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番外編
家族の時間
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夏の暑さの下、涼しい風が潮の香りを運んでくる。風に前髪が揺れ、目元を擽った。徐々に意識が覚醒していく。より一層濃くなる潮の匂い。それから、遠くで聞こえる子供たちの声。そして、注がれる、視線――。
「サナ、起きたか」
サナを見下ろしていたのは、愛する夫アルベルクだった。結婚してから約十年、あと少しで十一年という年月が経つにも拘わらず、相も変わらず美丈夫だ。若かりし頃とは違い、洗練された美しさや色気がある。これからますます大人の色気を発揮していくのだろう。
「どれほど眠っていましたか?」
「一時間だ」
「一時間……。そんなに……」
サナは、ゆっくりと体を起こす。
湖の上にあるガゼボ。強い太陽の光を遮ることができるその場所に分厚めの柔らかい敷物を敷き、アルベルクの太腿を枕にして眠っていたのだ。
「昨晩は無理をさせたからな。寝不足だろう」
アルベルクは、サナの乱れた髪を手ぐしで優しく梳く。その感触が酷く心地よくて、再び瞼が落ちていく。サナの脳内に十年前の記憶がよみがえる。
「アルベルク、覚えていますか?」
サナはアルベルクにもたれかかり、体全体を預ける。質の高い筋肉に覆われたアルベルクの体は、彼女の全体重を難なく受け止めた。
「十年前にも、膝枕をしましたよね。その時は、アルベルクが膝枕をされる側でしたが」
「あぁ、覚えている。俺たちが本当の意味で結ばれた日だろう?」
頭頂部にキスをされる。
忘れもしない。約十年前のアルベルクの誕生日。サナは、アルベルクに膝枕をした。疲労困憊していたアルベルクを寝かせて、サナは長閑な一時を過ごしたのだ。
「昔も、今も、幸せだな」
「そうですね。とても幸せです」
なぜだか、泣きたくなった。これが幸せなのだと、改めて実感できたから。
「アルベルク。私、あなたと結婚してよかったです」
アルベルクの胸元に頭を擦りつけながら本音を伝えると、彼の鼓動が速くなった気がした。
「俺と、結婚してくれてありがとう」
アルベルクの返事に、目頭が熱くなる。
感謝を言うべきなのは自分のほうだ。サナは顔を上げ、アルベルクに向き直る。
「一目惚れしてくれて、求婚までしてくれて、そして……無償の愛を注いでくれてありがとうございます。これからも隣にいてください。ずっと、ずっと、私の隣に……」
アルベルクの頬に触れる。しっとりとした頬が手のひらに馴染む。タンザナイト色の瞳の光が左右に揺れた時――。
「お父様! お母様!」
遠くからサナとアルベルクを呼ぶ声が聞こえた。アルベルクは瞬時にサナから距離を取る。サナの視線の先には、幼い子供が三人いた。ガゼボに通じる橋をパタパタと渡ってきた子供たちは、無邪気な笑顔を見せた。
「お母様、見てください! エリルナと一緒に作りました! 可愛いでしょう?」
ローズブロンドの髪をなびかせ、タンザナイト色の双眸を輝かせた美少女は、自身の頭の上に乗せた色鮮やかな花冠を自慢げに見せる。
彼女の名は、アリエッタ・ド・エルヴァンクロー。エルヴァンクロー公爵家嫡女。今年で7歳になった公爵家の令嬢だ。アルベルクとサナのふたり目の子である。
「あら、とても可愛いわ。上手に作ったのね」
サナは愛娘を褒め称える。「そうでしょう!? アリエッタは可愛いわ! お父様もそう思いますよね!?」とアルベルクにアピールしに行くアリエッタの後ろ、モジモジとしながら唇を尖らせている天使の姿が目に入る。
柔らかそうなローズブロンドの髪に、ルビー色の大きな瞳。大量の睫毛に縁取られた目元は、水分をたっぷりと含んでいる。左目元には、アルベルクから受け継いだのか、小さなほくろがあった。サナと瓜二つの美少年の名は、カイル・ド・エルヴァンクロー。公爵家の次男。年齢は5歳。アルベルクとサナの三人目の子だ。
