130 / 368
第五章 王太子への道 ゴルチェ大陸
15 チェンナイ開発計画
しおりを挟む
昼間のチェンナイは、夜の賑やかさを見た後だけに、侘びしく感じる。赤や青のランタンも太陽の下では安っぽくぶら下がっているだけだし、建ち並ぶ娼館も掘っ建て小屋で、どんよりした惨めな雰囲気にうんざりしながら、港の視察をハッサンとラジックに説明を受けながら終える。
港の付近の視察を終えて、一旦は屋敷に帰って休憩することにしたが、ハッサンはラジックにウバマド族長との話し合いのセッティングをしろと命じた。
「ハッサン兄上? ウバマド族長と何か問題でもあるのですか?」
測量の時に何回か顔を合わせたことがあったが、ウバマド族長の興味は自分の家畜を増やすことと、十数人いる妻達のことだけのように感じた。チェンナイを貿易拠点として開発するに当たって、港付近の土地は買い上げて家畜で支払った筈ですよねと確認する。
「そう、ちゃんと契約書にもサインさせたが、チェンナイが発展していくにつれて文句をつけてきたのだ」
一瞬、ショウは娼婦が近在から連れ去られた娘達なのではと疑った。
「娼婦達は問題になって無いのでしょうね? 嫌ですよ、東南諸島連合王国が人身売買しているだなんて。キチンと納得して客を取っているんでしょうね? 年季明けの契約を不当に延ばしたりしてないでしょうね? 変な病気の温床になって、船乗り達に蔓延したら大事ですよ」
立て板に水の如く、娼館への攻撃を始めたショウに、ああ、うるさい! と怒鳴り返す。
「港町に娼婦は付き物じゃないか! 船乗り達をこんな辺鄙なチェンナイに呼び寄せるには、多少のことは目をつぶれ!」
「多少? とても多少とは思えませんよ。それに、あの掘っ建て小屋では、衛生面も問題がありそうですね。娼館を全て撤去しろとは言いませんが、もう少し品の良い町にしないと、真っ当な商人達が寄りつきません」
ラジックは、ハッサンとショウの言い争いを、オロオロしながら聞いている。
「まぁまぁ、二人とも大声をだしても問題は解決しないよ。ウバマド族長はチェンナイ郊外の牧場や、椰子やゴムの木のプランテーションにも文句をつけているのだ」
ショウは少しは開発もしていたのだと聞いてホッとしたが、現地の族長と揉めるのは拙いだろうと眉をしかめる。
レッサ艦長とワンダーは、王子達の兄弟喧嘩に口をはさむのを遠慮していたが、地元の族長と揉めているのは拙いだろうと顔を見合わせる。
「郊外にある牧場と、プランテーションを、見学させて下さい。現場を見ないと、ウバマド族長と何を話し合うのか見当もつきませんから。それに、サンズとターシュにも食事をさせたいですしね」
ハッサンは竜があまり好きでは無かったので、牧場で飼っている乳牛は餌にさせないぞと怒ったが、乳牛なら雄牛は種牛以外は食べるのでしょうと言い返された。
「そこら辺の痩せた水牛でも食べさせれとけば良いのに……父上といい、ショウといい、竜馬鹿なんだから……」
聞こえるようにラジック相手に愚痴っているのを、ショウは無視する。
「ショウ? サンズはお前の竜だが、ターシュとは何だ?」
ラジックは、ショウの悪口だけでなく、父上も竜馬鹿と愚痴ってきたハッサンの言葉を誤魔化すように話を変える。
ショウは、相変わらずラジックはハッサンの尻拭いばかりだと眉を顰める。本当にこれで良いのか、一度ラジックと話し合ってみないと駄目だ。
ショウは自分達二人の間で冷や汗をかいてるラジックに、ターシュはエドアルド国王の愛鷹だと説明する。竜は嫌いなハッサンだったが、鷹狩りは好きなので、ターシュを見てみたいと機嫌をなおした。
