11 / 54
本編
第11話 妄想時間中
しおりを挟む
リリアンナとレオンは毎晩のように愛し合っているらしい。
「ますます羨ましい……」
「え?」
「あっ……」
知らぬ間に声に出ていたみたいだ。サナは急いで口を覆うが、時既に遅し。大きな目を瞬かせるリリアンナを見て、聞かれてしまったと絶望した。
「失礼を承知でお尋ねするのですが……サナ様はエルヴァンクロー公爵と未だ夜を共にしていないのでしょうか?」
純粋無垢な顔で問いかけてくるリリアンナに対して嘘をつけるはずもなく。サナは素直に頷くほかなかった。リリアンナは、顎に人差し指を添えながら斜め上を見つめる。熟考しているらしい。
「……良いことを思いつきました! これは妙案ですよ!? 思い切ってサナ様から誘ってみてはいかがでしょう!?」
「……はい!?!?!?!?!?!?」
温室の外に聞こえるほどの大声で聞き返す。
「あら、聞こえませんでしたか? サナ様からエルヴァンクロー公爵をベッドにさそ」
「聞こえていますから!!!!!」
再度恥ずかしいことを口にしようとしたリリアンナを必死に止める。
リリアンナは、サナのほうからアルベルクを誘ってみてはどうだと提案してきたのだ。あの口下手で何を考えているのかよく分からないアルベルクを、サナが――。
「どういう、つもりだ、サナ」
エルヴァンクロー公爵夫妻の寝室の窓から射し込む薄い月明かりに照らされるのは、アルベルクの美貌。彼の頬は若干赤らんでいる。白いシャツの間からは、たくましい胸筋が覗いていた。獲物を前にしたサナは、舌なめずりしながらアルベルクの体の上に乗る。
「どういうつもりって、分かってるくせに」
嬌笑する。アルベルクの胸筋に手を這わせ、滑らかな肌を撫でる。サナは身に纏う寝間着をスルスルと脱いでいく。艶かしい肌があらわになると、アルベルクは生唾を飲み込んだ。
「アルベルク様、私と、一晩を共にしてください」
赤い唇から紡ぐ言葉に、アルベルクが狼狽える。次の瞬間、腕を引かれて押し倒された。アルベルクを見下ろしていた優越感溢れる光景からは一変、見上げる体勢となる。彼の顔が徐々に近づいてきて、口元に息がかかる。
「今夜は、眠れると思うな」
甘く痺れる低音ボイスと共に、唇を食べられてしまった。
あぁ、アルベルクの宣言通り、今夜は絶対に眠れない。快感と羞恥で死んでしまわないか心配だが、今気にするべきなのはそこではない。サナはアルベルクの背中に腕を回し、彼を受け入れたのであった。
「サナ様?」
妄想しながら涎を垂らし、うへへと笑っていると、リリアンナに呼ばれ現実に引き戻された。ハンカチを取り出して、急いで涎を拭い、わざとらしい咳を繰り返す。なんとか誤魔化せたか、普通の人ならば通用しなくとも相手はあの純粋なリリアンナだ。きっと騙されてくれるだr……。
「………………」
「………………コホン」
冷めた目を向けられ、淡い期待も粉々に砕かれた。最後に咳払いを追加してみたが、それでもダメらしい。世間知らずの純粋なヒロイン様だと思っていたが、イメージと全然違う。案外鋭い。サナの誤魔化し方が単純に下手なのかもしれないが。
「妄想の中では上手く誘えていましたか?」
「ふぁ!?!?!? な、何をっ、そんな妄想だなんてっ、リリアンナ様もおかしなことを申しますのね! オホホホホ」
「………………」
「オホホ、ホ、ホ……」
再び温室が極寒の気温となり、サナは完全に意気消沈してしまった。
「一度、実践してみてはいかがでしょうか? 昨日や先程の様子を見ている限り、エルヴァンクロー公爵はサナ様を大切に思っておいでのはずです。きっと、サナ様のお誘いを優しく受け止めてくださると思いますよ」
リリアンナは近くの花に顔を近づけながら、麗しく微笑んだ。さすがは小説のヒロイン。彼女の微笑みの浄化力に勝るものはない。「我を見ろ!」と言わんばかりに咲き誇る花たちも彼女から舞うキラキラに、「負けた……」と萎んでしまった。
「受け止めて、くださるでしょうか。もし、拒絶されてしまったら……」
万が一、アルベルクに酷く拒絶されてしまったら、サナはしばらく立ち直れない。
「サナ様は、拒絶されたらなどと考えるお方ではないと思っておりましたが……サナ様も普通の女の子なのですね」
リリアンナはサナに親近感が湧いたようであった。
前世を思い出す前のサナは、小説の悪役として、レオンに猛アプローチしていた。恋敵のリリアンナにも執拗に嫌がらせをしていた。レオンやリリアンナの気持ちなど微塵も考えず、自分中心に全ての物事を捉えて行動していたのだ。そんなサナが、アルベルクを前にして、「もし拒絶されたら……」という不安を抱くこと自体、リリアンナからしてみれば予想外なのだろう。
「女性からのお誘いを煙たがる男性は、ろくでなしですよ。勇気を出してお誘いしてみてください」
リリアンナからさらに強く背中を押されたサナは、胸元で拳を作り、「考えてみますわ」と小さく呟いた。
「ますます羨ましい……」
「え?」
「あっ……」
知らぬ間に声に出ていたみたいだ。サナは急いで口を覆うが、時既に遅し。大きな目を瞬かせるリリアンナを見て、聞かれてしまったと絶望した。
「失礼を承知でお尋ねするのですが……サナ様はエルヴァンクロー公爵と未だ夜を共にしていないのでしょうか?」
純粋無垢な顔で問いかけてくるリリアンナに対して嘘をつけるはずもなく。サナは素直に頷くほかなかった。リリアンナは、顎に人差し指を添えながら斜め上を見つめる。熟考しているらしい。
「……良いことを思いつきました! これは妙案ですよ!? 思い切ってサナ様から誘ってみてはいかがでしょう!?」
「……はい!?!?!?!?!?!?」
温室の外に聞こえるほどの大声で聞き返す。
「あら、聞こえませんでしたか? サナ様からエルヴァンクロー公爵をベッドにさそ」
「聞こえていますから!!!!!」
再度恥ずかしいことを口にしようとしたリリアンナを必死に止める。
リリアンナは、サナのほうからアルベルクを誘ってみてはどうだと提案してきたのだ。あの口下手で何を考えているのかよく分からないアルベルクを、サナが――。
「どういう、つもりだ、サナ」
エルヴァンクロー公爵夫妻の寝室の窓から射し込む薄い月明かりに照らされるのは、アルベルクの美貌。彼の頬は若干赤らんでいる。白いシャツの間からは、たくましい胸筋が覗いていた。獲物を前にしたサナは、舌なめずりしながらアルベルクの体の上に乗る。
「どういうつもりって、分かってるくせに」
嬌笑する。アルベルクの胸筋に手を這わせ、滑らかな肌を撫でる。サナは身に纏う寝間着をスルスルと脱いでいく。艶かしい肌があらわになると、アルベルクは生唾を飲み込んだ。
「アルベルク様、私と、一晩を共にしてください」
赤い唇から紡ぐ言葉に、アルベルクが狼狽える。次の瞬間、腕を引かれて押し倒された。アルベルクを見下ろしていた優越感溢れる光景からは一変、見上げる体勢となる。彼の顔が徐々に近づいてきて、口元に息がかかる。
「今夜は、眠れると思うな」
甘く痺れる低音ボイスと共に、唇を食べられてしまった。
あぁ、アルベルクの宣言通り、今夜は絶対に眠れない。快感と羞恥で死んでしまわないか心配だが、今気にするべきなのはそこではない。サナはアルベルクの背中に腕を回し、彼を受け入れたのであった。
「サナ様?」
妄想しながら涎を垂らし、うへへと笑っていると、リリアンナに呼ばれ現実に引き戻された。ハンカチを取り出して、急いで涎を拭い、わざとらしい咳を繰り返す。なんとか誤魔化せたか、普通の人ならば通用しなくとも相手はあの純粋なリリアンナだ。きっと騙されてくれるだr……。
「………………」
「………………コホン」
冷めた目を向けられ、淡い期待も粉々に砕かれた。最後に咳払いを追加してみたが、それでもダメらしい。世間知らずの純粋なヒロイン様だと思っていたが、イメージと全然違う。案外鋭い。サナの誤魔化し方が単純に下手なのかもしれないが。
「妄想の中では上手く誘えていましたか?」
「ふぁ!?!?!? な、何をっ、そんな妄想だなんてっ、リリアンナ様もおかしなことを申しますのね! オホホホホ」
「………………」
「オホホ、ホ、ホ……」
再び温室が極寒の気温となり、サナは完全に意気消沈してしまった。
