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第二章 防衛都市までの道

水売りになったかも

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 一度、ビックボアが道に飛び出したけど、クレアのスレイプニルに蹴り飛ばされ、ルシウスが首を斬って、瞬殺された。

 私が、もたもたと弓を構えようとしている間にね。はぁ、やはり魔法の方が簡単なんじゃない?

「ダンジョンでは、魔法攻撃が効かない魔物が出る階もあるんだぞ」
 ジャスは、本当に私の気持ちが読めるんじゃないかな?

 休憩したのが二個目、三個目、四個目の休憩所をパスして、五個目が今夜の寝る場所になった。

「ここは、水場が近いから、馬とスレイプニルの飲み水を汲もう! それと、水の質が良さそうなら、飲み水も補充しておく」
 交易都市エンボリウムを朝に発ったばかりだから、水も悪くなってはいない。

「飲み水は、良いんじゃないの?」と私がコソッとジャスに聞く。

「ある場所で補充するのが旅の常識だぞ」
 ええっと、浄水は飲めないのだろうか?
 ジャスに渡された木桶に二つに「浄水!」と掛けて満杯にする。

「飲めるかな?」
 木桶を地面に置き、手で掬って飲んでみる。冷たくて、美味しい!
「おぃ、何をやっているんだ?」
 ジャスは川まで行って、両手の木桶いっぱい水を汲んでいた。覗き込むと、少し濁っているようだけど?

「俺、浄水が出せるから、飲めるか試したんだ。結構、美味しいよ!」
 ルシウスも木桶を両手に持って水場へと歩いてきた。

「おぃ、ルシウス! この非常識なガキ! お前が面倒見ろよ! 水を早く持っていかないとドヤされるから」
 ああ、ジャスはお姉さんのクレアのベィビィの水を汲んでいたんだ。頭が上がらないんだね。へへへ!

「うん? お前も水を汲んだのなら、早く持っていけよ? 何をジャスは騒いでいたんだ?」
 ルシウスに浄水を飲んでも良いのか確認しよう!

「いや、これは川の水じゃないんだ。浄水が作れるから、飲めるかなと思って出したんだよ。冷たくて美味しいけど、ジャスは非常識だと怒るんだ」

 ルシウスも唖然としているから、駄目なのかも?
「ちょっと一口飲ませてみろ!」
 持ってきた木桶を地面に置いて、両手を水につけようとするから、浄化ピュリフィケーションを掛けておく。 
「お前なぁ!」と文句を言いながら、両手で水を掬って飲む。

「うん! 冷たくてうまい!」と言ったものの、考え込んだルシウス。

「お前、どのくらい浄水を出せるんだ? 木桶、二杯程度なら、星の海シュテルンメーアの水だけだな」
 
 少なくとも私は、あの濁った水を飲む気にはならない。だから、ジャスはエールの樽を無理を言って乗せたんじゃないかな? 
 今日はまだ交易都市エンボリウムの水も悪くなっていないだろうけど、これから何日もしたら悪くなりそう。
 うん? 無くなるのかも?

「だから、どのくらいなら髪の毛が伸びなくても出せるんだよ?」

「エールの樽ぐらいなら、髪の毛は伸びないと思う」
 
「ちょっと、待っていろ!」とルシウスは素早く川で水を汲んで、戻ってきた。

「その水の片方を馬にやってみろ。動物の方が本能的に飲んで良いか判断するだろう」
 つまり、一口だけでは判断できないって事かな? 

 ルシウスと一緒にキャンプに戻ると、ジャスはやはりクレアのスレイプニルに水をやっていた。いたのだけど、スレイプニルがこちらに突進してきた。

「おぃ、ベィビィ、どうしたんだ?」
 クレアが止めてくれなかったら、蹴り殺されていたの? 昼間のビッグボア、私の三倍は体重がありそうだよね。

「ブヒヒン!」
 ベィビィが大きな馬体を捻らせている。怖い!
「おい、アレク! ベィビィは、その水が飲みたいと言っている。やってくれ!」
 まぁ、ルシウスは馬で試そうと言っていたんだから、スレイプニルでも一緒だよね?

「良いけど……これは、川の水じゃないけど、良いのかな?」
 腹を下したとか文句を言われたら困るから、一応、言っておく。
「川の水じゃない? 魔法で出した水なのか? だが、ベィビィは賢い子だ。飲みたがっているのだから、大丈夫だろう」
 
 持ち主がそう言うんだから、良いのだろう。
 ベィビィの前に木桶を置くと、嬉しそうにグビグビ飲む。まるで、エールを飲むジャスみたいだ。

「そっちの桶を貸せ!」
 クレアに木桶を渡すと、豪快に桶に口をつけて飲む。ルシウスでさえ、手で掬って飲んだんだけど、漢らしいね!

「うん、こりゃベィビィの方が正しい! 濁った水だって、飲まなくはないが、やっぱ、こっちだな! アレク、他のスレイプニルの水も出してくれないか?」

『クレイジーホース』暴れ馬って意味だと思っていたけど、馬にくびったけって方がぴったりくるよ。

 折角、ジャスとルシウスが汲んだ水を、クレアがバシャバシャ捨てる。
 からになった木桶に浄水を満杯にすると、他のメンバーのスレイプニル達に与える。

「ブヒヒン!」と大喜びしているスレイプニル。『クレイジーホース』のメンバーもその様子を見て、デレデレと笑っている。

「アレク、お前なぁ!」とジャスが苦い顔だ。

「まぁ、そう言うなよ! これで『クレイジーホース』はアレクに頼りっきりになる。防衛都市カストラでアレクの髪の毛ザッパン案件は口にしないと誓ってくれそうだ」
 ルシウスは、一応は口止めしたけど、酔っぱらった冒険者の口が軽いのは知っている。

 スレイプニルを味方にしたら『クレイジーホース』は絶対に私の味方になってくれるんだね!

「それと、グレアムさんとハモンドさんと話し合わなきゃな! 少し護衛依頼に上乗せして貰おう!」
 ルシウスは、結構お金を持っていると思うんだけど、稼ぐチャンスは逃さない主義みたいだ。

「まぁ、腐った水や濁った水は、俺も飲みたくないから、良いんじゃないか? だが、口止めしておけよ!」

「ああ、それにカインズ商会は星の海シュテルンメーアを手放さないと思うぞ! 自由都市群パエストゥムまで行く時は、水の確保に難儀するからな」

 ジャスに手を振って、ルシウスはご機嫌で、馬車の方に向かう。
 
 
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