上 下
65 / 103
Episode8 聖遺物を求めて

第10話 起動

しおりを挟む
“…アルモ様にアコード様。大変失礼致しました”

 大きな通信鏡?に写るステラが、深々と頭を垂れる。

「気にしないで!」

「ああ。気にすることはない!」

“お二人の姿が、あまりにも若かりし頃のクレス様とワイギヤ様に似ていたものですから…”

「アルモがクレスに似ているってことは、クレスは美形男子だったんだな」

「そうね…って!?」

 俺の言葉にアルモが顔を赤くし、ステラと同じ位頭を垂れる。

“……時系列的に、今はクレス様の時代から約数千年前後の時が流れているようですね”

「そんな膨大な時が経過しているというのに、この船はつい最近作られたかのように見えるけど…」

“はい。この船は、クレス様の時代の文明により生み出された黒誠銀(ブラックミスリル)で製造されています。ブラックミスリルは、同じミスリルの中でも最高強度と最軽量を誇り、どんな負荷がかけられても、無傷の状態を保つ特性があります”

「なるほど。だから、新品同様の状態に見えるという訳か」

“……………システムエラー……ネットワーク環境損傷大……高度セキュリティ領域への接続拒絶……アクセスできません……”

「ステラ…どうしたんだ?」

“アコード様…失礼しました。私とこの船が封印されていたこの数千年の間に何が起こったのか、それを調べてみようと思ったのですが、時間の流れと共に世界に張り巡らせられていたネットワークという環境が破壊され、調べることができなくなっているようです”

“唯一、ネットワークが残されていたのは、ここから南部にあるクレス様がお作りなった組織の本部と、世界各地にある支部を繋ぐもの。そして世界の中心にある高山にあるものだけだったのですが、高山の方は私にも解読できない高度なプロテクトがかけられていて、アクセスすることができなかったのです…”

「世界の中心にある高山と言えば…教団本部があるセントギア山だな…」

「高度なプロテクト…つまり、教団本部の情報には、ステラは入り込むことができないって訳ね」

“はい。その通りです。クレス様がお作りになった組織…三日月同盟のネットワークに残されていた情報を頼りに、この数千年間で起こったこの世界の歴史を把握致しました………今、この世界を支配しているのは、ワイギヤ様がお作りになった教団…でお間違いないのでしょうか?………”

「ああ。間違いない」

“やはり、クレス様が心配なさっていた通りの未来になってしまった、という事なのですね…”

 ステラの表情が曇る。

「ステラ…俺たちは、そんな教団から世界を救うために、ここまで来たんだ!」

“……世界の魔力の流れが、セントギア山に集中しているということは……ワイギヤ様やクレス様のご遺志を無視して、教団が魔力を占有している、ということなのですね…”

「だから、私たちはこの船の力を借りて、三日月同盟の各支部に残された聖遺物(アーティファクト)を回収し、教団に立ち向かうための力を得る必要があるの!」

「ステラ…力を貸してくれ!」

“力を貸すもなにも…この船はクレス様の…いえ、そのご子孫であるアルモ様のものです。私共々、どうぞご自由にお使い下さい!!”

「ありがとう、ステラ!」

“では、漆黒の翼…再起動します!!”

 俺たち5人が座る椅子の、背もたれの右側の付け根付近から帯状のものが姿を現し、それぞれの体系に合わせた長さとなり、左側の付け根付近に繋がって身体を固定させた。

“ゴゴゴゴゴゴゴゴ…”

 どこからともなく、激しい機械音が室内に木霊する。

 そして、目の前の大きな通信鏡?に映っていたステラが姿を消した。

「…ステラ!!大丈夫なの!?」

“モニターから突然消えてしまい、申し訳ありません。船体を浮上させるのに集中するため、一時的に私の姿が見えなくなっただけですので、ご安心下さい”

 俺たちの目の前にある大きな通信鏡は、どうやらモニターというらしい。

 突然姿を消したステラに驚いた俺たちだったが、その数秒後にはこの世のものとは思えない程の美しい景色を見ることになる。

「……ここは…この船が封印されていた施設の上空か!?」

“アコード様…その通りです。現在、漆黒の翼は上空約1万フィート(約3000m)にいます”

「…確か、この船の姿って周囲から見えないようになっているのよね…ステ何とかって機能で」

“サリット様のおっしゃる通り、この船はステルス機能によって、周囲からは見えない仕様になっていますが…皆様、この船をどこに向かわせればよろしいでしょうか?”

