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第35話 双子の可愛さ

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 ラダベル、セリーヌ、ミアは、お目当ての物、簪を購入したあと、市場で食べ歩きの物を購入し、昼食を取った。その後、セリーヌとミアの買い物に付き合い、久々の外を満喫まんきつしたのであった。セリーヌとミアとの外出を心から楽しんでいると、既に太陽が空を赤く燃やす時間帯となっていた。

「そろそろ帰りましょうか」
「そうですね。あまり遅くなっては、旦那様に見つかってしまうかもしれませんし……」
「裏道からこっそり参りましょう」

 セリーヌ、ミアの顔を見て、ラダベルは頷く。城への道を帰ろうと、市場の出口へ向かう。するとひとりの男性と視線がかち合った。

「っ……」

 ラダベルは速攻そっこうで目を逸らした。しかし、時既に遅い。彼女だけでなく、セリーヌもミアも気づいたらしく、ごきゅりと喉を鳴らした。ラダベルはもう一度、恐る恐る男性を見遣る。するとそこには、私服姿のエリアスが立っていた。彼はラダベルをはじめとした三人の姿を目撃したからか、目を見張る。エリアスの両腕には、天使のような少年少女が抱かれていた。ラダベルの興味は、エリアスから少年少女に移る。女の子は、アッシュグレイの髪をツインテールにした、ブルーラベンダーの瞳が印象的の美少女。男の子は、アッシュグレイの髪に、スカイブルーの瞳が綺麗な美少年だ。少年少女は、瓜二うりふたつ。恐らく、双子だろう。またふたりは、エリアスにもよく似ていた。

「んでここに……」

 エリアスは現状を理解できぬまま、唖然と呟く。茫然自失ぼうぜんじしつとしていた。

「おにいちゃん? どうしたの?」

 女の子がエリアスを「おにいちゃん」と呼ぶ。

「………………」

 男の子は、エリアスの服をギュッと掴んだ。双子の仕草を見たラダベルは、に落ちたため首肯した。まさかエリアスに、こんなにも幼い双子の妹と弟がいるとは。軍の人間、それもエリアスと、会ってはいけない場所で会ってしまったため、どう切り抜けようか一瞬困惑したが、心配はいらなかったみたいだ。ラダベルは人の悪い笑みを浮かべて、エリアスに歩み寄った。セリーヌとミアは、彼女のまさかの行動に驚く。

奇遇きぐうですね、バート少尉。その子たちは、あなたのご家族かしら?」
「っ…………。だったらなんだよ」
「可愛い子たちね。お名前を教えてもらっても?」

 ラダベルが双子に問いかける。先程までの人の悪い笑みはどこへやら。彼女はいつの間にか、純度百パーセントのけがれなき微笑みを湛えていた。そんな彼女を見た女の子は、ラダベルに手を伸ばす。

「きれい……。おひめさまみたい……」

 エリアスが咄嗟に止めようとするが、その前にラダベルが女の子の手をしっかりと握った。

「私はラダベル。あなたもお姫様みたいで素敵ね。お名前はなんて言うの?」
「ラン。ラン・バート!」
「そう、ランって言うの。よろしくね」
「うん! ラダベルおねえちゃん!」

 ランと名乗った女の子は、白く小さな歯を見せて笑った。無邪気むじゃきという言葉が似合うランは、ラダベルの心を擽る。それに耐えかねていると、エリアスのもう片方の腕に抱かれた男の子からの視線を感じる。

「さて、あなたはランのお兄ちゃん? それとも弟くんかな?」

 続いて、男の子のほうへ問いかけてみる。ところが、極度の恥ずかしがり屋なのか、なかなか答えようとしない。様子を見る限り、ランの弟のようだ。

「あら……。その胸のバッチ、とってもかっこいいわね」

 ラダベルが褒めたのは、男の子の胸についていた子供用のバッチだった。良いところに目をつけたらしく、褒められた男の子は空色の目を輝かせた。

「ぼ、ぼく……レン……」
「ふふ、レン、よろしくね」
「………………」

 レンは返事をするのではなく、首を縦に振るに留まった。天真爛漫てんしんらんまんのランと恥ずかしがり屋のレン。可愛いにもほどがあるだろう。ラダベルは堪らなくなり、悶え苦しむ。瞬時に双子を懐に入れてみせた彼女に、エリアスはなんとも言えない顔をしていた。

「バート少尉。まさかあなたにこんなにも可愛い子たちがいるなんて……」

 ラダベルは頬に手を押し当て、うっとりとランとレンを見つめる。するとエリアスが顔を真っ赤にして叫んだ。

「オレの子じゃねぇ!」
「知っていますよ。妹さんと弟さんでしょう?」

 ラダベルがすんっと真顔になって答えると、エリアスがしてやられた、と舌打ちをかました。

「交換条件ね、バート少尉」
「………………」

 エリアスは黙り込む。どうやらラダベルが言いたいことを分かっているようだ。

「デレッデレの顔で可愛い可愛い双子の子守りをしていたと噂を流されたくなければ、私たちがここにいることを他言しないでくださいね」
「デレッ…………てねぇ……」

 なんとか反論するも、否定はできていない。どうやらエリアスの口止めに成功したようだ。ラダベルは、ひと安心する。

「じゃあ、またね。ラン、レン」

 ラダベルが手を振って微笑むと、ランとレンも手を振り返してくれた。
 緊迫感と安らぎの時間は、こうして終わりを遂げたのであった。
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