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本編
第23話 サナの提案
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「列車を走らせてみてはいかがでしょうか?」
サナの提案に、アルベルクが目を見開く。
「線路を建設して列車を走らせるのです。頂上であるこの場所では、一旦列車から降車していただいて……お茶を楽しめるよう設備を整えることも効果的ではないでしょうか? この景色を美しいと感じるのは何も貴族だけではないはず」
サナはマリアンヌを横目で見る。マリアンヌはビクッと反応した。
「貴族も平民も、身分など関係なく……より多くの人々がこの美しい自然を体感できるようにすべきだと思います」
アルベルクは感心したように、口元に微かな笑みを浮かべる。マリアンヌの父であるトリンプラ侯爵までも、サナの提案に感銘を受けている様子だった。
貴族女性に茶会用の場所として貸し出す提案と、身分関係なく、そしてあらゆる世代が楽しめるよう列車を走らせる提案。どちらがアルベルクの心を揺れ動かしたかなど、わざわざ明らかにするまでもなかった。
「列車は本来、人や物を目的地まで輸送するためのものです。それを、景観を楽しむためだけに建設するとは……そんな素晴らしい案を、どのように思いついたのですか?」
トリンプラ侯爵は目を輝かせながら、サナを見つめる。
「ここまで来るのに、馬では少し疲れてしまったので……列車で移動できるのならだいぶ楽になるだろうと思ったまでです。それに、鉄道は我がベルガー帝国が誇る技術のひとつですから、それを最大限に生かしたいとも考えました」
サナが胸に手を当てながら笑みを深めると、トリンプラ侯爵は感極まって拍手した。しかし隣に立っていたマリアンヌにギロリと睨まれてしまい、急いで手を叩くのを止める。さすがのトリンプラ侯爵も、娘には敵わないらしい。
「良い案だ、サナ」
アルベルクに褒められたサナは、口元を押さえながら涙ぐんだ。
「ありがとうございます……!」
自身の提案をアルベルクに褒められたという事実だけで頭がいっぱいのサナは、今にも焦点してしまいそうなくらいに嬉しかった。
ベルガー帝国では、鉄道技術が発達している。線路がない場所では馬や馬車に頼っているが。遠出する際には平民も貴族も列車をよく使用している。そんな移動手段のひとつである列車を、移動というよりかは、景観を楽しむ目的のために走らせるのだ。そんな画期的なものは、未だベルガー帝国にはない。本格的に計画を始動させれば、帝国中で話題となりさらなる観光客を呼び込むことができるだろう。リーユニアは、海も山も森も美しいと褒め称えられるはずだ。
「ひとつ、よろしいですか?」
マリアンヌが手を挙げて、口を開く。
「この美しい山や森に線路を建設して列車を走らせるなんて、自然破壊に繋がりませんか?」
マリアンヌの厳しい口調と怪訝な顔つきに、サナも思わず無表情になる。マリアンヌはもはや体裁を気にしなくなったようだ。
「確かに、線路建設や列車を走らせることに伴って、自然に悪影響を及ぼす可能性もある。だからこそ、皇都の鉄道会社と結託すると共に、自然に詳しい専門家たちを呼び寄せて知恵を借りながら、最大限自然に配慮して建設を進めよう」
鉄道や自然に関しては、無知である人間の出る幕ではないため、専門家の協力を仰ごうというわけだ。
サナの代わりにアルベルクが対策を答えた事実に対して、マリアンヌは悔しげに口を噤む。
「野生動物との接触事故の可能性に関しても、対策を考えましょう」
「あぁ」
サナの提案に、アルベルクは首肯する。サナはエルヴァンクロー公爵家の夫人として仕事をこなしているという実感に、気持ち良さを感じた。
「トリンプラ侯爵、城に帰ったらすぐにでも計画を立てるぞ」
「かしこまりました。次の会合でほかの傘下貴族にも伝え、意見を仰ぎましょう!」
アルベルクとトリンプラ侯爵の熱い会話をよそに、サナはマリアンヌをチラリと見る。マリアンヌは肩を震わせながら、唇を噛んでいる。ふと、視線がかち合った。彼女はそっとサナに近寄り、アルベルクとトリンプラ侯爵に聞こえないよう、コソッと話す。
「良案だからアルベルク様に受け入れてもらえただけですわ。あまり調子に乗らないでくださいね、公爵夫人」
サナの額に怒りの血管が浮き上がる。
「良案も出せなかった方が一丁前に説教ですか?」
「っ……」
「負け惜しみはそこまでにしたほうがいいのでは? 余計惨めになるだけです」
サナは大きく溜息を吐きながら、マリアンヌを睨みつける。かつて悪女と謳われただけはある彼女の威圧感に、マリアンヌは一歩後退った。
