上 下
438 / 445
第11章「異世界編、始まる」

第68話「有紗の二つ名」

しおりを挟む
 ---「あっ、皆さん! お帰りな…」

 ギルドに帰ると、受付カウンターにいたサキさんが声をかけようとしていた。

 「……」

 が、違和感を感じ言葉が詰まった。その違和感は他の人達も気づいており、そのせいかいつのまにかギルド内は静寂な空気に包まれていた。

 「ゴブリンの討伐依頼、完了したわよ。ゴブリンロードもいたけど、なんとか倒しといたわよ」

 「……」

 有紗がクエストの完了報告するが、サキさんは一向に声が出ない。笑顔もどことなく引き攣っていて、顔色も青くなっている。完全に引いていることを言われずともわかるほどに。

 それもそのはず。なにせ有紗の全身にゴブリンロードの返り血が付着して、全身赤くなっていたのだ。

 ---ゴブリンロードに腹パン1発で勝ってしまった有紗だが、風穴が開いた腹からは濁ったような赤色の血がほぼ塊と化した状態で勢いよく飛散した。

 それをモロに浴びた有紗は一瞬にして全身赤く染まってしまった。

 近くにいたみのりと女性、そこから少し離れた場所にいる俺にも付着しているが、拭けばすぐに取れる程度なのでなにも問題はないのだが、有紗はもうシャワーを浴びないと落ちないレベルまで被ってしまっている。匂いまで落ちるかはわからんが。

 いちおうゴブリンの討伐依頼をクリアし、あの女性の娘さんもなんとか村に送って一件落着したからギルドに帰る前にどっかで水浴びでもしといた方がいいんじゃないかと提案したが、「依頼の報告の方が先よ」と、なんかプロっぽいことを言って断られ、現在に至る。

 あと余談だが、依頼者のいる村の門の方にはゴブリン・ロードの首が晒されている、はず。有紗が「コイツの首を外のモンスター達に見せつければ近寄ろうだなんて考えないばすよ」と、本当のところどうなのかわからないようなことを言って依頼主にその首を渡した。無論、首をもらった依頼主はすげー困惑してたけどな。

 ---「えっ、えっーと、そうですね。あっ、クエストの報酬でしたね!? ただ今お持ちしますので少々…」

 「他のは?」

 「はい?」

 数秒硬直していたサキさんは有紗の姿を気にしながらも仕事に戻ろうとつくり笑顔を浮かべながら報酬を取りに奥に行こうとしたとき、不意に有紗に問いかけられ、足を止めた。

 「他のゴブリン依頼は私達がやるから、あったらこっちに回して。アイツらは、私が1匹残らず駆逐してやる!」

 「ひっ!? は、はいぃぃぃ…」

 サキさんに問いかける有紗の目は巨人に復讐心を抱くエ◯ン・イ◯ーガーのような怒りに満ち溢れていて、その目を向けられたサキさんは完全に有紗にビビっていた。こんなサキさん見たの初めてだ。

 「…今日のところはいいわ。報酬は和彦達に渡して。明日、依頼があったらこっちに回しといて。それじゃ」

 「……」

 有紗はビビるサキさんなど気に留めず、一方的に話を進め、ボーッと様子を見ていた俺達のことも気にせずにそそくさとギルドを後にした。

 ---それからしばらくは有紗が受けたゴブリンの討伐クエストを受けることになり、いつしか有紗は『小鬼狩り(ゴブリン・スレイヤー)』という二つ名が付き、その仲間である俺達は『ゴブリン・スレイヤーズ』と呼ばれるようになったとかならなかったとか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

ハーレムに憧れてたけど僕が欲しいのはヤンデレハーレムじゃない!

いーじーしっくす
青春
 赤坂拓真は漫画やアニメのハーレムという不健全なことに憧れる健全な普通の男子高校生。  しかし、ある日突然目の前に現れたクラスメイトから相談を受けた瞬間から、拓真の学園生活は予想もできない騒動に巻き込まれることになる。  その相談の理由は、【彼氏を女帝にNTRされたからその復讐を手伝って欲しい】とのこと。断ろうとしても断りきれない拓真は渋々手伝うことになったが、実はその女帝〘渡瀬彩音〙は拓真の想い人であった。そして拓真は「そんな訳が無い!」と手伝うふりをしながら彩音の潔白を証明しようとするが……。  証明しようとすればするほど増えていくNTR被害者の女の子達。  そしてなぜかその子達に付きまとわれる拓真の学園生活。 深まる彼女達の共通の【彼氏】の謎。  拓真の想いは届くのか? それとも……。 「ねぇ、拓真。好きって言って?」 「嫌だよ」 「お墓っていくらかしら?」 「なんで!?」  純粋で不純なほっこりラブコメ! ここに開幕!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

処理中です...