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第100話 待ち侘びし援軍

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 アデルが戦争に向かってから、数日が経った。病棟に運ばれてくる軍人たちはあとを絶たない。侍女たちも酷く疲弊してしまっていた。同様に、ラダベルも心身ともに脆弱ぜいじゃくしていた。
 そんな中、南部でも戦争が勃発したという情報が入った。騒ぎに便乗した他国の仕業だろう。レイティーン帝国軍を大きく錯乱さくらんさせるため、ヴォレン王国やアレシオン教国に買収されたのかもしれない。
 東部の国境付近で行われている戦争では、アデル率いる軍が優勢であるらしい。しかしそれも、いつまで続くことか。

『なんとかなるように既に手は打った』

 出陣前、アデルはそう言っていた。果たして彼の言う通り、本当に手は打たれているのか。ラダベルは、憂慮ゆうりょする。いつの間にか、ジークルドの安否よりもアデルのことを考えてしまっている。軍と呼べるのかも危うい少ない人数で大丈夫なのだろうか、と。

「新たな負傷者です!」

 医者の見習いの叫び声が聞こえる。ラダベルは一目散に建物の外へと向かった。負傷者を運んでいるほかの軍人たちの姿が。その時、開いた門の奥、何やら軍勢が見えた。

「あれ、は……」

 ラダベルは立ち止まり、その軍勢に目を奪われる。負傷者を運ぶ軍人たちが彼女の横を通り過ぎていく。それを気にも留めず、ラダベルは徐々に近づいてくる軍勢を眺め続けた。もしかして、敵が攻めてきたのだろうか。そんなはずは……。東部のとりでが突破されたとでもいうのか。ありえない、ありえるはずがない。最悪の未来を想定したラダベルだが、軍勢が掲げる旗がふと視界に入る。それは、レイティーン帝国軍の紋章であった。

(敵軍じゃない。あれは、援軍だわ)

 ラダベルは感涙かんるいむせぶ。手の甲で乱暴に涙を拭い、まっすぐと前を見据える。そして門まで歩を進めた。馬に乗り、先頭を悠々と歩いていた人物と接近する。女軍人であった。ベビーブルーの長髪を三つ編みにして肩に流した女性は、ラベンダーグレイの瞳を持つ超弩級ちょうどきゅうの美女だった。気高く美しい姿に、ラダベルは一瞬で心を奪われてしまう。
 ひやりとした空気が流れる。圧倒的なカリスマ性と共に感じるのは、居心地の悪さ。胸騒ぎがする。ラダベルは女軍人に対して、ろくに声も発することができなかった。黒生地に青色の刺繍が施された軍服を纏った美しき女軍人は、馬から華麗に降りる。

「あなたが東部の女主人か」

 赤い唇から放たれる声まで綺麗だ。ラダベルはその美しさに負けじと、一度瞬きをする。トパーズ色の瞳が光り輝いた。

「左様でございます。私が東部の女主人です。レイティーン帝国軍極東部司令官ルドルガー伯爵が妻、ラダベル・ラグナ・イルミニア・ルドルガーと申します」

 ラダベルは貴族夫人としての完璧な挨拶をして見せた。

悪女か……」

 女軍人は呟く。

「我が名はエリザベート・テレサ・ディ・オースター。レイティーン帝国軍極北部の司令官であり、オースター侯爵家の当主だ」

 女軍人は名乗る。オースター侯爵は、手に持った大槍を傍らの部下に預けた。部下は四苦八苦しながら大槍を受け取った。
 エリザベート・テレサ・ディ・オースター。レイティーン帝国軍極北部司令官。オースター侯爵家当主。大将の階級を賜った最強の女軍人だ。

「オースター侯爵、お会いできて光栄でございます」
「こちらこそ。こちらこそルドルガー大将の奥方に会えて光栄だ」

 エリザベートはラダベルのことをじっと見つめながらそう言った。

「我が極北軍は、総司令官の援軍として馳せ参じた」

 オースター侯爵は宣する。援軍という言葉に、ラダベルは感慨無量かんがいむりょうとなる。アデルが打っていた手とは、オースター侯爵による援軍のことであったのだ。

「我が軍は今すぐ出陣し、加勢に向かう。東部の女主人よ、ここは頼んだぞ」
「お任せください。ご武運をお祈りしております」

 ラダベルは華麗に一礼する。オースター侯爵は馬に乗り、軍を引き連れ去っていったのだった。彼女のたくましい後ろ姿を見つめて、愁眉しゅうびを開いた。



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読者の皆様

いつも当作品を読んでくださり、誠にありがとうございます。
この度、当作品が第100話を達成いたしました!
100話を達成するのは、当作品で4作目となります。ここまで書き続けることができたのは、ご愛読くださっている読者の皆様方のおかげです。本当にありがとうございます。
これからも皆様方への感謝の気持ちを忘れずに、完結まで責任を持って書かせていただきたいと思っております。まだまだ続きますが、最後までお付き合いくださると幸いです。

電子書籍化・コミカライズ作品についての詳細はX(@I_Y____02)まで!

I.Y
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