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第七章 忙しい夏休み

11  子守が狼!

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 次の朝、早くから目覚めたユーリは、氷を取りにイリスで氷室までひとっ飛びして帰ると、氷を離れの前の影に置いた。王妃様に挨拶に行くときに、アイスクリームを持参しようと思ったのだ。

 ユーリはフォン・アリストの別荘にもイリスと訪れる。誰も滞在していない別荘だが、キチンと管理されている。  

「お祖父様、フォン・アリストの別荘で、ハーブの栽培と、鶏を飼って良い?」

 マキシウスはニューパロマのイルバニア王国の大使館でも、ユーリがハーブ園や、プチ菜園、鶏とやりたい放題だったのを報告書で知っていたし、それが役に立ったのも読んでいたので、好きにすれば良いと許可を与える。

 フォン・アリスト家の執事は、マキシウスに別荘でユーリお嬢様がハーブや鶏を飼いたいと言っていると聞き、手配を済ませていた。フォン・アリスト家は武門の家柄だからか、留守を預かる召使い達も早起きで、ユーリが昨日ストレーゼンに来たのを知っていたので、ハーブを食べさせた鶏が産んだばかりの卵をバスケットに詰めていた。

「まぁ、もう集めてくれていたのね、ありがとうマウリッツのお祖父様が、少し夏バテ気味だから、美味しい卵を食べて頂こうと思ったの」

「ユーリお嬢様、明日の朝からは産みたての卵をマウリッツ公爵家の別荘にお届けします」

 ハーブ園やプチ菜園の手入れなどしていたユーリだったが、早く帰らないと卵が朝食に間に合いませんよと、急かされて、そうだったわと、慌ただしくイリスと飛び立つ。

 ユーリは台所でシェフに産みたての卵と、ヒースヒルからのお土産を渡す。土いじりをしたのでユーリが、丁寧に手や、顔を洗って下に降りると、食堂には皆が集まっていた。

「おはようございます。お待たせしたかしら、すみません」

 ユーリが席につくと、先ほど台所で渡した産みたての卵が半熟に茹で上げられて、卵スタンドにチョコンと乗って出てきた。

「あら、半熟卵? まぁ、このソースはトリュフだわ。う~ん、とても美味しいわ」

 半熟卵に黒いトリュフソースが少し掛かっているのを、全員が堪能する。

「ユーリ、この卵は君が手配したんだな。ハーブを食べさせた鶏が産んだ卵だ。黄身の味が濃厚だよ」

 ユージーンは一口食べてハーブ鶏の卵だと気づく。

「あっ、本当だ! トリュフソースに紛れてわからなかったけど、黄身の濃厚さがあるから、トリュフに負けないんだ。でも、どこで手に入れたの?」

 ユーリが夏バテ気味のお祖父様の為に、朝からフォン・アリスト家の別荘に取りに行ったのと言うのを、老公爵は嬉しく思う。

 フォン・アリスト家の別荘で、ハーブ園や、プチ菜園、鶏を飼うのかと、そこの管理人を少し気の毒に感じたが、産みたての卵は絶品だ。

「それにしても、トリュフなんてまだ季節じゃないだろう? シェフはどこで手に入れのだろうな?」

 公爵は素晴らしい香りのトリュフソースをスプーンですくいながら、疑問に思う。

「あら、ヒースヒルではトリュフが出てますのよ。こちらの別荘に泊まらせて頂くのに、お土産に良いかと森で採ってきましたの。シェフに数個渡しましたから、料理に使ってくれますわ」

「え~! トリュフを君が採ったの? なかなか見つからないから、凄く高価だと聞いてるよ」

 全員が料理はしないものの、美食の都ユングフラウに住んでいるので、森の宝石と呼ばれるトリュフが同じ重さの金と取り引きされることもあると知っている。

「私はトリュフ採りの名人なのよ。子どもの頃から森に行きなれているから、大体どこにあるかわかるの。よく秋にはトリュフを採って、食料品店に売りに行ったわ。苺や、茸もよく採ったし、森のことならお任せなのよ」

 小さなユーリが森に行っていたと聞いて、全員がよく無事でいたなと困惑する。

「幼いお前を森に行かすなんて。ヒースヒルの森など、まだ野生の動物がうろついているだろうに」

 老公爵は、ウィリアムにも、ロザリモンドにも少し腹を立てる。

「あら、お祖父様、シルバーが一緒ですもの大丈夫よ。え~っと、シルバーは魔力を持った狼で話せるの。私の子守をしてくれたのよ。子牛ほどの狼と一緒だから、熊も逃げるわ。それに食べられる茸と、毒茸も教えてくれたわ」

