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第一章 転生したら王子様
34 ララとミミ
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「ああ、此処にいたのですか? ララ、早く着替えなさい」
庭園の花の手入れをしていたララは、母のラビータに呼ばれて顔をあげ、汚れた手で額の汗を拭いた。
「もう、これではショウ王子様に会わせられないわ。乳母や、ララをお風呂に入れて下さいな」
乳母に風呂で長い髪を洗って貰いながら、ララは溜め息をつく。
「結婚なんて、したくないわ……」
しっかり者のラビータの娘なのに、少し姫君として変わっているララは、出来れば一生このまま気ままに本を読んで暮らしたいと思っていた。
「ララ様の御髪は綺麗なのに、土をつけては台無しですよ。許婚のショウ王子様は髪の綺麗な方がお好きだそうですから、お手入れには気を使わなくてはいけませんわ」
ララは乳母に髪を乾かして貰いながら、鏡に写った自分の顔に眉をしかめる。
「ショウ王子との結婚だなんて嫌だわ。アスラン王の息子ですもの、きっと威張りん坊よ。父上もよくアスラン王の我が儘さを嘆いていらっしゃるわ……」
東南諸島の女性の服は身分が高くなる程、肌の露出度が低くなる。王族のララは、乳母に正式の衣装に着替えさせられてウンザリする。白い長衣の上に、羅の上着を羽織ると、ウエストに赤の絹のサッシュを結んだ。
「姉上、ショウ王子様をご覧になった? とってもキュートな王子様だわ」
妹のミミが父上とサロンで寛いでいるショウを透かし彫りの衝立の裏から覗き見して、着替えている姉のララに報告にきた。
「アスラン王だって、お顔は綺麗だわ。ショウ王子だって見た目が可愛くても、性格が傲慢だったら嫌だわ」
何度か見た事のあるアスラン王は、父上の弟になるとはいえ、若くて綺麗な顔をしていたが、態度は傲慢そのもので、祖母のミヤが苦労しているだろうとララは考えていた。
「あら、お祖母様はショウ王子が素直な性格だと話していらしたわ。それにお祖母様が赤ちゃんの時から育てたのだから、絶対に良い性格だと思うわ」
ミミの言葉にそうだと良いけどと気の無い返事をして、ララは乳母にサロンへと連れて行かれた。母上や第一夫人のユーアンに教えられたとおりに、お淑やかに振る舞いながらも、ララは将来結婚する相手を観察する。
ララは、確かにミミの言うとおり、ショウは可愛いかもしれないと、さっきまで嫌がっていたのを忘れる。
ショウはあれよあれよと許嫁が決まってしまい困惑していたが、お淑やかに挨拶するララの滝の様に流れる黒髪から視線が離せない。
ララの髪は艶やかで、腰より下まであり、とっても可愛いので、ショウはララの容姿にボオッとなったが、それと同時にこんなに大切に育てられたお姫様とは結婚できないと思った。
ショウは、自分には後ろ盾も無いし、ユーカ号の儲けも次の船を買うために貯めている段階だ。
ララの綺麗な長い髪の毛は、きっと召使いが手入れしているのだろうと溜息をつく。ショウには大勢の召使いを雇う余裕も無いし、妻を養う自信もなかった。
兄上達が十五歳で独立と同時に結婚したのは、それぞれが外戚の後ろ盾があったからだとショウは考えていた。ミヤが自分の為に貯蓄している事や、ララの持参金の事など九歳のショウは知らなかった。新しい航路を見つける航海に出る為の大型船を手に入れるまではお金を貯めるしかないと子供なりの計画をたてている。
「ララ、ショウ様に庭を案内してあげなさい」
大人がいては話も出来ないだろうと、カジムはララとショウを庭に出した。
「綺麗な庭ですね」
カジムの庭は娘が多かったから花の咲く木が多く、華やかな雰囲気だった。ララはショウが気に入ったので、お淑やかに振る舞って、少し高台にある東屋に案内した。
「ここは風が通り抜けて、気持ちが良いのです」
ララは風に髪をなびかせて微笑む。
ショウはなびく髪から、甘い花の香りが漂ってきてクラッとなったが、ララに言って置かなければならないと気を引き締める。
「あのう、ララ様はこんな風に親に結婚相手を決められて嫌ではないですか? 僕には後ろ盾も無いし、王子といっても第六王子なんですよ。兄上達のように贅沢な暮らしはさせてあげれないから、ララ様は僕と結婚しない方が幸せです」
ララは傲慢なアスラン王の王子とは思えないショウの言葉に驚いた。
「ショウ様は、私がお気に召さなかったのですか? それで、そのような事を仰るのですか」
嫌だと思っていた結婚相手に会って、可愛い容姿にこれなら良いかもと思いかけていたララは、ショウが自分を気に入らなかったのだと、悲しくなった。
「いえ、まさか。ララ様は可愛いし、とても気に入ったからこそ言っているのです。う~ん、ララ様は結婚したいですか?」
「私もショウ様に会うまでは、見知らぬ王子と結婚などしたくないと思ってました。父のもとで、気楽に読書三昧の日々を送りたいと思っていたの。贅沢な暮らしなど、いらないわ。本を読むのを許して下されば、私は幸せなの」
「ララ様は、第一夫人を目指すタイプなのですか?」
東南諸島の女の人は二つのタイプがあって、第一夫人になってバリバリ家や商売を切り盛りしたいタイプと、第二夫人になって夫との愛の生活を選ぶタイプがいた。
「まぁ、ショウ様、ララとお呼び下さい。読書が好きだからといって、祖母のミヤのように第一夫人を目指すとは限りませんわ」
「ええ~、ララ様はミヤの孫なの! と言うことは、ミヤの娘の子供だよね」
孫なのだから当然の事を確認するショウに、ララは可笑しくなってクスクス笑いながら、ララですよとショウに言い直させた。
「えーと、ララ……ミヤは僕を赤ちゃんの時から、育ててくれたんだ。幼い時は母だと思っていた。いや、今でも産んでくれた母上も大切だけど、ミヤを母だと思っているんだ」
大好きな祖母を褒められて、ララは微笑む。
「ねぇ、我が国の結婚制度って、変わっていると思わない?
僕の母上も、僕を置いてラシンドに嫁いだり……母上は王宮にいるより多分幸せだと思うし、僕もミヤに大事に育てられたから問題は無いけど、何故、一夫多妻なんだろう。僕には一人の奥さんも養う自信が無いよ」
ララは産まれた時から東南諸島の結婚制度の中で暮らしていたから、ショウは変わっていると感じたが、嫌な変わり方じゃないわと笑った。
「でも、第一夫人がいないと、家庭は成り立たないわ。父上の家だって、第一夫人のユーアンがいなければ、一日だってちゃんと生活出来ないもの。私はお祖母様や母上と違って、苦労ばかりの第一夫人なんてまっぴらだけど、姉上の中にはユーアンに憧れて、なりたいと言っていた方もいたわ」
ショウは第一夫人が未だいないカリンの事を思い出して、確かに悲惨な結婚生活だと考えた。
「ねぇ、ララの母上とか、姉上とかで、誰かカリン兄上の第一夫人になってくれそうな人はいない? 多分、カリン兄上はプライドが高くて、断られるのに耐えられなくて、自分から申し込めないんだ。でも、兄上の五人、いやナッシュ兄上の従姉が嫁いだから六人の夫人を纏めてくれる第一夫人が、大至急必要なんだよ」
自分の許嫁との初顔合わせで、兄上の第一夫人の心配をしているショウにララは呆れたが、六人も夫人が居るのに第一夫人が居なければ喧嘩が勃発して大変だろうと思った。
「結婚した姉上達からも聞いているけど、第一夫人は人生のパートナーなのよ。悲惨な結婚生活には同情するけど、カリン様が自分のパートナーとして第一夫人を口説き落とさないといけないわ。それに、カリン様はザハーン軍務大臣の孫でしょ。きっと母上も姉上も断ると思うの。軍人は威張っているから、嫌われるのよ」
「確かにカリン兄上は威張っているけど、優しい所もあるんだ。僕は軍人には向いて無いけど、商人ばかりじゃ国は成り立たないよ。それにカリン兄上の夫人達だって、キチンと取りまとめてくれる第一夫人が居なくて困っていると思うんだ」
東南諸島の結婚制度に疑問を持っていると話したくせに、カリンの為に第一夫人を探そうと熱心に売り込むショウに、ララは好感を持った。
「一度、母上や姉上に話してみるわ。きっとミヤ祖母様や、ザハーン軍務大臣からも話は来ていたと思うけどね」
ショウなら第一夫人を口説き落とすのは簡単そうだと、ララは安心した。第一夫人が居ない結婚生活は、ララには耐えられそうに無かったからだ。
「あっ、兄上の事を頼んでる場合じゃ無かった。ララ、僕は新しい航路を見つけようと思ってるけど、未だ小型船しか持って無いんだ。大型船、せめて中型船を買うまでは、お金を貯めなくてはいけないし、万が一の場合は命を落とすかもしれない。だから、君から結婚を断ってくれないかなぁ。こんな貧乏王子と結婚するのは嫌だと、カジム伯父上に言ってくれたら助かるのだけと……」
人の言う事を聞きそうにない父上にララとの結婚を断るより、ララが父上より温厚そうなカジムに結婚を断る方が簡単だろうとショウは考えた。
「あら、私はショウ様が気に入ったから、断ったりしないわ。でも、ショウ様は私のことが嫌いなのね」
ララは姉上達から教わった男の子を誘惑するテクニックを思い出して、ショウに寄り添うと涙ぐんで上目づかいに見上げた。
可愛い! うぶなショウなど、東南諸島の王族の姉達の薫陶を受けたララには、赤子のようなものだった。
「いや、僕もララのことは好きだよ。だから……」
突然、唇を柔らかいララの唇で塞がれて、ショウはビックリして抗議の言葉を忘れた。
「私達、結婚したら幸せになれるわ」
ファーストキスに呆然としているショウに、ララはポッと頬を染めて微笑んだ。
木陰から見ていた妹のミミは、ララの大胆な行動にキャーと声を出しそうになって口を手で押さえた。
「姉上ばかりズルい! 私も父上にお願いして、ショウ様と結婚させて貰おう!」
ショウはララとの結婚は断れなさそうだと思ったが、嫌な気持ちどころか、足が雲の上を歩いているような心持ちになっていた。
庭園の花の手入れをしていたララは、母のラビータに呼ばれて顔をあげ、汚れた手で額の汗を拭いた。
「もう、これではショウ王子様に会わせられないわ。乳母や、ララをお風呂に入れて下さいな」
乳母に風呂で長い髪を洗って貰いながら、ララは溜め息をつく。
「結婚なんて、したくないわ……」
しっかり者のラビータの娘なのに、少し姫君として変わっているララは、出来れば一生このまま気ままに本を読んで暮らしたいと思っていた。
「ララ様の御髪は綺麗なのに、土をつけては台無しですよ。許婚のショウ王子様は髪の綺麗な方がお好きだそうですから、お手入れには気を使わなくてはいけませんわ」
ララは乳母に髪を乾かして貰いながら、鏡に写った自分の顔に眉をしかめる。
「ショウ王子との結婚だなんて嫌だわ。アスラン王の息子ですもの、きっと威張りん坊よ。父上もよくアスラン王の我が儘さを嘆いていらっしゃるわ……」
東南諸島の女性の服は身分が高くなる程、肌の露出度が低くなる。王族のララは、乳母に正式の衣装に着替えさせられてウンザリする。白い長衣の上に、羅の上着を羽織ると、ウエストに赤の絹のサッシュを結んだ。
「姉上、ショウ王子様をご覧になった? とってもキュートな王子様だわ」
妹のミミが父上とサロンで寛いでいるショウを透かし彫りの衝立の裏から覗き見して、着替えている姉のララに報告にきた。
「アスラン王だって、お顔は綺麗だわ。ショウ王子だって見た目が可愛くても、性格が傲慢だったら嫌だわ」
何度か見た事のあるアスラン王は、父上の弟になるとはいえ、若くて綺麗な顔をしていたが、態度は傲慢そのもので、祖母のミヤが苦労しているだろうとララは考えていた。
「あら、お祖母様はショウ王子が素直な性格だと話していらしたわ。それにお祖母様が赤ちゃんの時から育てたのだから、絶対に良い性格だと思うわ」
ミミの言葉にそうだと良いけどと気の無い返事をして、ララは乳母にサロンへと連れて行かれた。母上や第一夫人のユーアンに教えられたとおりに、お淑やかに振る舞いながらも、ララは将来結婚する相手を観察する。
ララは、確かにミミの言うとおり、ショウは可愛いかもしれないと、さっきまで嫌がっていたのを忘れる。
ショウはあれよあれよと許嫁が決まってしまい困惑していたが、お淑やかに挨拶するララの滝の様に流れる黒髪から視線が離せない。
ララの髪は艶やかで、腰より下まであり、とっても可愛いので、ショウはララの容姿にボオッとなったが、それと同時にこんなに大切に育てられたお姫様とは結婚できないと思った。
ショウは、自分には後ろ盾も無いし、ユーカ号の儲けも次の船を買うために貯めている段階だ。
ララの綺麗な長い髪の毛は、きっと召使いが手入れしているのだろうと溜息をつく。ショウには大勢の召使いを雇う余裕も無いし、妻を養う自信もなかった。
兄上達が十五歳で独立と同時に結婚したのは、それぞれが外戚の後ろ盾があったからだとショウは考えていた。ミヤが自分の為に貯蓄している事や、ララの持参金の事など九歳のショウは知らなかった。新しい航路を見つける航海に出る為の大型船を手に入れるまではお金を貯めるしかないと子供なりの計画をたてている。
「ララ、ショウ様に庭を案内してあげなさい」
大人がいては話も出来ないだろうと、カジムはララとショウを庭に出した。
「綺麗な庭ですね」
カジムの庭は娘が多かったから花の咲く木が多く、華やかな雰囲気だった。ララはショウが気に入ったので、お淑やかに振る舞って、少し高台にある東屋に案内した。
「ここは風が通り抜けて、気持ちが良いのです」
ララは風に髪をなびかせて微笑む。
ショウはなびく髪から、甘い花の香りが漂ってきてクラッとなったが、ララに言って置かなければならないと気を引き締める。
「あのう、ララ様はこんな風に親に結婚相手を決められて嫌ではないですか? 僕には後ろ盾も無いし、王子といっても第六王子なんですよ。兄上達のように贅沢な暮らしはさせてあげれないから、ララ様は僕と結婚しない方が幸せです」
ララは傲慢なアスラン王の王子とは思えないショウの言葉に驚いた。
「ショウ様は、私がお気に召さなかったのですか? それで、そのような事を仰るのですか」
嫌だと思っていた結婚相手に会って、可愛い容姿にこれなら良いかもと思いかけていたララは、ショウが自分を気に入らなかったのだと、悲しくなった。
「いえ、まさか。ララ様は可愛いし、とても気に入ったからこそ言っているのです。う~ん、ララ様は結婚したいですか?」
「私もショウ様に会うまでは、見知らぬ王子と結婚などしたくないと思ってました。父のもとで、気楽に読書三昧の日々を送りたいと思っていたの。贅沢な暮らしなど、いらないわ。本を読むのを許して下されば、私は幸せなの」
「ララ様は、第一夫人を目指すタイプなのですか?」
東南諸島の女の人は二つのタイプがあって、第一夫人になってバリバリ家や商売を切り盛りしたいタイプと、第二夫人になって夫との愛の生活を選ぶタイプがいた。
「まぁ、ショウ様、ララとお呼び下さい。読書が好きだからといって、祖母のミヤのように第一夫人を目指すとは限りませんわ」
「ええ~、ララ様はミヤの孫なの! と言うことは、ミヤの娘の子供だよね」
孫なのだから当然の事を確認するショウに、ララは可笑しくなってクスクス笑いながら、ララですよとショウに言い直させた。
「えーと、ララ……ミヤは僕を赤ちゃんの時から、育ててくれたんだ。幼い時は母だと思っていた。いや、今でも産んでくれた母上も大切だけど、ミヤを母だと思っているんだ」
大好きな祖母を褒められて、ララは微笑む。
「ねぇ、我が国の結婚制度って、変わっていると思わない?
僕の母上も、僕を置いてラシンドに嫁いだり……母上は王宮にいるより多分幸せだと思うし、僕もミヤに大事に育てられたから問題は無いけど、何故、一夫多妻なんだろう。僕には一人の奥さんも養う自信が無いよ」
ララは産まれた時から東南諸島の結婚制度の中で暮らしていたから、ショウは変わっていると感じたが、嫌な変わり方じゃないわと笑った。
「でも、第一夫人がいないと、家庭は成り立たないわ。父上の家だって、第一夫人のユーアンがいなければ、一日だってちゃんと生活出来ないもの。私はお祖母様や母上と違って、苦労ばかりの第一夫人なんてまっぴらだけど、姉上の中にはユーアンに憧れて、なりたいと言っていた方もいたわ」
ショウは第一夫人が未だいないカリンの事を思い出して、確かに悲惨な結婚生活だと考えた。
「ねぇ、ララの母上とか、姉上とかで、誰かカリン兄上の第一夫人になってくれそうな人はいない? 多分、カリン兄上はプライドが高くて、断られるのに耐えられなくて、自分から申し込めないんだ。でも、兄上の五人、いやナッシュ兄上の従姉が嫁いだから六人の夫人を纏めてくれる第一夫人が、大至急必要なんだよ」
自分の許嫁との初顔合わせで、兄上の第一夫人の心配をしているショウにララは呆れたが、六人も夫人が居るのに第一夫人が居なければ喧嘩が勃発して大変だろうと思った。
「結婚した姉上達からも聞いているけど、第一夫人は人生のパートナーなのよ。悲惨な結婚生活には同情するけど、カリン様が自分のパートナーとして第一夫人を口説き落とさないといけないわ。それに、カリン様はザハーン軍務大臣の孫でしょ。きっと母上も姉上も断ると思うの。軍人は威張っているから、嫌われるのよ」
「確かにカリン兄上は威張っているけど、優しい所もあるんだ。僕は軍人には向いて無いけど、商人ばかりじゃ国は成り立たないよ。それにカリン兄上の夫人達だって、キチンと取りまとめてくれる第一夫人が居なくて困っていると思うんだ」
東南諸島の結婚制度に疑問を持っていると話したくせに、カリンの為に第一夫人を探そうと熱心に売り込むショウに、ララは好感を持った。
「一度、母上や姉上に話してみるわ。きっとミヤ祖母様や、ザハーン軍務大臣からも話は来ていたと思うけどね」
ショウなら第一夫人を口説き落とすのは簡単そうだと、ララは安心した。第一夫人が居ない結婚生活は、ララには耐えられそうに無かったからだ。
「あっ、兄上の事を頼んでる場合じゃ無かった。ララ、僕は新しい航路を見つけようと思ってるけど、未だ小型船しか持って無いんだ。大型船、せめて中型船を買うまでは、お金を貯めなくてはいけないし、万が一の場合は命を落とすかもしれない。だから、君から結婚を断ってくれないかなぁ。こんな貧乏王子と結婚するのは嫌だと、カジム伯父上に言ってくれたら助かるのだけと……」
人の言う事を聞きそうにない父上にララとの結婚を断るより、ララが父上より温厚そうなカジムに結婚を断る方が簡単だろうとショウは考えた。
「あら、私はショウ様が気に入ったから、断ったりしないわ。でも、ショウ様は私のことが嫌いなのね」
ララは姉上達から教わった男の子を誘惑するテクニックを思い出して、ショウに寄り添うと涙ぐんで上目づかいに見上げた。
可愛い! うぶなショウなど、東南諸島の王族の姉達の薫陶を受けたララには、赤子のようなものだった。
「いや、僕もララのことは好きだよ。だから……」
突然、唇を柔らかいララの唇で塞がれて、ショウはビックリして抗議の言葉を忘れた。
「私達、結婚したら幸せになれるわ」
ファーストキスに呆然としているショウに、ララはポッと頬を染めて微笑んだ。
木陰から見ていた妹のミミは、ララの大胆な行動にキャーと声を出しそうになって口を手で押さえた。
「姉上ばかりズルい! 私も父上にお願いして、ショウ様と結婚させて貰おう!」
ショウはララとの結婚は断れなさそうだと思ったが、嫌な気持ちどころか、足が雲の上を歩いているような心持ちになっていた。
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