海と風の王国

梨香

文字の大きさ
上 下
227 / 368
第十章  結婚生活

2  留守中の人々

しおりを挟む
 ショウはヘインズ村長代理とルルブの世話を侍従達に任せて、久し振りに離宮へ帰る。

「ララ、ただいま」

 後宮でショウの帰国を知って、待っていたララは、新婚の夫に飛びつく。

「ショウ様、ご帰還おめでとうございます」

 キスをしてからの挨拶に、女官達はくすくす忍び笑いするが、新婚の二人に遠慮して席を外す。

「ララ、会いたかったよ」

「私も……」

 ずっといちゃいちゃしていたいが、今夜は宴会がある。

「本当に宴会なんて、大嫌いだぁ……」

 ララに夜遅くなるから、寝ていて良いよと言いおいて、離宮に帰り宴会の支度にかかる。

 ショウは側仕えのラズリー、ケリガン、トマッシュの三人に、ヘインズ村長代理とルルブの世話も任す。

「ヘインズ村長代理は会議も予定されているが、レイテ見学もして東南諸島連合王国について学んで欲しい。私も一緒に案内するが、ラズリーは私が他の用事をしている間、色々と要望に応えて欲しい」

 風呂に浸かりながら、側仕え達に指示を出す。礼儀や華やかな事が得意なラズリーにはヘインズ村長代理の世話を中心になってやって貰う。

「後、ルルブは竜騎士になるのだけど、当分は離宮で世話をするからトマッシュ、面倒を見てくれ。ピップスが使っていた部屋で当分暮らすことになる」

 穏やかで面倒見の良いトマッシュに、ルルブの世話を任せて、公用語の読み書きを先ずは教えるようにと指示する。

「それとケリガン、ヘッジ王国から商船が三隻こちらに山羊を運んで来るので、家畜商に売ってくれ。カインズ船長は今はレイテに居ないようだが、予定は聞いていないか?」

 風呂に浸かりながら、側仕え三人に次々と用事を言いつけるショウに、留守中に任されていた仕事の報告も手早くする。

「そうか、レティシィアの真珠の養殖は母貝に核を移植して、筏に吊したんだな。今は杉の枝に卵を付着させたのを、稚貝に養殖している最中なんだ……」

 レティシィアにも会いに行って、真珠の養殖の進行状況を聞かなきゃと思うが、色っぽいので帰れなくなるのは必至だ。新婚早々に留守番させたララに悪い気持ちになる。

 気持ちを切り替えて、雨ガッパの欠点を改善するようにと、側仕えにメモをさせる。

「士官達はあれでも良いが、マストに登る乗組員達は風に煽られてしまう。上着とズボンに分ける必要があると、伝えてくれ」

 そろそろ支度しないと、宴会に遅れますと侍従達が苛々しているので、今夜はこれまでにする。

 しかし、側仕えは商船を三隻も買ったという事は商船隊を組むということで、雑事が増えるのは確実だと気を引き締める。

 ショウも、そろそろロジーナとの結婚も控えているし、メリッサとも結婚するのだから、後宮を取り纏めてくれる第一夫人を探さなきゃいけないなと思いながら、略礼服に着替える。

 焚きしめられた竜湶香の薫りに、レイテに帰ってきた実感が湧く。

「こんな高価な香を焚きしめるだなんて贅沢だよ……」

 ぶつぶつ文句を言うが、侍従達は王と王太子にのみに許されている純粋な竜湶香の使用を止める気はない。それにアスラン王の第一夫人のミから、立太子式の時にお祝いとして竜湶香を沢山貰っていた。

 ショウもミヤの王太子としての立場を自覚するようにとの教訓を込めた、竜湶香の贈り物だと感じているので、贅沢だとは思うが使用の禁止までは言わない。

 アスラン王の第一夫人として、高価な竜湶香を衣服に焚きしめるぐらい端金だと威儀を示さなくてどうするの! とミヤは考えているのだ。 

「第一夫人ねぇ……」

 ショウは、父上が第一夫人のミヤを信頼しているのを幼い頃から感じて育ったので、自分にもそんな相手が見つかれば良いなぁと思う。

「レティシィアがあんなに色っぽくなかったら、第一夫人になって貰うのになぁ……」

 真珠の養殖をレティシィアには任せているが、能力が高いので、商船隊の管理も本当なら任せたいぐらいなのだ。侍従に飾り帯を結んで貰いながら、ショウはぶつぶつ考え込む。

「そろそろ宴会が始まりますよ、主賓が遅れては格好がつきません」

 主賓はヘインズ村長代理とルルブと艦長達だよと、側仕えのラズリーに注意して離れに向かう。ショウを見送りながら、側仕え達は島を二つも東南諸島連合王国に加盟させた探索航海の隊長なのにと、相変わらずだなあと苦笑する。 


 東南諸島連合王国の宴会の豪華さに、ヘインズ村長代理とルルブは驚いた。

「辛い物は控えるようにとは事前に言っておいたけど、少し食べてみてからにした方が良いよ」

 ルルブに細かく世話をやいているショウに、ヘインズ村長代理はそれどころではないのではと心配する。ショウと話したいと、うずうずしている重臣達や、海軍の艦長達が遠巻きにして熱い視線を向けている。
 
 しかし、ショウはそのような視線などスルーして、ヘインズ村長代理やルルブの接待を続ける。

「ショウ王太子、宜しいのですか?」

 ヘインズ村長代理が心配して、視線送る人達を杯でクイッと指す。

「ああ……良いのです。彼等が話したい内容は、大凡解りますから……」

 文官達はイズマル島の開発に関わりたい、武官達は測量や補給基地の設営に加わりたいと、火傷しそうな視線をショウだって感じているのだ。

 宴会で仕事の話などタブーですよと笑って、ヘインズ村長代理に酒を勧める。

 ヘインズは、ショウが王子として家臣の視線に晒されて成長したのだなと、他人事ながら落ち着いて座ってられないので呆れる。
 
 しかし、ショウ王太子はバッカス外務大臣に捕まって、宴会場から連れ出される。

 宴会は好きでは無いが、何事だろう? と中庭に連れ出されて、ショウは怪訝な顔をする。

「ちょっと休憩をされた方が、良いかと思いましてね……」

 確かにヘインズ村長代理に酒を勧めながら、返盃を飲んでいたが、さほど酔っては無いのにと不審な顔をする。

「何か問題があったのですか?」

 自分がヘインズ村長代理やルルブを王宮の離れや、竜舎に案内しているうちに問題が起こったのかとショウは心配する。

「まだご存知無いのですね。私の口から申し上げることではありませんが、レティシィア様を至急にお訪ねした方が良いですよ」

 奥歯に物が挟まったような言い方だが、バッカス外務大臣が余計なことを口にしないのは知っている。

 ショウはサンズを呼び出して、レティシィアの屋敷に向かった。

「ショウ様、今宵は宴会だと聞きましたが……」

 夜なのに灯りをあまり付けず出迎えたレティシィアに、ショウは不審に感じる。

「何故、屋敷の灯りを……」

 月が雲から表れて、レティシィアの姿を浮かびあがらせた。

「レティシィア! まさか妊娠しているのか?」

 細くくびれていた腰周りが、少しふっくらして見える。喜んで抱きしめるショウに、レティシィアは少し困った顔をする。

「ララ様の前に、妊娠する予定ではありませんでしたのに……」

 ハッと、バッカス外務大臣が至急にレティシィアに会いに行くようにと告げた理由をショウは悟った。

「馬鹿なことを言ったら怒るよ!」

 ギュッと抱き締められて、レティシィアはなかなか決心できなかったと泣いた。

 本来なら王太子の妻になどなれる立場では無いのだと、レティシィアは妊娠してから悩んでいたのだ。娼館には子下ろしの薬もあったので、レティシィアは他の妻達が王子や王女を産むまではと考えたが、いざ妊娠してみると薬を飲むのを躊躇った。

「身体に注意して、元気な赤ちゃんを産んでくれよ」

 ソファで寛いで、後ろから抱きしめて優しく諭されるが、レティシィアは何故知ったのかと不思議に思う。

「そんなの、秘密だよ」

 そう言いながらショウも、バッカス外務大臣が帰国した途端に何故レティシィアの妊娠と、躊躇いに気づいたのかと不思議に思った。

 二人でこれからの生活について話し合いながら、帰国一日目の夜を過ごした。
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...