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第68話 軍議

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 客間にて、ラダベル、ジークルド、アデルの三人は座っていた。
 戦争において、別の匂いがするとはどういうことだろうか。敵国ルシュ王国に勝利した。隣国ヴォレン王国にもなんらかの手段で罰が下されるだろう。それで、此度の戦争は終結するはず。しかしながら、真相はどうだろうか。また別の問題が発生するのだろうか。いいや、もう発生しているのかもれない。ラダベルは、ジークルドとアデルを交互に見つめた。ジークルドが沈黙を破る。

「ルシュ王国軍との戦争ですが、我が軍の圧勝にて終戦しました。しかし、あまりにも呆気なかったのです」
「呆気ない?」
「はい。武装した特殊部隊も噂ほど強くなかったですし、ルシュ王国軍を指揮する軍人を捕らえたあとの軍の撤退てったいの判断も恐ろしく早かった。何かしら、裏があるのでしょう」

 ジークルドの推測に対して、アデルは考え込む仕草を見せる。そしてすぐに、顔を上げた。

「裏に誰かいるな」

 アデルの言葉に、ラダベルは大きく目を開く。ジークルドは頷く。

「その可能性が最も高いかと」

 裏に誰かがいるとは、一体どういうことなのか。まさか、極東軍の中に裏切り者がいるのか。ラダベルはぶるりと身を震わせながらも、疑問を解消すべくなんとか口を開く。

「裏切り者がいる、ということですか?」
「いいや、裏切り者ではない。国だ」

 ジークルドが答える。ラダベルはヒュッと喉を鳴らした。
 まだ、戦争は終わっていない。裏切り者ではなかったものの、どこぞの国がルシュ王国とヴォレン王国に味方しているというのか。

「どこの国だ」
「……そこまではまだ」

 ジークルドの返答に、アデルが舌打ちする。

「ですが、考えられる国は、限られています」

 アデルはゆっくりと瞳を開く。ウォーターブルーの双眸が煌めく。

「滅亡したリーデル帝国と長きにわたり同盟を結んでいた、アレシオン教国です」

 ジークルドが挙げた国の名に対して、アデルは溜息を吐いた。どうやら彼らからしたら、ルシュ王国とヴォレン王国の味方につく国など、だいぶ限られているらしい。
 アレシオン教国。10年前、国を挙げた大戦争の末、レイティーン帝国はリーデル帝国を滅亡に追い込んだ。当時、リーデル帝国の同盟国であったアレシオン教国は、リーデル帝国軍に加勢をしていた。しかしながら、レイティーン帝国軍の力は凄まじく、アレシオン教国も甚大じんだいな被害を出したのであった。しかし、10年という時を経て、アレシオン教国はレイティーン帝国を滅亡させようと目論んでいる。長年の同盟国であったリーデル帝国を滅亡させたレイティーン帝国に、復讐ふくしゅうをしようと考えているのかもしれない。
 アレシオン教国は、巨大な国だ。教国の王である教祖は、自らを神の子とあがめ、大量の信者たちから異常なまでの信仰しんこうを受けている。教国の厄介なところは、老若男女関係なく、戦争に参加することだ。軍人という括りはなく、戦う者は皆一般の平民の信者たち。アレシオン教国ほど、異常な思考を持った国はこの世にはないだろう。またも、大戦争が起こるのだろうか。

「恐らく、今回戦ったルシュ王国の特殊部隊も偽りだな。本物は、アレシオン教国か、もしくはヴォレン王国に隠れているだろう」

 アデルの見事な推測に、ジークルドは首肯する。どうやらアデルは第二皇子という権力だけで、司令官の椅子に座っているわけではないようだ。しっかりと軍人としての実力は、兼ね備えている。長年アデルと一緒に過ごしてきたラダベルも、彼の仕事モードは初めて見る。そのため不覚にも、胸を高鳴らせてしまった。

「アレシオン教国にろくな策など存在しない。軍がなんたるかも知らぬ素人のめだ。徹底的に潰す」
「はっ」

 ジークルドは座ったまま、敬礼する。

「傘下のヴォレン王国の処罰に関しては陛下と協議きょうぎしている最中だが……アレシオン教国をも引き入れたとなれば、話は別だな。もはやヤツらに温情おんじょうは必要ない。陛下に遣いを出す」
「かしこまりました」

 トントン拍子に進んでいく話に、ラダベルはただただ圧倒され続けたのであった。
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