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第八章 見習い実習

45  カザリア王国大使館

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 御遊学中のエドアルド皇太子の為の舞踏会の準備で、カザリア王国大使館は朝から忙しい雰囲気だ。

 だが、エドアルドは一人ボンヤリと、庭でバラを眺めている。昨夜、ユーリに愛していると告白したのに、皇太子妃になりたくないと断られたのを考え込んでいたのだ。

 ハロルド、ユリアン、ジェラルドは、ラッセル卿と、パーシー卿にこき使われていた。

「舞踏会って、準備が大変だよね~」

 やっと解放されて、ユリアンはヤレヤレと溜め息をつきながら庭のテーブルで黄昏ているエドアルドの側に座る。他のメンバーも、使用人達にそれぞれ指示をしたりして忙しくしていたので、舞踏会まで少し休憩しようと、庭でお茶を飲むことにする。

「エドアルド様、元気ないですね? 父に叱られましたか」

 昨夜のタレーラン伯爵家の舞踏会で、3回連続でユーリとダンスしたのを、教育係のマゼラン卿に叱られて悄げているのかと思ったのだ。

「いや、注意はされたけど、その事はどうでもいいんだ。ユーリに愛している、政略結婚の相手としてではないと告白したんだ……」

 落ち込んでいる様子に、結果が思わしく無かったのが察せられた。

「エドアルド様、まだユーリ嬢は精神的に幼くて、恋など知らないお子様なんですよ」

 ジェラルドはユーリにエドアルドの妃になって欲しいと心から願っていたので、諦めないように励ます。

「それはユーリ嬢も、言っていたよ。恋愛音痴で、初恋もまだだと! グレゴリウスとファーストキスしたと聞いたから、それは安心したのだ。私のことも嫌いじゃないと言って下さったが、皇太子妃になりたくないとキッパリ断られた」

 あちゃ~と、エドアルドの勇み足に、頭が痛くなったメンバーだ。まだ恋してないユーリに、いきなりプロポーズするなんて、断られるに決まっている。

「ユーリ嬢は普通の貴族の令嬢とは違う育ち方をされていますから、皇太子妃という立場には二の足を踏まれるのでしょう。でも、私はユーリ嬢に皇太子妃になって貰いたいですね」

 ジェラルドの言葉に、ユリアンは少し驚いた。

「えらく、ユーリ嬢を気に入ったね? ユーリ嬢は皇太子妃に向いてないと、前は考えていただろ。お淑やかでないし、礼儀も少し難ありだし、感情のコントロールも出来ないから、苦労するだろうと言ってたじゃないか」

 エドアルドはユーリの酷評に怒ったが、自分でも気づいている欠点だった。

「それは事実だよ、でも礼儀正しくても、心の冷たい皇太子妃なんかに仕えるのは御免だね。ユーリ嬢は失敗も数々するだろうけど、私は支えていく覚悟を決めている」

 プライドの高いジェラルドが、ユーリをそこまで認めているのに、ユリアンは驚く。

「私も、ユーリ嬢に一票だな。失敗も多そうだけど、叱ったり、泣いたり、笑ったり、退屈しそうにないもの! もう少し落ち着いたら、優秀だし、立派に皇太子妃としてやっていけるよ」

 ハロルドの言葉に、ユリアンは茶々をいれた。

「僕はユーリ嬢が落ち着かれるとは思わないな。でも、僕もユーリ嬢が皇太子妃になられたら、王宮が明るくなると思うよ。怒鳴り声も、響きそうだけどね! 王妃様もユーリ嬢の教育には苦労されるだろうけど、気に入っていらっしゃるから大丈夫だよ」

 明るい賑やかな王宮の様子を想像するだけでも、エドアルドは元気が出てきた。

「頑張って、ユーリ嬢を口説き落とすぞ! 私のことは好きだと言ってくれたのだから、あと一押しだよな」

 少し離れた場所でエドアルド達の話を聞いていた、マゼラン卿とラッセル卿は、やれやれと苦笑する。

「次世代の王宮は、賑やかそうですね。エドアルド皇太子殿下は、良い御学友をお持ちです。ユーリ嬢が皇太子妃になりたくないと言われたのは、厳しいですがね~」

 ラッセル卿は、マウリッツ公爵家が皇太子妃にさせるつもりが無いと気付いて驚いていた。

「普通、名門貴族は、名誉だと喜ぶのですけどねぇ」

 マゼラン卿は、ラッセル卿にエドアルドのお守りを任せるのに色々説明する。

「当面はグレゴリウス皇太子より、アンリ卿の方が強敵になりそうです。マウリッツ公爵家は、ロザリモンド姫の件があるので、ユーリ嬢には皇太子妃とかの重責を望んでないのですよ。あと、フォン・アリスト家は、シャルル大尉あたりを押してくるでしょう。竜騎士ですし、ユーリ嬢と話が合うみたいですから。私は一時帰国しますから、エドアルド皇太子の事はお願いしておきます」

 外務大臣のマゼラン卿はそういつまでも国を留守には出来ないので、大使館での舞踏会が終われば帰国する予定になっていた。

「一時帰国ですか、また来られるのですか?」

 マゼラン卿は、ユーリの緑の魔力について直接国王と話し合いたかった。そして、ユーリを手に入れる為に全力を尽くすつもりだ。

「コンスタンス妃の件もあるから、ユングフラウの方が情報が入りやすいからな」

 半分真実の言い訳をしたマゼラン卿の言葉に、ラッセル卿は苦々しそうに舌打ちする。

「ゲオルク王め! よりによってコンスタンス妃が不貞を働いたとの汚名を着せるとは。下劣な陰謀だ!」

 ルドルフ皇太子との正式な離婚が言い渡されたコンスタンス妃を引き取ろうと、カザリア王国は大使を通して交渉したが、あろうことか不貞を働いた反逆者として修道院に幽閉されていたのだ。

 ローラン王国との国境が山岳地帯のカザリア王国より、なだらかな丘陵地が国境のイルバニア王国にいた方が、情報は入ってきやすかった。その上、ユングフラウにはゲオルク国王の弟、マルクス王弟殿下が亡命して、アルフォンス国王の庇護を受けて生活されていたので、そこにはローラン王国の情報が集まるのだ。

 マゼラン卿は何回か王弟殿下と面談して、コンスタンス妃の窮状を調べていた。この件も国王と相談しなくてはならないなと、暗い気持ちになる。お淑やかで控え目なコンスタンス妃が、不貞などされるわけ無いのは、全員が知っていた。イルバニア王国と同盟を結んだ、カザリア王国への嫌がらせだとマゼラン卿は考える。

「どうにかしてお救いしたい!」

 マゼラン卿の言葉に、ラッセル卿は留守の間も王弟殿下のもとを訪ねますと約束した。

 ある意味で呑気な男性陣と比べて、レデールル大使夫人はキリキリしていた。エドアルド皇太子の主催の舞踏会だけでも準備は大変だが、モガーナ様が来られると聞いてナーバスになっている。
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