

「私の周囲の熱エネルギーのみ、ですが…」

「『気』をコントロールするには?」

「『気』のコントロールは、普通の人間でも少なくからずやっておりますの。ですが、それは普通の方は『無意識の意識』の中で行っているものですから、『気』をコントロールするためには、無意識で行ってきたことを意識して行えるようになることが必要になりますの」

「分かったような、分からないような………」

「この、エプールマウンテンは常に溶岩が火口から流れ出る活火山ですわ。普通なら、ここを登頂しようなんて、無理なことは致しません」

「そんなことを、俺たちはこれからやろうとしている、ということだな」

「はいですの。それに、ここを登頂するには…」

「『気』のコントロールができることが大前提になる…ってことよね!?」

「こりゃ、忍術を身に着けるなんて、実はとんでもないことを俺は宣言してしまったのか!?」

「…ここまできて、怖気づいた?」

 いつも通りの、意地悪な目を向けてみる。

「サリット………そんな訳あるか!!ここで俺たちは限界を超えて、アコード達の旅に一役買えるようになるんだよ!!」

「…冗談よ。私だって、アコード達の役に立ちたいもの」

「で、リーサ。『気』をコントロールするには、どうすればいいんだ!?」

「そうですわね………まずは、体内から放出されている『気』を感じるところから始めませんと!」

「リーサ、何かコツみたいなものはないのかしら?」

「それはですわね………」

 こうして、私たちの忍術の修行は幕を開けたのだった。

***

 私たちを乗せた古代の技術の結晶である車は、セレスタ王国の首都アーチスに向かい歩を進めていた。

“シュン………シュンシュン………”

 当初、車は陸路でアーチスに向かっていたが、途中から湿地帯となり、地面を走行するのは困難と判断。そこからは、漆黒の翼のミニチュア版のような形に変形した車で、100メートル程度の高度を飛行し、アーチスへと向かっていた。

「…この乗り物は、鳥よりも早いスピードで飛んでいるのね」

「時折、見たことのある鳥たちを追い抜いているようだしな…」

「…ステラ…聞こえるか?」

“ブゥン…”

 アコードが呼びかけると、フロントガラスと呼ばれる正面のガラスに、少し歪曲したステラが映し出された。

“はい、どうかなさいましたか?”

「セレスタの首都アーチスには、あとどの位で着きそうなんだ?」

“現在、アコード様は全行程の2分の1程度のところまで進んでいるようです。バルデワを出発して、今現在数日が経過しておりますから、このままの速度で進むことができても、到着まであと数日はかかるものと思われます”

「しばらくは、鳥さんたちとのレースを楽しみしかないわね」

 その時だった。

“ファンファンファンファン………”

「!!!ステラ、これは一体…」

“申し訳ございません…どうやら、燃料切れのようです…”

「この乗り物は、何を動力に走ったり飛んだりしている?」

 私とアコードが疑問に思っていたことを、レイスが代弁した。

“クレス様の時代に確立された、太陽や空気中に存在する物質をエネルギーとしていますが…”

「そう言えば、バルデワを出発してから、太陽に出会っていない気がするわね」

「…この辺りは湿地帯で、太陽が出るのは一年に数日しかない土地と聞いている」

「ステラ。太陽以外の、空気中に存在しているものだけで、動力とすることはできないのか?」

“恐らく、今から1日程度なら可能だと思われますが、それ以上は…”

「それじゃ、太陽が出るのを待つか、行けるところまで行って、そこから先は徒歩で向かうかしかないわけね」

“アルモ様!私の気象分析によれば、年に数日しかないという晴れ間が、明日訪れるようです”

「だったら、行けるところまで行き、明日は太陽の光で動力を回復し、その翌日にまた出発するということで良いのだろうか?」

“レイス様…太陽がなくても1日程度進めると申し上げましたが、本来車は太陽と空気中の物質を融合させて動力としているのです。そして、太陽とその物質を同時に取り込むことはできない仕様になっています”

「つまり、残りの燃料を使い切ってしまうと、太陽から取り込むエネルギーに加えて、空気中からエネルギーを取り込む時間もかかってしまうというわけね」

“そういうことです”

「だから、けたたましい音で警告を発したという訳か…」

「ここは一度着陸して、明日太陽が出るのを待つしかないな」

「…決まりね。ステラ、適当な場所にこの乗り物を着陸させてもらえる?」

“かしこまりました”

 ステラは車の周囲をサーチすると、適当な場所を見繕い、車を着陸させた。

“着陸、完了致しました。外は雨が降っておりますので、外出はお控え頂いた方がよろしいかと思います”

「ステラ、ありがとう!」

 こうして、燃料確保のため、一時歩みを止めた私たちでした。



 そして、次の日…

“皆さん、おはようございます。お目覚めはいかがでございますか?昨日の分析通り、外はとても良い天気になりました!”

 ステラがフロントガラスから一時的に消えると、確かに外は太陽の光に溢れていた。

「ずっと車内にいては、体が鈍ってしまう…アルモ、付き合ってくれるか?」

「ええ!」

「私も行こう!」

“どうかお気をつけて…”

 各自得物を持ち、車の扉を開け、外に出て背伸びをしようとした、その瞬間だった。

“カチャリ…”

「お前たちは、一体何者だ。ここを、余が治めるセレスタの地と知っての狼藉か!?」

 俺たち3人は、数十名のセレスタ兵と、そして国王らしき人物に包囲され、喉元に剣の切っ先を突き付けられたのだった。
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