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第69話 久々にふたりきり
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アデルが皇帝への遣いの男に、いろいろと説明している間、ラダベルとジークルドは共にジークルドの自室へと帰ってきた。勝手に抜け出してもいいのか、と思ったが、アデルは完全に仕事モードに入っていたらしく、ラダベルとジークルドがふたりで立ち去ることに関しては何も言わなかった。意外と仕事のオンとオフが激しいタイプなのだろうか。ラダベルは、先程のアデルの仕事モードの表情を思い出し、思わず胸を高鳴らせてしまった。首を横に振り、脳内のアデルをかき消して煩悩を捨て去る。いくら顔面最強とは言え、騙されないぞと己を律したのであった。
「誰のことを考えていた?」
「へっ!?」
突然ジークルドに問いかけられ、ラダベルは変な声を上げてしまった。しまった、と両手で口を覆う。時既に遅し。露骨に反応してしまった自分を呪う。ジークルドはラダベルに背を向けたまま、マントを剥ぎ取り、軍服の首元のボタンを外す。プチッ、プチッという音が静まり返った空間に反響した。ラダベルは、彼の仕草にゴクリと息を呑む。ジークルドは軍服を脱ぎ終わり、ベッドに放り投げた。さらには白シャツのボタンまでをも外していく。その動作に、ラダベルの心臓は今にも爆発してしまいそうであった。
(ひ、久々にっ……!? 久々なの!? いや、でも……戦争前まで、私はジークルド様を怒らせていたわけであって……それが帳消しになったわけではなくて……えっと、その……)
ラダベルの心の中はだいぶカオスになっている。グルグルとする嵐のような思考。その時、ジークルドの後頭部がふと目に入る。簪をつけた白銀の髪が美しい。戦場までも身につけていってくれたのだろうか。そう推測した時、ジークルドは踵を返して、ラダベルに近寄った。数メートルが数十センチの距離感となる。ラダベルは彼を見上げた。ジークルドはラダベルの顎を人差し指と中指で擽る。ラダベルは、あまりの擽ったさと気恥しさに目を瞑った。
「元帥のことを考えていたのか?」
「っ……」
ジークルドはラダベルの髪の毛を触り、耳の後ろに丁寧にかける。そして、ラダベルの耳に唇を近づけた。
「どうなんだ、ラダベル」
「あっ……」
甘い声が出てしまったラダベル。ジークルドに囁かられただけで腰が抜けてしまいそうになるが、ジークルドによって支えられる。
「正直に言ってくれ」
「……か、考えて、いました。でも、ジークルド様が思っているようなことではっ……」
「俺が思っていることとはなんだ」
ラダベルは自らの失言に気がつく。顔面から血の気が引いていく。黙り込んだ彼女に、ジークルドが問いかける。
「まだ、元帥に未練があるのではないかということか?」
「……はい」
ラダベルは隠すことなく素直に頷く。ジークルドは、彼女から距離を取った。もしかしたらこのままベッドインするのではないかと若干の期待をしていたが、それとは真逆の結果となってしまい、ラダベルは悲しい表情を浮かべた。
「正直まだ疑っている部分はあるが、お前の言葉は信じたい」
ジークルドの言葉に、ラダベルは仰天する。
あぁ、なんて優しい人なんだろうか。ジークルドはどこまでいっても優しい人。そんな人を自分は欺いて、裏切ってしまったのだ。自分の未熟さを露呈してしまった。やはり、ジークルドに自分はふさわしくないではないか。ラダベルの心の中に芽生えた感情が徐々に大きくなる。
次の瞬間、ラダベルの瞳から涙が溢れ落ちる。ジークルドはそれを見て、愕然とする。
「な、なぜ泣くっ?」
「……………」
ジークルドの指摘を受けて、ラダベルは咄嗟に目元を擦った。ジークルドに見えないよう、顔を隠し背を向ける。
