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31 因縁の二人
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師走の月を眺めていた首斬り男は、ウィクリーマンションの家賃を支払うと、残りのお金が僅かしか残らないと溜め息をついた。
「そろそろ、東京へ帰らないといけないでござるが……何を悲しんでおるのだろう?」
近頃は泣き声が聞こえる晩は少なくなったが、その分悲しみが深くなっている。その悲しみが首斬り男を、こうして大阪に引き留めているのだ。
「もう師走ではござらぬか! 夏に草鞋を履いてから、もう半年も過ぎたのでござるか……東京へ帰らねばならないが、このままでは無理でござる。泣かないように頼んでみたいが、せっしゃは女は苦手でござる」
悲しげな美人の泣き女の姿を思い浮かべ、首斬り男は、ポッと頬を染める。しかし、首斬り男を好いてくれる女の人などいないと、首を横に振った。
「ここにいたら、泣き女を怯えさせてしまう。それはわかっているのだが、拙者は離れることができぬ! 何故、泣き女はあんなに悲しんでおるのじゃ?」
職業や住んでいる場所を調べたり、夏休みの夜のパトロールを陰から見守ったりしている内に、首斬り男は鈴子に好意を持つが、自分には高嶺の花だと溜め息をつく。立派な小学校の先生に、首斬り男は相応しくない。
「まさか、ニュースで聞いた学級崩壊ではあるまいか? それとも、優しげな鈴子先生にモンスターペアレントが難題をふっかけているのでは! そんな怪物は、せっしゃが成敗してくれる!」
鈴子先生を諦めた首斬り男は、問題を解決して東京へ帰ろう決める。このまま泣き続けられたら、苦労して見つけた職もクビになってしまう。陰気な首斬り男を雇ってくれる職場は少ないのだ。
首斬り男がクビになっては、シャレにならないと、大阪でお笑いに目覚めたので、クスリと笑う。
「いかん、いかん、男子たるものニヤニヤと笑ってはならぬのだ! この地は危険でござる!」
首斬り男は、鈴子先生に話しかける機会をうかがった。しかし、首を斬る度胸はあるのに、女にはからっきし弱い。周りをうろうろするうちに、師走の中ばになってしまった。
「かぁあ~! かぁあ~! お主が首斬り男かぁ?」
カラスのかぁ助が、ポトンと手紙を落とす。首斬り男は、雇い主からクビにされてしまった。半年も旅に出て、音沙汰なしなので、クビになっても仕方がない。
「あぁ~! 折角見つけた職もクビになってしまった。拙者は、どうしたら良いのだろう」
首斬り男は、自分の情けなさに切腹してしまいたいと落ち込んだ。しかし、泣き女の鈴子先生が泣くのを止めないと、死んでも死にきれない。
「最後に、鈴子先生の教室を見て行こう! 優しげな鈴子先生の言うことを聞かない悪ガキがいたら、拙者が根性を叩き直してやろう」
体罰は禁止されているが、首斬り男には泣き女が泣き止む方が大事だ。お正月は東京で静かに過ごしたいと、首斬り男は考えた。
「大阪の師走は、うるさくてたまらぬ! ジングルベル~! ジングルベル~! 耳が鳴る~! 耶蘇の神の誕生日を何故祝わなくてはならぬのじゃ? 天照大神や仏様の誕生日を祝うべきではござらぬか?」
東京とは名ばかりの片田舎でひっそりと暮らしていた首斬り男は、大阪のど真ん中の商店街の賑やかさに嫌気がさしたと言うが、その割りには歌が上手い。足取りも、クリスマスソングのリズムにのっている。
「よっ、兄ちゃん! どこの店の宣伝やねん?」
長髪を後ろでくくり、袴姿の首斬り男がクリスマスソングのリズムにのって歩いていると、昼間から酔っ払ったおっさんに声をかけられる。
「いかん! せっしゃは首斬り男でござる! このような浮わついた歩き方などしてはならぬ」
自分がこれ以上、毒されない内に東京へ帰ろうと、月見ヶ丘小学校に、すすすすす……と足音もさせずに急ぐ。
「今日は、鈴子先生に私たちからプレゼントがあります」
級長の珠子ちゃんが、終りの会で発言した。泣き女の鈴子先生が、この頃暗い顔をしているので、みんなで励ましたいと思ったのだ。
親にも首斬り男の話が広がって、子ども達が危険な目にあうのでは? と、月見ヶ丘小学校には抗議の電話がかかっていたのだ。
ぽんぽこ狸の、田畑校長先生は親に説明をするのに忙しい。師走の字のままに、家庭を一軒一軒訪れて説明している。
「私のせいで……」泣きたくてたまらないが、鈴子先生は泣いたら首斬り男が学校に来てしまうと、グッと我慢する。しかし、泣き女の鈴子先生には、泣くのを我慢するのは本当につらい。どうしても元気がなくなっていく。
級長の珠子ちゃんは、自分が口をすべらしたからだと反省していた。それで、こっそりと鈴子先生を励ますために、歌を練習したのだ。
1年1組の妖怪学級には、色々な特技を持つ生徒がいる。
小豆洗いの豆花ちゃんはピアノを習っているので、オルガンで伴奏を引き受ける。
夜笛の息子の響くんと、ゴンキツネの銀次郎くんは笛が得意だ。ピーヒャラ、ピーヒャラと陽気な曲を吹き、山狸の娘の真理亜ちゃんは、小太鼓をぽんぽこリズム良く叩く。
それに合わせて、女の子はダンスする。ろくろ首の緑ちゃんの首は右に左にと動き、まるで本当の踊り子さんみたいだ。
男の子は大きな声で歌う。河童の九助くんは、とても高い声で、少年声楽隊にでも入れそうだ。
だいだらぼっちの大介くんは、反対に低い声だ。お腹の底から出す声は、教室の外まで響く。
野火の孫のかずえちゃんと、青火の孫の克巳くんは照明係りだ。不思議な光がユラユラする。
月見ヶ丘小学校には、田畑校長先生の眷属であるタヌキ探偵が、周りを警備していたが、首斬り男にはタヌキなど敵ではない。すすすすすと影にまぎれて、1年1組の前までたどり着いた。
「皆さん、ありがとう! こんな泣き虫の先生のために……」
親の苦情にもたえた鈴子先生だが、子ども達の優しさに感動して、泣き出してしまった。
「しもうた! 鈴子先生、泣かんといてぇ!」
猫娘の珠子ちゃんが髪の毛を逆立てて止めたが、遅かった。
ガラリと教室の扉が開けられ、首斬り男が入ってきた。
「そろそろ、東京へ帰らないといけないでござるが……何を悲しんでおるのだろう?」
近頃は泣き声が聞こえる晩は少なくなったが、その分悲しみが深くなっている。その悲しみが首斬り男を、こうして大阪に引き留めているのだ。
「もう師走ではござらぬか! 夏に草鞋を履いてから、もう半年も過ぎたのでござるか……東京へ帰らねばならないが、このままでは無理でござる。泣かないように頼んでみたいが、せっしゃは女は苦手でござる」
悲しげな美人の泣き女の姿を思い浮かべ、首斬り男は、ポッと頬を染める。しかし、首斬り男を好いてくれる女の人などいないと、首を横に振った。
「ここにいたら、泣き女を怯えさせてしまう。それはわかっているのだが、拙者は離れることができぬ! 何故、泣き女はあんなに悲しんでおるのじゃ?」
職業や住んでいる場所を調べたり、夏休みの夜のパトロールを陰から見守ったりしている内に、首斬り男は鈴子に好意を持つが、自分には高嶺の花だと溜め息をつく。立派な小学校の先生に、首斬り男は相応しくない。
「まさか、ニュースで聞いた学級崩壊ではあるまいか? それとも、優しげな鈴子先生にモンスターペアレントが難題をふっかけているのでは! そんな怪物は、せっしゃが成敗してくれる!」
鈴子先生を諦めた首斬り男は、問題を解決して東京へ帰ろう決める。このまま泣き続けられたら、苦労して見つけた職もクビになってしまう。陰気な首斬り男を雇ってくれる職場は少ないのだ。
首斬り男がクビになっては、シャレにならないと、大阪でお笑いに目覚めたので、クスリと笑う。
「いかん、いかん、男子たるものニヤニヤと笑ってはならぬのだ! この地は危険でござる!」
首斬り男は、鈴子先生に話しかける機会をうかがった。しかし、首を斬る度胸はあるのに、女にはからっきし弱い。周りをうろうろするうちに、師走の中ばになってしまった。
「かぁあ~! かぁあ~! お主が首斬り男かぁ?」
カラスのかぁ助が、ポトンと手紙を落とす。首斬り男は、雇い主からクビにされてしまった。半年も旅に出て、音沙汰なしなので、クビになっても仕方がない。
「あぁ~! 折角見つけた職もクビになってしまった。拙者は、どうしたら良いのだろう」
首斬り男は、自分の情けなさに切腹してしまいたいと落ち込んだ。しかし、泣き女の鈴子先生が泣くのを止めないと、死んでも死にきれない。
「最後に、鈴子先生の教室を見て行こう! 優しげな鈴子先生の言うことを聞かない悪ガキがいたら、拙者が根性を叩き直してやろう」
体罰は禁止されているが、首斬り男には泣き女が泣き止む方が大事だ。お正月は東京で静かに過ごしたいと、首斬り男は考えた。
「大阪の師走は、うるさくてたまらぬ! ジングルベル~! ジングルベル~! 耳が鳴る~! 耶蘇の神の誕生日を何故祝わなくてはならぬのじゃ? 天照大神や仏様の誕生日を祝うべきではござらぬか?」
東京とは名ばかりの片田舎でひっそりと暮らしていた首斬り男は、大阪のど真ん中の商店街の賑やかさに嫌気がさしたと言うが、その割りには歌が上手い。足取りも、クリスマスソングのリズムにのっている。
「よっ、兄ちゃん! どこの店の宣伝やねん?」
長髪を後ろでくくり、袴姿の首斬り男がクリスマスソングのリズムにのって歩いていると、昼間から酔っ払ったおっさんに声をかけられる。
「いかん! せっしゃは首斬り男でござる! このような浮わついた歩き方などしてはならぬ」
自分がこれ以上、毒されない内に東京へ帰ろうと、月見ヶ丘小学校に、すすすすす……と足音もさせずに急ぐ。
「今日は、鈴子先生に私たちからプレゼントがあります」
級長の珠子ちゃんが、終りの会で発言した。泣き女の鈴子先生が、この頃暗い顔をしているので、みんなで励ましたいと思ったのだ。
親にも首斬り男の話が広がって、子ども達が危険な目にあうのでは? と、月見ヶ丘小学校には抗議の電話がかかっていたのだ。
ぽんぽこ狸の、田畑校長先生は親に説明をするのに忙しい。師走の字のままに、家庭を一軒一軒訪れて説明している。
「私のせいで……」泣きたくてたまらないが、鈴子先生は泣いたら首斬り男が学校に来てしまうと、グッと我慢する。しかし、泣き女の鈴子先生には、泣くのを我慢するのは本当につらい。どうしても元気がなくなっていく。
級長の珠子ちゃんは、自分が口をすべらしたからだと反省していた。それで、こっそりと鈴子先生を励ますために、歌を練習したのだ。
1年1組の妖怪学級には、色々な特技を持つ生徒がいる。
小豆洗いの豆花ちゃんはピアノを習っているので、オルガンで伴奏を引き受ける。
夜笛の息子の響くんと、ゴンキツネの銀次郎くんは笛が得意だ。ピーヒャラ、ピーヒャラと陽気な曲を吹き、山狸の娘の真理亜ちゃんは、小太鼓をぽんぽこリズム良く叩く。
それに合わせて、女の子はダンスする。ろくろ首の緑ちゃんの首は右に左にと動き、まるで本当の踊り子さんみたいだ。
男の子は大きな声で歌う。河童の九助くんは、とても高い声で、少年声楽隊にでも入れそうだ。
だいだらぼっちの大介くんは、反対に低い声だ。お腹の底から出す声は、教室の外まで響く。
野火の孫のかずえちゃんと、青火の孫の克巳くんは照明係りだ。不思議な光がユラユラする。
月見ヶ丘小学校には、田畑校長先生の眷属であるタヌキ探偵が、周りを警備していたが、首斬り男にはタヌキなど敵ではない。すすすすすと影にまぎれて、1年1組の前までたどり着いた。
「皆さん、ありがとう! こんな泣き虫の先生のために……」
親の苦情にもたえた鈴子先生だが、子ども達の優しさに感動して、泣き出してしまった。
「しもうた! 鈴子先生、泣かんといてぇ!」
猫娘の珠子ちゃんが髪の毛を逆立てて止めたが、遅かった。
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