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第24話 お姫様抱っこ
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太陽の光により、目覚めを促される。瞼を震わせ、目を開けると、ぼやける視界には、茫々とした庭園が映し出された。
ラダベルは今より遥かに幼く、小さい。鴉の羽の如く美しい濡羽色の髪の上には、色とりどりの花で編まれた冠がちょこんと乗せられている。それを作ってくれたのは、ラダベルの目の前で頬を真っ赤に染め上げて照れているアデルであった。
「仕方がないから、結婚の約束をしてやる! それ以上暴れられたら堪ったものじゃないからな!」
その辺の女性よりも長い睫毛を揺らしながら、羞恥に耐えてそう言ったアデルは、チラチラとラダベルに視線を送ってくる。ラダベルは頭に鎮座する花の冠を両手で押さえて、満面の笑みで笑った。
心地よく温かな空気に触れたラダベルは、再び目を覚ました。先程の幼い頃の記憶は、夢であった。アデルや彼女にも、純粋無垢を絵に書いたような年頃があったのだ。総身がふわふわと揺れる感覚の中、そんなことを考える。久々に酒を大量に飲んでしまったからか、とラダベルは現状を把握しようと脳を活性化させる。揺られる感覚は止まらない。いつもよりもだいぶ高い目線。そして背中と足に触れる自分のものではない人の温もり。安心感を与えてくれる優しい香り。そして、間近に迫るジークルドの美貌。
「きゃっ!」
ジークルドの腕の中にいることに気がついたラダベルは、叫び声を上げてしまった。
「起きたか」
「……え、……え?」
「覚えていないか? 宴会の会場で派手なダンスを踊ったことを」
「う、そ……」
ジークルドの口から飛び出した信じがたい問いかけに、ラダベルの顔面は蒼白になる。人生最大、なんなら悪女に転生していると知った時よりも絶望する。派手なダンスとはなんなのか。見世物にもならないほどに珍妙な踊りを、軍人たちの前で披露してしまったのだろうか。地獄のような空気感に塗れた場面を想像したラダベルは、両手で開いた口を隠す。ジークルドは止めてくれなかったのか? ラダベルの矛先は、アルコールを摂取しすぎた自身ではなく、ジークルドへと向かう。ジークルドを無言で睨みつけると、彼の鉄仮面が壊れ、表情筋が緩む。
「ははっ」
悪戯心に溢れた少年の如く、笑いをこぼすジークルド。普段の厳格な彼からは予想もできないであろう可愛さに、ラダベルの心が射抜かれる。
「悪い、冗談だ。泥酔したあとは死んだように眠っていたぞ。変なダンスなど踊っていないから心配するな」
悪趣味な冗談に、驚きながらもラダベルは深く安堵した。
冷静になって考えてみると、とてつもなく恥ずかしい格好であることを自覚する。
「あ、あの、もう歩けますので、下ろしていただいてもよろしいですか?」
「……ふらついて転んでもらっても困る。寝室まで我慢してくれ」
「…………でもあまりにもこれはっ」
「俺たちは、夫婦となった。恥ずかしがる必要はない。助け合ってこそだろう」
想像以上に羞恥を感じる状況のため、なんとか下ろしてもらえないかと交渉してみるも、いとも簡単に丸め込まれてしまった。
ラダベルは先程、ジークルドと夫婦となった。まだまだ実感が湧かないが、感慨深い感覚にあることは事実だ。単純に嬉しいという気持ちがラダベルの中でぽっと芽生えた。ジークルドも良い関係を築こうと歩み寄ってくれている。ラダベルは言い表しがたい多幸感に浸った。しかし、次なる心配が顔を出す。
「あの……重くは、ないですか?」
「重いわけがないだろう」
「ですが、」
「女ひとりくらい、簡単に抱えられる」
ラダベルの心配をジークルドは一蹴する。それもそう。彼は軍人だ。極東部の司令官であり、大将という階級を賜っている。ラダベルひとりくらい、片手でも軽々と抱えられるだろう。いくら背伸びをしようとも埋まらないジークルドとの体格差に、悔しくなると同時に、胸が高鳴ってしまう。心臓の音が聞こえないよう、何度か深呼吸をしていると、いつの間にか、ラダベルが住まう宮の寝室前に到着をした。今日は一般の軍人も休日を与えられているため、部屋の前に見張りはいない。ジークルドは片手で器用に扉を開けた。
「お待ちください、ジークルド様。このドレスをどうにかしなければ……えっ」
ラダベルはそう訴えながら自身のドレスを見下ろした瞬間、もう既にウェディングドレスから簡易的なドレスへと着替えていることに気がついた。
「言っておくが、俺がやったのではないからな」
「しょ、承知しております……」
顔から火が出るほど美貌を赤らめたラダベルと、若干照れ気味のジークルドは、そのまま寝室へと消えたのであった。
ラダベルは今より遥かに幼く、小さい。鴉の羽の如く美しい濡羽色の髪の上には、色とりどりの花で編まれた冠がちょこんと乗せられている。それを作ってくれたのは、ラダベルの目の前で頬を真っ赤に染め上げて照れているアデルであった。
「仕方がないから、結婚の約束をしてやる! それ以上暴れられたら堪ったものじゃないからな!」
その辺の女性よりも長い睫毛を揺らしながら、羞恥に耐えてそう言ったアデルは、チラチラとラダベルに視線を送ってくる。ラダベルは頭に鎮座する花の冠を両手で押さえて、満面の笑みで笑った。
心地よく温かな空気に触れたラダベルは、再び目を覚ました。先程の幼い頃の記憶は、夢であった。アデルや彼女にも、純粋無垢を絵に書いたような年頃があったのだ。総身がふわふわと揺れる感覚の中、そんなことを考える。久々に酒を大量に飲んでしまったからか、とラダベルは現状を把握しようと脳を活性化させる。揺られる感覚は止まらない。いつもよりもだいぶ高い目線。そして背中と足に触れる自分のものではない人の温もり。安心感を与えてくれる優しい香り。そして、間近に迫るジークルドの美貌。
「きゃっ!」
ジークルドの腕の中にいることに気がついたラダベルは、叫び声を上げてしまった。
「起きたか」
「……え、……え?」
「覚えていないか? 宴会の会場で派手なダンスを踊ったことを」
「う、そ……」
ジークルドの口から飛び出した信じがたい問いかけに、ラダベルの顔面は蒼白になる。人生最大、なんなら悪女に転生していると知った時よりも絶望する。派手なダンスとはなんなのか。見世物にもならないほどに珍妙な踊りを、軍人たちの前で披露してしまったのだろうか。地獄のような空気感に塗れた場面を想像したラダベルは、両手で開いた口を隠す。ジークルドは止めてくれなかったのか? ラダベルの矛先は、アルコールを摂取しすぎた自身ではなく、ジークルドへと向かう。ジークルドを無言で睨みつけると、彼の鉄仮面が壊れ、表情筋が緩む。
「ははっ」
悪戯心に溢れた少年の如く、笑いをこぼすジークルド。普段の厳格な彼からは予想もできないであろう可愛さに、ラダベルの心が射抜かれる。
「悪い、冗談だ。泥酔したあとは死んだように眠っていたぞ。変なダンスなど踊っていないから心配するな」
悪趣味な冗談に、驚きながらもラダベルは深く安堵した。
冷静になって考えてみると、とてつもなく恥ずかしい格好であることを自覚する。
「あ、あの、もう歩けますので、下ろしていただいてもよろしいですか?」
「……ふらついて転んでもらっても困る。寝室まで我慢してくれ」
「…………でもあまりにもこれはっ」
「俺たちは、夫婦となった。恥ずかしがる必要はない。助け合ってこそだろう」
想像以上に羞恥を感じる状況のため、なんとか下ろしてもらえないかと交渉してみるも、いとも簡単に丸め込まれてしまった。
ラダベルは先程、ジークルドと夫婦となった。まだまだ実感が湧かないが、感慨深い感覚にあることは事実だ。単純に嬉しいという気持ちがラダベルの中でぽっと芽生えた。ジークルドも良い関係を築こうと歩み寄ってくれている。ラダベルは言い表しがたい多幸感に浸った。しかし、次なる心配が顔を出す。
「あの……重くは、ないですか?」
「重いわけがないだろう」
「ですが、」
「女ひとりくらい、簡単に抱えられる」
ラダベルの心配をジークルドは一蹴する。それもそう。彼は軍人だ。極東部の司令官であり、大将という階級を賜っている。ラダベルひとりくらい、片手でも軽々と抱えられるだろう。いくら背伸びをしようとも埋まらないジークルドとの体格差に、悔しくなると同時に、胸が高鳴ってしまう。心臓の音が聞こえないよう、何度か深呼吸をしていると、いつの間にか、ラダベルが住まう宮の寝室前に到着をした。今日は一般の軍人も休日を与えられているため、部屋の前に見張りはいない。ジークルドは片手で器用に扉を開けた。
「お待ちください、ジークルド様。このドレスをどうにかしなければ……えっ」
ラダベルはそう訴えながら自身のドレスを見下ろした瞬間、もう既にウェディングドレスから簡易的なドレスへと着替えていることに気がついた。
「言っておくが、俺がやったのではないからな」
「しょ、承知しております……」
顔から火が出るほど美貌を赤らめたラダベルと、若干照れ気味のジークルドは、そのまま寝室へと消えたのであった。
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