上 下
2 / 273
第一章 ここは何処?

1  ど田舎?  

しおりを挟む
 美形な死神と、美女な女死神に、抗議しようとしたものの意識はだんだん薄れていく。

 有里は薄れていく意識の中で、短くて何となく残念な人生を愛しく思いながらも、新しい生に期待を持った。

『ああ……転生するんだな……田舎でスローライフ……のんびりしたいな……』

 まだ雪が残る早春、なだらかな丘陵地が続いている田舎の景色を三日月が照らしている。風除けの木が数本植えられた窪地に、ちょこんと建ってる小さな家の窓から、夜明け前なのに明かりが漏れていた。

 何となく慌ただしいしい、何かを待ちわびてる雰囲気を切り裂くように大きな産声が上がる。

「おぎゃ~! おぎぎゃ~ぎゃ~!」

 生まれたばかりの赤ん坊は暖かい安心できる所から、眩しい光にさらされて、寒さと孤独に抗議の声をあげる。

「可愛らしい女の子ですよ」

 産婆さんから綺麗に洗われた赤ちゃんを渡されたローラは、少しぎこちなく抱きしめて、泣き疲れて少しぐったりしてる我が子を見つめる。

「ローラ! 女の子だったんだね……よく頑張ったね」

 産婆からやっと寝室へ入れて貰った夫が、心配し過ぎて目の下にくっきりクマを浮かべているのに気づいて、ローラは微笑みを浮かべる。

「わ~! なんか、こんなに小さいのに、指にちゃんとちいちゃい爪があるんだね……」

「当たり前ですよ」

 産婆は新米パパの舞い上がり振りを笑う。ウィリーは産婆にお礼を述べて、貧しい生活の中から精一杯の謝礼を払った。

 産婆が引き上げた後、ウィリーとローラは生まれたばかりの赤ちゃんを愛しそうに眺める。

「ウィリー、抱っこしてみる?」

 ベッドの上に座って赤ん坊を抱いているローラに勧められたが、落としそうで怖いと尻込みする。ベッドに腰掛けて、赤ん坊の手を取ったウィリーは、目をうるうるさせて感慨に浸る。ローラは、新米パパの微笑ましい姿に胸がキュンとした。

「ウィリー、名前は何にする?」

 初めての赤ん坊に、半年前から二人でいろんな名前を考えていた。でも、どれにするかはまだ決めてない。余りに候補の名前が多すぎて決めれなかったのもあるが、昔ながらに赤ん坊を抱いて、一番に浮かんだ名前を付けるという風習に従って決めようと話しあったからだ。

 ウィリーは恐る恐る赤ん坊を腕に抱いて、顰めっ面してる我が子をうっとりと眺める。

「ユリ………ユーリ! ユーリが良いと思うよ。あっ、勿論、ローラが良かったらだけど……」

 ローラはユーリと口の中で唱えて、何だか他の名前ではいけない気持ちがした。

「ユーリ、あなたはユーリでちゅよ」

 落としたら大変だと、あたふたと渡された赤ん坊の頬に口づけしながら、ローラは幸せを実感する。



『ユーリ!』

 有里ゆりのまんまじゃんとつっこんで………

『え……ちょっと記憶が……ある? なんで??』

 赤ん坊の体力で意識を保つのは困難を極めたが、有里はどうやら急いでた死神カップルのやっつけ仕事のせいでか前世の記憶消去ミスが発生したのに気づいた。

 色々と死神カップルには文句をいいたいところだが、赤ん坊なので身体の欲求に従うしかない。

 おっぱい→寝る→泣く→おっぱい→寝るの繰り返しで、寝てばかりで有里……ユーリは当分の間、満足に考える時間が取れなかった。



 ぼんやりとした視力で新米ママのローラと、新米パパのウィリーを眺める。金髪に緑色の瞳の美人がママ、栗色の髪と茶色の目のハンサムがパパ……外国人なの? どう見ても日本人では無さそうな両親だと思う。

 あれっ、二人の言葉がわからない。

『外国なの? ユーリってのが私の名前だとはわかったけど、二人の会話はわからないわ』

 パニックになって泣き出したユーリをあやしながら、この子は私達の話がわかっているみたいね~とトンチンカンな親バカぶりを発揮してる二人だった。
しおりを挟む
感想 82

あなたにおすすめの小説

私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!

hennmiasako
ファンタジー
異世界の田舎の孤児院でごく普通の平民の孤児の女の子として生きていたルリエラは、5歳のときに木から落ちて頭を打ち前世の記憶を見てしまった。 ルリエラの前世の彼女は日本人で、病弱でベッドから降りて自由に動き回る事すら出来ず、ただ窓の向こうの空ばかりの見ていた。そんな彼女の願いは「自由に空を飛びたい」だった。でも、魔法も超能力も無い世界ではそんな願いは叶わず、彼女は事故で転落死した。 魔法も超能力も無い世界だけど、それに似た「理術」という不思議な能力が存在する世界。専門知識が必要だけど、前世の彼女の記憶を使って、独学で「理術」を使い、空を自由に飛ぶ夢を叶えようと人知れず努力することにしたルリエラ。 ただの個人的な趣味として空を自由に飛びたいだけなのに、なぜかいろいろと問題が発生して、なかなか自由に空を飛べない主人公が空を自由に飛ぶためにいろいろがんばるお話です。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

旧転生者はめぐりあう

佐藤醤油
ファンタジー
リニューアル版はこちら https://www.alphapolis.co.jp/novel/921246135/161178785/

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...