情けない。こんな自分が情けなくて仕方がない。ジークルドに見合わない自分が恥ずかしい。ジークルドが近づいてくる気配を感じる。そのまま後ろから抱きしめられる。ジークルドの温もりに包まれ、ラダベルの涙腺がさらに緩んだ。彼の腕を掴んで、ラダベルは紅涙を絞る。ジークルドの白シャツに、彼女の涙が染み込まれていった。
「誰のことを考えていた?」
「へっ!?」
突然ジークルドに問いかけられ、ラダベルは変な声を上げてしまった。しまった、と両手で口を覆う。時既に遅し。露骨に反応してしまった自分を呪う。ジークルドはラダベルに背を向けたまま、マントを剥ぎ取り、軍服の首元のボタンを外す。プチッ、プチッという音が静まり返った空間に反響した。ラダベルは、彼の仕草にゴクリと息を呑む。ジークルドは軍服を脱ぎ終わり、ベッドに放り投げた。さらには白シャツのボタンまでをも外していく。その動作に、ラダベルの心臓は今にも爆発してしまいそうであった。
(ひ、久々にっ……!? 久々なの!? いや、でも……戦争前まで、私はジークルド様を怒らせていたわけであって……それが帳消しになったわけではなくて……えっと、その……)
ラダベルの心の中はだいぶカオスになっている。グルグルとする嵐のような思考。その時、ジークルドの後頭部がふと目に入る。簪をつけた白銀の髪が美しい。戦場までも身につけていってくれたのだろうか。そう推測した時、ジークルドは踵を返して、ラダベルに近寄った。数メートルが数十センチの距離感となる。ラダベルは彼を見上げた。ジークルドはラダベルの顎を人差し指と中指で擽る。ラダベルは、あまりの擽ったさと気恥しさに目を瞑った。
「元帥のことを考えていたのか?」
「っ……」
ジークルドはラダベルの髪の毛を触り、耳の後ろに丁寧にかける。そして、ラダベルの耳に唇を近づけた。
「どうなんだ、ラダベル」
「あっ……」
甘い声が出てしまったラダベル。ジークルドに囁かられただけで腰が抜けてしまいそうになるが、ジークルドによって支えられる。
「正直に言ってくれ」
「……か、考えて、いました。でも、ジークルド様が思っているようなことではっ……」
「俺が思っていることとはなんだ」
ラダベルは自らの失言に気がつく。顔面から血の気が引いていく。黙り込んだ彼女に、ジークルドが問いかける。
「まだ、元帥に未練があるのではないかということか?」
「……はい」
ラダベルは隠すことなく素直に頷く。ジークルドは、彼女から距離を取った。もしかしたらこのままベッドインするのではないかと若干の期待をしていたが、それとは真逆の結果となってしまい、ラダベルは悲しい表情を浮かべた。
「正直まだ疑っている部分はあるが、お前の言葉は信じたい」
ジークルドの言葉に、ラダベルは仰天する。
あぁ、なんて優しい人なんだろうか。ジークルドはどこまでいっても優しい人。そんな人を自分は欺いて、裏切ってしまったのだ。自分の未熟さを露呈してしまった。やはり、ジークルドに自分はふさわしくないではないか。ラダベルの心の中に芽生えた感情が徐々に大きくなる。
次の瞬間、ラダベルの瞳から涙が溢れ落ちる。ジークルドはそれを見て、愕然とする。
「な、なぜ泣くっ?」
「……………」
ジークルドの指摘を受けて、ラダベルは咄嗟に目元を擦った。ジークルドに見えないよう、顔を隠し背を向ける。
情けない。こんな自分が情けなくて仕方がない。ジークルドに見合わない自分が恥ずかしい。ジークルドが近づいてくる気配を感じる。そのまま後ろから抱きしめられる。ジークルドの温もりに包まれ、ラダベルの涙腺がさらに緩んだ。彼の腕を掴んで、ラダベルは紅涙を絞る。ジークルドの白シャツに、彼女の涙が染み込まれていった。
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