「カイル。お母様のもとにいらっしゃい」
サナは手招きする。カイルは恥ずかしそうにしながら、母親の彼女に抱きついた。
「今日も天使のように可愛いわね」
「おかあさま……。ぼくにいもうとができるんですか?」
「え?」
サナが小首を傾げると、カイルはルビー色の目から涙をこぼす。
「おにいさまとおねえさまが、おとうさまとおかあさまは仲良しだから、ぼくにもいもうとができるって……」
「そうね、できるかもしれないわ」
サナはそう言いながら、カイルの背中を撫でる。なぜ妹に限定されているかは分からないが、子供なりに感じていることがあるのかもしれない。
「ところで、父上の様子がなんだかおかしいですが……おふたりで何をされていたのですか?」
ぎこちない笑みを浮かべながらアリエッタを抱きしめているアルベルクをじっと見つめるのは、ユリウス・ド・エルヴァンクロー。公爵家の嫡男であり、次期公爵だ。癖のないまっすぐな黒髪に、タンザナイト色の瞳。アルベルクの生き写しなのではないかと疑うほど、アルベルクとそっくりな彼は、今年で9歳になる。アルベルクとサナの第一子だ。
「イチャイチャしていたのよ」
「していない」
「していたんですね」
サナ、アルベルク、ユリウスの順で喋る。アルベルクの否定を瞬時に嘘だと見抜いたユリウスは、まだ幼いのに既に領地の仕事に携わるという天才っぷりを発揮している。父親の嘘を見抜くなんて朝飯前だと言わんばかりの彼に、アルベルクは恐怖を覚えた。
「やっぱり、私たちに妹ができる日もそう遠くないのですね!」
「妹……?」
「お父様! お母様! 頑張ってください!」
ひとり疑問を抱くアルベルクとにこやかに笑うサナを、アリエッタは全力で応援した。
昼下がり。穏やかな時間が流れる城の庭園で、尊い家族は団欒の一時を過ごすのであった。これからも、ずっと――。
.*・゚❤︎ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ❤︎・*.
番外編完結です!
新作品は準備中です。
準備ができ次第、告知いたします。
お待ちいただけますと幸いです。
「サナ、起きたか」
サナを見下ろしていたのは、愛する夫アルベルクだった。結婚してから約十年、あと少しで十一年という年月が経つにも拘わらず、相も変わらず美丈夫だ。若かりし頃とは違い、洗練された美しさや色気がある。これからますます大人の色気を発揮していくのだろう。
「どれほど眠っていましたか?」
「一時間だ」
「一時間……。そんなに……」
サナは、ゆっくりと体を起こす。
湖の上にあるガゼボ。強い太陽の光を遮ることができるその場所に分厚めの柔らかい敷物を敷き、アルベルクの太腿を枕にして眠っていたのだ。
「昨晩は無理をさせたからな。寝不足だろう」
アルベルクは、サナの乱れた髪を手ぐしで優しく梳く。その感触が酷く心地よくて、再び瞼が落ちていく。サナの脳内に十年前の記憶がよみがえる。
「アルベルク、覚えていますか?」
サナはアルベルクにもたれかかり、体全体を預ける。質の高い筋肉に覆われたアルベルクの体は、彼女の全体重を難なく受け止めた。
「十年前にも、膝枕をしましたよね。その時は、アルベルクが膝枕をされる側でしたが」
「あぁ、覚えている。俺たちが本当の意味で結ばれた日だろう?」
頭頂部にキスをされる。
忘れもしない。約十年前のアルベルクの誕生日。サナは、アルベルクに膝枕をした。疲労困憊していたアルベルクを寝かせて、サナは長閑な一時を過ごしたのだ。
「昔も、今も、幸せだな」
「そうですね。とても幸せです」
なぜだか、泣きたくなった。これが幸せなのだと、改めて実感できたから。
「アルベルク。私、あなたと結婚してよかったです」
アルベルクの胸元に頭を擦りつけながら本音を伝えると、彼の鼓動が速くなった気がした。
