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第三章 白鳥

23 なかなか進まない恋愛

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 ゲチスバーモンド伯爵領の騎士爵や依子の男爵などを集めた収穫祭は無事に終わった。食べきれないほどのご馳走に、上出来のワイン。そして、愛想良いグローリア伯爵夫人のもてなしに皆満足して、それぞれの領地へと帰っていった。

「やれやれ、どうにか収穫祭も終わりましたね」

 孫娘との縁談を公式に言い出すほど厚顔な客は居なかったが、それでもあわよくばとの欲望が透けて見えてて、グローリアはジュリアが迂闊に独身男と二人にならないよう、厳重に侍女に見張らせていた。

「お祖母様、お疲れ様でした。私はあまりお手伝いにならなかったみたいで、申し訳ありません」

「ジュリア、未婚の令嬢は頼まれたからと言って収穫祭を案内したりしないものですよ。それを相手は知っているのに、図々しいったら。だから、貴女がお手伝いにならなかったなんて謝る必要はないのです」

 何人かに収穫祭の案内を頼まれたが、グローリアはそんな危険な真似を孫娘にさせるつもりはなかった。既成事実を作って、傷物を嫁に貰ってやるなんて非道な手口もあるのだ。

 ジュリアは、収穫祭が終わったらシェフィールドに帰るのだろうとは思うが、何となくいつ帰るのか聞きにくかった。緑蔭城でゆっくりと過ごしたいとは、自分よりも年配のお祖父様達が忙しくしておられるのに言い出しにくい。

「ジュリア? どうしたの?」

「いえ、いつシェフィールドに行くのかと思って……あっ、カリースト師に何かお土産を用意しなくては……」

 シェフィールドに行きたくない。カリースト師にここで修行をつけて欲しい。ジュリアのぐだぐだな気持ちがグローリアには透けて見えた。

「ここに残りたい気持ちは分かりますよ。私もそうですもの」

 ジュリアは驚いた。社交的なお祖母様はシェフィールドで生き生きとしていたからだ。

「まぁ、ジュリア。そんなに驚かなくても。それは若い頃はシェフィールドの暮らしの方が楽しいと思っていたのよ。でも、やはり年を取ったのね。緑蔭城の落ち着いた暮らしの方が今の私には合っているのよ」

 そんなお祖母様でもシェフィールドに行かれるのに、自分が凄く我儘な感じがして、ジュリアは要求を口にできない。

 グローリアは、まだまだジュリアは自分達に遠慮していると溜息をつきたくなった。若い令嬢が華やかな王都より田舎暮らしの方が良いなんて変わっていると思うが、それはそれで構わないのだ。ただし、お相手がいたらの話だ。

『ジュリア、貴女はマーカス卿について、どう思っていますか?』と問いただしたい。城代のマーカス卿と婚約すれば、シェフィールドで社交する必要は無いのだ。その辺の常識すら持っていない孫娘にどう話を持って行くか、グローリアは少し時間をかけて考えたい。

「カリースト師へのお土産を買わなくてはいけませんね。ジュリア、マーカス卿に何が良いか尋ねて来なさい」

「はい」と素直に言う事を聞くジュリアが出て行くのを見て、グローリアは深い溜息をついた。収穫祭の滞在で、緑蔭城の皆んなでマーカス卿と引っ付けようと画策したのに、あまり恋愛には発展していない。グローリアは、マーカス卿に夫から何か圧力があったのでは無いかと疑う。

「それにしても近頃の若い人って恋愛をする気があるのかしら?」

 これだけお膳立てしているのにと、グローリアが嘆いていた頃、ジュリアとジョージは仲良くカリースト師へのお土産を買いに港へと向かっていた。

「新鮮な魚は無理よね」

 干し魚よりジュリアは好きだけど、お土産には向いてなさそうだ。

「干し魚は、シェフィールドでもあるでしょう。でも、お土産ですから良いんじゃないですか? それとゲチスバーモンドの農作物は美味しいですよ」

 荷物持ちについてきた侍女のルーシーは、緑蔭城の女中頭から二人を仲良くさせるようにと密命を受けていたが、真面目にお土産を選んでいるばかりで、恋愛の雰囲気なんてないのにどうすれば良いのか悩む。

「独身のカリースト師に干し魚や野菜なんかをお土産にしても困られるんじゃないですか?」

 ルーシーに言われて、ジュリアもジョージも困る。

「そう言えばそうね。どうしましょう」

「そうだよなぁ。カリースト師が料理をされるとは思わないし。まぁ、だけど誰かが料理して食べさせてくれるさ」

 水晶宮の精霊使いで食べて貰っても良いし、干し魚と農作物はある程度まとまった数を買う事にした。

「それとは別にカリースト師に何か……」

「シェフィールドにはなんでも揃っていますからねぇ」

 やっと魚屋や八百屋から離れたので、ルーシーはホッとする。

「お嬢様、少し休憩しながら考えませんか?」

 小さなカフェの前で、ルーシーは疲れませんか? と二人に提案する。

「これは気が効きませんでした」

 ジョージにエスコートされて、ジュリアはカフェに入る。ルーシーは、やれやれと溜息を押し殺しながら、二人にしようと少し離れた席に座る。
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