海と風の王国

梨香

文字の大きさ
上 下
360 / 368
第15章 次代の王

21  未来の女王!

しおりを挟む
 新婚旅行からサリザンに帰って数日経つと、ショウは二ヶ月近くも留守にしたのでレイテに帰った。誰も居なくなった新しい後宮で、ゼリアは大きな溜め息をついた。

「ショウ様は、もうレイテに着かれたころね。沢山の綺麗な妻達に囲まれていらっしゃるでしょう」

 しかし、落ち込んでいても仕方ないとゼリアは、久しぶりにヘビ神様に挨拶をしにいこうとロスを肩にかけた。

『ショウが居なくて寂しいなら、他の男を後宮に囲えば良いのに』

 自分と話せるショウは好きだが、ヘビが苦手なのが玉に傷だ。ロスは、ハネムーンの間、ショウには近づかないように気を使った。

『まぁ、ロスったら! ショウ様以外の男の人なんて、いらないわ! ヘビ神様に挨拶を済ませたら、バリバリ働くわよ。お母様のお手伝いをしなくてはいけないもの』

 この一月は、本当にのんびりとハネムーンを過ごさせて貰ったと、ゼリアは微笑んだ。しかし、ヘビ神様はバリバリ働くのを禁止した。

『貴女のお腹の中には次の次の女王がいるのですよ。少しアルジェの手伝いをするぐらいはかまわないけど、バリバリ働いたりしたら疲れてしまうわ』

『ショウ様の赤ちゃんがお腹にいるのね!』と喜ぶゼリアが、早く知らせなくてはと後宮に帰るのを満足そうに見送ったが、ヘビ神様はサバナ王国のルードに第二王女を渡したりはしないとシューシューと赤い舌を出した。

『いっそのこと、ショウが豹王の娘と子どもを作れば話は簡単なのに、そうすればゼリアの赤ちゃんをルードが狙ったりしないのに……でも、そうなったらゼリアは悲しむわ。もう本当にどうしたら良いのかしら、困ったわねぇ』

 ヘビ神様は、悩ましそうにのたうった。




「えっ、ゼリアが妊娠したんだ!」

 良い花の香りがする書簡を読んで、ショウは喜んだ。体調に気をつけるようにと返事を書くと、それをピップスに至急届けて貰うように手配する。

「夏に産まれるんだよなぁ、会いに行きたいなぁ」

 ミミとミーシャが出産をした後になら、少しレイテを留守にしても良いかな? と、スケジュール表とにらめっこしてにまにましていたが、ヘビ神様がサバナ王国の情勢を気にしていた件を思い出し、バッカス外務大臣に何か新しい情報は無いか聞きに行く。

「ああ、丁度良いところにお越し下さいました。此方から参ろうと思っていたのです」

 にこやかに出迎えられて、うんざりする。

「ついにギルバート公子がジャリース公を蟄居させましたよ」

 第二公子だったルパートを殺したジャリース公が第三公子を飛ばして後取りにしたギルバート公子に蟄居させられようが、殺されようが、ショウは興味を持てなかった。

「ギルバート公子が親よりはまともなことを祈るしかないな。そろそろ、マルタ公国にも落ちついて欲しいから、ダイナム大使にそう伝えといてくれ。それより、サバナ王国のユング王子の件だけど……」

 にやっと笑うバッカス外務大臣の前から逃げ出したくなる。

「サバナ王国のユング王子は、マウイ王子の祖父を殺しただけでは気が済まなかったみたいですよ。マウイ王子を支持していた農耕民族の族長をまた殺してしまったみたい。流石にアンガス王が怒って、それ以上殺したら、お前を殺すと言ったそうですわ。もう、血の気が多い野蛮な王子なんて、最低だわ!」

 最低だわ! なんて言ってるくせに、可笑しくて仕方がないと、笑いを堪えている。

「サバナ王国は我が国の貿易相手国だ。後継者が愚かだと、のちのち困るじゃないか」

……まぁ! 怒った顔がどんどんアスラン王に似てくるわ!…… 

 ゾクゾクッと背中に悪寒が走ったショウは、怒って席を立とうとした。

「あっ、サラム王国のピョートル王は、クーデターを起こしたマークス・フォン・バーミンガム将軍に幽閉され、退位させられましたよ。でも、バーミンガム将軍は王位に就く気はないみたいですね。ピョートル王の従兄弟であるランス公子を王に就けて、執政官として支配するみたいです」

 ランス王もさほど賢くは無いみたいだと肩を竦めるバッカス外務大臣に、ショウも溜め息しか出ない。

「バーミンガム将軍の手腕に期待するしかないな」

 今度こそ席を立ったショウ王太子に、バッカス外務大臣は「スーラ王国の次の次の女王が無事にお産まれになりますように」と声を掛けた。何故知っているのか? とショウは驚きながら、後宮へと帰った。



「父上! いつになったら竜に乗せて下さるの?」

 後宮に着いた途端、アイーシャとレイラがショウを見つけて抱き付いてくる。ショウは、暗いサバナ王国やサラム王国の状況を暫し忘れて、サンズに二人を乗せてやる。

「怖くないか?」

 低空を飛ばしているが、幼い娘達が怖がったらすぐに降りられるようにサンズも気をつけている。

「全然! もっと早く飛ばして!」

 無邪気な娘達とサンズで空を飛んでいると、ショウはお腹の底から笑える。

……エスメラルダが産んだリュウにも会いに行きたいな!……

 同じ時期に産まれたユウトとユリアは、もうヨチヨチ歩き始めている。少し小さなバイオレットも、つかまり立ちしては、ストンと尻餅したり、可愛い盛りだ。

「父上がイズマル島に行かれるから、留守番ばかりだ。ええい! 産まれて一年も自分の息子に会わないだなんて、父上みたいじゃないか!」

 本当にこのところのショウは忙しい。アスラン王が留守をしているから、王としての執務をほぼ全て遣らなくてはいけないし、去年の秋にはエリカの社交界デビューや、ウィリアム王子との婚約披露パーティなどもあった。

 ミヤは、アスラン王が親として出席するべきだと説得を重ねたが、仕方なくショウにエリカの後見役を頼んだのだ。ゼリア王女との結婚式を控えていたショウは、その前に一ヶ月もユングフラウに滞在しなくてはいけなくなり、本当に仕事が溜まって忙しく、イズマル島に行く余裕が無かったのだ。

 しかし、このままではリュウに会えない! と、ショウは強硬手段を取ることを決めた。

「ねぇ、リリィ! リュウに会ってきたいんだ」

 それでも、アスランとは違って、ショウは第一夫人のリリィにだけは許可を取る。

「まぁ! でも、アスラン王がお留守なのに、ショウ王太子まで留守にされて良いのですか?」

 前ならフラナガン相談役が、三人の大臣を監督してくれていたが、このところは王宮に出仕することも稀になっている。

「緊急の用件は無いから、今なら三人の大臣で大丈夫だよ。ミミとミーシャは、リリィに任せておく」

 妊娠中の妻だけでなく、嫁いで来たばかりのファンナ妃とシルビア妃もいるのにと、リリィは眉を少し上げたが、エスメラルダ妃にはキャベツ畑の借りもある。それに、これからもキャベツを譲って貰わないといけないかもしれないのだ。

「仕方ないですわね。出来るだけ、早くお帰り下さいよ」

 そう言いながらも、リュウ王子へのお土産を手早く用意してショウに持たせる。リリィに第一夫人になって貰って良かったと、感謝しながらショウは旅立った。

「リリィ様、ショウ王太子は何処に行かれたのですが?」

 騎竜から、サンズが飛び立ったと報告を受けたバッカス外務大臣が、後宮の入り口にあるリリィの部屋に駆け込んだ。

「さぁ、レイテ大学では? 風で電気をつくるとか仰ってましたわ」

 バッカス外務大臣は、大商人ラシンドの娘らしく胆が座ってるリリィには敵わないと、アスラン王とショウ王太子の不在中は、今まで以上に気を引き締めて勤めなくてはと王宮へ帰っていった。

……それにしても、アスラン王もショウ王太子もいらっしゃらない王宮は不毛だわ。目の保養になる文官なんて、そうそう居ないものねぇ……

 やっと、ショウ王太子の不在に気づいた内務大臣と軍務大臣が慌ててリリィの部屋に向かうのを見つけたバッカス外務大臣は「今更騒いでも無駄だから、さっさと仕事をしましょう」と声をかけた。

「アスラン王も不在なのに、ショウ王太子まで出掛けられたら、王宮はどうなるのだ!」

 怒りを表すドーソン軍務大臣に「それが大臣の仕事でしょ!」と肩を竦めて、王宮に帰る。

 その後ろ姿を見ていたベスメル内務大臣は、なるほどアスラン王と同じ血を引いていると納得する。話し方や性癖ばかり注目していたが、能力は自分達より優れているのではと評価しなおしたのだ。

「もしかして、次代の宰相はバッカスかもしれませんな」

 ドーソン軍務大臣は「冗談だろう!」と、ベスメル内務大臣の顔を覗き込み、真剣な表情に驚いた。

「まぁ、私達が口を出す事ではありませんよ。アスラン王か、ショウ王太子が任命されるのです」

「あのバッカス外務大臣をアスラン王が宰相にされるわけがない!」と強気の発言をしたドーソン軍務大臣だが、何を考えているのかよくわからないところのあるショウ王太子なら有り得るかもと身震いする。
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

【完結】徒花の王妃

つくも茄子
ファンタジー
その日、王妃は王都を去った。 何故か勝手についてきた宰相と共に。今は亡き、王国の最後の王女。そして今また滅びゆく国の最後の王妃となった彼女の胸の内は誰にも分からない。亡命した先で名前と身分を変えたテレジア王女。テレサとなった彼女を知る数少ない宰相。国のために生きた王妃の物語が今始まる。 「婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?」の王妃の物語。単体で読めます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...