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本編
第39話 媚薬
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「あぁ……それは……男性によくある自責の念ですね」
ふたりの間に秋の訪れを感じさせる風が吹く。
「自責の、念?」
「はい。自分を責めているのです。了承も得ずにしてしまったことへの申し訳なさだったり、美しい存在を自分が汚してしまったことへの行き場のない気持ちだったり……まぁそんなところですわ。サナ様が気にすることではございません」
リリアンナの冷静なアドバイスに、サナは戸惑いを隠せなかった。
あのアルベルクが自責の念を感じているというのだろうか。到底信じられないが、リリアンナは嘘を言っているわけではなさそうだった。
「私は昨日の一幕を見て確信いたしました。エルヴァンクロー公爵はサナ様を大事に想っていらっしゃいますよ」
リリアンナは頬に手を添えて、優しく笑った。胸が温かくなる感覚がする。サナは自身の胸元に触れた。
不思議だ。リリアンナの一言で、不安でいっぱいだった心が晴れていく。同時に、つんつんと人差し指でつつかれるような擽ったさも感じた。これが、友人というものか。サナは人生で初めてできた友達という存在の偉大さを、身をもって体感したのであった。さらには、その友人が物語のヒロインであるリリアンナときた。悪女、脇役、悪役として苦しい日々を過ごしたサナも、ようやく報われる時が来たのかもしれない。
「ありがとうございます、リリアンナ様」
花が綻ぶように笑う。秋風が吹き、葉が舞い散る。美しい光景の中、ローズブロンドの睫毛を震わせながら笑むサナに、リリアンナは心奪われた。そしてなぜか、鼻血を噴き出した。
「り、リリアンナ様!?」
サナの叫び声と共にエリルナが駆けつけ、リリアンナの鼻血を止めようと奮闘する。
「お見苦しいところをお見せして申し訳ございません。あまりにもサナ様がお美しいものですから、思わず鼻血を出してしまいましたわ」
リリアンナは可憐な笑顔を保ち続ける。やはりヒロインはすごい。鼻血を出しながらもキラキラに笑っていられる者など、彼女以外にいないだろうから。
リリアンナは咳払いする。
「そんなお美しいサナ様を間近で拝むことができるエルヴァンクロー公爵が羨ましいです」
「そ、それは……」
「エルヴァンクロー公爵は、サナ様のあんな顔やこんな顔を見ることを唯一許された方でしょう? 羨ましい以外に言葉が出ません」
リリアンナはそう言って、水を飲んだ。
彼女の言う「あんな顔やこんな顔」とは、キス顔や泣き顔、快楽に乱れる顔のことを指している。それを察したサナは、頬を赤く染め上げた。
「とはいえ、私はおふたりの邪魔をしたいわけではございませんし、むしろ応援しております。そこで、サナ様に私からプレゼントがございます」
リリアンナの合図で、侍女が現れる。侍女は彼女に何かを差し出すと深々と一礼してその場を去った。
「こちらです」
サナはリリアンナからプレゼントを受け取る。高級なジュエリーボックスのような見た目をした箱だ。
「まぁ、ありがとうございます。開けてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
リリアンナの了承を得て、そっと箱を開ける。そこに現れたのは、何やら液体が入った瓶だった。ハートの形が描かれた透明な瓶を彩るのは、ピンク色と紫色が混じった色味の謎の液体。嫌な予感がする。サナは直感でそう思った。
「媚薬にございます」
サナの直感は見事に的中。リリアンナからプレゼントされたのは、なんと媚薬だった。そう、性欲を掻き立てるための飲み薬である。
「最近商用化されたばかりの薬でして、超人気商品なのです。なかなか手に入らなかった代物ですが、夫のつてでふたつほど入手できました」
「……ど、どうしてこれを私に?」
「………………フッ」
(な、何その笑顔!?)
サナの問いかけに、リリアンナは人の悪い笑みを浮かべた。ヒロインとは思えない彼女の笑い方に、サナは衝撃を受ける。
間違いない。リリアンナはこの媚薬を使って、サナとアルベルクの初夜を手助けするつもりだ。
「エルヴァンクロー公爵に飲ませても、弱ったところをガブリといっても良いですし、サナ様がお飲みになって公爵を誘うのも良いですね!」
リリアンナは脳内で妄想を繰り広げる。
「あっ、効果は保証します。狂いますよ」
「……くっ、……くる、う……」
先程から過激的な発言を繰り返すリリアンナに、サナはろくに返事できず絶句してしまった。
なぜ効果を保証できるのか。無論、リリアンナがレオンとの夜で使用したのだろう。先程、ふたつほど入手できたと言っていたし、間違いない。問題は、どちらが使ったのか、だ。
(ヒロインのリリアンナ様? それともヒーローであるレオン? 純粋無垢な物語として知られていたのに、まさかそんな生々しい話まで聞くことになるなんて……!)
サナは、心中で叫んだ。
「ぜひ使ってみてください。好きにできますし、好きにされますよ」
(も、もうやめて~~~~~~!!!)
ヒロインの口からポンポンと飛び出す言葉により、サナはノックアウトした。
ふたりの間に秋の訪れを感じさせる風が吹く。
「自責の、念?」
「はい。自分を責めているのです。了承も得ずにしてしまったことへの申し訳なさだったり、美しい存在を自分が汚してしまったことへの行き場のない気持ちだったり……まぁそんなところですわ。サナ様が気にすることではございません」
リリアンナの冷静なアドバイスに、サナは戸惑いを隠せなかった。
あのアルベルクが自責の念を感じているというのだろうか。到底信じられないが、リリアンナは嘘を言っているわけではなさそうだった。
「私は昨日の一幕を見て確信いたしました。エルヴァンクロー公爵はサナ様を大事に想っていらっしゃいますよ」
リリアンナは頬に手を添えて、優しく笑った。胸が温かくなる感覚がする。サナは自身の胸元に触れた。
不思議だ。リリアンナの一言で、不安でいっぱいだった心が晴れていく。同時に、つんつんと人差し指でつつかれるような擽ったさも感じた。これが、友人というものか。サナは人生で初めてできた友達という存在の偉大さを、身をもって体感したのであった。さらには、その友人が物語のヒロインであるリリアンナときた。悪女、脇役、悪役として苦しい日々を過ごしたサナも、ようやく報われる時が来たのかもしれない。
「ありがとうございます、リリアンナ様」
花が綻ぶように笑う。秋風が吹き、葉が舞い散る。美しい光景の中、ローズブロンドの睫毛を震わせながら笑むサナに、リリアンナは心奪われた。そしてなぜか、鼻血を噴き出した。
「り、リリアンナ様!?」
サナの叫び声と共にエリルナが駆けつけ、リリアンナの鼻血を止めようと奮闘する。
「お見苦しいところをお見せして申し訳ございません。あまりにもサナ様がお美しいものですから、思わず鼻血を出してしまいましたわ」
リリアンナは可憐な笑顔を保ち続ける。やはりヒロインはすごい。鼻血を出しながらもキラキラに笑っていられる者など、彼女以外にいないだろうから。
リリアンナは咳払いする。
「そんなお美しいサナ様を間近で拝むことができるエルヴァンクロー公爵が羨ましいです」
「そ、それは……」
「エルヴァンクロー公爵は、サナ様のあんな顔やこんな顔を見ることを唯一許された方でしょう? 羨ましい以外に言葉が出ません」
リリアンナはそう言って、水を飲んだ。
彼女の言う「あんな顔やこんな顔」とは、キス顔や泣き顔、快楽に乱れる顔のことを指している。それを察したサナは、頬を赤く染め上げた。
「とはいえ、私はおふたりの邪魔をしたいわけではございませんし、むしろ応援しております。そこで、サナ様に私からプレゼントがございます」
リリアンナの合図で、侍女が現れる。侍女は彼女に何かを差し出すと深々と一礼してその場を去った。
「こちらです」
サナはリリアンナからプレゼントを受け取る。高級なジュエリーボックスのような見た目をした箱だ。
「まぁ、ありがとうございます。開けてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
リリアンナの了承を得て、そっと箱を開ける。そこに現れたのは、何やら液体が入った瓶だった。ハートの形が描かれた透明な瓶を彩るのは、ピンク色と紫色が混じった色味の謎の液体。嫌な予感がする。サナは直感でそう思った。
「媚薬にございます」
サナの直感は見事に的中。リリアンナからプレゼントされたのは、なんと媚薬だった。そう、性欲を掻き立てるための飲み薬である。
「最近商用化されたばかりの薬でして、超人気商品なのです。なかなか手に入らなかった代物ですが、夫のつてでふたつほど入手できました」
「……ど、どうしてこれを私に?」
「………………フッ」
(な、何その笑顔!?)
サナの問いかけに、リリアンナは人の悪い笑みを浮かべた。ヒロインとは思えない彼女の笑い方に、サナは衝撃を受ける。
間違いない。リリアンナはこの媚薬を使って、サナとアルベルクの初夜を手助けするつもりだ。
「エルヴァンクロー公爵に飲ませても、弱ったところをガブリといっても良いですし、サナ様がお飲みになって公爵を誘うのも良いですね!」
リリアンナは脳内で妄想を繰り広げる。
「あっ、効果は保証します。狂いますよ」
「……くっ、……くる、う……」
先程から過激的な発言を繰り返すリリアンナに、サナはろくに返事できず絶句してしまった。
なぜ効果を保証できるのか。無論、リリアンナがレオンとの夜で使用したのだろう。先程、ふたつほど入手できたと言っていたし、間違いない。問題は、どちらが使ったのか、だ。
(ヒロインのリリアンナ様? それともヒーローであるレオン? 純粋無垢な物語として知られていたのに、まさかそんな生々しい話まで聞くことになるなんて……!)
サナは、心中で叫んだ。
「ぜひ使ってみてください。好きにできますし、好きにされますよ」
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