ショウはカドフェル号から此処まで呼び寄せられるかなと、少し不安だったが、ターシュはハッサンの屋敷に舞い降りた。
「凄い立派な鷹だなぁ! ショウ、私に譲ってくれないか?」
そんなの無理ですとショウが断っていると、ターシュは木の上から、騒いでいるハッサンを見下ろしてフンと横を向いた。
『私はエドアルドと契約しているんだ! 誰の物にもならない』
『ターシュ? ハッサン兄上の言葉がわかったの?』
竜嫌いのハッサンがターシュと話せるなら、竜騎士の素質があるのかと驚いて聞いたが、こういう視線にはカザリアの王宮で何回も曝されたと返事が返る。
どうやらターシュに振られたと気づいたハッサンは、フンと言い返したが、やはり強くて美しい鷹を恨む気持ちにはならない。
「ターシュは父上に似ている。誇り高く、強くて、美しい。ショウ! ターシュを郊外に連れて行ってはいけないぞ! こんな立派な鷹を見たら、ウバマド族長が欲しがるに決まっているからな。私の物にならないのは仕方ないが、ウバマド族長には渡したくない」
ショウはウバマド族長だって、ターシュをエドアルド国王から引き離せないですよと苦笑する。
「わからないぞ? ウバマド族長は怪しげな呪術を使うと噂されているからな。動物を呼び寄せるらしい。その呪術のお陰で、西海岸の豊かなチェンナイ近辺を治めているんだ」
確かにチェンナイ近辺の北には砂漠があり、南にはジャングルが広がっていた。未開のチェンナイ地方だが、木立の間に草原が広がって家畜の放牧にはもってこいだったし、開墾すれば米や小麦やトウモロコシも作れそうな気候だ。
「呼び寄せですか? 家畜の放牧には便利なのかな? 魔力のない普通の家畜も呼び寄せられるのかなぁ。でも、サンズは私と絆を結んでいるし、ターシュは血の契約をエドアルド国王と結んでいます。その関係を断ち切るのは無理だと思いますが、ターシュは郊外には連れて行かないでおきましょう」
何度か会ったウバマド族長にそんな魔力があったとは信じられないショウだったが、魔力が有りますと看板に書いてあるわけでも無いし、万が一の事があったら大変だとハッサンの屋敷の庭に鶏と小さな鹿を放してもらうことにした。
チェンナイ地方に沢山いる野生の小さな鹿は可愛らしくて、ショウは一瞬可哀想に感じたが、ターシュが久し振りの鶏以外の獲物に喜ぶのを見て、食物連鎖だと諦めた。
「相変わらず、甘いなぁ」
ハッサンはターシュが見事に鹿を仕留めるを見て惚れ惚れしたが、横のショウが顔を背けるのを見て、ヘナチョコとからかう。
「家畜なら割り切れますが、野生の鹿だし……」
「何を言っているんだ、此奴等はプランテーションの植物の芽を食べる害獣だぞ。それに、ずっと昔から狩られて晩飯になってたんだ! お前は、本当に昔からボンヤリなんだから。それで父上の後を継げるのか? 甘っちょろい事ばかり言っていたら、諸外国の言いなりになってしまうぞ!」
確かに言うとおりだけど、そのハッサンに喝を入れてチェンナイを真っ当な貿易拠点にしなくてはいけないのだと、ショウは溜め息をつく。
ショウは、ハッサンとラジックとを乗せてサンズで郊外のプランテーションを見て回った。
「椰子の実は前からチェンナイ地方でも取って食べたり、油を絞っていたから問題無かったが、ゴムの木がなぁ」
亜熱帯のチェンナイなので、ゴムの木の栽培も問題無さそうにショウには思えた。
「ゴムの木は幹にキズをつけて、樹液を集めなくてはいけないんだ。椰子の実を取るより人手がいるのさ。ウバマド族長は、その働き手が金を儲けて家畜を増やしているのが癇に触るらしい。その家畜もイルバニアから種牛を買ってきた牛なので、元々チェンナイ地方の水牛より大きくて立派だから、お冠なんだ」
ハッサンの説明を聞いている限りは、此方には非が無いように感じたが、性格を知っているショウは何か怪しいと感じる。
次のフレッシュチーズを作っている牧場へ来て、ハハァンとショウはハッサンがウバマド族長と何故揉めているのか、サンズに水牛でも食べさせておけと憎まれ口を叩いたのか納得する。
チーズを作るので乳牛の雌牛が多く飼われているのは当然だったが、雄の子牛が見あたらなかったのだ。やっと一頭の雄牛を見つけて、サンズに提供してくれたが、離れた場所で食べさせろとか細々文句をつけてきた。
「ハッサン兄上? ゴムのプランテーションの働き手に、金など渡さず、雄の子牛を与えているのですね。それを持っている水牛に種牛として使っているから、ウバマド族長が怒っているのでは無いですか?」
ハッサンとラジックは、給金を牛で払おうと同じだろうとうそぶいた。
「同じじゃありませんよ。給金で子牛を買うのなら、ウバマド族長にも買う機会があるでしょうが、雄の子牛を給金代わりに渡していたら、全く手に入れられないじゃないですか!
そりゃ、怒りますよ。族長なのに自分の家畜が貧相に見えたら、地位を脅かされたと感じているのでしょう」
ショウは種牛の1頭をウバマド族長に提供するようにハッサンを説得したが、ああだこうだと文句を付け出したのにうんざりする。
「今度、イルバニア王国に行ったら、何頭か送ってあげますから」
コロッと態度を変えて、どんな種類の種牛が良いとか、条件をあげだしたハッサンに、ショウはヤレヤレと頷く。
ウバマド族長との話し合いは、種牛を貰って上機嫌になっていたので、順調に進んだ。
ウバマド族長は、この地方独特の衣装を身につけていた。浅黒い肌に赤い布を器用に肩から巻きつけて、腰から足首まで隠して、首からは水牛の角で作った飾りをジャラジャラと付けている。
「この種牛は水牛と掛け合わすと、良い牛が産まれるのだ。早速、連れて帰りたい」
チェンナイの港付近の土地を売り渡した件を再確認したし、郊外の牧場と、プランテーションの土地を貸したのも種牛のお陰で思い出したようだ。
ショウは、種牛の歯や、目、蹄を調べるのに熱中しているウバマド族長が、何時までこの約束を覚えてくれているか一抹の不安を感じたが、その時はまたイルバニア王国から種牛を買ってくれば良いと思った。
「それにしても、ウバマド族長が呪術を使うとは思えないなぁ。呼び寄せができるなら、種牛を呼び寄せてるんじゃないかな?」
あの様子だと数年後にはまた種牛を欲しがるだろうと、ショウはハッサンとラジックに、ごねて来たら贈るようにアドバイスする。
「お前が悪い前例を作るからだぞ。そのうち、ヘッジ王国の山羊が欲しいと言い出すぞ」
ブツブツ文句をつけるハッサンに、ウバマド族長はヘッジ王国の山羊など知らないですよと抗議する。
「いや、今度はヘッジ王国の山羊を飼おうと思っているんだ。船に乗せるには牛より、山羊の方が積み込み易いからな。チェンナイの南側の海沿いに湿地帯があるから、其処の草を食べさせると塩気のある山羊肉になる筈なんだ。ヘッジ王国でも、海岸の潮風を被った草を食べさせていたからな」
ショウはヘッジ王国の山羊を食べた事が無かったので、へぇ~と感心してハッサンの言葉を聞く。
自慢が好きなハッサンは、若い頃からあちこち交易で訪れたのだと、各国の名産品や、交易できそうな物を教えてくれた。
「ゴルチェ大陸のスーラ王国は、香辛料と、竜湶香、後は金鉱があるぞ。お前は竜湶香を服に燻していないが、成人した王族の嗜みだぞ。あっ、お前は未だお子ちゃまだったな。父上は混ざりけの無い竜湶香を使われているが、私は高くて無理だな。これは、オレンジの香りを混ぜているのだ」
ショウはハッサン兄上の香りと、父上の香りは確かに違うと思ったが、値段を聞いて仰天する。
「そんなに高価な物! 僕は結構ですよ~、勿体ない!」
数回分で普通の家族が一年食べれそうな値段にくらくらしてしまうショウだった。
ウバマド族長との話し合いがついて、和やかに話していたが、チェンナイの風紀をどう取り締まったら良いのか、ショウは頭を痛める。
「明日は歓楽街を視察しなくちゃな……」
夜は営業時間だし、午前中は寝静まっていたので、昼過ぎに娼館、酒場、劇場、そしてどう考えてもハッサンがオーナーのカジノを視察して、改善策を考えようと思いながら自慢話に相槌をうつ。
港の付近の視察を終えて、一旦は屋敷に帰って休憩することにしたが、ハッサンはラジックにウバマド族長との話し合いのセッティングをしろと命じた。
「ハッサン兄上? ウバマド族長と何か問題でもあるのですか?」
測量の時に何回か顔を合わせたことがあったが、ウバマド族長の興味は自分の家畜を増やすことと、十数人いる妻達のことだけのように感じた。チェンナイを貿易拠点として開発するに当たって、港付近の土地は買い上げて家畜で支払った筈ですよねと確認する。
「そう、ちゃんと契約書にもサインさせたが、チェンナイが発展していくにつれて文句をつけてきたのだ」
一瞬、ショウは娼婦が近在から連れ去られた娘達なのではと疑った。
「娼婦達は問題になって無いのでしょうね? 嫌ですよ、東南諸島連合王国が人身売買しているだなんて。キチンと納得して客を取っているんでしょうね? 年季明けの契約を不当に延ばしたりしてないでしょうね? 変な病気の温床になって、船乗り達に蔓延したら大事ですよ」
立て板に水の如く、娼館への攻撃を始めたショウに、ああ、うるさい! と怒鳴り返す。
「港町に娼婦は付き物じゃないか! 船乗り達をこんな辺鄙なチェンナイに呼び寄せるには、多少のことは目をつぶれ!」
「多少? とても多少とは思えませんよ。それに、あの掘っ建て小屋では、衛生面も問題がありそうですね。娼館を全て撤去しろとは言いませんが、もう少し品の良い町にしないと、真っ当な商人達が寄りつきません」
ラジックは、ハッサンとショウの言い争いを、オロオロしながら聞いている。
「まぁまぁ、二人とも大声をだしても問題は解決しないよ。ウバマド族長はチェンナイ郊外の牧場や、椰子やゴムの木のプランテーションにも文句をつけているのだ」
ショウは少しは開発もしていたのだと聞いてホッとしたが、現地の族長と揉めるのは拙いだろうと眉をしかめる。
レッサ艦長とワンダーは、王子達の兄弟喧嘩に口をはさむのを遠慮していたが、地元の族長と揉めているのは拙いだろうと顔を見合わせる。
「郊外にある牧場と、プランテーションを、見学させて下さい。現場を見ないと、ウバマド族長と何を話し合うのか見当もつきませんから。それに、サンズとターシュにも食事をさせたいですしね」
ハッサンは竜があまり好きでは無かったので、牧場で飼っている乳牛は餌にさせないぞと怒ったが、乳牛なら雄牛は種牛以外は食べるのでしょうと言い返された。
「そこら辺の痩せた水牛でも食べさせれとけば良いのに……父上といい、ショウといい、竜馬鹿なんだから……」
聞こえるようにラジック相手に愚痴っているのを、ショウは無視する。
「ショウ? サンズはお前の竜だが、ターシュとは何だ?」
ラジックは、ショウの悪口だけでなく、父上も竜馬鹿と愚痴ってきたハッサンの言葉を誤魔化すように話を変える。
ショウは、相変わらずラジックはハッサンの尻拭いばかりだと眉を顰める。本当にこれで良いのか、一度ラジックと話し合ってみないと駄目だ。
ショウは自分達二人の間で冷や汗をかいてるラジックに、ターシュはエドアルド国王の愛鷹だと説明する。竜は嫌いなハッサンだったが、鷹狩りは好きなので、ターシュを見てみたいと機嫌をなおした。
ショウはカドフェル号から此処まで呼び寄せられるかなと、少し不安だったが、ターシュはハッサンの屋敷に舞い降りた。
「凄い立派な鷹だなぁ! ショウ、私に譲ってくれないか?」
そんなの無理ですとショウが断っていると、ターシュは木の上から、騒いでいるハッサンを見下ろしてフンと横を向いた。
『私はエドアルドと契約しているんだ! 誰の物にもならない』
『ターシュ? ハッサン兄上の言葉がわかったの?』
竜嫌いのハッサンがターシュと話せるなら、竜騎士の素質があるのかと驚いて聞いたが、こういう視線にはカザリアの王宮で何回も曝されたと返事が返る。
どうやらターシュに振られたと気づいたハッサンは、フンと言い返したが、やはり強くて美しい鷹を恨む気持ちにはならない。
「ターシュは父上に似ている。誇り高く、強くて、美しい。ショウ! ターシュを郊外に連れて行ってはいけないぞ! こんな立派な鷹を見たら、ウバマド族長が欲しがるに決まっているからな。私の物にならないのは仕方ないが、ウバマド族長には渡したくない」
ショウはウバマド族長だって、ターシュをエドアルド国王から引き離せないですよと苦笑する。
「わからないぞ? ウバマド族長は怪しげな呪術を使うと噂されているからな。動物を呼び寄せるらしい。その呪術のお陰で、西海岸の豊かなチェンナイ近辺を治めているんだ」
確かにチェンナイ近辺の北には砂漠があり、南にはジャングルが広がっていた。未開のチェンナイ地方だが、木立の間に草原が広がって家畜の放牧にはもってこいだったし、開墾すれば米や小麦やトウモロコシも作れそうな気候だ。
「呼び寄せですか? 家畜の放牧には便利なのかな? 魔力のない普通の家畜も呼び寄せられるのかなぁ。でも、サンズは私と絆を結んでいるし、ターシュは血の契約をエドアルド国王と結んでいます。その関係を断ち切るのは無理だと思いますが、ターシュは郊外には連れて行かないでおきましょう」
何度か会ったウバマド族長にそんな魔力があったとは信じられないショウだったが、魔力が有りますと看板に書いてあるわけでも無いし、万が一の事があったら大変だとハッサンの屋敷の庭に鶏と小さな鹿を放してもらうことにした。
チェンナイ地方に沢山いる野生の小さな鹿は可愛らしくて、ショウは一瞬可哀想に感じたが、ターシュが久し振りの鶏以外の獲物に喜ぶのを見て、食物連鎖だと諦めた。
「相変わらず、甘いなぁ」
ハッサンはターシュが見事に鹿を仕留めるを見て惚れ惚れしたが、横のショウが顔を背けるのを見て、ヘナチョコとからかう。
「家畜なら割り切れますが、野生の鹿だし……」
「何を言っているんだ、此奴等はプランテーションの植物の芽を食べる害獣だぞ。それに、ずっと昔から狩られて晩飯になってたんだ! お前は、本当に昔からボンヤリなんだから。それで父上の後を継げるのか? 甘っちょろい事ばかり言っていたら、諸外国の言いなりになってしまうぞ!」
確かに言うとおりだけど、そのハッサンに喝を入れてチェンナイを真っ当な貿易拠点にしなくてはいけないのだと、ショウは溜め息をつく。
ショウは、ハッサンとラジックとを乗せてサンズで郊外のプランテーションを見て回った。
「椰子の実は前からチェンナイ地方でも取って食べたり、油を絞っていたから問題無かったが、ゴムの木がなぁ」
亜熱帯のチェンナイなので、ゴムの木の栽培も問題無さそうにショウには思えた。
「ゴムの木は幹にキズをつけて、樹液を集めなくてはいけないんだ。椰子の実を取るより人手がいるのさ。ウバマド族長は、その働き手が金を儲けて家畜を増やしているのが癇に触るらしい。その家畜もイルバニアから種牛を買ってきた牛なので、元々チェンナイ地方の水牛より大きくて立派だから、お冠なんだ」
ハッサンの説明を聞いている限りは、此方には非が無いように感じたが、性格を知っているショウは何か怪しいと感じる。
次のフレッシュチーズを作っている牧場へ来て、ハハァンとショウはハッサンがウバマド族長と何故揉めているのか、サンズに水牛でも食べさせておけと憎まれ口を叩いたのか納得する。
チーズを作るので乳牛の雌牛が多く飼われているのは当然だったが、雄の子牛が見あたらなかったのだ。やっと一頭の雄牛を見つけて、サンズに提供してくれたが、離れた場所で食べさせろとか細々文句をつけてきた。
「ハッサン兄上? ゴムのプランテーションの働き手に、金など渡さず、雄の子牛を与えているのですね。それを持っている水牛に種牛として使っているから、ウバマド族長が怒っているのでは無いですか?」
ハッサンとラジックは、給金を牛で払おうと同じだろうとうそぶいた。
「同じじゃありませんよ。給金で子牛を買うのなら、ウバマド族長にも買う機会があるでしょうが、雄の子牛を給金代わりに渡していたら、全く手に入れられないじゃないですか!
そりゃ、怒りますよ。族長なのに自分の家畜が貧相に見えたら、地位を脅かされたと感じているのでしょう」
ショウは種牛の1頭をウバマド族長に提供するようにハッサンを説得したが、ああだこうだと文句を付け出したのにうんざりする。
「今度、イルバニア王国に行ったら、何頭か送ってあげますから」
コロッと態度を変えて、どんな種類の種牛が良いとか、条件をあげだしたハッサンに、ショウはヤレヤレと頷く。
ウバマド族長との話し合いは、種牛を貰って上機嫌になっていたので、順調に進んだ。
ウバマド族長は、この地方独特の衣装を身につけていた。浅黒い肌に赤い布を器用に肩から巻きつけて、腰から足首まで隠して、首からは水牛の角で作った飾りをジャラジャラと付けている。
「この種牛は水牛と掛け合わすと、良い牛が産まれるのだ。早速、連れて帰りたい」
チェンナイの港付近の土地を売り渡した件を再確認したし、郊外の牧場と、プランテーションの土地を貸したのも種牛のお陰で思い出したようだ。
ショウは、種牛の歯や、目、蹄を調べるのに熱中しているウバマド族長が、何時までこの約束を覚えてくれているか一抹の不安を感じたが、その時はまたイルバニア王国から種牛を買ってくれば良いと思った。
「それにしても、ウバマド族長が呪術を使うとは思えないなぁ。呼び寄せができるなら、種牛を呼び寄せてるんじゃないかな?」
あの様子だと数年後にはまた種牛を欲しがるだろうと、ショウはハッサンとラジックに、ごねて来たら贈るようにアドバイスする。
「お前が悪い前例を作るからだぞ。そのうち、ヘッジ王国の山羊が欲しいと言い出すぞ」
ブツブツ文句をつけるハッサンに、ウバマド族長はヘッジ王国の山羊など知らないですよと抗議する。
「いや、今度はヘッジ王国の山羊を飼おうと思っているんだ。船に乗せるには牛より、山羊の方が積み込み易いからな。チェンナイの南側の海沿いに湿地帯があるから、其処の草を食べさせると塩気のある山羊肉になる筈なんだ。ヘッジ王国でも、海岸の潮風を被った草を食べさせていたからな」
ショウはヘッジ王国の山羊を食べた事が無かったので、へぇ~と感心してハッサンの言葉を聞く。
自慢が好きなハッサンは、若い頃からあちこち交易で訪れたのだと、各国の名産品や、交易できそうな物を教えてくれた。
「ゴルチェ大陸のスーラ王国は、香辛料と、竜湶香、後は金鉱があるぞ。お前は竜湶香を服に燻していないが、成人した王族の嗜みだぞ。あっ、お前は未だお子ちゃまだったな。父上は混ざりけの無い竜湶香を使われているが、私は高くて無理だな。これは、オレンジの香りを混ぜているのだ」
ショウはハッサン兄上の香りと、父上の香りは確かに違うと思ったが、値段を聞いて仰天する。
「そんなに高価な物! 僕は結構ですよ~、勿体ない!」
数回分で普通の家族が一年食べれそうな値段にくらくらしてしまうショウだった。
ウバマド族長との話し合いがついて、和やかに話していたが、チェンナイの風紀をどう取り締まったら良いのか、ショウは頭を痛める。
「明日は歓楽街を視察しなくちゃな……」
夜は営業時間だし、午前中は寝静まっていたので、昼過ぎに娼館、酒場、劇場、そしてどう考えてもハッサンがオーナーのカジノを視察して、改善策を考えようと思いながら自慢話に相槌をうつ。
1
お気に入りに追加
838
あなたにおすすめの小説
おっす、わしロマ爺。ぴっちぴちの新米教皇~もう辞めさせとくれっ!?~
月白ヤトヒコ
ファンタジー
教皇ロマンシス。歴代教皇の中でも八十九歳という最高齢で就任。
前任の教皇が急逝後、教皇選定の儀にて有力候補二名が不慮の死を遂げ、混乱に陥った教会で年功序列の精神に従い、選出された教皇。
元からの候補ではなく、支持者もおらず、穏健派であることと健康であることから選ばれた。故に、就任直後はぽっと出教皇や漁夫の利教皇と揶揄されることもあった。
しかし、教皇就任後に教会内でも声を上げることなく、密やかにその資格を有していた聖者や聖女を見抜き、要職へと抜擢。
教皇ロマンシスの時代は歴代の教皇のどの時代よりも数多くの聖者、聖女の聖人が在籍し、世の安寧に尽力したと言われ、豊作の時代とされている。
また、教皇ロマンシスの口癖は「わしよりも教皇の座に相応しいものがおる」と、非常に謙虚な人柄であった。口の悪い子供に「徘徊老人」などと言われても、「よいよい、元気な子じゃのぅ」と笑って済ませるなど、穏やかな好々爺であったとも言われている。
その実態は……「わしゃ、さっさと隠居して子供達と戯れたいんじゃ~っ!?」という、ロマ爺の日常。
短編『わし、八十九歳。ぴっちぴちの新米教皇。もう辞めたい……』を連載してみました。不定期更新。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
一般人に生まれ変わったはずなのに・・・!
モンド
ファンタジー
第一章「学園編」が終了し第二章「成人貴族編」に突入しました。
突然の事故で命を落とした主人公。
すると異世界の神から転生のチャンスをもらえることに。
それならばとチートな能力をもらって無双・・・いやいや程々の生活がしたいので。
「チートはいりません健康な体と少しばかりの幸運を頂きたい」と、希望し転生した。
転生して成長するほどに人と何か違うことに不信を抱くが気にすることなく異世界に馴染んでいく。
しかしちょっと不便を改善、危険は排除としているうちに何故かえらいことに。
そんな平々凡々を求める男の勘違い英雄譚。
※誤字脱字に乱丁など読みづらいと思いますが、申し訳ありませんがこう言うスタイルなので。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる