179 / 368
第七章 王太子への道 プロポーズ
17 マルタ公国
しおりを挟む
ショウが疲れきって眠っている間に、マスカレード号はマストが折れたハロー号をも含めた商船隊をマルタ公国に誘導していった。
「しまった! 寝ちゃったんだ!」
少し休憩したら、救援活動を再開するつもりだったのに、すっかり寝込んだのをショウは後悔したが、グゥ~とお腹が鳴る。従卒は熱を出されていたのですよと、ベッドから飛び降りそうなショウを制して、朝食を運んできますと部屋を出て行った。
「朝食は、いっぱい持ってきてね~」
従卒の背中に、ショウは空腹でグウグウなるお腹を押さえながら懇願する。
「魔力を使い過ぎると熱が出たり、このような空腹感に苛まれるのは困ったもんだなぁ~あまり関わりたくないけど、アレックス教授に相談しようかなぁ。魔法王国シンの人達が、熱を出したり、ドカ食いしていたとは思えないんだ。何か、きっと魔法に対する抗体というか、熱や空腹を防ぐやり方があったはずなんだ……あっ! ゴルザ村の村長さんに貰った古文書! プロポーズにかまけて読んでないや。何か、ヒントになることが書いて無いかなぁ」
空腹を紛らわす為にブツブツ呟いていたが、従卒が大きなスープ皿に山盛りのお粥を持って来たので、早速スプーンでもぐもぐ食べる。
「これだけじゃ足りないよ~」
3人前ぐらいあるお粥がどんどん減っていくのを見て、従卒は慌てて厨房へとって返す。
「何か香辛料の少ない料理は無いのか?」
嵐の余波を受けながら、マスカレード号の乗務員達の朝食を作り上げた食事係達は、薄味と言われて困惑したが、昼食用に煮ていた干し魚にはまだ味付けをしていないと、薄味をつける。ショウは干し魚のスープを飲み干すと、やっと人心地がついた。
従卒が熱が出た後ですのにと止めるのを無視して、服を着替えて甲板に出る。
まだ雨風は激しかったが、嵐の余波にすぎなかった。あっという間に服が濡れていくのにゾクゾクと寒気がして、ショウは本当にゴム引きの雨ガッパを、レイテに帰ったら開発させようと決心する。
「ショウ王子、熱が出たのに身体を濡らしてはいけません」
徹夜だったヤング艦長に心配されて、ショウはもう大丈夫だからと答える。
「マルタ公国まで、風の魔力で一気に航行させるよ」
明け方の薄暗い空にサンズと舞い上がると、商船隊の船に風を送り込んだ。
「凄い! 一気に進んで行くぜ!」
嵐の最中にも驚いてはいたが、余波の雨風の中で進むスピードがハッキリ乗組員達にもわかって、風の魔力持ちってのは凄いなぁと感嘆する。何人かは竜騎士だから、何隻も救援できたのだとも感じてはいたが、船乗り達は自分の船しか見えてない者が多かった。
「マルタ公国のビザン港だぁ!」
海賊のねぐらとの悪評の高いビザン港だったが、この時のショウ達には安心できる避難所に映った。
港には20隻近くの商船が、嵐を避けて碇泊している。マストが折れたり、梶が壊れた商船隊を東南諸島の軍艦が救助して率いてビザン港に航行してきたのを、本来の護衛船の船長もホッとして眺める。
護衛船もマストを嵐で持っていかれて、難儀をしながら先程入港したばかりだったので、風の魔力でスイスイと航行しているハロー号を見て驚きを隠せない。
「おいおい、ハロー号はメインマストが無くなっているぜ」
「風の魔力持ちって、やっぱり凄いなぁ。あんな状態の商船隊を、一隻残らず救援したんだ」
「ショウ王子が竜騎士だから、全部の船を救助できたんだなぁ」
護衛船の船長は竜騎士の有り難みを感じたが、それでも風の魔力持ちが移動できたという方を重要に感じる。
ワイワイと賑やかな歓声の中、マスカレード号と商船隊はビザン港に碇を降ろした。ヤング艦長はホッと溜め息を一つつくと、士官に乗組員達に酒の配給を許した。
「僕としては嵐が通り過ぎたら、直ぐに出航したいんだけどなぁ」
禍々しい噂と違い、嵐の余波を受けての雨風の中でも、ビザンの街は美しく映った。白い壁とオレンジ色の屋根が山の上の城までびっしり建っていて、遠目からも旧帝国三国と東南諸島の様式をミックスした建物だと見てとれる。
「緑もあちこち見えるし、噂とは違う綺麗な街並みだなぁ」
ヤング艦長は街並みは綺麗だけど、闇を隠していると内心で毒づく。
「商船隊は護衛船のマストがなおれば、ハロー号と舵の壊れたルーシー号以外は出航するでしょう」
ショウはハロー号のグレイ船長の様子を見てくると、サンズに飛び乗る。ヤング艦長はやれやれとショウを見送って、酒をコップ一杯貰って元気づいた乗務員達を、士官達に交代で休憩させておけと指示を出す。長居は無用だとヤング艦長も考えていたのだ。
ショウはハロー号にサンズで舞い降りて、グレイ船長の様態を見にいこうとしたが、当の本人が甲板長と揉めていた。
「マストの代わりぐらい、俺でも買えますぜ。おとなしく寝ててくだせい。その身体じゃあ、ハシゴを降りてボートに乗り移れないですぜ」
「馬鹿言うな、俺は9歳から船に乗っているんだ。ハシゴぐらい、目を瞑っていても降りれるさ」
そう言いつつも、刀を杖代わりにヨタヨタ甲板をハシゴに向かって歩いているのだ。ショウ王子を見ると、少し照れくさそうに、グレイ船長は改めて治療とハロー号を救ってくれたお礼を述べる。
「グレイ船長、その身体でハシゴを降りたら、折角の治療も台無しになるなぁ。海に落ちてしまうよ」
嵐の時の高圧的な物言いでなく、からかうような話し方だったが、ショウの制止を拒むことは誰にもできそうにない。
「でも、メインマストの木材を自分の目で確かめたいのです。ハロー号の命綱なんですからね」
ショウは海の男って奴は、強情だなぁと溜め息をつく。
「もう少し治療してやっても良いけど、昨夜に引き続き今朝も使いすぎたからなぁ。どうしてもメインマストを自分で選びたいなら、サンズで乗せていってあげるよ」
自国の船乗り達は竜を怖がっているので、こう言えば諦めるかなとショウは口に出したのだが、グレイ船長のハロー号に抱いてる愛情を軽く見ていた。
「乗せて貰います」
サンズに恐る恐る近づくグレイ船長に、治療してやれば良かったかなぁとショウは思ったが、まだ本調子で無いと感じている。
魔力の使いすぎだけでなく、雨風で身体が冷えていた。サンズは絆の竜騎士の僕を無意識にカバーしてくれているから、風邪をひいてなかったが、本来なら寝込んでいるほど体調は悪かった。
体調が不完全なのでグレイ船長に治療の技を使うのを躊躇ったショウは、サンズと船屋を目指して飛んだ。
「ショウ王子、あちらの建物です。前にも補修を頼んだ船屋です」
ショウは船屋の前の広場にサンズを降ろした。
「これはグレイ船長、何かご用命ですか?」
船屋の主人は嵐の後なので、どこか補修が必要なのだろうとドッグから飛び出してくる。グレイ船長が船屋の主人とメインマストを選んだり、料金の交渉を長々としている間、ショウはドッグの中で造られている見慣れぬ船を見ていた。
「何だか平たい船だなぁ」
「なんだ! 兄ちゃん、知らないのか? これはガレー船さぁ。遠洋は不利だけど、近海では最強だぜ!」
よく見れば、船腹にオールが出る穴が並んでいた。
船首には禍々しい破船衝角が鉄の鏃のごとく取り付けてあったし、固定の鉄弓もあった。東南諸島の軍艦にも破壊衝角が取り付けられてはいたが、此処まで巨大ではなかったし、ガレー船という名前のイメージは悪い。
しかし船屋の男は、風に頼らず自由に方向を変えれると自慢を続ける。ショウは何だか男の声が遠くなったり、近くなったりと耳鳴りに似た感覚がしてきた。ぼんやりと聞き流しながら、ガレー船にもマストがあるのだから、帆も使うんだろうなぁと当たり前の事を考える。
やっと店主と値段が折り合ったグレイ船長をハロー号に送ってから、マスカレード号に帰ったショウは、本格的に背中がゾクゾクしてきた。
『ショウ? 具合が悪いの?』
サンズから降りようとして、グラッと視界が歪むのを感じて、背中にしがみつく。
『大丈夫だよ……』
そう言いつつ、ゆっくりとサンズから降りて、鞍を外したまでが限界だった。
『ショウ!』
ヤング艦長は甲板に倒れたショウを助けようとしたが、サンズは意識を無くしたのにパニック状態に陥った。
誰一人ショウに近づけようとしない巨大な竜に、マスカレード号の全員が手を焼いた。
「このままじゃあ、雨に濡れるだろ?」
ヤング艦長は絆の竜騎士と接触が取れなくなってパニックになっている竜に、勇気を振絞って優しい口調で話し掛ける。
しかし、何時もは温厚なサンズなのに、初めての経験で気が動転して、近づこうとするヤング艦長に威嚇の声を発する。
「艦長! 無理です。竜はショウ王子を守るつもりなのです」
サンズも倒れたショウの身体に降り注ぐ雨に気づき、羽根を広げて防いだ。
『ショウ! ショウ! 目を覚まして!』
ショウはサンズが自分を必死で呼んでいるのに気づき、どうにか返事をしようと思って頭をあげようとした途端、グラッと視界が歪んで気を失った。
『ショウ!』
サンズはショウを卵を暖めるように足の間に置いて、完全に隠してしまった。
ヤング艦長は治療師にどうにか出来ないか? と質問したが、肝心のショウが巨大な竜にすっぽり覆い隠されているのだから、診察どころでは無いのは明らかだ。
『おやおや、サンズ。ショウ王子は卵ではありませんよ。病気なら、治療しなくては駄目じゃ無いですか』
バサバサと一頭の竜がマスカレード号の甲板に降り立ち、嵐の余韻の雨風を鬱陶しそうに、手入れの行き届いた綺麗な指で振り払って、バッカス大使が降り立つ。
ヤング艦長は、出たぁ! と、一瞬嫌な顔をしかけたが、そう言えば竜騎士だったと思い直す。
パニックになっていたサンズも、バッカス大使とパートナーの竜マリオンに宥められて、立ち上がってショウを治療師に見せる。
『ショウは大丈夫?』
心配そうなサンズを、マリオンは若いし大丈夫だよと慰める。
『サンズ、君は騎竜なのだから、気持ちを落ち着けなければいけないよ。ショウの状態が一番良くわかるのは、君の筈なんだからね』
年上のマリオンに優しく諭されて、パニックに陥った自分を反省する。ショウも治療師に気付けをしてもらって、意識を取り戻した。
「ショウ王子、私はバッカスと申します。以後、お見知りおきを……いやん、キュートだわぁ。ここでは十分なショウ王子の治療ができませんから、大使館にお連れしましょうね」
普通なら誰もが納得する言葉だったが、マスカレード号の全員が疑惑の視線をバッカス大使に向ける。
「いやん、キュート? って、危ないんじゃないか?」
何故なら、その出で立ちの派手な異様さが、皆の疑惑を掻き立てていたからだ。
「俺は初めてオカマを見たよ……」
「オカマじゃないんじゃないか? 色はピンクだが、男物の服を着ているぞ」
「より危険じゃないか!」
自国の大使が全く信用できないヤング艦長は、士官達に後を任せて、意識を取り戻したショウを支えてサンズで大使館へと向かう。
