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第114話 移りゆく景色と共に変わりゆく心
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レイティーン帝国軍極南部司令官並びにサレオン公爵家当主バーレント・ベン・ラ・サレオンが戦死したという話は、瞬く間に帝国中へと広がった。南の支配者の突然の死に、民たちはもちろん、皇族も悲しんだという。
ジークルドとラダベル、そしてアデルとオースター侯爵は、極南の領地で行われるサレオン公爵の葬儀に参加することになった。
サレオン公爵家の意向により、故人と親しい人間、一族、それから軍のトップの軍人だけが葬儀に出席することを許された。当初は、ラダベルは参加しない予定でいたが、ジークルドの妻ということもあり、急遽出席が決まったのであった。
秋の匂いも薄れる頃、四人は目的地の南部へと出発した。南部への道のりは、馬と列車を乗り継ぐ。馬に乗り、途中の村の宿で休憩を挟んだあと、駅に到着した。四人は、皇族の直系のアデルの権力により、事前に貸し切られた列車に乗り込んだ。
ジークルドとラダベルは、列車内の豪華な寝室で過ごしていた。空が黄昏れる。窓から夕日の光が射し込んだ。次々と移りゆく景色に魅了されるラダベルは、窓際に置かれた椅子に座って外を眺めていた。
「ラダベル」
名を呼ばれ顔を上げると、すぐ傍にジークルドが立っていた。
「疲れていないか?」
「……大丈夫です」
「ろくに寝ていないだろう? 昨晩泊まった宿でも……朝方まで起きていたではないか」
「ご、ご存じだったのですか……?」
喫驚しながら問いかけると、ジークルドは首を縦に振った。
極東にあるルドルガー伯爵家の城を出発してから、ラダベルはなかなか眠りにつけない日々が続いていた。環境が急激に変わった影響もあるとは思う。しかし眠れない理由としては、ほかに原因がある。ジークルドのもとに嫁ぐために精神状態が不安定の中、皇都から遥々移動してきた出来事を思い出してしまうこと、そして彼女自身も原因不明の嫌な予感を感じてしまっていること。ふたつの原因が彼女が眠れない理由である。
春頃、ラダベルはジークルドのもとに嫁入りした。今のように、列車に揺られ続けた日々は、言い表しようがないほど、苦痛であった。結果的には嫁いできて万々歳であったが、その時はまだ、これからどうなるかなんて知らなかった。恐怖と辛苦を感じるのは当然だろう。
それに加え、正体不明の胸騒ぎがあるのだ。何に対してか、どうして感じているのか、分からない。だが、何かしら引っかかることがあるのは事実だった。
「………………」
ラダベルの顔色は、悲愴に塗れた。
サレオン公爵が亡くなったのは、残念だった。軍人としては名誉ある死だとしても、南部の領主として亡くなるには、あまりにも早すぎた。歳若い伴侶も残し、この世を去ってしまった。別に、彼の死を疑っているのではない。弔いの葬儀に、何かの違和感を感じているのだ。それを考えすぎてしまうがあまり、眠れない日々が続き、気づいたらラダベルの目の下には、くっきりと隅がこびりついてしまっていた。
「夕食までまだ時間がある。少し仮眠を取ったらどうだ」
ジークルドがラダベルの目元に触れる。彼の手が目元を撫でるのを、受け入れる。ジークルドの手は、大きくてたくましい。
「いいえ、夜にしっかり寝ることにします」
「そうか……。本当に大丈夫か?」
「はい。ジークルド様も大変な時期ですのに……ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
ラダベルが頭を下げる。
長年軍を共にしたサレオン公爵を亡くし、ジークルドはきっと精神的にも辛い時期のはず。それなのに彼に心配をかけるようなことをして…。不出来な妻だ、とラダベルは自分を呪ったのだった。
「迷惑なんて思っていないから心配するな。俺のほうこそ……無理に連れてきてしまって、すまない」
ジークルドはその場に膝をつき、ラダベルの手を握って、その手の甲に温かいキスを落とした。王子様さながらの一連の行動に、ラダベルは胸を高鳴らせる。
(あぁ、私、どうしようもなくジークルド様のことが好きだ……)