 老公爵は狼に子守をさせるなんてと怒る。

「お祖父様ったら! パパは農作業だし、ママは料理や、洗濯、掃除と忙しかったのよ。それにシルバーは子守として最高なの。私は一度も転んでケガをしたこともないわ。いつもシルバーが庇ってくれたもの。森で疲れたら乗せて家まで連れて帰ってくれたし、尻尾で遊んでくれたわ。パパはシルバーと絆を結んでいたから、私に危険が及ばないように子守を頼んだのよ」

 ユーリが野生児なのは農家育ちだけではなく、話せる狼に育てられたからだと溜め息をつく。公爵は話せる狼の価値に気づいたので、今シルバーがどこにいるのか気になった。

「シルバーはパパが亡くなったからフォン・フォレストの森に帰ったわ。呼べば来てくれるけど、一緒にいれなくて寂しいわ」

 ユーリがシルバーを恋しく思っているのを、公爵家の人々は複雑な心境で眺める。

「ユーリは、子どもの頃からシルバーと話せたの? そうか、イリスがユーリのことを超超早熟と呼んだのは、そのせいだね。いつ頃から話せていたの?」

 フランツはやはり竜馬鹿なので、竜騎士としての動物とのコミュニケーション能力に興味を持つ。

「さぁ、物心ついた時には、シルバーと話していたわ。パパやママと話すより、シルバーと話す方が早かったかも? だって赤ちゃんだったから、発音ができないんですもの。よく両親が赤ちゃんの時に私が何故は泣いているのかわからない時に、シルバーが教えてくれたから助かったと話していたわ。だから、シルバーとは話すというか、理解されてるって感じなのかもね?」

 マリアンヌはもちろん子守を雇っていたが、二人を育てる時に何で泣いているのか困った経験があったので、赤ちゃんの気持ちを読みとって教えてくれるシルバーは良い子守だと思う。

「まぁ、それは助かるわね。ユージーンはよく泣いて困らされましたもの。ミルクを飲ましたり、オムツを代えても泣きやまないから、何が気にいらないのか解らないし、病気かと心配しましたわ。赤ちゃんが泣いている理由がわかれば、便利だし、安心ですもの」

「ユージーンって、泣き虫だったんだ」

 いつも完璧な兄の姿しか知らないフランツは、泣き虫の赤ちゃんだったと知ってからかう。

「母上! そんな赤ちゃんの頃のことを」

 そう言えば甘えん坊で困りましたわと、ユーリに話しているのをユージーンは真っ赤になって止める。

「そうか~、シルバーが話せる子狼を私に育てさせてくれると言ってたのは、私の子どもの子守をさせるつもりなのかもね。シルバーったら、本当に義理堅いんだから。パパに子狼の時に拾われて育てられたからかな?」

 ユーリの持参金に、話せる狼の子守と加えるべきなのか悩む公爵家の人々だった。

「あっ、王妃様にご挨拶に行かなきゃ。アイスクリームを試食して頂くつもりなのよ。早く、作らないと」

 バタバタと離れに駆けていくユーリを、少し落ち着いてくれたら良いのにと溜め息をつくばかりだ。



 ユーリが離れに着くと、ローズとマリーがアイスクリームを作っていた。

「おはよう! もう、作ってくれているのね」

 手伝おうとするユーリを、二人は制する。

「ユーリ、手伝ってくれるのは嬉しいけど、これからはずっと私達でアイスクリームを作らなきゃ駄目なのよ。パーラーでも、私達がアイスクリームを作ったり、ワッフルコーンを焼いたりするの。だって、ユーリは見習い竜騎士の仕事もあるんでしょ。でも、お金の計算とかはよくわからないから、ユーリにお願いしなきゃね」

 助けたいと思っていたマリーに諭されて、ユーリは自分が甘やかされているのに気づく。 

「そうかぁ、マリーもローズも実社会で働いているんだもの。しっかりしてるわね~私はまだ見習いだから半人前ね。早く竜騎士になれるように頑張るわ」

 と言いつつも、他のテイストもあるのよと、結局アイスクリーム作りに参加してしまったユーリに、ローズとマリーは苦笑するしかない。
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