上 下
161 / 445
第5章「隣人のお姉さんにはご注意を」

第12話「隣の部屋の者なんですけど」

しおりを挟む
 ピンポーン

 俺の心の叫びが聞こえたかのようなタイミングで彼女の部屋のチャイムが鳴った。

 だが安心は出来ない。この状況で彼女が出ていくとは限らない。

 「残念。ちょっと冷めちゃったわ。この続きは後にしましょ。だから…」

 「んっ!?」

 しかし由佳さんは寸前のところで足を止めた。どうやら彼女も邪魔が入るのは気分が悪いみたいだ。

 だが由佳さんはどういうわけか口紅を塗った唇を人差し指でなぞり、その人差し指を俺を よ唇に同じようになぞり出した。思わぬ行動に色んな意味でドキッとさせられたが、一体なんのつもりだろうか?

 「!? ぅっ…」

 そう思った矢先、急に喉に違和感を感じた。ものすごい勢いで水分を持っていかれたかのように喉がカラカラに乾いて声が出せない。

 「ちょっと大人しくしててね♡ ちゃんと続きしてあげるから♡」

 「…ぁぁ…」

 由佳さんは再び愉快そうに笑顔を浮かべて玄関に向かって行った。俺は両手を縛られ身体に力も入らずおまけに声も出せなくなり彼女を止める術も助けを呼ぶ術もここから逃げ出す術もなくただただうずくまるだけだった。

 マズい。彼女が玄関に向かったのはいいもののこの状況を切り抜ける手段がなければ意味がない。さて、どう切り抜けようか?

 頭の中で改めて状況を整理してみる。まずこの場所はおそらく彼女の部屋だろう。前に見たときよりは随分暗めの雰囲気になっているが、部屋の大きさは俺の寝室とほぼ変わらない。

 部屋の中には妙に甘ったるい匂いがする煙を上げる壺が置かれていたりムチや縄などの調教器具が多数壁に掛かっていたり普通の女性が住む部屋とはとても思えない。あの時、ダンボールの中を見てしまっていたらどうなっていただろうかと考えると背中に悪寒が走った。

 そして今の俺はさっき言った通り全く身動きがとれない、っと思っていたが、由佳さんに攻められていた時のことをふと思い返してみた。

 俺は堪えようとして身体をくねくねさせた。つまり身をくねらせるぐらいのことは可能なのだ。

 そこで俺はニ◯ッキのように身体を前後にくねらせ少しずつ部屋のドアへと向かって行った。幸いなことにドアはわずかに開いていて手足が不自由でもなんとか開けられそうだ。

 しかし問題はここからだ。部屋から出たとしてどうやって抜け出すかだ。玄関まで行ければいいが、俺の家と同じ部屋ならこの部屋から玄関まではある程度距離があるはず。その前に彼女が帰ってきたら一巻の終わりだ。

 それともどこかに身を隠してある程度足が動けるようになったら隙を見て逃げるか? しかしどれぐらいの時間を要するか? それまで隠れきれるのか? どれも成功率の低い作戦だが、どうする?

 「キャッ!!」

 「?!」

 俺があれこれ考えながらようやく部屋から出た時だった。由佳さんの悲鳴らしき声と共に壁に激突したような激しい衝突音が聞こえてきた。何があったんだ? そう思った俺は急いで玄関の方へと向かって行く。

 ---「すみません。隣の部屋の者なんですけど」

 「……」

 さっきより速いスピードで移動することが出来た俺が玄関近くにたどり着くと俺は呆気にとられていた。玄関近くの廊下で苦痛の声をあげ突っ伏す彼女、由佳さんと玄関で堂々と立つ彼女、有紗の姿があった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

ハーレムに憧れてたけど僕が欲しいのはヤンデレハーレムじゃない!

いーじーしっくす
青春
 赤坂拓真は漫画やアニメのハーレムという不健全なことに憧れる健全な普通の男子高校生。  しかし、ある日突然目の前に現れたクラスメイトから相談を受けた瞬間から、拓真の学園生活は予想もできない騒動に巻き込まれることになる。  その相談の理由は、【彼氏を女帝にNTRされたからその復讐を手伝って欲しい】とのこと。断ろうとしても断りきれない拓真は渋々手伝うことになったが、実はその女帝〘渡瀬彩音〙は拓真の想い人であった。そして拓真は「そんな訳が無い!」と手伝うふりをしながら彩音の潔白を証明しようとするが……。  証明しようとすればするほど増えていくNTR被害者の女の子達。  そしてなぜかその子達に付きまとわれる拓真の学園生活。 深まる彼女達の共通の【彼氏】の謎。  拓真の想いは届くのか? それとも……。 「ねぇ、拓真。好きって言って?」 「嫌だよ」 「お墓っていくらかしら?」 「なんで!?」  純粋で不純なほっこりラブコメ! ここに開幕!

処理中です...