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第27話 初日の食事
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太陽が空を赤く燃やす。灼熱の炎を上げる赤い空が美しい。
一日の間、長く眠ったからか、二日酔いに効く薬も効いてきたからか、気分はずっと爽快であった。腰元を強くしめつけないエンパイアラインのドレスを纏ったラダベルは、随分と顔色がよくなっていた。
化粧室で大きくけのびをするラダベル。その拍子に思わずお腹の音が鳴ってしまった。
「あっ……」
咄嗟にお腹を押さえ、鏡越しにセリーヌを見遣る。セリーヌは目をぱちくりとさせた直後、口元に手を当てながら可愛らしく笑った。
「食卓の間に向かいましょう、奥様」
ラダベルは、顔を赤らめ、頷いたのであった。
セリーヌと共に化粧室をあとにして、食卓の間に向かう。窓から夕日が射し込み、白銀のドレスが燦然と輝いていた。
「セリーヌ。薬、ありがとう。おかげで二日酔いも完治したわ」
「それはよかったです。ルドルガー伯爵家専属の医者は、極東部所属の軍医の方が務めております。腕は確かでございます」
「軍医の方が? それは光栄ね。いつかお礼を言わなきゃいけないわ」
ラダベルがそう言うと、セリーヌは首肯した。
宮の食卓の間へと到着すると、セリーヌが扉を開いた。促されるがまま、間に入ると、食卓には既に夕食が準備してあった。胃もたれしないような優しい食事に釘付けになっていると、ふと上座に座る男性の存在に気がつく。食事から視線を外し、男性を見ると、そこにはジークルドがいた。堂々と腕を組んで、ラダベルを注視している。
「来たか」
「……ジークルド様」
ラダベルの背後でバタン、と扉が閉められる音が響いた。事前に人払いをしたのか、食卓の間にはジークルドとふたりきりであった。長い沈黙が続く。ラダベルは、ジークルドそっちのけで、一日ぶりの食事に夢中になっていた自分を恥じた。
「座るといい」
沈黙を突き破ったジークルドの言葉に甘え、ラダベルは彼の近くの席に移動して恐る恐る腰掛けた。
「食べようか」
それを合図に、ラダベルとジークルドは、同時に食前の挨拶をする。フォークとナイフを手に取り、食事を開始した。ラダベルのためだけに用意された胃に優しい食事は、いつもより薄味だが、とてつもなく美味だ。一日ぶりの食事に、自然と涙が出てきそうになる。ジークルドがいなかったら、フォークとナイフを投げ出して、頬を押さえながら「美味しい~!!!」と叫んでいたことだろう。しかしジークルドの前で、そんな失態は犯せない。ラダベルはグッと我慢をして、ジークルドに問いかける。
「ところで、ジークルド様。どうしてここに?」
「……今日は半日の勤務で切り上げたからな、時間が空いた」
ジークルドの説明に、ラダベルは納得をする。
ジークルドは、正午には仕事を終わらせていた。それ故に、ラダベルの様子をわざわざ見に来てくれたのだ。せっかくできた自由時間を自身の疲労を癒すために使うのではなく、ラダベルのために割いた。ジークルドの風貌からは威厳が溢れているが、内面は聖人の如く優しい。世界一と言っても過言ではない、百人の乙女に問えばその全員がギャップ萌えと太鼓判を押すであろう底なしのギャップに、ラダベルは天を仰ぎたい衝動に駆られた。
「尊い…………」
ぽろっとこぼれた単語に、ジークルドは眉を顰めた。なぜラダベルがそんな言葉を漏らしたのか、理解できていない様子であった。考えても仕方がないと結論づけたらしい彼は、何度か咳払いをする。
「今日は、結婚して初めて迎える夕食だろう。共に食事でもすれば、夫婦の仲は深まると………………」
ジークルドは、フォークとナイフの動きを止める。餌を欲する魚のように、口をパクパクとさせている。次なる言葉を放つ心の準備がまだできていないのか。彼はやっとのことで決心し、大きく口を開く。
「………………ウィルが言っていた」
たっぷり数十秒。溜めて溜めて声にした事実に、ラダベルは美貌に笑みを湛えた。
「でしたら、ウィルに感謝しなければなりませんね。ジークルド様と共に食事することができて、私はとても嬉しいですから」
心に宿った本音を素直に伝えると、ジークルドは突然心臓辺りを押さえた。
「ジークルド様? 心臓が痛むのですか?」
「いや……気にするな」
ジークルドは本日二度目の咳払いをして、誤魔化した。フォークとナイフの動きを再開させ、懐かしの味がする食事を堪能し始める。ラダベルはどことなく不自然な言動を繰り返す彼を刮目し、小首を傾げる。
今のところ、離縁を言い渡される心配はなさそうだ。ジークルドもジークルドで、より良い夫婦関係を構築するために試行錯誤している様子。それに感謝しながら、ラダベルは微笑みを浮かべたのであった。
一日の間、長く眠ったからか、二日酔いに効く薬も効いてきたからか、気分はずっと爽快であった。腰元を強くしめつけないエンパイアラインのドレスを纏ったラダベルは、随分と顔色がよくなっていた。
化粧室で大きくけのびをするラダベル。その拍子に思わずお腹の音が鳴ってしまった。
「あっ……」
咄嗟にお腹を押さえ、鏡越しにセリーヌを見遣る。セリーヌは目をぱちくりとさせた直後、口元に手を当てながら可愛らしく笑った。
「食卓の間に向かいましょう、奥様」
ラダベルは、顔を赤らめ、頷いたのであった。
セリーヌと共に化粧室をあとにして、食卓の間に向かう。窓から夕日が射し込み、白銀のドレスが燦然と輝いていた。
「セリーヌ。薬、ありがとう。おかげで二日酔いも完治したわ」
「それはよかったです。ルドルガー伯爵家専属の医者は、極東部所属の軍医の方が務めております。腕は確かでございます」
「軍医の方が? それは光栄ね。いつかお礼を言わなきゃいけないわ」
ラダベルがそう言うと、セリーヌは首肯した。
宮の食卓の間へと到着すると、セリーヌが扉を開いた。促されるがまま、間に入ると、食卓には既に夕食が準備してあった。胃もたれしないような優しい食事に釘付けになっていると、ふと上座に座る男性の存在に気がつく。食事から視線を外し、男性を見ると、そこにはジークルドがいた。堂々と腕を組んで、ラダベルを注視している。
「来たか」
「……ジークルド様」
ラダベルの背後でバタン、と扉が閉められる音が響いた。事前に人払いをしたのか、食卓の間にはジークルドとふたりきりであった。長い沈黙が続く。ラダベルは、ジークルドそっちのけで、一日ぶりの食事に夢中になっていた自分を恥じた。
「座るといい」
沈黙を突き破ったジークルドの言葉に甘え、ラダベルは彼の近くの席に移動して恐る恐る腰掛けた。
「食べようか」
それを合図に、ラダベルとジークルドは、同時に食前の挨拶をする。フォークとナイフを手に取り、食事を開始した。ラダベルのためだけに用意された胃に優しい食事は、いつもより薄味だが、とてつもなく美味だ。一日ぶりの食事に、自然と涙が出てきそうになる。ジークルドがいなかったら、フォークとナイフを投げ出して、頬を押さえながら「美味しい~!!!」と叫んでいたことだろう。しかしジークルドの前で、そんな失態は犯せない。ラダベルはグッと我慢をして、ジークルドに問いかける。
「ところで、ジークルド様。どうしてここに?」
「……今日は半日の勤務で切り上げたからな、時間が空いた」
ジークルドの説明に、ラダベルは納得をする。
ジークルドは、正午には仕事を終わらせていた。それ故に、ラダベルの様子をわざわざ見に来てくれたのだ。せっかくできた自由時間を自身の疲労を癒すために使うのではなく、ラダベルのために割いた。ジークルドの風貌からは威厳が溢れているが、内面は聖人の如く優しい。世界一と言っても過言ではない、百人の乙女に問えばその全員がギャップ萌えと太鼓判を押すであろう底なしのギャップに、ラダベルは天を仰ぎたい衝動に駆られた。
「尊い…………」
ぽろっとこぼれた単語に、ジークルドは眉を顰めた。なぜラダベルがそんな言葉を漏らしたのか、理解できていない様子であった。考えても仕方がないと結論づけたらしい彼は、何度か咳払いをする。
「今日は、結婚して初めて迎える夕食だろう。共に食事でもすれば、夫婦の仲は深まると………………」
ジークルドは、フォークとナイフの動きを止める。餌を欲する魚のように、口をパクパクとさせている。次なる言葉を放つ心の準備がまだできていないのか。彼はやっとのことで決心し、大きく口を開く。
「………………ウィルが言っていた」
たっぷり数十秒。溜めて溜めて声にした事実に、ラダベルは美貌に笑みを湛えた。
「でしたら、ウィルに感謝しなければなりませんね。ジークルド様と共に食事することができて、私はとても嬉しいですから」
心に宿った本音を素直に伝えると、ジークルドは突然心臓辺りを押さえた。
「ジークルド様? 心臓が痛むのですか?」
「いや……気にするな」
ジークルドは本日二度目の咳払いをして、誤魔化した。フォークとナイフの動きを再開させ、懐かしの味がする食事を堪能し始める。ラダベルはどことなく不自然な言動を繰り返す彼を刮目し、小首を傾げる。
今のところ、離縁を言い渡される心配はなさそうだ。ジークルドもジークルドで、より良い夫婦関係を構築するために試行錯誤している様子。それに感謝しながら、ラダベルは微笑みを浮かべたのであった。
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