「俺と、結婚してくれてありがとう」
アルベルクの返事に、目頭が熱くなる。
感謝を言うべきなのは自分のほうだ。サナは顔を上げ、アルベルクに向き直る。
「一目惚れしてくれて、求婚までしてくれて、そして……無償の愛を注いでくれてありがとうございます。これからも隣にいてください。ずっと、ずっと、私の隣に……」
アルベルクの頬に触れる。しっとりとした頬が手のひらに馴染む。タンザナイト色の瞳の光が左右に揺れた時――。
「お父様! お母様!」
遠くからサナとアルベルクを呼ぶ声が聞こえた。アルベルクは瞬時にサナから距離を取る。サナの視線の先には、幼い子供が三人いた。ガゼボに通じる橋をパタパタと渡ってきた子供たちは、無邪気な笑顔を見せた。
「お母様、見てください! エリルナと一緒に作りました! 可愛いでしょう?」
ローズブロンドの髪をなびかせ、タンザナイト色の双眸を輝かせた美少女は、自身の頭の上に乗せた色鮮やかな花冠を自慢げに見せる。
彼女の名は、アリエッタ・ド・エルヴァンクロー。エルヴァンクロー公爵家嫡女。今年で7歳になった公爵家の令嬢だ。アルベルクとサナのふたり目の子である。
「あら、とても可愛いわ。上手に作ったのね」
サナは愛娘を褒め称える。「そうでしょう!? アリエッタは可愛いわ! お父様もそう思いますよね!?」とアルベルクにアピールしに行くアリエッタの後ろ、モジモジとしながら唇を尖らせている天使の姿が目に入る。
柔らかそうなローズブロンドの髪に、ルビー色の大きな瞳。大量の睫毛に縁取られた目元は、水分をたっぷりと含んでいる。左目元には、アルベルクから受け継いだのか、小さなほくろがあった。サナと瓜二つの美少年の名は、カイル・ド・エルヴァンクロー。公爵家の次男。年齢は5歳。アルベルクとサナの三人目の子だ。
「カイル。お母様のもとにいらっしゃい」
サナは手招きする。カイルは恥ずかしそうにしながら、母親の彼女に抱きついた。
「今日も天使のように可愛いわね」
「おかあさま……。ぼくにいもうとができるんですか?」
「え?」
サナが小首を傾げると、カイルはルビー色の目から涙をこぼす。
「おにいさまとおねえさまが、おとうさまとおかあさまは仲良しだから、ぼくにもいもうとができるって……」
「そうね、できるかもしれないわ」
サナはそう言いながら、カイルの背中を撫でる。なぜ妹に限定されているかは分からないが、子供なりに感じていることがあるのかもしれない。
「ところで、父上の様子がなんだかおかしいですが……おふたりで何をされていたのですか?」
ぎこちない笑みを浮かべながらアリエッタを抱きしめているアルベルクをじっと見つめるのは、ユリウス・ド・エルヴァンクロー。公爵家の嫡男であり、次期公爵だ。癖のないまっすぐな黒髪に、タンザナイト色の瞳。アルベルクの生き写しなのではないかと疑うほど、アルベルクとそっくりな彼は、今年で9歳になる。アルベルクとサナの第一子だ。
「イチャイチャしていたのよ」
「していない」
「していたんですね」
サナ、アルベルク、ユリウスの順で喋る。アルベルクの否定を瞬時に嘘だと見抜いたユリウスは、まだ幼いのに既に領地の仕事に携わるという天才っぷりを発揮している。父親の嘘を見抜くなんて朝飯前だと言わんばかりの彼に、アルベルクは恐怖を覚えた。
「やっぱり、私たちに妹ができる日もそう遠くないのですね!」
「妹……?」
「お父様! お母様! 頑張ってください!」
ひとり疑問を抱くアルベルクとにこやかに笑うサナを、アリエッタは全力で応援した。
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★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
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