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第九章 思春期
20 初恋は実らないものなの?
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「明後日には、エドアルド皇太子殿下達が帰国されますね」
国王夫妻の晩餐会を終えて、自宅のサロンで寛ぎながら、長く感じらた遊学の期間をどうにかやり過ごせそうだとフランツはホッとしていた。しかし、ユージーンの様子に、中座したエドアルドとユーリの間に何か合ったのだとピンときた。
「明日のリューデンハイムのお別れ会は、見習い竜騎士だけなのか?」
ユージーンは最後まで気が抜けないと溜め息をつく。
「実は男ばかりのお別れ会では愛想が無いので、何人か令嬢方を招待しているみたいなのです。先輩の見習い竜騎士達がハロルド様達に気をきかせたのか、自分達の為なのかは知りませんけど、秘密に動いているようですね」
「話が違うじゃないか。リューデンハイムの寮の食堂で、簡単なお別れ会だと聞いていたぞ。日頃はアルコール禁止だが、少しのワインやシャンパンを出しての夕食会だと聞いていたのに、令嬢方を招待するのか。他には何か変更点は無いのか」
苛立ちを隠さないユージーンに、晩餐会でエドアルドとユーリが中座した時に何かあったなとフランツは確信する。
「サプライズにしたいと先輩達は思っているから、あまり詳しくはわからないのですよ。でも、ユーリからは目を離しませんよ」
ユージーンは、ユーリがエドアルドにキスされても嫌がってなかったのにショックを受けていたので、フランツの言葉を信じてアレコレ指示するのは止めた。
「ダンスパーティだなんて聞いてないよ~」
お別れ会は二部構成になっていた。最初は計画が漏れていた令嬢方を招待した簡単な夕食会で、あっさりと終わったと安心した。
途端、食堂に楽師達が登場すると、机をガーッと端に寄せてダンスパーティに突入した。最初からリースがかかるドンチャン騒ぎになるのが確定的なダンスパーティで、予科生が眠れないのではないかとユーリは心配する。
グレゴリウスとフランツはユーリから目を離さないでおこうとしたが、令嬢方は見習い竜騎士と同人数招待されていたので相手を常にしながらだし、ユーリも知らされていなかったから紺の略礼服のままなので探し難かった。
令嬢方は気楽なドンチャン騒ぎを楽しんでいた。ユーリもエドアルドやハロルド達と何回もダンスをしたり、先輩達ともダンスを楽しむ。グレゴリウスも、略礼服のユーリとのダンスは新鮮に感じてドキドキした。
「ダンスパーティだと知らなかったの。でも、ドレスより気楽でいいわ。これからはパーティに制服で出ようかしら」
それはチョット困るなと、グレゴリウスはユーリのドレス姿が大好きなので苦笑する。自分が言わなくてもマウリッツ公爵夫人が黙っていないだろうと思うと、笑ってしまう。
何度か目のリースの際に、エドアルドはユーリを寮の外に連れ出すのに成功した。
「マルスがお別れを言いたがっているのです」
ユーリの耳元で囁いて、竜舎へと連れ出したのだ。ユーリとエドアルドは竜舎に着くと、マルスが待っているブースに向かった。
『マルス、明日はカザリア王国に帰るのね。元気でいてね。長旅だけど、気をつけてね』
ユーリはマルスの首に抱きついた。
『ユーリも一緒にニューパロマに来ればいいのに』
ユーリがマルスに口説かれて困っているのをエドアルドは苦笑して眺めていたが、嫉妬深いイリスが黙っているわけがなかった。
『また、他の竜と話してる!』
『イリス、マルスは明日には帰国するのよ』
ユーリはエドアルドも明日帰国するのだとズキンときた。
「ユーリ、マルスとの別れが辛いだけですか? 少しは私との別れも悲しんで頂けるのでしょうか」
エドアルドは、涙ぐむユーリを抱き寄せてキスをした。イリスは竜には嫉妬するが、ユーリが嫌がってないのなら誰とキスをしようが勝手だと無視する。
しかし、アラミスはグレゴリウスに警告を発したし、ルースもフランツに頼まれていくたから、ユーリがエドアルドとキスしていると教えた。
グレゴリウスとフランツが竜舎に駆けつけると、ユーリはエドアルドをほっぽりだして、マルスやカイトやコリンやキャズとの別れを惜しんだり、イリスを宥めたりと大変さそうだった。
「竜馬鹿のユーリを、竜舎で口説くのは無理がありますよ」
フランツの言葉に苦笑しながら、口説く時は竜が近くにいない時にしようとグレゴリウスは考える。同じく駆けつけたハロルド達も、竜馬鹿のユーリに呆れてしまう。せっかく良いムードだったのに竜達に邪魔されたエドアルドは、ハロルド達に少し八つ当たりをする。
「コリン、カイト、キャズが、ユーリと別れを言いたいと邪魔したんだ。そしたらイリスが騒ぎだして、せっかく口説き落とそうとしてたのに台無しだよ!」
「ユーリ嬢を竜舎に連れ込んだのが間違いでしたねぇ」
竜達に囲まれているユーリを、溜め息をついて眺めるエドアルドだった。いつまでも竜舎にいるわけにいかないので、寮でのダンスパーティに帰ったが、予科生もいるので夜中になる前にはお開きになった。
エドアルドはラストダンスをユーリと踊りながら、このままさらっていきたい衝動と闘っていた。
「明日は見送りに来て頂けるのでしょうか?」
ラストチャンスを無駄にしないでおこうと、エドアルドは最後まで諦めなかった。
その夜、ユーリは眠れなかった。自分がエドアルドを好きなのに気づいて、別れを辛く感じていたからだ。
「明日のお見送りはパスしようかしら」
会ったら泣いてしまうとユーリは、自分が自制できないのを恐れていた。日頃から、人前で取り乱すのは止めなさいと注意されていたのに、努力してなかったツケが回って来たのねと反省する。
は~ッと溜め息をつくエドアルドは、朝食もろくろく喉を通らない様子で、ラッセル卿は恋の役に立てなかった自分を情けなく感じる。
「エドアルド様、遠距離恋愛も乙なものですよ。会えない時間が、恋を育むこともあります」
ハロルドの精一杯の慰めにも、ドヨドヨのエドアルドは反応しない。育むべき恋があれば、離れ離れの障害も却って燃え上がるかもしれないが、恋未満の好意程度では、消えてなくなりそうな不安に夜も眠れなかったのだ。
その上、強力なライバルのグレゴリウスや、アンリ、シャルル大尉とかがユーリの周りにいると思うと、帰国を伸ばそうかと真剣に悩む。昨夜、ラッセル卿とケストナー大使に、もう少し滞在したいと言ってみたが、一人っ子の皇太子をこれ以上外国に留められないと却下さた。
「ユーリ嬢は、エリザベート王妃様と夏休みにニューパロマへ来る約束をされました。あの様子では、なかなか恋愛に発展しそうに無さそうですので、一旦は帰国して下さい」
ケストナー大使に諭されて、帰国を受け入れたエドアルドだったが、冬至祭の前なのに夏休みは遠い先に思われた。
エドアルドの出国を見送りにカザリア王国大使館にグレゴリウス、フランツ、ユーリとジークフリート、ユージーンが出向いた。
「ユーリ、手紙を書きます、返事を下さいますか」
「ええ、もちろん」
カザリア王国大使館に見送りにきたグレゴリウスと礼儀正しい別れの挨拶を交わすと、エドアルドはユーリをギュッと抱きしめた。グレゴリウスが嫉妬して騒ぎだそうとするのを、ジークフリートはヤレヤレこれも指導の竜騎士の仕事だろうかと溜め息をつきながら止めた。
「ユーリ嬢を、後でキャッチした方が得ですよ。別れで感傷的になっているユーリ嬢を、優しく慰めてあげなさい。今、嫉妬して邪魔しても無粋なだけです」
他の男を思って泣くユーリを慰めるのかと、複雑な心境にはなったが、恋の達人のジークフリートの忠告に従う。
長々と別れを惜しむエドアルドだったが、ラッセル卿に引き離されてマルスに乗せられてしまった。
「ユーリ、夏休みにニューパロマに絶対に来て下さいね」
シクシク泣いているユーリをちゃっかりとグレゴリウスが慰めているのに、マルスから飛び降りそうになったエドアルドだったが、ラッセル卿とパーシー卿に挟まれて果たせなかった。
「どうにか、帰国して下さいましたね~」
空中でマルスがUターンしそうになった時はドキッとしたが、ラッセル卿とパーシー卿がどうにか連れて帰ってくれそうだと、ジークフリートとユージーンは大きな溜め息をついた。
「ユーリは、エドアルド皇太子殿下に恋をしていたのでしょうか?」
ユージーンは判断しかねて、ジークフリートに尋ねた。さぁと、ジークフリートは肩をすくめると、グレゴリウスに抱きしめられて泣いているユーリを眺める。
「まぁ、昔から初恋は実らないものと言いますからね」
グレゴリウスの初恋も難航しそうだと、ジークフリートは前途多難な国王の密命を投げ出したくなった。
「夏休みに、ニューパロマを訪問しなくてはいけないのでしょうか?」
ドヨドヨの竜騎士達に関係なく、パリスとアトスは恋のシーズンなのか首を絡めてイチャイチャしていた。自分達の騎竜のラブラブさに二人は気づいて、ソッと見習い竜騎士達から離れて話し合いを持つ。
国王夫妻の晩餐会を終えて、自宅のサロンで寛ぎながら、長く感じらた遊学の期間をどうにかやり過ごせそうだとフランツはホッとしていた。しかし、ユージーンの様子に、中座したエドアルドとユーリの間に何か合ったのだとピンときた。
「明日のリューデンハイムのお別れ会は、見習い竜騎士だけなのか?」
ユージーンは最後まで気が抜けないと溜め息をつく。
「実は男ばかりのお別れ会では愛想が無いので、何人か令嬢方を招待しているみたいなのです。先輩の見習い竜騎士達がハロルド様達に気をきかせたのか、自分達の為なのかは知りませんけど、秘密に動いているようですね」
「話が違うじゃないか。リューデンハイムの寮の食堂で、簡単なお別れ会だと聞いていたぞ。日頃はアルコール禁止だが、少しのワインやシャンパンを出しての夕食会だと聞いていたのに、令嬢方を招待するのか。他には何か変更点は無いのか」
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「サプライズにしたいと先輩達は思っているから、あまり詳しくはわからないのですよ。でも、ユーリからは目を離しませんよ」
ユージーンは、ユーリがエドアルドにキスされても嫌がってなかったのにショックを受けていたので、フランツの言葉を信じてアレコレ指示するのは止めた。
「ダンスパーティだなんて聞いてないよ~」
お別れ会は二部構成になっていた。最初は計画が漏れていた令嬢方を招待した簡単な夕食会で、あっさりと終わったと安心した。
途端、食堂に楽師達が登場すると、机をガーッと端に寄せてダンスパーティに突入した。最初からリースがかかるドンチャン騒ぎになるのが確定的なダンスパーティで、予科生が眠れないのではないかとユーリは心配する。
グレゴリウスとフランツはユーリから目を離さないでおこうとしたが、令嬢方は見習い竜騎士と同人数招待されていたので相手を常にしながらだし、ユーリも知らされていなかったから紺の略礼服のままなので探し難かった。
令嬢方は気楽なドンチャン騒ぎを楽しんでいた。ユーリもエドアルドやハロルド達と何回もダンスをしたり、先輩達ともダンスを楽しむ。グレゴリウスも、略礼服のユーリとのダンスは新鮮に感じてドキドキした。
「ダンスパーティだと知らなかったの。でも、ドレスより気楽でいいわ。これからはパーティに制服で出ようかしら」
それはチョット困るなと、グレゴリウスはユーリのドレス姿が大好きなので苦笑する。自分が言わなくてもマウリッツ公爵夫人が黙っていないだろうと思うと、笑ってしまう。
何度か目のリースの際に、エドアルドはユーリを寮の外に連れ出すのに成功した。
「マルスがお別れを言いたがっているのです」
ユーリの耳元で囁いて、竜舎へと連れ出したのだ。ユーリとエドアルドは竜舎に着くと、マルスが待っているブースに向かった。
『マルス、明日はカザリア王国に帰るのね。元気でいてね。長旅だけど、気をつけてね』
ユーリはマルスの首に抱きついた。
『ユーリも一緒にニューパロマに来ればいいのに』
ユーリがマルスに口説かれて困っているのをエドアルドは苦笑して眺めていたが、嫉妬深いイリスが黙っているわけがなかった。
『また、他の竜と話してる!』
『イリス、マルスは明日には帰国するのよ』
ユーリはエドアルドも明日帰国するのだとズキンときた。
「ユーリ、マルスとの別れが辛いだけですか? 少しは私との別れも悲しんで頂けるのでしょうか」
エドアルドは、涙ぐむユーリを抱き寄せてキスをした。イリスは竜には嫉妬するが、ユーリが嫌がってないのなら誰とキスをしようが勝手だと無視する。
しかし、アラミスはグレゴリウスに警告を発したし、ルースもフランツに頼まれていくたから、ユーリがエドアルドとキスしていると教えた。
グレゴリウスとフランツが竜舎に駆けつけると、ユーリはエドアルドをほっぽりだして、マルスやカイトやコリンやキャズとの別れを惜しんだり、イリスを宥めたりと大変さそうだった。
「竜馬鹿のユーリを、竜舎で口説くのは無理がありますよ」
フランツの言葉に苦笑しながら、口説く時は竜が近くにいない時にしようとグレゴリウスは考える。同じく駆けつけたハロルド達も、竜馬鹿のユーリに呆れてしまう。せっかく良いムードだったのに竜達に邪魔されたエドアルドは、ハロルド達に少し八つ当たりをする。
「コリン、カイト、キャズが、ユーリと別れを言いたいと邪魔したんだ。そしたらイリスが騒ぎだして、せっかく口説き落とそうとしてたのに台無しだよ!」
「ユーリ嬢を竜舎に連れ込んだのが間違いでしたねぇ」
竜達に囲まれているユーリを、溜め息をついて眺めるエドアルドだった。いつまでも竜舎にいるわけにいかないので、寮でのダンスパーティに帰ったが、予科生もいるので夜中になる前にはお開きになった。
エドアルドはラストダンスをユーリと踊りながら、このままさらっていきたい衝動と闘っていた。
「明日は見送りに来て頂けるのでしょうか?」
ラストチャンスを無駄にしないでおこうと、エドアルドは最後まで諦めなかった。
その夜、ユーリは眠れなかった。自分がエドアルドを好きなのに気づいて、別れを辛く感じていたからだ。
「明日のお見送りはパスしようかしら」
会ったら泣いてしまうとユーリは、自分が自制できないのを恐れていた。日頃から、人前で取り乱すのは止めなさいと注意されていたのに、努力してなかったツケが回って来たのねと反省する。
は~ッと溜め息をつくエドアルドは、朝食もろくろく喉を通らない様子で、ラッセル卿は恋の役に立てなかった自分を情けなく感じる。
「エドアルド様、遠距離恋愛も乙なものですよ。会えない時間が、恋を育むこともあります」
ハロルドの精一杯の慰めにも、ドヨドヨのエドアルドは反応しない。育むべき恋があれば、離れ離れの障害も却って燃え上がるかもしれないが、恋未満の好意程度では、消えてなくなりそうな不安に夜も眠れなかったのだ。
その上、強力なライバルのグレゴリウスや、アンリ、シャルル大尉とかがユーリの周りにいると思うと、帰国を伸ばそうかと真剣に悩む。昨夜、ラッセル卿とケストナー大使に、もう少し滞在したいと言ってみたが、一人っ子の皇太子をこれ以上外国に留められないと却下さた。
「ユーリ嬢は、エリザベート王妃様と夏休みにニューパロマへ来る約束をされました。あの様子では、なかなか恋愛に発展しそうに無さそうですので、一旦は帰国して下さい」
ケストナー大使に諭されて、帰国を受け入れたエドアルドだったが、冬至祭の前なのに夏休みは遠い先に思われた。
エドアルドの出国を見送りにカザリア王国大使館にグレゴリウス、フランツ、ユーリとジークフリート、ユージーンが出向いた。
「ユーリ、手紙を書きます、返事を下さいますか」
「ええ、もちろん」
カザリア王国大使館に見送りにきたグレゴリウスと礼儀正しい別れの挨拶を交わすと、エドアルドはユーリをギュッと抱きしめた。グレゴリウスが嫉妬して騒ぎだそうとするのを、ジークフリートはヤレヤレこれも指導の竜騎士の仕事だろうかと溜め息をつきながら止めた。
「ユーリ嬢を、後でキャッチした方が得ですよ。別れで感傷的になっているユーリ嬢を、優しく慰めてあげなさい。今、嫉妬して邪魔しても無粋なだけです」
他の男を思って泣くユーリを慰めるのかと、複雑な心境にはなったが、恋の達人のジークフリートの忠告に従う。
長々と別れを惜しむエドアルドだったが、ラッセル卿に引き離されてマルスに乗せられてしまった。
「ユーリ、夏休みにニューパロマに絶対に来て下さいね」
シクシク泣いているユーリをちゃっかりとグレゴリウスが慰めているのに、マルスから飛び降りそうになったエドアルドだったが、ラッセル卿とパーシー卿に挟まれて果たせなかった。
「どうにか、帰国して下さいましたね~」
空中でマルスがUターンしそうになった時はドキッとしたが、ラッセル卿とパーシー卿がどうにか連れて帰ってくれそうだと、ジークフリートとユージーンは大きな溜め息をついた。
「ユーリは、エドアルド皇太子殿下に恋をしていたのでしょうか?」
ユージーンは判断しかねて、ジークフリートに尋ねた。さぁと、ジークフリートは肩をすくめると、グレゴリウスに抱きしめられて泣いているユーリを眺める。
「まぁ、昔から初恋は実らないものと言いますからね」
グレゴリウスの初恋も難航しそうだと、ジークフリートは前途多難な国王の密命を投げ出したくなった。
「夏休みに、ニューパロマを訪問しなくてはいけないのでしょうか?」
ドヨドヨの竜騎士達に関係なく、パリスとアトスは恋のシーズンなのか首を絡めてイチャイチャしていた。自分達の騎竜のラブラブさに二人は気づいて、ソッと見習い竜騎士達から離れて話し合いを持つ。
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