恐れて引くくらいなら最初から喧嘩を売ってこなければいいのに、とサナは二度目の大息をついたのであった。
サナの提案に、アルベルクが目を見開く。
「線路を建設して列車を走らせるのです。頂上であるこの場所では、一旦列車から降車していただいて……お茶を楽しめるよう設備を整えることも効果的ではないでしょうか? この景色を美しいと感じるのは何も貴族だけではないはず」
サナはマリアンヌを横目で見る。マリアンヌはビクッと反応した。
「貴族も平民も、身分など関係なく……より多くの人々がこの美しい自然を体感できるようにすべきだと思います」
アルベルクは感心したように、口元に微かな笑みを浮かべる。マリアンヌの父であるトリンプラ侯爵までも、サナの提案に感銘を受けている様子だった。
貴族女性に茶会用の場所として貸し出す提案と、身分関係なく、そしてあらゆる世代が楽しめるよう列車を走らせる提案。どちらがアルベルクの心を揺れ動かしたかなど、わざわざ明らかにするまでもなかった。
「列車は本来、人や物を目的地まで輸送するためのものです。それを、景観を楽しむためだけに建設するとは……そんな素晴らしい案を、どのように思いついたのですか?」
トリンプラ侯爵は目を輝かせながら、サナを見つめる。
「ここまで来るのに、馬では少し疲れてしまったので……列車で移動できるのならだいぶ楽になるだろうと思ったまでです。それに、鉄道は我がベルガー帝国が誇る技術のひとつですから、それを最大限に生かしたいとも考えました」
サナが胸に手を当てながら笑みを深めると、トリンプラ侯爵は感極まって拍手した。しかし隣に立っていたマリアンヌにギロリと睨まれてしまい、急いで手を叩くのを止める。さすがのトリンプラ侯爵も、娘には敵わないらしい。
「良い案だ、サナ」
アルベルクに褒められたサナは、口元を押さえながら涙ぐんだ。
「ありがとうございます……!」
自身の提案をアルベルクに褒められたという事実だけで頭がいっぱいのサナは、今にも焦点してしまいそうなくらいに嬉しかった。
ベルガー帝国では、鉄道技術が発達している。線路がない場所では馬や馬車に頼っているが。遠出する際には平民も貴族も列車をよく使用している。そんな移動手段のひとつである列車を、移動というよりかは、景観を楽しむ目的のために走らせるのだ。そんな画期的なものは、未だベルガー帝国にはない。本格的に計画を始動させれば、帝国中で話題となりさらなる観光客を呼び込むことができるだろう。リーユニアは、海も山も森も美しいと褒め称えられるはずだ。
「ひとつ、よろしいですか?」
マリアンヌが手を挙げて、口を開く。
「この美しい山や森に線路を建設して列車を走らせるなんて、自然破壊に繋がりませんか?」
マリアンヌの厳しい口調と怪訝な顔つきに、サナも思わず無表情になる。マリアンヌはもはや体裁を気にしなくなったようだ。
「確かに、線路建設や列車を走らせることに伴って、自然に悪影響を及ぼす可能性もある。だからこそ、皇都の鉄道会社と結託すると共に、自然に詳しい専門家たちを呼び寄せて知恵を借りながら、最大限自然に配慮して建設を進めよう」
鉄道や自然に関しては、無知である人間の出る幕ではないため、専門家の協力を仰ごうというわけだ。
サナの代わりにアルベルクが対策を答えた事実に対して、マリアンヌは悔しげに口を噤む。
「野生動物との接触事故の可能性に関しても、対策を考えましょう」
「あぁ」
サナの提案に、アルベルクは首肯する。サナはエルヴァンクロー公爵家の夫人として仕事をこなしているという実感に、気持ち良さを感じた。
「トリンプラ侯爵、城に帰ったらすぐにでも計画を立てるぞ」
「かしこまりました。次の会合でほかの傘下貴族にも伝え、意見を仰ぎましょう!」
アルベルクとトリンプラ侯爵の熱い会話をよそに、サナはマリアンヌをチラリと見る。マリアンヌは肩を震わせながら、唇を噛んでいる。ふと、視線がかち合った。彼女はそっとサナに近寄り、アルベルクとトリンプラ侯爵に聞こえないよう、コソッと話す。
「良案だからアルベルク様に受け入れてもらえただけですわ。あまり調子に乗らないでくださいね、公爵夫人」
サナの額に怒りの血管が浮き上がる。
「良案も出せなかった方が一丁前に説教ですか?」
「っ……」
「負け惜しみはそこまでにしたほうがいいのでは? 余計惨めになるだけです」
サナは大きく溜息を吐きながら、マリアンヌを睨みつける。かつて悪女と謳われただけはある彼女の威圧感に、マリアンヌは一歩後退った。
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