ラダベルはそんなことを思いながら、椅子から立ち上がりジークルドに抱きついた。
「ラダベル……?」
「………………」
ラダベルは、ジークルドの胸元に顔を埋めた。彼とすれ違わないよう、彼の思いを引き止めることができるよう、彼女は必死に腕に力を込めた。
ジークルドとラダベル、そしてアデルとオースター侯爵は、極南の領地で行われるサレオン公爵の葬儀に参加することになった。
サレオン公爵家の意向により、故人と親しい人間、一族、それから軍のトップの軍人だけが葬儀に出席することを許された。当初は、ラダベルは参加しない予定でいたが、ジークルドの妻ということもあり、急遽出席が決まったのであった。
秋の匂いも薄れる頃、四人は目的地の南部へと出発した。南部への道のりは、馬と列車を乗り継ぐ。馬に乗り、途中の村の宿で休憩を挟んだあと、駅に到着した。四人は、皇族の直系のアデルの権力により、事前に貸し切られた列車に乗り込んだ。
ジークルドとラダベルは、列車内の豪華な寝室で過ごしていた。空が黄昏れる。窓から夕日の光が射し込んだ。次々と移りゆく景色に魅了されるラダベルは、窓際に置かれた椅子に座って外を眺めていた。
「ラダベル」
名を呼ばれ顔を上げると、すぐ傍にジークルドが立っていた。
「疲れていないか?」
「……大丈夫です」
「ろくに寝ていないだろう? 昨晩泊まった宿でも……朝方まで起きていたではないか」
「ご、ご存じだったのですか……?」
喫驚しながら問いかけると、ジークルドは首を縦に振った。
極東にあるルドルガー伯爵家の城を出発してから、ラダベルはなかなか眠りにつけない日々が続いていた。環境が急激に変わった影響もあるとは思う。しかし眠れない理由としては、ほかに原因がある。ジークルドのもとに嫁ぐために精神状態が不安定の中、皇都から遥々移動してきた出来事を思い出してしまうこと、そして彼女自身も原因不明の嫌な予感を感じてしまっていること。ふたつの原因が彼女が眠れない理由である。
春頃、ラダベルはジークルドのもとに嫁入りした。今のように、列車に揺られ続けた日々は、言い表しようがないほど、苦痛であった。結果的には嫁いできて万々歳であったが、その時はまだ、これからどうなるかなんて知らなかった。恐怖と辛苦を感じるのは当然だろう。
それに加え、正体不明の胸騒ぎがあるのだ。何に対してか、どうして感じているのか、分からない。だが、何かしら引っかかることがあるのは事実だった。
「………………」
ラダベルの顔色は、悲愴に塗れた。
サレオン公爵が亡くなったのは、残念だった。軍人としては名誉ある死だとしても、南部の領主として亡くなるには、あまりにも早すぎた。歳若い伴侶も残し、この世を去ってしまった。別に、彼の死を疑っているのではない。弔いの葬儀に、何かの違和感を感じているのだ。それを考えすぎてしまうがあまり、眠れない日々が続き、気づいたらラダベルの目の下には、くっきりと隅がこびりついてしまっていた。
「夕食までまだ時間がある。少し仮眠を取ったらどうだ」
ジークルドがラダベルの目元に触れる。彼の手が目元を撫でるのを、受け入れる。ジークルドの手は、大きくてたくましい。
「いいえ、夜にしっかり寝ることにします」
「そうか……。本当に大丈夫か?」
「はい。ジークルド様も大変な時期ですのに……ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
ラダベルが頭を下げる。
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「迷惑なんて思っていないから心配するな。俺のほうこそ……無理に連れてきてしまって、すまない」
ジークルドはその場に膝をつき、ラダベルの手を握って、その手の甲に温かいキスを落とした。王子様さながらの一連の行動に、ラダベルは胸を高鳴らせる。
(あぁ、私、どうしようもなくジークルド様のことが好きだ……)
ラダベルはそんなことを思いながら、椅子から立ち上がりジークルドに抱きついた。
「ラダベル……?」
「………………」
ラダベルは、ジークルドの胸元に顔を埋めた。彼とすれ違わないよう、彼の思いを引き止めることができるよう、彼女は必死に腕に力を込めた。
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