「三日月同盟の支部を回らなきゃならないってことは分かっているが、どこから回るかまでは決めていなかったな…」

“ピピピ…ピピピ…”

 どこかで聞いたことのあるような音が、船内に響き渡る。

「この音は…本部から俺の家の通信鏡に通信が入った時の音だ!」

“…どうやら、三日月同盟本部からの通信のようです。繋ぎますか?”

「きっと、ザイールからの通信だわ」

「ステラ!繋いでくれ!!」

“かしこまりました”

 次の瞬間、モニターが同盟本部に切り替り…

『…漆黒の翼の乗組員が、君たちで本当に良かった!!』

 そこには、安堵の表情を見せるザイールの姿が映し出されたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

異世界の皆さんが優しすぎる。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
ファンタジー
★書籍化部分は非公開になっております★ 間宮遥(マミヤハルカ)は大学卒業を控え、就職も決まった10月に、うっかり川で溺れてる子供を助けて死んでしまったが、気がついたら異世界の森の中。妖精さんにチート増量してもらったので今度こそしぶとく生き抜こうと心に決めた。 しかし、ご飯大好きスイーツ大好きの主人公が暮らすには、塩と砂糖とハチミツがメインの調味料の国とか、無理ゲーであった。 お気楽な主人公が調味料を作り出し、商売人として知らない間に大金持ちになったり、獣人や精霊さん等と暮らしつつ、好かれたり絡まれたり揉め事に巻き込まれたりしつつスローライフを求めるお話。 とにかく飯とスイーツの話がわっさわっさ出てきて恋愛話がちっとも進みません(笑) 処女作でございます。挿し絵も始めましたが時間がなかなか取れずに入ったり入らなかったり。文章優先です。絵も作品と同じくゆるい系です。おじいちゃんのパンツ位ゆるゆるです。 基本的にゆるく話は進んでおりましたが完結致しました。全181話。 なろうでも掲載中。 恋愛も出ますが基本はファンタジーのためカテゴリはファンタジーで。

チートな転生幼女の無双生活 ~そこまで言うなら無双してあげようじゃないか~

ふゆ
ファンタジー
 私は死んだ。  はずだったんだけど、 「君は時空の帯から落ちてしまったんだ」  神様たちのミスでみんなと同じような輪廻転生ができなくなり、特別に記憶を持ったまま転生させてもらえることになった私、シエル。  なんと幼女になっちゃいました。  まだ転生もしないうちに神様と友達になるし、転生直後から神獣が付いたりと、チート万歳!  エーレスと呼ばれるこの世界で、シエルはどう生きるのか? *不定期更新になります *誤字脱字、ストーリー案があればぜひコメントしてください! *ところどころほのぼのしてます( ^ω^ ) *小説家になろう様にも投稿させていただいています

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

妾の子だった転生勇者~魔力ゼロだと冷遇され悪役貴族の兄弟から虐められたので前世の知識を活かして努力していたら、回復魔術がぶっ壊れ性能になった

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
◆2024/05/31   HOTランキングで2位 ファンタジーランキング4位になりました! 第四回ファンタジーカップで21位になりました。皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 『公爵の子供なのに魔力なし』 『正妻や兄弟姉妹からも虐められる出来損ない』 『公爵になれない無能』 公爵と平民の間に生まれた主人公は、魔力がゼロだからという理由で無能と呼ばれ冷遇される。 だが実は子供の中身は転生者それもこの世界を救った勇者であり、自分と母親の身を守るために、主人公は魔法と剣術を極めることに。 『魔力ゼロのハズなのになぜ魔法を!?』 『ただの剣で魔法を斬っただと!?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ……?』 『あいつを無能と呼んだ奴の目は節穴か?』 やがて周囲を畏怖させるほどの貴公子として成長していく……元勇者の物語。

私のバラ色ではない人生

野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。 だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。 そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。 ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。 だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、 既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。 ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

処理中です...