「一度、実践してみてはいかがでしょうか? 昨日や先程の様子を見ている限り、エルヴァンクロー公爵はサナ様を大切に思っておいでのはずです。きっと、サナ様のお誘いを優しく受け止めてくださると思いますよ」
リリアンナは近くの花に顔を近づけながら、麗しく微笑んだ。さすがは小説のヒロイン。彼女の微笑みの浄化力に勝るものはない。「我を見ろ!」と言わんばかりに咲き誇る花たちも彼女から舞うキラキラに、「負けた……」と萎んでしまった。
「受け止めて、くださるでしょうか。もし、拒絶されてしまったら……」
万が一、アルベルクに酷く拒絶されてしまったら、サナはしばらく立ち直れない。
「サナ様は、拒絶されたらなどと考えるお方ではないと思っておりましたが……サナ様も普通の女の子なのですね」
リリアンナはサナに親近感が湧いたようであった。
前世を思い出す前のサナは、小説の悪役として、レオンに猛アプローチしていた。恋敵のリリアンナにも執拗に嫌がらせをしていた。レオンやリリアンナの気持ちなど微塵も考えず、自分中心に全ての物事を捉えて行動していたのだ。そんなサナが、アルベルクを前にして、「もし拒絶されたら……」という不安を抱くこと自体、リリアンナからしてみれば予想外なのだろう。
「女性からのお誘いを煙たがる男性は、ろくでなしですよ。勇気を出してお誘いしてみてください」
リリアンナからさらに強く背中を押されたサナは、胸元で拳を作り、「考えてみますわ」と小さく呟いた。
155
お気に入りに追加
527
あなたにおすすめの小説
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
たとえ番でないとしても
豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」
「違います!」
私は叫ばずにはいられませんでした。
「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」
──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。
※1/4、短編→長編に変更しました。
この朝に辿り着く
豆狸
恋愛
「あはははは」
「どうしたんだい?」
いきなり笑い出した私に、殿下は戸惑っているようです。
だけど笑うしかありません。
だって私はわかったのです。わかってしまったのです。
「……これは夢なのですね」
「な、なにを言ってるんだい、カロリーヌ」
「殿下が私を愛しているなどとおっしゃるはずがありません」
なろう様でも公開中です。
※1/11タイトルから『。』を外しました。
公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます
柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。
社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。
※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。
※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意!
※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
hotランキング1位入りしました。ありがとうございます
貴方の運命になれなくて
豆狸
恋愛
運命の相手を見つめ続ける王太子ヨアニスの姿に、彼の婚約者であるスクリヴァ公爵令嬢リディアは身を引くことを決めた。
ところが婚約を解消した後で、ヨアニスの運命の相手プセマが毒に倒れ──
「……君がそんなに私を愛していたとは知らなかったよ」
「え?」
「プセマは毒で死んだよ。ああ、驚いたような顔をしなくてもいい。君は知っていたんだろう? プセマに毒を飲ませたのは君なんだから!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる