海と風の王国

梨香

文字の大きさ
上 下
104 / 368
第四章  外交デビュー

19  メリッサ

しおりを挟む
 馬車でメリッサの肩にもたれて寝てしまったショウだが、大使館に着くとハッと目覚めて、目の前に白い胸があるのに慌てて身を起こす。

「御免、寝ていた」

 真っ赤になって謝っているショウにキュンとしたメリッサは、大使夫妻がいなければと残念に思う。

「ショウ様、疲れていらっしゃるのね」

 許嫁達は結婚式、昼食会、舞踏会と一つずつだったが、全部に出席したショウは慣れない社交に疲れたのも事実だが、やはりアルジェ女王の蛇が堪えたのかもしれない。

「メリッサも疲れただろう、さぁ、寝よう」

 パシャム大使はアルジェ女王と何を話したのか聞きたくてうずうずしていたが、眠いから朝にしてくれとスルーされた。


 舞踏会でも注目の的だったショウだが、パシャム大使はご馳走を前にお預けをされた気分で寝室へ向かう。

「あの嫌がり様は、絶対に縁談だと思うが、蛇嫌いなショウ王子には酷な話だな……」

 ショウはパシャム大使が父上に報告するのを止められないのを、ヌートン大使で経験済みなので、絶対にアルジェ女王との話を知られないようにしようと思う。

「スーラ王国だなんて、ヘビだらけなんだ。無理、無理、絶対に無理! それに嫁を貰うならいざ知らず、婿だなんて無茶苦茶だよ~。蛇だらけの国で、エッチなんてできないよ~」

 スーラ王国は代々女王が統治していて、逆ハーレムを作っていた。ただ、逆ハーレムには問題がある。何人男を侍らそうと、産むのは女王一人なので多数の王族を増やせない。

 王子にもハーレムを持たせ、沢山の姫を作らせたりして、一定数の王族を確保していたが、アルジェ女王は跡取りとしたゼリア王女の婿の一人にショウ王子を選んだのだ。

 アスラン王を蛇神がすこぶる気に入って、その血統をスーラ王国に混ぜたいと神託を下したのもあるが、ショウ王子を自分の可愛がっているデスが気に入ったので絶対にゼリア王女に孫娘を授けて貰う決意を固めていた。

「アスラン王には素気なく断られたけど、ショウ王子は逃さないわ。蛇神様の子供のデスもショウ王子を気に入ったのですもの、間違いないわ。優れた王女を授けてくれるでしょう」

 ショウはベッドに身を投げ出して、この縁談だけは絶対にパシャム大使に知られないようにしようと思い、どう切り抜けようか考えているうちに眠りについた。




 翌朝、目覚めたショウは大きく伸びをしたが、今日のスケジュールを思い出してベッドから出るのを止めたくなる。

「ショウ王子、おはようございます」

 毎回、どこかで監視しているのではというタイミングで、侍従に洗面を促されて、渋々ショウはベッドから出る。

「このまま、何処かに逃げ出したいなぁ」

 気持ちの良い春の陽気に、ショウはこれからの会合地獄から抜け出したくなる。

「父上が予定を大使達に知らせない気持ちが理解できたよ。予め、訪問予定を知らせていたら、ビッシリとスケジュールを入れられるからなぁ」

 食堂には満面の笑みのパシャム大使が待ち構えていて、ショウは思わず回れ右したくなったが、エリカに一緒に朝ご飯を食べようと待っていたので、抱きつかれて果たせなかった。

 パシャム大使と二人っきりになりたくないショウは、ゆっくりとエリカと話しながら朝食を食べて、サンズに会いに行かなきゃと席を立つ。

「ショウ兄上、私もヴェスタに会いに行くわ」

「私もラルフに会いに行かなきゃ!」

 エリカとミミが竜舎に向かうのは理解できたが、何故か許嫁達が全員ついて来る。途中で、エリカは竜との交流を邪魔されたくないと腹を立てて、追い返そうとする。

「なんでゾロゾロ付いて来るの? 邪魔だわ!」

 ロジーナは、エリカは苦手だけど、そんなことを言ってられないと勇気を振り絞って抵抗する。

「だって、メリッサが蛇と話したと言うのですもの。前にユングフラウでは、私達は竜と話せなかったけど、もしかしたらメリッサは話せるようになったかもしれないって言うから……ミミだけ年を取らないのって不公平だと思っていたのに、メリッサまで竜騎士になったら困るじゃない」

 ショウは、アルジェ女王のデスと話をしたと聞いて驚いた。

「え~、メリッサ、そんなこと昨夜は言ってなかったじゃないか」

「話したと言っても、少しだけですもの。それに、ショウ様はヘビがお嫌いでしょ。でも、蛇と話せるなら、竜とも話せるかなもしれないとララに言ったら、ロジーナが狡いと怒り出してしまったの」

 なる程、何となく朝食の席で許嫁達が大人しかったのは揉めていたのだと、ショウは溜め息をつく。

「メリッサが竜と話せるかどうか試してみよう。ああ、わかったよ、ロジーナもララも何回でも試してみたら良いよ」

 ロジーナもララも、アスラン王が実年齢より若いのは知っていたが、イルバニア王国のユーリ王妃の若さに衝撃を受けたのだ。それと同時に、カザリア王国の若さを保っているエドアルド国王と、少し年上に見えてしまうジェーン王妃に自分達の未来を見てしまい焦った。

 ショウも許嫁達が何を考えているのかピンときた。夫婦とも絆の竜騎士のイルバニア王国の国王夫妻と並ぶと、気の毒だがジェーン王妃は年上に見えてしまうのにショウも気づいた。でも、ショウはジェーン王妃の上品な人となりが、年齢により磨きが掛かっているように見えて好意を持ったのだが、女の子達にはそうは感じなかったのかなと残念に思う。

『サンズ、メリッサと話せるかい?』

 メリッサとサンズは少しだけ話せたが、ロジーナとララは無理だった。二人は落ち込んで、ロジーナは泣き出してしまう。

 サンズはショウが困っているのを察した。

『竜騎士でなくても若さを保つ人はいるよ。ロジーナとララがショウと同じ時を過ごしたいなら、私が一緒の時を過ごせるようにしてあげるよ』

『そんなのできるの? でも、ならジェーン王妃は何故……』

『普通は絆の竜騎士の妻や夫も年を取りにくいものなのだけど? ジェーンは絆の竜騎士と離れて暮らしていたのかもしれないね』

 そういえば父上の後宮の兄上を産んだ方達は実年齢より若いかもとショウは合点したし、ジェーン王妃は一時期エドアルド国王の浮気を怒って離宮暮らしをしていたのだと思い出した。サンズの説明をショウから聞いて、ロジーナとララはホッとする。

 メリッサは今は絆の竜騎士レベルではないけど、竜に乗るぐらいならできるだろうとサンズが保証した。

「私もリューデンハイムに入学しなくちゃいけないのかしら? 結婚まで1年しか無いのに……」

 竜騎士になるのは移動も楽になるし、行動的な生活ができると嬉しく思ったが、パロマ大学に留学したいと考えていたメリッサは困惑する。

「リューデンハイムで無くても竜騎士の修行はできるよ。僕も家庭教師に勉強を、武官に武術を習っただけで、騎竜は自己流だもの。確かカザリア王国の竜騎士の育成システムは、パロマ大学を活用していた筈だよ。スチュワート様はパロマ大学と竜騎士の学校のウェスティンを掛け持ちされていたから」
 
 ミミは自分もそっちの方が寮に入らなくても良さそうなのでいいと言い出したが、パロマ大学に入学できる学力が無いでしょうとメリッサに却下される。

「でも、私は見習い竜騎士にならないと、ショウ様と結婚出来ないのよ。メリッサも同じ条件にするべきよ!」

「あら、私はもともとショウ様の許嫁なのよ。見習い竜騎士で無くても結婚できるわ」

 ミミとメリッサの言い争いにショウは困惑する。

「僕は一度に全員と結婚するつもりは無いよ。何だかいい加減に感じるから、君達も嫌だろ。一人づつ婚礼した方がいいだろう?」

 それは勿論だとは頷いたが、じゃあ誰と最初に結婚するのかと牽制しだす。

「僕はララと最初に結婚するよ。8歳からの、許嫁だもの……ちょっと、ロジーナ泣かないで……」

 やっぱり私は二番手なのねと、ショウに抱き付いてロジーナは泣き出す。

「嘘泣きは止めてよ」

 ちゃっかりショウに抱き付いたロジーナは他の許嫁達に引っ剥がされる。

「ええっ、嘘泣きだったの? だって、涙が溢れていたのに……」

 ロジーナとメリッサはララだけ狡いと揉めだして、ショウは嫌がっていたパシャム大使に会合の時間だと救い出される有り様だ。

「何を揉めてらしたのですか?」

 朝っぱらから許嫁達が揉めて疲れ気味のショウだったが、メリッサも竜騎士の素質があると説明する。

「でもメリッサはパロマ大学に留学したがっているから、リューデンハイムではなくウェスティンで竜騎士の修行をすれば良いと思うんだ。でも、父上に相談してみないとね」
 
 パシャム大使は、アスラン王から許嫁達やエリカ王女に関してはショウ王子に任せると命じられていますと伝えた。

「いちいちレイテにお伺いを立てていたら、外交は成り立ちませんよ。ある程度の事は、ショウ王子の判断で交渉しても良いでしょう。重大な問題だけアスラン王の判断を仰げば良いのですよ。ただし、断る方便にレイテに問い合わせないといけないと、保留にする手は使えますけどね」

 ショウは外交の駆け引きの初歩から覚えていくんだなぁと溜め息をついているところを、古狸のパシャム大使に隙を突かれてしまった。

「ところで、アルジェ女王は貴方をゼリア王女の婿にと言われたのですか? それとも王家の姫を嫁にと言われたのですか?」

 グサッと心臓にナイフを突き立てられた気持ちになって、ショウは立ち止まる。

「何故、そんな事がわかったのですか?」

 ショウにそんなの考えればわかりますと、満面の笑みをパシャム大使は浮かべる。

「お願いです、絶対に父上には報告しないで下さい」

 無理を承知で、ショウはパシャム大使に頼み込む。

「良いですよ、私からは報告しないでおきましょう。そのかわり、今日からの話し合いに集中して下さいね」

 ショウはやったぁ! と飛び上がって喜んだが、ハッと何か裏があるのではとパシャム大使に詰め寄る。

「何て嘆かわしい事を仰るのですか、ショウ王子とは長い付き合いじゃないじゃないですか」

 長い付き合いだからこそ、疑うんだと内心で毒づく。

「アスラン王から許嫁の事はショウ王子に任せると指示がありましたからね、許嫁を増やすのも同じでしょう。拡大解釈すればですけどね」

 ショウはまだ少しは疑っていたが、話し合いに紛れて忘れてしまった。パシャム大使は自分が報告しなくても、アルジェ女王がアスラン王に直接申し込むのは目に見えていたから、そう言って話し合いに集中させたのだ。 

しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

処理中です...