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第十一章 ショウの家族
3 ショウの商船隊
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パックが孵るまでに、レイテ港の埋め立て埠頭は竣工式を終えた。ショウは埠頭で荷物を降ろしているダリア号を、サンズと一緒に上空から眺めている。
埠頭に横付けしたダリア号から、木製のクレーンで荷物をスムーズに降ろして荷馬車で倉庫へと運ぶのを見て、何年もかかった大事業がやっと完成した感慨に耽る。
『カインズ船長とは、久し振りにゆっくりと話せるなぁ』
ショウはこの数年で、何隻もの商船を購入して、大規模な商船隊を組んでいた。この度、数隻を買い足したので、二つに分ける潮時だと考えていたのだ。勿論、一つ目はカインズ船長にこれまで通り任せるつもりだが、二つ目の商船隊を誰に任せようか悩んでいた。
『今夜は酒盛りなの? あまり、酔わないでね』
サンズに注意されるまでもなく、真面目な話をしなくてはいけないのだが、やはりカインズ船長には飲まされてしまった。
「商船隊を率いる旗船の船長を誰にしたら良いのか、迷っているんだ……」
少し顔を赤くしたショウは、カインズ船長に相談する。
「やはり、二隊に分けるのか?」
カインズ船長は今度ショウが新しく購入した船と合わせたら、かなり数が多くなりすぎるとは思うものの、少し残念な気持ちもする。
「カインズ船長の商船隊に、参加させて欲しいとの要請も多いんだろ」
ショウの船だけでなく、護衛船を持つ商船隊には他の商人の持ち船も参加している。
「まぁ、それはそうだが……」
カインズも断るのに難儀しているのだ。
「これ以上増えたら、機動性が悪くなるよ」
チェッ! と舌打ちしたが、カインズもわかってはいた。
「どの船を二隊にするつもりなんだ」
ショウは少し酔った頭で名前をあげたら、カインズ船長に肩を持って、駄目だ! と揺すられてしまい気分が悪くなった。
「じゃあ、どの船なら良いんだ」
手を振り払って尋ねると、カインズは唸りだす。
「ヘリシテ号、ヨアンナ号なら……いや、あの船の船長は俺が育てたのに……」
どの船も手放したく無さそうだが、二つに分ける時期にきていた。
「旗船は今度購入したガリレオ号なんだけど、船長は誰が良いかな? 推薦してくれるなら、その船長に決めるよ」
カインズは少し当てがあるから、考えさせてくれとショウに申し出たので、そこからは本格的な飲み会になった。その夜はサンズに酔ってるから乗せられないと拒否されて、カインズ船長の屋敷に泊まった。
「ショウ兄上、おはようございます!」
客室に泊まったショウは、弟のマルシェに起こされて、一瞬どこにいるのか混乱した。
「マルシェ、どうして此処に?」
差し出された洗面器で顔を洗いながら、ショウはまさかカインズ船長が推薦するのはマルシェなのか? と首を捻る。
「サリッシュ兄上について来たのです」
ショウは、ラシンドの次男のサリッシュとはあまり面識がなかった。カインズはラシンドの姪のダリアを嫁に貰っているから、従兄とも交流があるのだろうと着替えながら考える。
「なかなか起きて来ないから、マルシェに起こして貰ったんだ」
カインズ船長の横に座っているサリッシュの顔を見たら、幼い頃の面影があり、思い出した。ショウはラシンドの屋敷には母上のルビィに会いに行くので、大きくなったサリッシュとは会う機会は少なかっが、第一夫人のユーアンの部屋とかで見たことはあった。
「ショウ王太子、おはようございます」
ショウは王太子なんて付けなくても良いと、笑ってとめる。
「カインズ船長、もしかして……」
「そうなんだ! サリッシュは独立して船を三隻に増やしたんだが、この前の航海でかなりダメージを受けたんだ。アルジエ海で海賊に襲われそうになって、逃げる為にかなりの荷物を棄てなきゃいけなかったのさ」
サリッシュは、悔しそうに唇を噛んだ。
「そのせいで損失を出してしまい、船を二隻も手放さなきゃいけないと言ってたのを思い出してね」
ショウは、ラシンドが独立したサリッシュに援助の手を差し伸べないのかと驚いた。
「父に援助して貰ったりしたら、レイテでは半人前だと笑われますよ。商船隊には護衛船も付くのですよね、是非参加させて下さい」
ショウはカインズ船長が旗船の件を話さないで、サリッシュを呼んだのだと気づいた。推薦するけど、後は自分の目で見て判断できるようにと気をつかっているのだ。
「サリッシュ船長は、イズマル島まで航海したことはありますか?」
ショウはサリッシュの船長としての経験と、商人としての才能をチェックする。ラシンドの息子だけあって商才には恵まれていたが、アルジエ海で海賊に襲われそうになった経緯とかも、質問しておきたかったのだ。
ショウは自分の商船隊には、自分の資金だけでなく、ララやロジーナやメリッサの持参金を投資していたので、無謀な真似をする船長に旗船は任せられないと考えたからだ。
「アルジエ海と言っても、イルバニア王国の沿岸に沿っての航海でしたから、まさか海賊に襲撃されるとは考えてもいませんでした。商船隊に入ると時間のロスも多くなると、焦った自分の判断ミスです」
カインズ船長も、沿岸付近に海賊が出たと聞いて眉をしかめる。
「ショウ様、これは少し変な話だなぁ」
ショウもイルバニア王国の沿岸を海賊が襲ったとは聞いたことがなかった。
「この件はドーソン軍務大臣に調査させておく。サリッシュ船長、悪いけど海賊に襲撃された位置など詳しい報告書を提出してくれないか? もし、万が一イルバニア王国の沿岸を……」
緑豊かな穀倉地域を海賊が狙うのはわかるが、今まではそんな暴挙に走る海賊は居なかった。何故なら、イルバニア王国には最強の竜騎士隊があるからだ。
「しかし……イルバニア王国がローラン王国と戦争したのは二十年以上も前の話だ。戦争を経験していない人達が、増えてきている……」
この前のマリーゴールド号の襲撃事件で、マルタ公国と勝ち目の無さそうな海戦をしようと盛り上がったイルバニア王国の一部の論調を思い出して、戦争を知らない世代が増えているのだとショウは危うさを感じる。
アルジエ海は、本来はイルバニア王国がパトロールすべき海域なのだ。東南諸島連合王国が一手に海賊討伐を引き受けていたが、イズマル島やウォンビン島、その航路にあたる海域もパトロールを強化しているので手薄になっていたのかもしれないと、ショウは眉をしかめる。
「サリッシュ船長、私は今度商船隊を新たに増やすつもりなのです。その旗船の船長になって貰えませんか?」
サリッシュは驚いて、カインズ船長の顔を眺めたが、人相の悪い顔をにやにやさせている。
「お前さんが嫌なら、他にも大勢なりたがる船長はいるぜ」
サリッシュは「是非やらせて下さい!」と引き受けた。
後のガリレオ号の見学や、第二商船隊に分けられる商船や、護衛船との話し合いは、カインズ船長に任せることにした。
大事な話を終えたので、朝食を食べながら和やかに世間話をする。
「ショウ兄上、今度レイテに大学ができるのですか?」
十三歳のマルシェはまだ独立できないので、時々ラシンドの船に乗せて貰っていたが、ショウはパロマ大学に留学を勧めていた。
「レイテにも大学を創立させたいと願っているけど、数年はかかりそうだよ。マルシェは、大学で学ぶより、航海に出たいのか?」
数年前は航海にやたらに出たがっていた。ショウはゆっくりと大人になれば良いと忠告したのを思い出して尋ねた。
「前に兄上から言われた時は、意味がわからなかったのです。でも、何回か航海に連れて行って貰って、何となく理解できました。外国の事も学びたいと思うようになりましたし……航海は好きですが、私は商売に向いてないとも感じるようになったのです」
大商人ラシンドの息子らしくない言葉だが、ショウにも理解できた。東南諸島連合王国の人間だからといって、全員が商売に向いているわけではない。
「マルシェは何をしたいのか? それを見つけなくてはね」
マルシェはどうすれば良いのかはわからなかったが、一つだけは目標があった。
「ショウ兄上のお仕事のお手伝いをしたいのです。ピップス様のように兄上の手足になって働きたいのですが、竜騎士ではないし……でも、文官になる為の勉強や、兄上を護る為の武術も頑張ってます」
幼い弟に護りたいと言われて、ショウは苦笑する。
「私はそんなに頼りないのかな?」
カインズ船長は何度となく危ない目にも遭ってきたので、ショウが剣の腕前はかなり使えると見抜いていた。
「剣の腕前はあるけど、ショウ様は王太子なのだから護衛は必要なのさ。マルシェ、頑張って文官試験に合格して、ショウ様をお助けするんだぞ」
ショウは酷いなぁと愚痴りながら、ラシンドはそれで良いのだろうかと心配する。
「父上は頑張れと励ましてくれました。商人の子だからといって、商人になる必要もないと……それに興味が無いのもバレていましたから」
弟が商売に興味が無いと口にしたのに、サリッシュは驚いた。
「マルシェは変わってるなぁ! 船に乗って商売する程楽しいことに興味が無いだなんて!」
根っからの商人気質のサリッシュとカインズから呆れられたが、ショウも商売に興味が無いんだと告白する。
「これは適材適所さ、私に物を売らしていたら、儲けは微々たるものだろうからね」
マルシェは少し首を捻る。
「ショウ兄上は、レイテでは商売上手だと褒められていますよ。埋め立て埠頭の資金を集めたり、ローラン王国の造船所の資金も民間から上手く集めたから。それにゴム引きのカッパや、真珠の養殖、サンズ島、チェンナイの開発……私もいっぱい勉強しないといけませんね」
物を高く売る商売の駆け引きには興味を持てないマルシェだが、人との交渉とかは上手そうだとショウは感じた。バルビッシュは文官として能力が高いし、ピップスは竜騎士としての機動性と武術に優れている。マルシェが勉強して文官になれば、人当たりも良くて、外国に興味を持っているので、外交とかに向いているかもとショウは期待する。
「マルシェ、頑張って文官試験に合格するんだぞ。身内だから、贔屓にされているなんて思われたくないだろ」
サリッシュを旗船長にするのは私事だから別に良いが、ラシンドの娘のリリィを第一夫人に迎えて、マルシェを側近にしたら、贔屓だと言われそうだとショウは釘をさした。
周りに文句を付けられない優秀な成績で合格しなくてはと、マルシェはこれまで以上に真面目に勉強しようと決意する。
朝食を食べ終えたショウに、酔っ払ってないねとサンズは笑って確認する。
『サンズ、王宮に帰ろう』
カインズ船長の屋敷から帰る途中で、マルシェの件からリリィのことを思い出した。そろそろ第一夫人が本当に必要だとショウは溜め息をついた。
アイーシャとレイナは、母親のレティシィアとララも仲が良いので、友好的な姉妹関係だが、ロジーナの子供は上手く付き合えるかショウは心配する。
その上、春にはエスメラルダ、夏にはミミと結婚するし、メリッサも来年は卒業して帰国する。
「リリィの子供は九歳と七歳かぁ、カリン兄上は上の子供は軍艦に乗せていたなぁ」
そろそろ第一夫人無しでは、後宮の平和が保てないと、ショウは深い溜め息をつく。
きな臭いアルジエ海の動きも気になるし、その背後にマルタ公国だけでなく、海賊を擁護しているサラム王国の影もちらほら感じる。一瞬、その二つを結ぶのに暗躍する蛇王子を想像して、ショウはゾクゾクとする。
「一度、スーラ王国と、サバナ王国を訪問しなくては……」
幼かったゼリア姫も十四歳になり、来年には結婚する予定だが、こちらは婿入りで今までとは勝手が違う。
スーラ王国とサバナ王国は、この数年で小さな部族国家を併合して領地が接している。クッションになっていた小国が無くなり、国境を接した二国には緊張感が漂っていた。
後宮の争いなどに構っている場合では、なくなっているのだ。
「一度、カリン兄上とリリィと真剣に話し合わなくてはいけないな」
今年は忙しく外国を訪問することが多くなりそうなので、後宮を留守にしがちになる。レティシィアが今は第一夫人の代理をしてくれているが、万が一ロジーナの産む赤ちゃんが男の子なら、数年後には離宮で教育しなくてはいけないのだ。
自分が女の子の方が気楽だと感じているのに苦笑する。しかし、周囲からは王子の誕生を望む暗黙のプレッシャーを受けているし、後宮へ娘や孫娘をとの申し込みも山のようにある。
リリィの子供も大きくなったので、そろそろ良いかもしれないとショウは考えた。
埠頭に横付けしたダリア号から、木製のクレーンで荷物をスムーズに降ろして荷馬車で倉庫へと運ぶのを見て、何年もかかった大事業がやっと完成した感慨に耽る。
『カインズ船長とは、久し振りにゆっくりと話せるなぁ』
ショウはこの数年で、何隻もの商船を購入して、大規模な商船隊を組んでいた。この度、数隻を買い足したので、二つに分ける潮時だと考えていたのだ。勿論、一つ目はカインズ船長にこれまで通り任せるつもりだが、二つ目の商船隊を誰に任せようか悩んでいた。
『今夜は酒盛りなの? あまり、酔わないでね』
サンズに注意されるまでもなく、真面目な話をしなくてはいけないのだが、やはりカインズ船長には飲まされてしまった。
「商船隊を率いる旗船の船長を誰にしたら良いのか、迷っているんだ……」
少し顔を赤くしたショウは、カインズ船長に相談する。
「やはり、二隊に分けるのか?」
カインズ船長は今度ショウが新しく購入した船と合わせたら、かなり数が多くなりすぎるとは思うものの、少し残念な気持ちもする。
「カインズ船長の商船隊に、参加させて欲しいとの要請も多いんだろ」
ショウの船だけでなく、護衛船を持つ商船隊には他の商人の持ち船も参加している。
「まぁ、それはそうだが……」
カインズも断るのに難儀しているのだ。
「これ以上増えたら、機動性が悪くなるよ」
チェッ! と舌打ちしたが、カインズもわかってはいた。
「どの船を二隊にするつもりなんだ」
ショウは少し酔った頭で名前をあげたら、カインズ船長に肩を持って、駄目だ! と揺すられてしまい気分が悪くなった。
「じゃあ、どの船なら良いんだ」
手を振り払って尋ねると、カインズは唸りだす。
「ヘリシテ号、ヨアンナ号なら……いや、あの船の船長は俺が育てたのに……」
どの船も手放したく無さそうだが、二つに分ける時期にきていた。
「旗船は今度購入したガリレオ号なんだけど、船長は誰が良いかな? 推薦してくれるなら、その船長に決めるよ」
カインズは少し当てがあるから、考えさせてくれとショウに申し出たので、そこからは本格的な飲み会になった。その夜はサンズに酔ってるから乗せられないと拒否されて、カインズ船長の屋敷に泊まった。
「ショウ兄上、おはようございます!」
客室に泊まったショウは、弟のマルシェに起こされて、一瞬どこにいるのか混乱した。
「マルシェ、どうして此処に?」
差し出された洗面器で顔を洗いながら、ショウはまさかカインズ船長が推薦するのはマルシェなのか? と首を捻る。
「サリッシュ兄上について来たのです」
ショウは、ラシンドの次男のサリッシュとはあまり面識がなかった。カインズはラシンドの姪のダリアを嫁に貰っているから、従兄とも交流があるのだろうと着替えながら考える。
「なかなか起きて来ないから、マルシェに起こして貰ったんだ」
カインズ船長の横に座っているサリッシュの顔を見たら、幼い頃の面影があり、思い出した。ショウはラシンドの屋敷には母上のルビィに会いに行くので、大きくなったサリッシュとは会う機会は少なかっが、第一夫人のユーアンの部屋とかで見たことはあった。
「ショウ王太子、おはようございます」
ショウは王太子なんて付けなくても良いと、笑ってとめる。
「カインズ船長、もしかして……」
「そうなんだ! サリッシュは独立して船を三隻に増やしたんだが、この前の航海でかなりダメージを受けたんだ。アルジエ海で海賊に襲われそうになって、逃げる為にかなりの荷物を棄てなきゃいけなかったのさ」
サリッシュは、悔しそうに唇を噛んだ。
「そのせいで損失を出してしまい、船を二隻も手放さなきゃいけないと言ってたのを思い出してね」
ショウは、ラシンドが独立したサリッシュに援助の手を差し伸べないのかと驚いた。
「父に援助して貰ったりしたら、レイテでは半人前だと笑われますよ。商船隊には護衛船も付くのですよね、是非参加させて下さい」
ショウはカインズ船長が旗船の件を話さないで、サリッシュを呼んだのだと気づいた。推薦するけど、後は自分の目で見て判断できるようにと気をつかっているのだ。
「サリッシュ船長は、イズマル島まで航海したことはありますか?」
ショウはサリッシュの船長としての経験と、商人としての才能をチェックする。ラシンドの息子だけあって商才には恵まれていたが、アルジエ海で海賊に襲われそうになった経緯とかも、質問しておきたかったのだ。
ショウは自分の商船隊には、自分の資金だけでなく、ララやロジーナやメリッサの持参金を投資していたので、無謀な真似をする船長に旗船は任せられないと考えたからだ。
「アルジエ海と言っても、イルバニア王国の沿岸に沿っての航海でしたから、まさか海賊に襲撃されるとは考えてもいませんでした。商船隊に入ると時間のロスも多くなると、焦った自分の判断ミスです」
カインズ船長も、沿岸付近に海賊が出たと聞いて眉をしかめる。
「ショウ様、これは少し変な話だなぁ」
ショウもイルバニア王国の沿岸を海賊が襲ったとは聞いたことがなかった。
「この件はドーソン軍務大臣に調査させておく。サリッシュ船長、悪いけど海賊に襲撃された位置など詳しい報告書を提出してくれないか? もし、万が一イルバニア王国の沿岸を……」
緑豊かな穀倉地域を海賊が狙うのはわかるが、今まではそんな暴挙に走る海賊は居なかった。何故なら、イルバニア王国には最強の竜騎士隊があるからだ。
「しかし……イルバニア王国がローラン王国と戦争したのは二十年以上も前の話だ。戦争を経験していない人達が、増えてきている……」
この前のマリーゴールド号の襲撃事件で、マルタ公国と勝ち目の無さそうな海戦をしようと盛り上がったイルバニア王国の一部の論調を思い出して、戦争を知らない世代が増えているのだとショウは危うさを感じる。
アルジエ海は、本来はイルバニア王国がパトロールすべき海域なのだ。東南諸島連合王国が一手に海賊討伐を引き受けていたが、イズマル島やウォンビン島、その航路にあたる海域もパトロールを強化しているので手薄になっていたのかもしれないと、ショウは眉をしかめる。
「サリッシュ船長、私は今度商船隊を新たに増やすつもりなのです。その旗船の船長になって貰えませんか?」
サリッシュは驚いて、カインズ船長の顔を眺めたが、人相の悪い顔をにやにやさせている。
「お前さんが嫌なら、他にも大勢なりたがる船長はいるぜ」
サリッシュは「是非やらせて下さい!」と引き受けた。
後のガリレオ号の見学や、第二商船隊に分けられる商船や、護衛船との話し合いは、カインズ船長に任せることにした。
大事な話を終えたので、朝食を食べながら和やかに世間話をする。
「ショウ兄上、今度レイテに大学ができるのですか?」
十三歳のマルシェはまだ独立できないので、時々ラシンドの船に乗せて貰っていたが、ショウはパロマ大学に留学を勧めていた。
「レイテにも大学を創立させたいと願っているけど、数年はかかりそうだよ。マルシェは、大学で学ぶより、航海に出たいのか?」
数年前は航海にやたらに出たがっていた。ショウはゆっくりと大人になれば良いと忠告したのを思い出して尋ねた。
「前に兄上から言われた時は、意味がわからなかったのです。でも、何回か航海に連れて行って貰って、何となく理解できました。外国の事も学びたいと思うようになりましたし……航海は好きですが、私は商売に向いてないとも感じるようになったのです」
大商人ラシンドの息子らしくない言葉だが、ショウにも理解できた。東南諸島連合王国の人間だからといって、全員が商売に向いているわけではない。
「マルシェは何をしたいのか? それを見つけなくてはね」
マルシェはどうすれば良いのかはわからなかったが、一つだけは目標があった。
「ショウ兄上のお仕事のお手伝いをしたいのです。ピップス様のように兄上の手足になって働きたいのですが、竜騎士ではないし……でも、文官になる為の勉強や、兄上を護る為の武術も頑張ってます」
幼い弟に護りたいと言われて、ショウは苦笑する。
「私はそんなに頼りないのかな?」
カインズ船長は何度となく危ない目にも遭ってきたので、ショウが剣の腕前はかなり使えると見抜いていた。
「剣の腕前はあるけど、ショウ様は王太子なのだから護衛は必要なのさ。マルシェ、頑張って文官試験に合格して、ショウ様をお助けするんだぞ」
ショウは酷いなぁと愚痴りながら、ラシンドはそれで良いのだろうかと心配する。
「父上は頑張れと励ましてくれました。商人の子だからといって、商人になる必要もないと……それに興味が無いのもバレていましたから」
弟が商売に興味が無いと口にしたのに、サリッシュは驚いた。
「マルシェは変わってるなぁ! 船に乗って商売する程楽しいことに興味が無いだなんて!」
根っからの商人気質のサリッシュとカインズから呆れられたが、ショウも商売に興味が無いんだと告白する。
「これは適材適所さ、私に物を売らしていたら、儲けは微々たるものだろうからね」
マルシェは少し首を捻る。
「ショウ兄上は、レイテでは商売上手だと褒められていますよ。埋め立て埠頭の資金を集めたり、ローラン王国の造船所の資金も民間から上手く集めたから。それにゴム引きのカッパや、真珠の養殖、サンズ島、チェンナイの開発……私もいっぱい勉強しないといけませんね」
物を高く売る商売の駆け引きには興味を持てないマルシェだが、人との交渉とかは上手そうだとショウは感じた。バルビッシュは文官として能力が高いし、ピップスは竜騎士としての機動性と武術に優れている。マルシェが勉強して文官になれば、人当たりも良くて、外国に興味を持っているので、外交とかに向いているかもとショウは期待する。
「マルシェ、頑張って文官試験に合格するんだぞ。身内だから、贔屓にされているなんて思われたくないだろ」
サリッシュを旗船長にするのは私事だから別に良いが、ラシンドの娘のリリィを第一夫人に迎えて、マルシェを側近にしたら、贔屓だと言われそうだとショウは釘をさした。
周りに文句を付けられない優秀な成績で合格しなくてはと、マルシェはこれまで以上に真面目に勉強しようと決意する。
朝食を食べ終えたショウに、酔っ払ってないねとサンズは笑って確認する。
『サンズ、王宮に帰ろう』
カインズ船長の屋敷から帰る途中で、マルシェの件からリリィのことを思い出した。そろそろ第一夫人が本当に必要だとショウは溜め息をついた。
アイーシャとレイナは、母親のレティシィアとララも仲が良いので、友好的な姉妹関係だが、ロジーナの子供は上手く付き合えるかショウは心配する。
その上、春にはエスメラルダ、夏にはミミと結婚するし、メリッサも来年は卒業して帰国する。
「リリィの子供は九歳と七歳かぁ、カリン兄上は上の子供は軍艦に乗せていたなぁ」
そろそろ第一夫人無しでは、後宮の平和が保てないと、ショウは深い溜め息をつく。
きな臭いアルジエ海の動きも気になるし、その背後にマルタ公国だけでなく、海賊を擁護しているサラム王国の影もちらほら感じる。一瞬、その二つを結ぶのに暗躍する蛇王子を想像して、ショウはゾクゾクとする。
「一度、スーラ王国と、サバナ王国を訪問しなくては……」
幼かったゼリア姫も十四歳になり、来年には結婚する予定だが、こちらは婿入りで今までとは勝手が違う。
スーラ王国とサバナ王国は、この数年で小さな部族国家を併合して領地が接している。クッションになっていた小国が無くなり、国境を接した二国には緊張感が漂っていた。
後宮の争いなどに構っている場合では、なくなっているのだ。
「一度、カリン兄上とリリィと真剣に話し合わなくてはいけないな」
今年は忙しく外国を訪問することが多くなりそうなので、後宮を留守にしがちになる。レティシィアが今は第一夫人の代理をしてくれているが、万が一ロジーナの産む赤ちゃんが男の子なら、数年後には離宮で教育しなくてはいけないのだ。
自分が女の子の方が気楽だと感じているのに苦笑する。しかし、周囲からは王子の誕生を望む暗黙のプレッシャーを受けているし、後宮へ娘や孫娘をとの申し込みも山のようにある。
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元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
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