「しまった! 寝ちゃったんだ!」
少し休憩したら、救援活動を再開するつもりだったのに、すっかり寝込んだのをショウは後悔したが、グゥ~とお腹が鳴る。従卒は熱を出されていたのですよと、ベッドから飛び降りそうなショウを制して、朝食を運んできますと部屋を出て行った。
「朝食は、いっぱい持ってきてね~」
従卒の背中に、ショウは空腹でグウグウなるお腹を押さえながら懇願する。
「魔力を使い過ぎると熱が出たり、このような空腹感に苛まれるのは困ったもんだなぁ~あまり関わりたくないけど、アレックス教授に相談しようかなぁ。魔法王国シンの人達が、熱を出したり、ドカ食いしていたとは思えないんだ。何か、きっと魔法に対する抗体というか、熱や空腹を防ぐやり方があったはずなんだ……あっ! ゴルザ村の村長さんに貰った古文書! プロポーズにかまけて読んでないや。何か、ヒントになることが書いて無いかなぁ」
空腹を紛らわす為にブツブツ呟いていたが、従卒が大きなスープ皿に山盛りのお粥を持って来たので、早速スプーンでもぐもぐ食べる。
「これだけじゃ足りないよ~」
3人前ぐらいあるお粥がどんどん減っていくのを見て、従卒は慌てて厨房へとって返す。
「何か香辛料の少ない料理は無いのか?」
嵐の余波を受けながら、マスカレード号の乗務員達の朝食を作り上げた食事係達は、薄味と言われて困惑したが、昼食用に煮ていた干し魚にはまだ味付けをしていないと、薄味をつける。ショウは干し魚のスープを飲み干すと、やっと人心地がついた。
従卒が熱が出た後ですのにと止めるのを無視して、服を着替えて甲板に出る。
まだ雨風は激しかったが、嵐の余波にすぎなかった。あっという間に服が濡れていくのにゾクゾクと寒気がして、ショウは本当にゴム引きの雨ガッパを、レイテに帰ったら開発させようと決心する。
「ショウ王子、熱が出たのに身体を濡らしてはいけません」
徹夜だったヤング艦長に心配されて、ショウはもう大丈夫だからと答える。
「マルタ公国まで、風の魔力で一気に航行させるよ」
明け方の薄暗い空にサンズと舞い上がると、商船隊の船に風を送り込んだ。
「凄い! 一気に進んで行くぜ!」
嵐の最中にも驚いてはいたが、余波の雨風の中で進むスピードがハッキリ乗組員達にもわかって、風の魔力持ちってのは凄いなぁと感嘆する。何人かは竜騎士だから、何隻も救援できたのだとも感じてはいたが、船乗り達は自分の船しか見えてない者が多かった。
「マルタ公国のビザン港だぁ!」
海賊のねぐらとの悪評の高いビザン港だったが、この時のショウ達には安心できる避難所に映った。
港には20隻近くの商船が、嵐を避けて碇泊している。マストが折れたり、梶が壊れた商船隊を東南諸島の軍艦が救助して率いてビザン港に航行してきたのを、本来の護衛船の船長もホッとして眺める。
護衛船もマストを嵐で持っていかれて、難儀をしながら先程入港したばかりだったので、風の魔力でスイスイと航行しているハロー号を見て驚きを隠せない。
「おいおい、ハロー号はメインマストが無くなっているぜ」
「風の魔力持ちって、やっぱり凄いなぁ。あんな状態の商船隊を、一隻残らず救援したんだ」
「ショウ王子が竜騎士だから、全部の船を救助できたんだなぁ」
護衛船の船長は竜騎士の有り難みを感じたが、それでも風の魔力持ちが移動できたという方を重要に感じる。
ワイワイと賑やかな歓声の中、マスカレード号と商船隊はビザン港に碇を降ろした。ヤング艦長はホッと溜め息を一つつくと、士官に乗組員達に酒の配給を許した。
「僕としては嵐が通り過ぎたら、直ぐに出航したいんだけどなぁ」
禍々しい噂と違い、嵐の余波を受けての雨風の中でも、ビザンの街は美しく映った。白い壁とオレンジ色の屋根が山の上の城までびっしり建っていて、遠目からも旧帝国三国と東南諸島の様式をミックスした建物だと見てとれる。
「緑もあちこち見えるし、噂とは違う綺麗な街並みだなぁ」
ヤング艦長は街並みは綺麗だけど、闇を隠していると内心で毒づく。
「商船隊は護衛船のマストがなおれば、ハロー号と舵の壊れたルーシー号以外は出航するでしょう」
ショウはハロー号のグレイ船長の様子を見てくると、サンズに飛び乗る。ヤング艦長はやれやれとショウを見送って、酒をコップ一杯貰って元気づいた乗務員達を、士官達に交代で休憩させておけと指示を出す。長居は無用だとヤング艦長も考えていたのだ。
ショウはハロー号にサンズで舞い降りて、グレイ船長の様態を見にいこうとしたが、当の本人が甲板長と揉めていた。
「マストの代わりぐらい、俺でも買えますぜ。おとなしく寝ててくだせい。その身体じゃあ、ハシゴを降りてボートに乗り移れないですぜ」
「馬鹿言うな、俺は9歳から船に乗っているんだ。ハシゴぐらい、目を瞑っていても降りれるさ」
そう言いつつも、刀を杖代わりにヨタヨタ甲板をハシゴに向かって歩いているのだ。ショウ王子を見ると、少し照れくさそうに、グレイ船長は改めて治療とハロー号を救ってくれたお礼を述べる。
「グレイ船長、その身体でハシゴを降りたら、折角の治療も台無しになるなぁ。海に落ちてしまうよ」
嵐の時の高圧的な物言いでなく、からかうような話し方だったが、ショウの制止を拒むことは誰にもできそうにない。
「でも、メインマストの木材を自分の目で確かめたいのです。ハロー号の命綱なんですからね」
ショウは海の男って奴は、強情だなぁと溜め息をつく。
「もう少し治療してやっても良いけど、昨夜に引き続き今朝も使いすぎたからなぁ。どうしてもメインマストを自分で選びたいなら、サンズで乗せていってあげるよ」
自国の船乗り達は竜を怖がっているので、こう言えば諦めるかなとショウは口に出したのだが、グレイ船長のハロー号に抱いてる愛情を軽く見ていた。
「乗せて貰います」
サンズに恐る恐る近づくグレイ船長に、治療してやれば良かったかなぁとショウは思ったが、まだ本調子で無いと感じている。
魔力の使いすぎだけでなく、雨風で身体が冷えていた。サンズは絆の竜騎士の僕を無意識にカバーしてくれているから、風邪をひいてなかったが、本来なら寝込んでいるほど体調は悪かった。
体調が不完全なのでグレイ船長に治療の技を使うのを躊躇ったショウは、サンズと船屋を目指して飛んだ。
「ショウ王子、あちらの建物です。前にも補修を頼んだ船屋です」
ショウは船屋の前の広場にサンズを降ろした。
「これはグレイ船長、何かご用命ですか?」
船屋の主人は嵐の後なので、どこか補修が必要なのだろうとドッグから飛び出してくる。グレイ船長が船屋の主人とメインマストを選んだり、料金の交渉を長々としている間、ショウはドッグの中で造られている見慣れぬ船を見ていた。
「何だか平たい船だなぁ」
「なんだ! 兄ちゃん、知らないのか? これはガレー船さぁ。遠洋は不利だけど、近海では最強だぜ!」
よく見れば、船腹にオールが出る穴が並んでいた。
船首には禍々しい破船衝角が鉄の鏃のごとく取り付けてあったし、固定の鉄弓もあった。東南諸島の軍艦にも破壊衝角が取り付けられてはいたが、此処まで巨大ではなかったし、ガレー船という名前のイメージは悪い。
しかし船屋の男は、風に頼らず自由に方向を変えれると自慢を続ける。ショウは何だか男の声が遠くなったり、近くなったりと耳鳴りに似た感覚がしてきた。ぼんやりと聞き流しながら、ガレー船にもマストがあるのだから、帆も使うんだろうなぁと当たり前の事を考える。
やっと店主と値段が折り合ったグレイ船長をハロー号に送ってから、マスカレード号に帰ったショウは、本格的に背中がゾクゾクしてきた。
『ショウ? 具合が悪いの?』
サンズから降りようとして、グラッと視界が歪むのを感じて、背中にしがみつく。
『大丈夫だよ……』
そう言いつつ、ゆっくりとサンズから降りて、鞍を外したまでが限界だった。
『ショウ!』
ヤング艦長は甲板に倒れたショウを助けようとしたが、サンズは意識を無くしたのにパニック状態に陥った。
誰一人ショウに近づけようとしない巨大な竜に、マスカレード号の全員が手を焼いた。
「このままじゃあ、雨に濡れるだろ?」
ヤング艦長は絆の竜騎士と接触が取れなくなってパニックになっている竜に、勇気を振絞って優しい口調で話し掛ける。
しかし、何時もは温厚なサンズなのに、初めての経験で気が動転して、近づこうとするヤング艦長に威嚇の声を発する。
「艦長! 無理です。竜はショウ王子を守るつもりなのです」
サンズも倒れたショウの身体に降り注ぐ雨に気づき、羽根を広げて防いだ。
『ショウ! ショウ! 目を覚まして!』
ショウはサンズが自分を必死で呼んでいるのに気づき、どうにか返事をしようと思って頭をあげようとした途端、グラッと視界が歪んで気を失った。
『ショウ!』
サンズはショウを卵を暖めるように足の間に置いて、完全に隠してしまった。
ヤング艦長は治療師にどうにか出来ないか? と質問したが、肝心のショウが巨大な竜にすっぽり覆い隠されているのだから、診察どころでは無いのは明らかだ。
『おやおや、サンズ。ショウ王子は卵ではありませんよ。病気なら、治療しなくては駄目じゃ無いですか』
バサバサと一頭の竜がマスカレード号の甲板に降り立ち、嵐の余韻の雨風を鬱陶しそうに、手入れの行き届いた綺麗な指で振り払って、バッカス大使が降り立つ。
ヤング艦長は、出たぁ! と、一瞬嫌な顔をしかけたが、そう言えば竜騎士だったと思い直す。
パニックになっていたサンズも、バッカス大使とパートナーの竜マリオンに宥められて、立ち上がってショウを治療師に見せる。
『ショウは大丈夫?』
心配そうなサンズを、マリオンは若いし大丈夫だよと慰める。
『サンズ、君は騎竜なのだから、気持ちを落ち着けなければいけないよ。ショウの状態が一番良くわかるのは、君の筈なんだからね』
年上のマリオンに優しく諭されて、パニックに陥った自分を反省する。ショウも治療師に気付けをしてもらって、意識を取り戻した。
「ショウ王子、私はバッカスと申します。以後、お見知りおきを……いやん、キュートだわぁ。ここでは十分なショウ王子の治療ができませんから、大使館にお連れしましょうね」
普通なら誰もが納得する言葉だったが、マスカレード号の全員が疑惑の視線をバッカス大使に向ける。
「いやん、キュート? って、危ないんじゃないか?」
何故なら、その出で立ちの派手な異様さが、皆の疑惑を掻き立てていたからだ。
「俺は初めてオカマを見たよ……」
「オカマじゃないんじゃないか? 色はピンクだが、男物の服を着ているぞ」
「より危険じゃないか!」
自国の大使が全く信用できないヤング艦長は、士官達に後を任せて、意識を取り戻したショウを支えてサンズで大使館へと向かう。
1
お気に入りに追加
838
あなたにおすすめの小説
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる