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第三章 防衛都市

やっと十階

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 中級者用のダンジョン、ジルとサミーがそれぞれ子分を連れてきたので、一階からやり直しになった。

「私の仲間のルミだ」
 ルミは、ジルよりは大きいけど、身体強化は使えないみたいだ。
「ベンだよ」
 サミーが連れてきた男の子、かなり大きい。これなら、他の冒険者が荷物持ちに雇ってくれるんじゃないの?

 でも、ベンは……力は強いけど、とろい。ドロップ品を拾うのが遅いんだ。

「ベン、これを持つんだ!」
 ジルが重い肉をベンの背負い籠に入れていく。これでは、荷物持ちとして駄目なんじゃないか?

 五階までもう一度潜って、地上に戻る。やはり荷物持ちが多いと、途中で整理しなくても良いから楽だ。

 ◇

 二日目、今度こそ十階を目指す! 今日は女将さんに肉を挟んだパンを九つ作ってもらった。
 ベンが一つでは足りないからだ。かと言って、ベンだけ二個なのも、他の子に悪い。

 それで、全員に二つずつ配る。残りを晩御飯にしようが、それは各自の判断に任せよう! こんな事をジャスに知られたら、爆笑されそうだ。

 こんな甘々な対応、今日限りで卒業するぞ!

 五階の転移陣から六階に行く。

「広いなぁ! それに冒険者が多い」

 四組もいるから、なるべく近づかないように気をつけながら進む。馬鹿な冒険者に絡まれるのは御免だ!

「むぅ、林というより森だな!」

 草原ダンジョンと呼ばれている割に、木が多い。真っ直ぐには進まないし、魔物も集団で襲ってくる。

 ただ、コカトリスやビッグボアは、討伐するのは楽だ。
 問題は、ファイヤーウルフ! あいつらは足が早いから、油断すると回り込まれる。

「皆、その場を動くな!」荷物持ちの子どもにバリアを張ってから、討伐する。
 ファイヤーボールを打たれる前に、こちらもフルメンで攻撃しないといけない。

 ドロップ品は、毛皮や魔石や牙が多い。赤い短剣は、ボスだけなのかな? ぜぃぜぃ、疲れた。



 七階には冒険者がいなかった。

「少し、休憩だ!」

 六階を急いで踏破したが、冒険者を避けるのを優先したので、魔物とかなり遭遇したのだ。

 腰を下ろして、水を飲む。昨日は、ルミとベンは水筒を持っていなかったが、日当で買ったみたいだ。

「お兄ちゃん、今日で十階まで行くの? 薬草とかは、良いの?」

 薬草も欲しいけど、先ずは十階に行きたい。

「十階へ行くぞ!」と立ち上がる。

 七階、八階は、冒険者も少ないから、魔物を避けながら進んだ。



 九階でお昼にする。ここは、木が少ないけど、丘がある。ダンジョンって不思議だ。

 ベン以外は、一つで十分みたい。大事に持って帰るのは、待っている子がいるのか? 晩御飯にするのなら良いのだけど。

 この丘のせいで、魔物を避けるのが難しい。それに、遠目で見ていたより、坂も厳しい。

「お兄ちゃん、ちょっと休憩しようよ」

 ジルとサミーは小柄だけど、身体強化が使える。でも、ルミとベンは使えない。

元気回復レフェクティオ!」を掛けてやる。

「おお、すげぇ!」と騒いでいるけど、それより休憩しろよ。

「なぁ、お前たちは冒険者になりたいのか?」

 少しゆっくりと丘を登りながら、質問する。

「冒険者になる!」とジルは即答する。サミーは、少し考えてから頷く。

「なりたいけど……無理かも……」
 ルミとベンは、身体強化が使えないからなぁ。

「ギルドが初心者用の研修をしてくれたら良いのだけど……」

 あのギルドマスター、苦手だ。交易都市エンボリウムのガンツ・ギルド長の方が話がわかる感じだったなぁ。

 それに、まだファイヤーウルフの罪も裁いていない。犯罪奴隷にするなら、持ち物や所持金、奴隷の代金も私の物になるんだよね? 

 まぁ、それよりも近づきたくない感じだよ。
 ルシウスが、カインズ商会に中級回復薬十本と下級回復薬十本を納めてくれた。
 中級回復薬は、一本が六金貨ゴルディになったんだ。

 ギルドには、下級回復薬を二十本納めた。カインズ商会と同じく、一金貨ゴルディにしたよ。

 ここまでは良かったけど、カインズ商会の中級回復薬が銀級や金級の冒険者達に好評で、凄い値段になっているみたい。カインズ商会、笑いが止まらないんじゃないかな?

 ただ、ギルドマスターは、ダンジョン探索隊のメンバーから「優れた中級回復薬を用意して欲しい!」と突き上げられているみたい。

 カインズ商会は、私が納めたのは極秘にしてくれているけど、バレているよね。だから、なるべくギルドには近づかないようにしている。

 丘の途中で、ファイヤーウルフの群れに遭遇した。
フルメン!」で一気に倒したけど、ドロップ品を子ども達が拾っている間に、もっと大きな群れに囲まれた。

「冒険者がいないのも良し悪しだな!」
 私達しかいないから、魔物が集中して寄ってくる。

 やっと討伐して、丘の頂上から十階への階段への道を眺める。

「げぇ! 嘘だろう! ヴリシャーカピは嫌いなんだ!」

 遠目でもヴリシャーカピの群れが確認できた。それに、ボスらしき白いヴリシャーカピも。

「お兄ちゃん、どうするの?」
 ジル達が怯えている。

「ヴリシャーカピは嫌いだけど、魔法で一撃だよ!」
 まだ上手とは言い難い弓で攻撃している暇に、石を投げてこられそう。

「先ずは、ボスを倒そう!」
 ボスは、仲間を強化する魔法を持っているから。
遮断ディスコンティ!」を先ずボスに掛けて、他のヴリシャーカピ達に「フルメン!」を掛けて撲滅する。

 ただ、十階の転移陣前のボス戦がちょっと不安になってきた。



 十階もほぼ九階と一緒だったけど、ボス戦は何になるのか考えてしまう。
 ルシウスやジャスが大丈夫だと考えているのだけを信じて進む。

「ボス戦の時、絶対に動くなよ!」
 注意して、階段を下りると……げぇ! ビッグベアの群れ!

フルメン!」を多発して、討伐したけど、ボスが残っている。

「ゴールデンベアだ!」後ろで、ジルが騒いでいる。
 金熊亭に泊まっているから、ゴールデンベアが出たのか? まさかね!

フルメン!」は手で弾かれた。
遮断ディスコンティ!」も魔力の残りが少ないから、効き目が悪い。魔力の回復薬を探さないといけないな。
 
「ガァォォ!」凄い雄叫びに、子ども達はビビっている。
 これって威嚇なのか? 女神様クレマンティアの加護のお陰で、私には効果がない。

「煩いぞ!」矢で目を狙う。
 パシッと矢を手で弾いたが、私の本当の狙いは首だよ!

遮断ディスコンティ!」

 ゴールデンベアの首が飛んだ。

 ぜぃぜぃ、本当に疲れたよ。私が座って水を飲んでいる間に、ビッグベアの毛皮、肉、爪、魔石を子ども達が拾ってくれた。

「お兄ちゃん、黄金の毛皮だよ!」
 ジルが飛び上がって喜んでいる。
 でも、私は自分の実力不足が身に染みている。
 基礎の中級者用のダンジョンでこんなに苦労するなら、他のは無理なんじゃないの?

 転移陣で地上に戻り、黄金の毛皮以外は、ダンジョンの周りの商人に売る。そして、荷物待ちの子ども達に、二銀貨クランづつ配る。

「今日でお別れだ! 元気で暮らせよ!」
 自分の弱さにヘナヘナな気分だ。
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