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第2話 薔薇姫は責任を取りたい ※

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 灯りもつけない部屋。窓から差し込む月明かりだけが頼りのその場所で、見目麗しい男はベッドに腰掛けていた。

「ところで、お兄さんのお名前は?」

 男は、驚きながらダリアナを見る。宝石のように黄金に輝く瞳は、嘘偽りを言っていない。本当に男の正体が分からないから聞いているのだ。男は新鮮に思う。この帝国において、まさか自分を知らないという人間がいるのか、と。これは、男の自意識過剰ではない。男は実際、この帝国において薔薇姫と呼ばれるダリアナに並ぶほど知名度の高い男だったのだ。

「クラウディオ…」

 未だ身体を襲う苦しみを必死に抑えながら、男は名乗る。ダリアナは、顎に手を当てて考える。どこかで聞いたことがある名前だと。人の名や顔を覚えることが苦手な自分も、クラウディオという男の名に聞き覚えがあったのだ。

「クラウディオさんは、具合が悪いんですか?」
「具合が悪いというか…薬を盛られました」
「薬?」
「媚薬の類です」
 
 クラウディオの言葉に、ダリアナはハッと驚く。
 媚薬。性欲を急激に高めさせる薬である。表の世界ではあまり出回っていないが、裏の世界では頻繁に流通している薬だ。媚薬にも多くの種類があり、効力も様々だ。恐らくクラウディオが盛られたという薬は、かなり強い効力を持つ媚薬だろう。意識を保っていられるのが素晴らしいくらいだ。

「なら今、とてもムラムラされているんですね!」
「…………」

 ダリアナは、なぜか嬉しそうに声を上げた。桃のように柔らかそうな頬は、ほんのりと赤い。クラウディオは思わず黙り込む。何言っているんだこの人、とでも言いたげだ。クラウディオはガンガンと痛む頭を押さえる。
 グリドルーシャ帝国第三皇女ダリアナ。すれ違う全ての人が振り向くほどの美貌を携えた溜息が出るほどに美しい姫君は、かなりの変わり者としても知られていた。クラウディオは感じる。これは、噂以上の変わり者だと。
 媚薬を盛られたった今、果てしない性欲が聖杯から溢れ出る液体の如く、湧き出ているのだ。クラウディオは男性の中でも淡白な方だとは自覚していた。しかし、媚薬の効力により封印されし性欲が解き放たれてしまったらしい。目の前のダリアナは、それを分かっているのだろうか。変わり者の姫君のことだ。クラウディオの事情など知ったことか、ということなのか。もしそうだとしてもダリアナは、クラウディオに襲われるということを少しも考えなかったのだろうか。媚薬を盛られた男を休憩室に運び、無防備にも二人っきりになっている。一般的な思考の持ち主ならば、今すぐに逃げ出しているのだろう。………否、クラウディオほどの美丈夫が相手ならば自ら服を脱ぎ、強靭な肉体の上に跨るだろう。

「私は出て行きますので、どうぞおひとりでお楽しみくださいな」
「…………」

 ダリアナが立ち上がる。クラウディオは、その細く白い腕を引きたい衝動に駆られた。だが、すんでのところで留まる。相手は、グリドルーシャ帝国第三皇女なのだ。皇帝、皇太女に溺愛されているというあの薔薇姫なのだ。彼女に何かあったと知られれば、いくらクラウディオと言えど無事では済まないだろう。これでいい、とクラウディオはダリアナの後ろ姿を見送ろうと顔を上げる。が、眼前に迫ったのは、暴力の如く振るわれた大きな胸だった。

「ぁっ!」

 小さな声が上がる。ダリアナは足をもつれさせ、クラウディオを押し倒してしまったのだ。
 全世界の男性の憧れである女性の双丘による圧迫。クラウディオは一度としてそのような妄想をしたことはないが、実際に体験した破壊力は凄まじいものだった。

「ご、ごめんなさいっ」

 ダリアナは急いで身体を起こす。ダリアナの胸の谷間は、なぜかクラクラするような良い香りがした。クラウディオは、鼻血を出さないよう必死に耐えるべく、目の前でゆらゆらと揺れる胸から目を背けた。

「ひゃっ…!」
「!?」

 ダリアナが高い声を出す。その弾みで暴力的な胸が再びクラウディオの頬に強く当たった。チラリとダリアナを見上げると、熟れた林檎のように真っ赤に顔を染め上げているではないか。それを見て、グッと下半身に来るものを感じるクラウディオ。まずい、このままでは本当に襲ってしまう。なんとか、理性を保つために深い呼吸を心がける。

「こ、これ…」
「なに、を」

 ダリアナの柔らかく傷一つない手が、するりとクラウディオの中心部に触れた。クラウディオはぴくりと反応を示す。それが新鮮に感じたのか、ダリアナはさらに形をなぞるようにソレを撫でた。布地の上からでもはっきりと分かるモノ。ダリアナの手の中でビクビクと反応するのは、クラウディオの男性器だった。生まれて初めて、他の人、それも女性に触れられたクラウディオ。初めての感覚に身体の反応は止まらない。ダリアナに触れられたことにより、さらに膨張を続ける陰茎。
 クラウディオは、今にも理性が爆発しそうな頭で必死に考えた。最後に一人で発散をしたのはいつのことだったろうか。最近、仕事が忙しく、なかなか構ってあげられなかった息子は、今々神に愛される薔薇姫の手の中で喜んでいる。クラウディオももう25歳。今年で26となる青年だ。生まれてこの方、この男性器の大きさもあってかなかなか女性に恵まれず、25年もの間独身、童貞を貫いてきた。というか、貫かざるを得なかった。結婚は諦めていたし、恋など夢のまた夢。一人で生き、そして死すこともまた一興だと、自分の中で思っていたのだが、そんな概念が目の前の変わり者の姫によって壊されようとしている。それほどまでに、クラウディオにとって恐ろしいことはなかった。

「見てもいいですか?」
「は、」

 うるうると潤んだ瞳。クラウディオが返事をする前に、ダリアナは馬鹿力で布を引き裂いた。下着をもただの破れた布と化した、その向こう側。バチンッ、と激しい音と共にダリアナの頬を直撃したのは、クラウディオの陰茎だった。ダリアナは、黄金の瞳をさらに輝かせ、クラウディオの陰茎を愛しそうに撫で、蕩けるような顔でこう言った。

「あなたのこれは、私が責任を持って舐めて差し上げます」
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